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特集WORLD: 「国家の罠」対談 佐藤優・外務省元主任分析官と御厨貴・東大教授
◇平成の奇書「国家の罠」
国際学会をめぐる背任罪などで執行猶予付き有罪判決を受けた佐藤優・外務省元主任分析官(控訴、休職中)の著書「国家の罠(わな) 外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社)が話題だ。御厨貴(みくりやたかし)東京大教授(日本近代史)は毎日新聞の書評で「平成の奇書」と評した。二人が外交などについて語り合った。【構成・山田道子/写真・佐藤賢二郎】
◇情報の世界は琴線の隣に逆鱗−−佐藤
◇検証なき日本が求めるけじめ−−御厨
御厨 佐藤さんは自らの事件を「国策捜査」と位置付けたが、キータームになると思った。言いたいことは明快で、「冤罪(えんざい)」でも「検察ファッショ」でもなく、国家は一つの生き物でその生存を脅かす突出した動きがあると司法の手によって断罪されるということだ。もう一つ、司法にはある種むき出しの怖さ、つまり一度ここに持っていくと決めたら絶対にそこに落とし込んでいく怖さがあるということだ。今までそのことがあまり言及されなかったのは、経済成長の陰で司法のそのような役割は忘れられ、国家が遠い存在だったからだ。検事との細かなやりとりもおもしろかった。
佐藤 私が取った手法は小さな物語を積み重ねることで大きな物語を描き、その中に自分を位置付ける方法だ。それによって「国策捜査」がどうやって出てきたかを伝えたかった。
御厨 少なくとも司法がある種フレームアップしたことは間違いない。日本では政治はすべて表舞台でやるべきで、裏交渉や諜報(ちょうほう)活動はよくないという考え方が強い。佐藤さんらはグレーゾーンまで含めないと外交はできないと考えてやってきた。それが国家の琴線に触れたのだろう。
佐藤 情報の世界では琴線の隣には逆鱗(げきりん)があると言う。その触り方を間違えたのかもしれない。
◆ナショナリズム
御厨 「国策捜査」は「時代のけじめ」という検察官の主張に対し、佐藤さんは日本社会が公平分配型から新自由主義傾斜配分型、外交面では国際協調型から排他的ナショナリズムに変わってきていると指摘した。やや図式的だが、時代が大きく変わろうとしているのは間違いない。小泉純一郎首相の登場はそのシグナルだ。
佐藤 日本のような高度に発達した産業社会で排他的ナショナリズムが登場するのは不思議だ。私はロシア科学アカデミー民族学人類学研究所の客員研究員としてナショナリズムの基礎理論研究をしたが、地縁血縁社会から産業社会に向かう中国で「中国人」という民族意識が生まれるのは分かる。
御厨 日本社会は平等型から差別型への移行時期なので、それに対して釈然としない気持ちが外に向かっているのだろう。
佐藤 ナショナリズムは基本的には負の連帯、自分たちがいじめられているというところから生まれるからではないか。
御厨 はっきりしているのは、日本が歴史的けじめをつけてこなかったことだ。けじめとは、「近代国家・日本がどうやってここまできたのか」の検証だ。戦後は経済主義がうまくいき過ぎて、国家について考えずにやってこられた。しかし、冷戦崩壊で民族主義や地域主義が台頭する一方、経済が右肩下がりになった時、日本にはよるべきものがないことが分かった。そこで「国家とは何か」となった。
佐藤 「新しい歴史教科書」を読んで興味深かったのは、最も批判的に描かれているのがロシア、次が米国、その後が中国、朝鮮半島ということだ。私にはロシアがクレームをつけない論理が分かる。つまり、日本が独自の“神話”に基づいて教科書を作ることは認めるが、ロシアも同等の権利を持つと考える。冷戦崩壊後のロシアの現象だ。
御厨 日韓で歴史共同研究が行われている。しかし、日本には歴史には真実があり話し合えば共有できる真実にたどりつくという楽観主義があるのに対し、他の国はそんなことは夢にも思っていないのだからうまくいくはずがない。
佐藤 ソ連もゴルバチョフ大統領時代は世界革命志向で、外国の歴史認識に文句をつけた。そこで当時、日ソ外務省間で北方領土問題について歴史的、法的経緯を研究するワーキンググループを作った。よく分かったのは、協議を誠実に進めるほど妥協できない状況を作り出すことだ。そこでロシアの誕生後、この文書だけは本物で合意できるもの、例えば56年の日ソ共同宣言などを列記した共同資料集を作り序文をつけて終わりにした。後は「政治決断」にした。ロシアは他国の歴史認識に文句を言ったら、対立を深めるだけだということをよく理解している。
◆日中関係
御厨 日本と中国、韓国は不信のスパイラルに入っている。
佐藤 実は、日露外交の隠れた大きなテーマは中国だった。冷戦終結後、中国が大国意識をむき出してくるのは必至だった。そこで橋本龍太郎元首相はロシアとの関係強化のため、97年にクラスノヤルスクでエリツィン大統領と会談した。日露の接近に危機感を抱いたのか、江沢民国家主席はその後歴史認識の問題を持ち出さなくなった。98年に小渕恵三元首相が訪中した時には、同時にモンゴルにも行った。地政学に基づいて対中関係を考えることが重要だ。
御厨 中国が靖国参拝中止を主張しているのは、日本国内が賛否二分しているのに乗じたゆさぶりだろう。小泉首相の性格から言って靖国参拝は絶対に変えない。それを前提にしたうえで政治的決断を考えるべきだろう。
佐藤 ゲームだということを理解すべきだ。ゲームの勝敗は土俵の作り方で決まる。中国が台湾問題と同じくらいに恐れているのは、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の民族主義とイスラム原理主義だ。あの地域に関する日本の研究や情報量は世界一級だ。それをもとに「国の西側の問題で頭が痛いのになぜ東の日本とも対立するのか」という交渉もできる。
御厨 佐藤さんは情報活動の専門家だが、日本にも情報将校のような人間は戦前からいた。軍隊をいかにコントロールするかで情報は必要だった。戦後は経済成長の一方で軍事力とまったく向き合わずにきたため、情報の使い方が分からなくなったのではないか。
佐藤 その通りで情報は必要に迫られてのものだ。ただ情報はその国の国力に比例する。従って日本は世界第一級の情報を持っている。問題は国家がそれをうまく集約し使えるかどうかだ。その思いも伝えたくて本を書いた。
御厨 私は、佐藤さんの本の問題提起も含めて、日本の近代史を検証し直すことが必要だと思う。
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■人物略歴
◇さとう・まさる
85年外務省入省。91年の旧ソ連クーデター未遂事件時、ゴルバチョフ大統領生存を他国に先駆け確認。95年から国際情報局分析第1課で日露交渉担当。イスラエルでの国際学会への派遣費用をめぐる背任容疑などで02年5月逮捕。今年2月、懲役2年6月、執行猶予4年の1審判決。「国家の罠」は検事とのやりとり、日露交渉などを克明に記録。
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