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『亜空間通信』1009号(2005/05/12)
【「第4番目の権力」に成り下がった「メディア」との甚だしき誤解に基く岩波書店全4冊仰天早仕事】
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転送、転載、引用、訳出、大歓迎!
私は、今、昨年来の事態への対応として、関連の旧著を総合して最近の事態をへの提言を加える新しい決定版、仮題『放送メディアの歴史』を準備している。内容の理論の中心は、ジャーナリズムとか、メディアとか、マスコミとか呼ばれる業界が、権力そのものであることの論証にある。
その作業の参考資料として、つい最近、目に付いた本がある。日本経済新聞(2005・5・1)の広告を見て、岩波書店発行の新刊書、「ジャーナリズムの条件」全4冊の3冊目、「メディアの権力性」であるが、図書館に注文しておいたら、5月9日に、用意ができたとの連絡の電話があり、即座に受け取りに行った。
手元のこの3冊目「メディアの権力性」の「責任編集」執筆者は、佐野眞一となっているが、そのほかに、筑紫哲也、野中章弘、徳田喜雄、3人の責任編集者が表紙に列挙されている。3冊目の目次を見ると、執筆者は、佐野眞一を含めて全部で20人もいる。私は、「やったな!」と思った。昨年来の放送業界の騒動に当て込んでの早仕事に違いない。一人で単行本を書き上げるのには、少なくとも数ヶ月の時間が必要である。
数十人の共著者を揃えるのは、単行本というよりも、月刊誌並みの仕事である。いわゆる大手出版社ならではの早仕事の方式の一つである。事態が急変している時期に、この種の「共著」で早仕事をして、急いで自分の意見を持ちたいような読者を、買い手として確保するのである。これは一種の大手メディアによる言論支配である。
たとえば、1991年の1月17日に勃発した湾岸戦争の時にも、似たような数人、数十人の共著やら訳書やらが、溢れたものである。私自身は、少部数出版の『噂の真相』や『創』に、雑誌記事を発表しながら、単行本の『湾岸報道に偽りあり』を翌年、1992年5月28日に発表した。その時には、すでに「類書多数」で、読者は食傷気味となっていた。一応の評判は取れたが、やはり、一人きりの仕事では、世間に出遅れるのである。
早仕事でのダントツ一番は、即座の現実と同時進行の放送であり、発表に時間が掛かる方が、それだけ現実の進行に遅れ、それだけ受け手の数が少なくなるのである。日刊の新聞、週刊誌、月刊誌、季刊誌、年鑑など、単行本と続く。
ところが、月刊誌と単行本の中間で、ムックなどと呼ばれる発行物もある。形式は単行本でも、似たような本もある。
手元の3冊目の「メディアの権力性」の執筆者は、目次で見ると全部で20人である。私は、「やったな!」と思った。昨年来の放送業界の騒動に当て込んでの早仕事に違いない。以上のような早仕事の判断は、念のために、岩波書店に直接電話して確かめたが、やはり、その通りだった。何と、最後の4冊目が出たのは、前記の大型広告の10日後の5月11日だったそうだ。
私は、この本の題名から、この3冊目は、てっきり、メディアを、権力そのものとして批判する趣旨であろうと思っていた。ところが、本文をめくり始めたら、いきなり、序章の題名に、「第四番目の権力」に成り下がったジャーナリズム、とあり、「ジャーナリズム」が、かつて、「第四の権力」と呼ばれていたとし、「立法、行政、司法の三大権力の暴走をチェック・監視」する「一定程度の役割を果たしてきた」との主旨なので、これは誤解も甚だしいのである。「ジャーナリズム」は最初から、権力の主要な道具であり、権力そのものという理解が、これでは薄められてしまう。
唖然、呆然、愕然、寒心の至りと相成った。
以下、その部分だけ、原文を、そのまま紹介する。
「ジャーナリズムは、かつて「第四の権力」と呼ばれていた。立法、行政、司法の三大権力の暴走をチェック・監視し、客観的に批判・検証する役割を自任し、それに期待する国民の要望に応える一定程度の役割を果たしてきたからである。
しかし、いまやジャーナリズムはそうした輝かしき座から滑り落ち、三大権力に次ぐ、もしくはそれを補完する存在になりつつある。文字通り、「四番目の権力」に転落しようとしているのである。
この部分を含む「総論」の筆者は、「責任編集」の佐野眞一となっている。佐野眞一は1947年生まれで、私より10歳若い。いわゆる戦後の団塊の世代、もしくは全共闘世代である。
この際、一応、若いのだから仕方ないとして置くが、「第四番の権力」という位置付けの表現は、日本語訳が1978年に日本経済新聞社から発行されたジャン=ルイ・セルバン=シュレベール著、『第四の権力/深まるジャーナリズムの危機』によって、人口に膾炙するようになったのである。
ジャン=ルイ・セルバン=シュレベールは、当時のフランスのジャーナリズムを、権力そのものとして、批判していたのである。立法、行政、司法の三大権力を監視する役割を説いたのではなくて、ジャーナリズム、またはマスメディアが、立法、行政、司法の三大権力と肩を並べる権力となっていることを、厳しく批判したのである。
ジャーナリズム、メディア、マスメディア、マスコミ、などの用語の意味は、非常に曖昧(あいまい)である。この曖昧さの追求も、欠かせない仕事である。ともかく、この「業界」の商売人は、偉そうに「正義の味方」を気取り、自分でもそう思い込むのである。自分の大見込みが先行し、原著の誤読というよりも、未読の勝手な解釈に堕するのである。
私は、前記のような「誤解も甚だしい」実例を、かなり前に発見していた。『週刊金曜日』が創刊前の見本のような準備号を出し、そこで、同じような誤解も甚だしい位置付けを、自らの誇号にしていた。私は、その時、『週刊金曜日』編集部は、ジャン=ルイ・セルバン=シュレベール著、『第四の権力/深まるジャーナリズムの危機』の訳本を読んでいないな、と判断したのである。この訳書は、2段組で文字も小さく、そう簡単には、読み通すことはできないのである。
「民衆の味方」とか、「正義の味方」とかは、政治屋の業界の得意芸だが、この業界の誇号の典型でもある。朝日新聞は、講談社の雑誌、『ヴューズ』で、「正義を売る商店」と題する連載記事の材料になり、その記事の中のリクルート・スキー場接待問題が、裁判沙汰にまでなった。
仕方ない。ジャン=ルイ・セルバン=シュレベール著、『第四の権力/深まるジャーナリズムの危機』を、丁寧にめくって読んだ。原題は、LE POUVOIR D'INFORMERである。直訳すると、「情報権力」である。主題がジャーナリズムなのだから、それが「情報権力」なのだという意味である。
本文の目次や小見出しには、「第四の権力」という言葉は出てこない。しかし、「訳者あとがき」には、次の数行がある。
民主主義社会において、報道は立法、行政、司法に次ぐ第四の権力といわれるが、その権力を、だれが、どのように行使しているのか?あすはどうなるのか?そういった危機感が、記者であり、経営者でもある著者の早熟で敏感な心情をゆすぶった。本書は、その結実である。
以上のように、原著からは、「第四番目の権力」に成り下がったジャーナリズムとか、「第四の権力」と呼ばれていたとか、「立法、行政、司法の三大権力の暴走をチェック・監視」する「一定程度の役割を果たしてきた」との主旨は、まったく読み取れないのである。
以下が、日本経済新聞(2005・5・1)に掲載されていた広告岩波書店の新聞広告である。よく見掛ける大型広告、新聞の一面の下、3段抜きの新刊書一覧であり、以下がその冒頭の部分である。
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日本経済新聞(2005・5・1)
岩波書店 出版案内
ジャーナリズムの条件全4冊
編集委員 筑紫哲也・佐野真一・野中章弘・徳山嘉雄
第3回
第3冊
メディアの権力性
責任編集・佐野真一
本来権力を監視すべきマスコミが、巨大なメディア産業として権力そのものと化してはいないか。市民からの不信にさらされる中、徒手空拳で権力と格闘するジャーナリストたちの現場からの声を集めた。
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岩波書店は、岩波書店で本を出すよりも、岩波書店の社員になる方が難しいと言われる。それほどに、出版の編集者志望のエリート中のエリートが、岩波書店の社員なのである。エリートはしかし、所詮、暗記エリートでしかない。自分の頭でものを考える習慣を失っている場合が多い。この広告は、その出版エリートの広告部員が作成した大型広告である。この広告の中で使われている「ジャーナリズム」「マスコミ」「メディア」は、同じ意味、または同じ業界なのであろうか、「ジャーナリスト」は、本当に、「徒手空拳で権力と格闘する」のであるか、否か。
「曖昧模糊」(あいまいもこ)の業界、そのインチキ業界の商売人、恐るべき若年認知症の患者が跋扈する世界である。
しかも、この業界が、権力そのものなのだから、要注意!
以上。
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ある時は自称"嘘発見"名探偵。ある時は年齢別世界記録を目指す生涯水泳選手。
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電網速報『亜空間通信』(2001.09.01.創刊 2005.05.12.現在、1,009号発行済)
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