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http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Japanmilitarism/jinken-yougohou.htm
「人権擁護法案」の国会再上程、成立に反対しよう
◎メディア規制「凍結」はごまかし。
◎政治家・官僚の金権腐敗追及を抑圧する本質、言論・表現の自由、国民の知る権利を奪う本質は変わらない
◎安倍・中川ら自民党によるNHK番組介入問題巻き返しと一体の露骨な攻撃
【1】 安倍・中川ら自民党によるNHK番組政治介入問題での開き直りと軌を一にした攻撃。
(1) 2月3日、政府・与党は、03年10月に廃案になった「人権擁護法案」を一部修正して国会に再提出するなどと言い始めました。この日開いた「与党・人権問題等に関する懇話会」(座長・古賀誠自民党元幹事長)で、@「メディア規制」の規定は凍結し、凍結を解除するには新たな法律を必要とする、A法律施行後、一定期間が経過した後に必要な見直しを行うとの2点の修正をやった上で国会に再上程、今通常国会で成立させると確認したのです。
※「人権擁護法案、今国会成立 与党が方針 メディア規制部分を凍結」(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sei/20050204/mng__sei__003.shtml
とんでもありません。そもそも法案は2年前に、野党やメディア側、世論の猛反発で廃案に追い込まれたものでした。その批判の集中点こそが、まず第一に、汚職や金権腐敗にまみれた政治家などに対する取材行為の停止などを勧告できる「メディア規制」の規定を盛り込んだことでした。そして第二に、人権侵害がしばしば指摘される拘置所・入管施設などを所管する法務省の、その外局として、よりによって「人権委員会」を設置するというものだったのです。到底独立性など確保できる訳がないのです。
(2) そのような法案をまたぞろ持ち出そうというのです。なぜ今、「人権擁護法案」なのか。政治的意図的としか考えられません。折しも安倍・中川という自民党の大物議員(事件が起こった当時、安倍は官房副長官だった)が、日本軍性奴隷問題=「従軍慰安婦」問題とそれを裁いた「女性国際戦犯法廷」を扱ったNHKに圧力をかけたという問題が未だ決着を見ず、両議員、自民党、NHKがこれをスクープした朝日新聞に誹謗、中傷を加え、居直り、開き直りを決め込もうとしている最中にこの法案を国会に再び持ち出そうとしているからです。
しかも安倍議員は朝日新聞の「名誉棄損」まで口に出しています。そしてこの「人権擁護法案」こそ「報道による著しいプライバシー侵害」の一要件に「名誉を著しく侵害すること」を挙げ、侵害された人物を特別救済の対象としているのです。何とも露骨な上程の仕方です。この法案が審議に入るだけでもマスコミ、報道機関への一層の圧力になるとでも心得ているのでしょう。
今通常国会は、郵政関連法案、対北朝鮮(朝鮮民主主義共和国)キャンペーンに目くらましをくらっていますが、蓋を開ければ自衛隊改悪法案、「緊急事態法案」、国民投票法案など軍国主義化、反動化法案が目白押しなのです。一旦断念されたと報道されてはいますが教育基本法改悪の動向にも目を離せません。政府・自民党の腹づもりでは憲法調査会の報告も改憲の方向への舵切りです。これらに「人権擁護法案」が再び加わるのです。与党は、野党の賛成が得られなくても単独で成立を目指す構えだとも伝えられています。警戒を強め反対していかねばなりません。
※「人権擁護法案 与党、単独成立も メディア規制 民主の対応焦点」(2005年2月19日付朝日新聞朝刊)
【2】 マスコミ規制条項「凍結」など空約束――言論・表現、知る権利の自由抑圧の本質は変わらない
(1) 先述したように、この法案が2年前廃案になったのは、「メディア規制」の規定を設けたことについて、野党・マスコミ関係者と国民世論から激しい批判を浴びたからでした。
2002年3月8日、第154通常国会に提出された「人権擁護法案」は、その第42条の四に、「放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関又は報道機関の報道若しくはその取材の業務に従事する者(次項において「報道機関等」という)がする次に掲げる人権侵害」として「犯罪被害者」「犯罪行為を行った者の配偶者、直系若しくは同居の親族又は兄弟姉妹」等を「報道するに当たり、・・・その者の名誉又は生活の平穏を著しく害すること」や、またそのような人々を「取材するに当たり、その者が取材を拒んでいるにもかかわらず、その者に対し」、「進路に立ちふさが」ったり、「見張り」をしたりすることを、「人権侵害」として、「特別救済手続」の対象としています。
しかし、報道機関が、取材対象者の立ち回り先を見張ったり、当該人物に取材を求めたり、「電話をかけ、又はファクシミリ装置を用いて送信したりする」のはいわば当然の取材行為とも言えます。このような行為に対してさえ事実の認定を正確に行うからと「協力」を命じられ、それはおかしいと反論すると「正当な理由のない非協力」として「過料の制裁を伴う調査権限(特別調査)」で、行き過ぎだと責められたり、「調停・仲裁、勧告・公表、訴訟援助」をされたり、はては訴訟にまで持ち込まれては、まったく取材の自由も保障されるどころではありません。
もっとも、「報道機関による人権侵害についても、一定のもの」は「特別救済手続」の対象となるが、ただしこの場合は「特別調査」ではなく、専ら「任意調査」なのだから、マスコミは安心しなさいというのが、人権擁護局の「人権擁護法案に関するQ&A」の答です。しかし、この「任意調査」がくせ者なのです。政府・法務省と自民党による脅しになる本質は「特別調査」でも「任意調査」でも代わりはないのです。以上が「マスコミ規制」といわれる条文です。いずれにしても報道機関等の人権侵害について例示されているいくつかの事項は、決して適用の基準が厳密でなく、広範で包括的なものです。政府与党による歯止めのない恣意的運用が容易に予想できます。
※「人権擁護法案」(法務省ホームページ)http://www.moj.go.jp/HOUAN/JINKENYOUGO/refer02.html
※「人権擁護法案に関するQ&A」(法務省ホームオページ)http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken83.html
(2) また人権侵害が「発生するおそれのある被害の適正かつ迅速な救済又はその実効的な予防」(第1条)として、「適当な措置」、「必要な調査」等々が随所に定めてあることは、国家による事前検閲をも可能とするものです。実際に適用されなくともこうした条文があるだけで、ただでさえ翼賛ムード、自主規制ムードの強い大手マスコミには十分過ぎるくらいの規制となります。
(3) まして報道機関の相手が政治家、それも大物政治家だったりしたらどうなるのでしょう。先ほどあげた「Q&A」は、「人権救済手続が、報道機関から犯罪の疑惑を追及されている政治家や官僚に利用されるおそれはないのですか。」という設問を設定して、わざわざ政治家の取材を規制するのが目的ではないかのようにごまかそうとしています。
まず成人の被疑者・被告人に対する報道や取材が特別救済の対象でないこと、第二に政治家や官僚の家族に対する報道や取材は特別救済の対象となるが、政治家等を取材するために自宅に押し掛け、家族に迷惑が及んでも、家族に対する取材ではないから特別救済の要件には当たらないこと、第三に、政治家等の家族本人が犯罪の疑惑を追及されている場合に、政治家等に対してその事件への関与や政治責任に関して取材することも、その政治家等については単に家族としての取材ではないから、特別救済の対象とならない、と「この法案が、政治家や官僚に対する疑惑追及の障害になることはない」と言ってみせるのです。
しかしこれはウソです。政府与党や大物議員は、間違いなく法案の42条を持ち出してきます。政治家本人でなくその家族が、「名誉」を傷つけられたとか、「生活の平穏を著しく害された」と訴えればいいのです。政治家や官僚の家族は42条の適用外という条項などどこにもありません。あるいは報道機関に追及された政治家自身が「人権侵害だ」「名誉棄損だ」と訴えても、この「人権擁護法案」ではその政治家は「救済」されないのでしょうか。あり得ないことです。そもそもこの法案そのものが、政治家・官僚の金権腐敗の追及を阻止し弾圧するものなのですから。
政府与党が今回目論んでいる法案は、上記で述べた「マスコミ規制」部分を“凍結”するというものです。しかし、“凍結”など時の政治の力関係で何とでもなります。いつでも解除できる代物です。逆に田島泰彦上智大学教授が警告するように「政府はいつ凍結を解除するか判断するため、マスコミの動向を見張ることになる。マスコミは政府の監視下に置かれる」といった事態になってしまうのです。
※「『規制凍結はまやかし』 人権擁護法案で反対集会」(共同通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050210-00000144-kyodo-soci
【3】 法案の国会上程そのものに反対しよう。成立を阻止しよう。
(1) 今回も民主党は政府与党を支える非常に悪い役割を演じようとしています。報道によれば、自民、民主両党が会期中の成立を目指して協議を始めることで合意したというのです。与党人権問題懇話会座長を務める自民党の古賀誠・元幹事長と民主党の川端達夫幹事長らが23日、国会内で会議し、今後の対応を協議したとされています。与党側の政府案概要の説明について、民主党側は「政府の法案提出を前提に党内議論を進める」と応じています。
「メディア規制」や、新設される人権委員会の位置づけを巡り、両党の考えの隔たりは大きいはずなのですが、与党側は民主党が協議に応ずる姿勢を示したことから、今国会成立の可能性は高まったと見ています。それにしても、有事法制についても然りでしたが、民主党はどこまでそして幾度小泉政権を救うつもりなのでしょう。同党が02年3月にまとめた対案は、@報道被害対策については、報道機関の自主規制を努力義務とする、A人権委員会は独立性を高めるため内閣府に置くとの考え方を盛り込み、「メディア規制」削除を求めていたはずです。
いずれにしても政府・与党の言う「人権擁護法案」は、あれこれ足したり引いたりしてもまともになる代物ではありません。メディア規制、国民の知る権利の抑圧、政治家・官僚の保護などの本質は変えようもないのです。
※「人権擁護法案 自・民、協議に合意 今国会成立可能性高まる」(2005年2月24日付朝日新聞朝刊)
(2) 「人権擁護法案」は、「人権擁護」という看板を押し立てながら、その本質がマスコミ規制、言論・表現、国民の知る権利の規制・抑圧、政治家・官僚の金権腐敗追及の阻止にあることを、絶対に見落としてはなりません。何より安倍・中川によるNHK番組政治介入問題の巻き返しと一体となった上程に、政府・自民党の露骨さ、あつかましさ、醜悪さを感じます。政府・与党に少しでも逆らうマスコミの息の根を今こそ止めてやるといった、権力の強い政治的意志を感じます。
規制条文はそのままで「凍結」容認などという安易な妥協は絶対に許されません。私たちは、この「人権擁護法案」の本質を一層広範に暴露し、国会上程に反対します。
2005年2月25日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局