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@江東区 学校警備に警官の波紋【東京新聞】(学校に浸食する警視庁)
学校内を警察官が巡回−。大阪府寝屋川市立中央小学校の教職員殺傷事件を受け、東京都江東区教育委員会が、幼稚園・小中学校などへの警察官の校内巡回を要請する。学校への侵入者による犯罪が深刻化するなか、警察力による抑止を求める声が高まるのは分かる。だが、学校現場は自助努力による安全確保にこだわってきたはず。「学校警備に警察」の波紋は広がっている。
(星野恵一、藤原正樹、大村 歩)
「事件がない時なら『なんで警察が学校に』と思うけど、事件を間近に見てしまった親としては、警察の巡回はありがたい。でも子供が制服姿を見たら『怖い』というかもしれない。先生たちの方が抵抗があるかもしれないですね」
■警察の巡回父母ら歓迎
江東区教委の取り組みに、少年による教職員殺傷事件のあった市立中央小に、四年男児(10)が通う母親(45)は悩ましそうに話す。
自営業の母親(39)は、仕事場についてきている二年女児(8つ)の顔を見ながら、戸惑いを見せる。「お巡りさんに、子供が親しみを感じていれば、安心感はあるけど、子供が緊張するのでは困る。校内暴力みたいなことに警察を入れることへの抵抗感と、外からの攻撃をどうするかという時の警察に対する気持ちは、ちょっと違う。でも一日中いるわけでないのなら、スキを突かれたら同じかも。学校に警察がいた方が安全だとしたら怖い世の中」
二〇〇一年に児童殺傷事件が起きた大阪教育大学付属池田小は正門に民間の警備員を配置している。津田一司副校長は「事件の後、保護者に説明したとき帰国児童の保護者から米国では学校に警察官が常駐しているという話は出たが、警察官に巡回してもらうという発想はなかった」と語る。
同小は事件を受け、監視カメラ十台、非常用押しボタン三百十四個を設置。フェンスの高さを三メートルにするなど警備態勢を整えた。津田副校長は「地域的な条件などで考え方も違うだろうが、警察官や警備員に学校を守ってもらう、そういう時代がやってきてしまったのかなと感じる」という。
江東区教委は、警察官が定期的に学校を訪問して校内巡回や警察官と教職員の連携強化などを要請する。担当者は「やれることからやっていこうと考えた」と話す。つまり財政的にできる範囲でという意味だ。区立の幼稚園、小学校、中学校計八十五園・校に警備員を一人ずつ配置するとすれば、多額の費用がかかる。「予算が厳しい中で、現段階では難しい」という。
教育現場に警察官が出入りすることについては「現場に抵抗感がないといえばうそになるだろうが、かつての警察アレルギーは薄れているのではないか」と楽観的だ。この要請内容を伝えるため十七日に開いた臨時校園長会でも校長らの反応はおおむね良好で、特に女性教員が多く低学年の児童を抱える小学校長から「どんどんやってほしい」との声が上がったという。
学校現場では校内の問題は自助努力で解決するという姿勢がある。外部からの脅威となる今回のような事件と事情は違うが、一九八〇年代、校内暴力が吹き荒れた際も警察力を校内に入れるのには抵抗した。
その後、学校が舞台となる事件が多発して事情は変わってきた。警察庁によると、二〇〇三年に学校で発生した住居侵入件数は二千六百六十件。二〇〇〇年の二倍近い。こうした事情から警察と学校との連携は各地で進められている。
大きな方向転換になるが、日本教職員組合(日教組)の広報担当者は「外部からの侵入者に危害を加えられる場合、教職員だけでは対処しようがない。学校の安全を守るための現実的な対応だ。教育と相反する点はない」と江東区の方針に理解を示す。
だが、違和感を訴える声もある。
市立中央小の近くで三十六年間、営業するパン屋の女性店主(63)は「事件では警察は頼りになるけど、教育の場である学校にはなじまないのでは。大学の自治というが、それは小学校も中学校も同じ」。子供たちが集まる駄菓子屋を営む、二年男児(8つ)の祖母(70)は「教育に警察が入ってくるというのは、どうなんだろう。パトカーで制服姿では抵抗があるかもしれん」と話す。
警備員を配置し有人警備の効果を認める埼玉県戸田市教委も「現場をガチガチに管理するようなイメージを持たれるとしたら困るし、そこまでしなくてもいいような街の環境をつくる方が先ではないか」と話す。
教育評論家の尾木直樹氏は子供の精神面の弊害を懸念する。「学校とは本来、安全で安心で、悪い子的な面を見せても先生に甘えられる場だ。一方、警察の権威は先生の権威とは異質のもので、監視されることになり学校環境が大きく変質する。子供の心に与える悪影響は計り知れない」
■『安全配慮と自己を弁護』
警察官巡回効果はどうか。同区内にある警視庁深川署の捜査幹部は「必要があればやらざるを得ないが、学校ばかりを警戒するわけにもいかないし…」と思案顔。「防犯という意味では警備員が常駐する方がいいような気もする」。尾木氏は「警官導入の真意は、安全に気を使っているというアピール。そんな自己弁護で、真の安全確保がおろそかにされる危険性がある」と切り捨てる。
一九九九年にコロラド州コロンバイン高校で男子生徒二人が十三人を射殺した事件など、銃が絡む事件が多発する米国では、警備員が常駐する学校も多い。
「社会的衝撃が大きかったコロンバイン高事件後、銃を携帯した警備員が常駐し、金属探知機や監視カメラを設置している学校が増えた。警察官は時々注意を喚起するために巡回する学校もある」と米国の学校事情に詳しい東京大学の恒吉僚子助教授(比較教育学)は解説する。
一方で「さらに、警備を強化することで教師と生徒の信頼関係が崩れたり、監視カメラのプライバシー侵害などが問題化している。警備を強化しても“対症療法”にすぎない。事件はなくならず、根本的な解決にならないと認識されている」と指摘する。
危機管理コンサルタント「リスク・ヘッジ」の田中辰巳代表も「寝屋川の犯人も、池田小の宅間元死刑囚も警察に捕まることを恐れていたわけではない。警察官の巡回は無意味」と話す。その上で恒吉氏は「米国でも、地域に閉ざされた学校にするか、開かれた学校を目指すかのジレンマが顕在化している」という。
こうした議論から米国では根本的な安全対策として「開かれた学校」への取り組みがなされているようだ。恒吉氏は「学校が自治体や警察などと一緒に危機管理プログラムをつくり、地域全体で子供を守っていこうという動きが広がっている。反麻薬や反差別など多様なプログラムが体系化され実施されている。日本でも同様に導入されることになるのではないか」と予想する。
尾木氏はこう指摘する。「京都で取り組まれている『登下校時の散歩や水やり』による隣人の見守りなど、実生活にかかわる部分でしか社会の安全は守れない」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050218/mng_____tokuho__000.shtml