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『竹島の日』島根県の事情
日韓両国で領有権を争っている竹島(韓国名・独島)問題が過熱している。島根県議会が先月、「竹島の日」を制定する条例案を提出したことで、同県と姉妹提携をする韓国・慶尚北道が交流中断を通告してきた。韓国政府も外交通商相の訪日延期を決めた。今年は日韓国交正常化四十周年だ。四十年間、未解決のまま積み残されてきた竹島問題を、あらためて提起した地元・島根県の事情とは−。 (浅井正智)
「島根県が竹島の日制定と関連する一連の事態を撤回しない限り、交流を全面的に中断する」
先月二十三日、島根県議会で、領有権確立を求める「竹島の日」制定の条例案が提出された。慶尚北道の李義根(イウィグン)知事がすぐに、こう抗議する声明を出したことで対立が表面化した。
島根県と慶尚北道との交流は一九八九年以来だ。現在、相互に職員を一人ずつ交換しているが、この声明によって県国際課が受け入れている韓国人職員は帰国。県から派遣中の日本人職員は出勤を停止され、現在は自宅待機状態だという。他にもスポーツや文化交流など多くの分野での影響が懸念されている。
「領土問題があることは八九年当時も分かっていたはず。それを承知の上で姉妹提携したのではないのか…」と矢内高太郎・県総務課長は唐突な交流中断に戸惑いを隠さない。
民間交流を担ってきた在日本大韓民国民団(民団)島根県地方本部の朴煕沢(パクヒテク)常任顧問(84)は「せっかく積み重ねてきた交流が領土問題のために傷つけられるのは本当に残念」と話す。一方で「竹島問題が起こるたびに、島根に住んでいる韓国人は言いたいことも言えず板挟みになっている」と苦しい胸の内も吐露する。
■政府間の対立にエスカレート?
さらに条例制定の動きを受け高野紀元・駐韓大使が「日本の領土」と発言し反発を呼んだ。四日には外交通商相の訪日が急きょ、延期されるなど政府間対立にエスカレートしつつある。
竹島は島根県隠岐島の北西百六十キロに位置し、二つの小島とそれを取り囲む数十の岩礁からなる。総面積は〇・二三平方キロで東京・日比谷公園とほぼ同じだ。一本の立ち木もない不毛の地だが、周辺の海域は南からの暖流と北からの寒流の合流点で、魚介類に恵まれている。
竹島と日本、とりわけ島根県との関係は江戸時代初期にさかのぼる。一六一八年、伯耆(ほうき)藩(現鳥取県)の商人二人が幕府から渡海免許を受け、朝鮮半島から百十キロの海上にある鬱陵(うつりょう)島でアワビ、アシカなどの漁猟、木材の伐採にかかわっていた。竹島はその中継地として利用されていた。一六九六年には幕府は朝鮮との争いを避けるため鬱陵島への渡航を禁じたが、竹島へは禁じなかった。
明治時代には、再び日本人が鬱陵島に渡航し、竹島でも十九世紀末からは隠岐の島民たちが漁猟を行っていた。一九〇四年、隠岐島の住民が竹島で漁を行うため政府に領土編入と貸与を願い出た。政府は〇五年、日本領土とすることを閣議決定し、島根県が県土への編入を二月二十二日に告示した。ちょうど百年前のことだ。「竹島の日」はこの日を記念したもの。
竹島の運命を変えたのは日本の敗戦だった。五二年、韓国の李承晩(イスンマン)大統領が海洋主権を宣言、いわゆる「李承晩ライン」を引き、竹島を韓国領に組み込んだ。五四年からは警備隊員を常駐させ、実効支配を年々強めている。同年に日本は国際司法裁判所にこの問題を提訴することを提案したが、韓国側が拒否し実現していない。
六五年に日韓基本条約が結ばれたが、竹島問題は未解決のまま残された。それがなぜ今「竹島の日」なのか。超党派の島根県議でつくる竹島領土権確立議員連盟事務局長の上代義郎県議は「竹島の県土編入百年、日韓条約四十年という節目の年だからこそ制定する意味がある」と強調する。
県は毎年、国への重点要望のトップに竹島領有権問題の解決を掲げてきた。「なのに国はこれまで冷淡な態度に終始してきた。北方領土問題については内閣府に北方対策本部があり、国が定めた『北方領土の日』もあるのに、竹島問題では国に窓口すらない」(同県議)と不満もくすぶる。
元内閣府副大臣で帝京平成大学の米田建三教授は「副大臣在任当時、県の陳情を受けて内閣府に担当部署が設置できないか働きかけたが、政府内には韓国を刺激しないという伝統があり、のれんに腕押しという感じだった」と振り返る。県独自の竹島の日制定は「国が何もしないのなら、県議会としてできることをするしかない」(同県議)という焦りもあるようだ。
■周辺のカニ漁韓国船が独占
竹島の領有権は地元にとって、漁業上の利害とも密接に絡む。
竹島周辺の海域は、両国の漁船が操業できる暫定水域が広がっている。九八年に日韓両国が竹島の領有権問題を棚上げした上で設定されたものだ。この海域はベニズワイガニが豊富に捕れるが、現実には「韓国漁船によって大量の漁具が設置され、日本漁船が閉め出されている。膨大な経済的損失を受けている上、韓国船が違法操業をしても暫定水域内では日本側は取り締まることもできないのが実態だ」と島根県漁業協同組合連合会の幹部は話す。
「竹島の領有権をうやむやにしていることが漁業問題の諸悪の根源にあり、いつまでも放置しておけない」(同県議)事情も県議会を動かしている。
ただ、地元で領有権確立に向け機運が盛り上がってきたのは、実はごく最近のことだ。議連ができたのは二〇〇一年十月。県内有志による「県土・竹島を守る会」も昨年五月に発足した。
県関係者はこう話す。「長年、日韓議員連盟会長を務めていた竹下登元首相は日韓間で懸案が生じるのを嫌った。島根は竹下氏のおひざ元だっただけに、地元には竹下氏に遠慮して竹島問題を取り上げにくい雰囲気があったが、竹下氏が亡くなった今、そのくびきが解かれた」
だが、これらの声に地元選出の細田博之官房長官は「竹島問題は感情的な対立に発展する傾向がある。未来志向で落ち着いた対応をすべきだ」と言い、外務省首脳も「実効的に何も意味がないこと(竹島の日)を県民感情だけで決めるのはいかがなものか」とクギを刺す。国からの後押しが得られないまま、条例案は県議会最終日の今月十六日、可決される見通しだ。
「竹島問題への世間の関心が高まれば、国際司法裁で解決を図ろうという機運も生まれる」と同守る会の梶谷万里子事務局長(58)は期待するが、県議三十八人中、三十六人が竹島議連に名を連ね、異論が出にくい中での条例制定には危ぐの声もある。
竹島の歴史に詳しい島根大学の内藤正中名誉教授は「ナショナリズムのぶつかり合いでは生産的な結果は生まれない。双方が歴史的事実を検証しながら冷静に論争を展開していくことが必要だ」と警鐘を鳴らす。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050306/mng_____tokuho__000.shtml