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石原都知事を支える「迎合の構図」=日下部聡(サンデー毎日)
◇有権者は冷静に見極めを−−メディアの責任大きい
6月3日本欄で、東京都庁担当の高木諭記者は、石原慎太郎知事の求心力の低下を指摘して「進退を考えよ」と書いた。その結論に異論はない。しかし「サンデー毎日」誌上で昨年、連載記事「石原慎太郎研究」を担当した私は、知事の「求心力」を生み出してきた構造にこそ、より根深い問題を感じるのだ。
浜渦武生副知事や特別秘書ら側近、都庁官僚、都議会、そしてメディア……。石原知事は、あらゆる周囲の「迎合」に支えられてきたのではないか。
都教育委員会が教育現場での「国旗掲揚・国歌斉唱」について、全国有数の厳しい締め付けをしているのは有名だ。実は、これは知事が逐一指示しているわけではない。教育長以下、都庁官僚が主導している。その横山洋吉教育長は6月23日付で筆頭副知事に就任する見込みだ。
東京都立大が「首都大学東京」に統合される過程でも、多くの学生や教員から悲鳴が上がったが、都は構わずに強行した。これも都庁官僚主導だった。
石原知事や浜渦副知事に疎まれ、定年前に都庁を去った元都幹部は言う。
「器用な役人は、知事が喜びそうなことを先取りしてやってしまう。知事は『対立』が好きだから、円満にやると『妥協した』と見なされる。だから、わざと現場と衝突するやり方をしてアピールする」
そして、こうも言う。
「多くの都幹部は、最初は違和感があっても、次第に進んで適応するようになった。それができなければ都庁を去るしかなかった。『自分』を持たない人が多いということでしょう」
都議会も「迎合の構図」と無縁ではない。
浜渦副知事に辞職を迫った調査特別委員会(百条委員会)を主導した自民、公明両党は、石原知事の責任を問わないばかりか、「まれに見る政治家」などと称賛する。知事と一心同体だった側近だけが悪いという理屈は、非常に分かりにくい。知事与党をアピールする自公にとって、03年都知事選で知事が獲得した308万票を無視する選択はあり得ない、というのだ。
百条委設置も、都議選を前に利権疑惑を持ち出して自民党をけん制しようとした浜渦副知事に、自民党が逆襲したというのが実情で、議会のチェック機能が働いたというより、権力闘争と見るべきだ。
そしてメディアである。
最近、「週2、3日しか登庁しない」という言葉が石原知事の枕詞(まくらことば)のように使われだした。だが、これは何も最近始まったことではない。新聞、テレビ、週刊誌の各メディアは、石原知事を「ポスト小泉」のキーマンか、「ご意見番」として取り上げるばかりで、地方自治体の長として適格なのかという視点ではほとんど検証してこなかった。
そうした反省から私は東京都に対し、知事交際費や出張旅費、勤務日程表、公用車の運転記録などの情報公開を請求。開示された公文書を精査した上で、都政関係者への取材を重ね合わせた結果、知事の日常的な“公私混同ぶり”が浮き彫りになり、昨年初めに記事にした。
飲食への交際費支出が他の道府県に比べて異常に多く、しかも相手は石原知事の旧知の人物が目立った。支出相手の全員が記されていないなど、記録が不十分なケースも多く、公務員の接待を禁じた都の基準にも違反していた。勤務日程が「庁外」の日はごく限られた人物しか動静を把握しておらず、公用車を選挙応援に使った疑いも浮上した。
海外視察も豪華だった。01年には南米ガラパゴス諸島で4泊5日のクルーズに乗船。計8人で1590万円の公費を使った。
昨年5月には、石原知事に交際費や旅費の返還を求める住民訴訟が起こされ、東京地裁で係争中だ。
近年の地方自治の大きな流れは、公金の使途や政策決定過程の透明化である。この中に石原都政を置いてみると、その「不透明性」は一層際立つ。
石原知事は3日の記者会見で、登庁が少ないことについて「毎日毎日同じ机に座っているのが能じゃないだろう」と言った。
その通りだろう。だが、問題は、どこでどういう公務をしているのかを、有権者にきちんと説明していない点である。
私も含め、石原知事の大胆な政策や言動にばかり着目して、こうした石原都政の実態をほとんど報じてこなかったメディアの責任は大きい。
都知事は絶対権力者ではない。都民が税金を預けて仕事を委託しているのである。石原知事がそれに見合った仕事をしてきたのか、有権者が冷静に見極める時ではないか。
http://www.mainichi-msn.co.jp/column/kishanome/index.html
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