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@反日を助長? 日本企業の“作法”とは(東京新聞特報)
中国の反日デモは拡大する一方だ。十六日には中国内最大の三万四千人の邦人が暮らす上海で二万人のデモが発生した。各地の反日デモでも最大規模の被害に、日系企業や邦人らは大きな衝撃を受けた。上海は日本企業の進出が最も盛んだ。だが、急激な進出と現地での接し方は、歴史認識とは別に新たな反日感情を生んでいないか。中国に進出する日本企業の“作法”とは−。
(浅井正智、藤原正樹、上海・豊田雄二郎)
「しばらく働いたら転職する。今の日本企業のやり方では、誰も自分の家のように、会社を愛せない」
上海で日系の銀行に勤める陳振羽さんは、日系企業への思いをしみじみと言う。ここ数年、日本企業の進出は急加速している。漫画やアニメ、ドラマなどの日本文化、家電や車など日本製品も大陸に押し寄せている。
陳さんは「仕事をしていてよく分かる。なぜ日本がこんなに発展したのか。まじめで、細かくてマニュアルがあって、学ぶことは多すぎる」と日系企業への評価はあこがれにも近い。中学校では「一杯のかけそば」や魯迅が日本人と交流した随想などから日本の良さも学び、名門の復旦大学で日本語を学んだ知日派の中国人からみても、一方で、日系企業に不満を持つ人は少なくない。
「日本人は、中国人が我慢できる給料の限界を知っている。一番安く、できるだけ働かせる方法を熟知している」と陳さんは話す。同大卒で日系の広告会社に勤める上海人の康麗娜さん(22)は「欧米系なら日本と同じ待遇で、同じ昇進のチャンスを与えられる。でも日系では給料体系は日本人と違うし、中国人には出世するチャンスもない」という。
同様に同大卒で、日系の貿易会社に勤める〓叶眉さん(22)は「昇給は毎年百元(約千三百円)か、二百元。でも、二年後に私が学んだことの価値は二百元を超えている。二年後には別の会社で働いているでしょう」と将来性のない日系企業に見切りをつけている。
日系企業へのそうした思いを持ち始めたときに、反日デモが起こった。「私もデモに参加しようと思った。でも家族に危険だからと諭されて…」と、康さんは心情を明かす。
日本への理解が十分に深いと思われる康さんにして、反日感情は、なお根強い。「やはり歴史問題。首相がユダヤ人にきっちり謝罪したドイツと違い、日本は歴史を認めようとしない。われわれが憤っている事実を日本に知らせるべきだ」
日本語が達者な彼女たちはインターネットを通じ日本からの報道も収集している。問題の歴史教科書が全国でもごくわずかの学校しか採用されていないことも、日本では反日感情の背景に江沢民・前国家主席以来の愛国教育があるとみられていることも知っている。
■知日派中国人も歴史認識に反発
〓さんは反論する。「ことさら反日感情を高めるような教育は受けていない。日本が侵略した歴史も、ただ事実が淡々と書き連ねられているだけ」。康さんも「愛国というよりも一般論として、二度と侵略されないために、文化や経済、科学技術を強化しようということ。侵略者も日本を想定していない」と強調する。
知日派の中国人でも、歴史認識をめぐる反日感情を持ち、さらに日系企業への不満がそれを加速させている。
上海のある地区には新しいビルが次々に建つ。入居の大半は日系企業で、入居待ち組もいるという。現在、上海には四千五百社が進出。在留邦人も二〇〇〇年に八千四百人だったが、昨年十月現在で三万四千人と急増している。
繁華街では、カタカナで「ラーメン」と書かれた看板に出くわす。コンビニの進出も著しい。車はドイツ車が台数としては多いが、日本車には高級車イメージがあるためか、実数以上に目立つ。百貨店の家電売り場で、高価な商品のほとんどが日本商品だ。
「日本のイメージといえば過剰なほど商品が前面に出てくる。その一方で日本人社会は閉鎖的で現地に交わろうとしないため、中国人とコミュニケーションが取れない状態に陥っている。商品のオーバープレゼンスと顔の見えない日本人のギャップが大きいため、中国人に『日本人は何をたくらんでいるのか』という疑念を抱かせてしまう」と企業の広報戦略に詳しい北海道大学の渡辺浩平助教授は指摘する。
上海在住歴十三年で、日中間の文化・経済交流を促進するシンクタンク「ぱんげあ」の杉本治専務理事によると、日系企業に勤めている中国人のうち、日系企業への再就職を希望する人は、たった7%しかいない。背景には、中国人にも出世の道が開かれている欧米企業に対し、ほとんどの日系企業ではその可能性が閉ざされている現実がある。
その上「現地法人の社長は、重要な決定事項はすべて本社にお伺いを立て、権限をもっていない。それでいて中国人従業員に理解を得るための説明はほとんどしない。以心伝心は中国人には理解できないのに、『察する文化』を押しつけようとする日本人の態度が、中国人の失望を買っている」と杉本氏は話す。
実際、中国人の感情に配慮しない“作法”で、失敗した企業もある。トヨタは昨年から、高級車レクサスの本格的な販売を開始したが、車名変更で騒動が起きている。これまで愛称として広く認知されていた「凌志(リンチー)」をやめ、レクサスに発音が近い音訳「雷克薩斯」に改めた。
凌志は中国語で「空高く浮かぶ雲をも凌(しの)ぐほど高い志」という意味だが、「雷克薩斯の『薩斯』は、新型肺炎SARSの訳。雷でSARSに克(か)つという変な意味」(業界関係者)で反発が出ている。
■「悪い歴史を含め今の国民が継承」
二年前にも、トヨタは四輪駆動車に、中国語で横暴という意味の「覇道(パーダオ)」という名前を付けた。中国の象徴ともいえる獅子をこの車に敬礼させた雑誌広告と相まって、反発が噴出、改名した。
昨年九月十八日には、キヤノンが日本国内を対象に新型デジタルカメラを発売したところ、中国内でクレームが相次いだ。満州事変の発端となった柳条湖事件の発生日だったからだ。
一方で、ホンダが出資する「広州本田汽車」は、現地での愛称をそのまま車名にしている。企業経営も「中国人に任せている。地元に密着することで、消費者の感性が分かるので、名称や記念日などでトラブルが起こりようがない」(ホンダ)と「中国リスク」に対応している企業はある。
杉本氏は「物言わぬ日本人が誤解を生んでいる。中国が世界の工場から世界の市場になりつつある今、印象が悪くなれば商品は売れなくなる。放置しておけば日本にとっては死活問題になる」と懸念する。
前出の中国人女性の康さんはこう話す。「歴史は確かに過去の話。でもこれから中国人と付き合っていくのは今の国民。今の人たちは、昔の悪い歴史も含め、引き継いでいかなければならない」
※〓は「金」辺に「斗」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050420/mng_____tokuho__000.shtml
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