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(回答先: NHK従軍慰安婦論争は本末転倒で放送法違反はホロコースト問題 投稿者 木村愛二 日時 2005 年 2 月 03 日 08:29:24)
木村愛二さんの典拠
http://clinamen.ff.tku.ac.jp/Holocaust/Points/Reference.html
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最近、木村さんはついに『アウシュヴィッツの争点』をWebのうえで公開するという手段を取られました。つまり、彼の「トンデモ本」がインターネットを 通じて流されるわけです。私はこの知性と品性の双方に極端に乏しい人間とかかわることに、ある時期からほとほと嫌気がさしていたのですが、こうなってはや むをえないので、さらに追求の手をのばすことにします。
最初に公開されたのは、同書の参考文献です。そのさい、木村さんは「私が『ネオナチ資料のみを利用している』とのmailを、そのまま鵜のみにしている人もいるのではないか」という助言を受けたからだといっています[1]。
本当に木村さんはネオナチ資料に依拠しないで『アウシュヴィッツの争点』を書いたのでしょうか。
木村さんの著書で展開されるホロコースト否定論の主要な支えになっているのは、欧米で刊行されたネオナチ、極右、反ユダヤ主義者たちの文献です。彼は一生懸命にそのことを隠そうとしていますが、とうてい無理な話です。
『争点』の巻末には15ページに及ぶ「参考資料」が列挙されています。いいかげんな事実調べとセンセーショナリズムからしか成り立っていない本に、なん とか「学術的」な体裁をほどこそうとする、姑息な努力です。そのうちもっとも重要なのは、「日本語訳のない外国語の単行本」であることは明らかなので、そ の部分をチェックしてみましょう。39冊の本のタイトルが挙がっています。
幸い、木村さんはどの資料をどこでなんど引用したのかを、そこで明示しておられます。その数字を利用して、引用回数が多いものを、順に並べてみます。人名の読み方などについては、かならずしも木村さんのそれにはしたがいません。
14回 ヴィルヘルム・シュテークリヒ『アウシュヴィッツ神話』
13回 アーサー・バッツ『二十世紀の大嘘』
10回 フレッド・ロイヒター『ロイヒター報告』
7回 ウド・ヴァレンディ『移送協定とボイコット熱・1933』
7回 リチャード・ハーウッド『600万人は本当に死んだか』
6回 ポール・ラシニエ『ホロコースト物語とユリシーズの嘘』
5回 ティース・クリストファーゼン『アウシュヴィッツの嘘』
このあと、クロード・ランズマン『ショア』の4回がつづきますが、同名の映画と本がごっちゃにされているので、数には入れられません。残りはすべて3回以下の言及をされているにすぎず、ここでは取り上げません。
シュテークリヒからクリストファーゼンまでが、木村さんの主要文献だといってよいと思います。
このうち、元ナチス、ネオナチ、極右といった政治的経歴が疑いようもなくはっきりしているのは、ヴァレンディ、ハーウッド、クリストファーゼンの三人です。
残りの連中はどうでしょうか。
シュテークリヒの政治的な活動歴ははっきりしませんが、彼は本文でアレツ、ヴァレンディ、ローテといった札つきのネオナチ否定派の資料を大量に使ってい ます。また、しばしば脚注で参照を求められるDeutsche National-ZeitungとかDeutsche WochenzeitungとかNation Europaといった定期刊行物は、すべてネオナチが発行しているものです。Voelkischというナチスが好んで使い、戦後はほとんど廃語になった形 容詞も同書には公然と出てきますし、彼のいう「アウシュヴィッツ神話」は「民族の力に対する危険」(Gefahr fuer die Volkskraft)という位置づけをされています。こうした表現からしても、少なくとも立派なネオナチ・シンパです。
アーサー・バッツはノースウェスタン大学の助教授で、専門は電子工学だそうです。『二十世紀の大嘘』という彼の本は、否定派の「古典」のひとつですが、 非常に読みにくく、構成もひどい著書です(これはなにもためにするいいがかりではなく、本当に読むのに苦労しました)。デボラ・リップシュタットはバッツ について、こう書いています。
「この本の刊行以来、バッツは政治とは無縁な学者という自分のイメージをせっせと維持しようと試みているが、さまざまな極右派やネオナチ・グループと結びついてきている。」[2]
米国はこうした非難に根拠がなかったら、ただちに訴訟になる社会です。バッツがリップシュタットを訴えたという話は聞いていないので、彼女の断言を信じ てよいと思います。実際、彼の本の内容は、ユダヤ人とコミュニストの陰謀が、F・D・ローズヴェルト大統領やモーゲンソー(ローズヴェルト時代の財務長 官)の反ナチス活動の背後に潜んでいたとする、ひどくお粗末な反共・反ユダヤ主義を下敷きにしています。
ロイヒターはどうでしょうか。否定派のロベール・フォリソンに上手くひっかけられて、ポーランドに行き、アウシュヴィッツのあちこちから違法な標本採取 (これが完全に違法行為であったことを、彼はなんと誇らしげに語ってさえいます)をやり、いわゆる『ロイヒター報告』を作成した時点では、おそらく政治的 にはたいしたことのなかった人だったと思います。しかし、いまではロイヒターはヨーロッパや米国のあれこれのネオナチ組織のあいだを巡回しては、講演で金 をかせいでいる人間です。
ついでにここでも強調しておきますが、ロイヒターの「発見」なるものは、別のファイルで指摘したように、いまではフォリソンやバッツたちからも見捨てられており、かなり悲惨なことになっているようです。
最後はラシニエです。否定派の父と呼ばれるラシニエは、戦前一時、フランス共産党や社会党に席を置いており、対独レジスタンスに加わって逮捕され、ブー ヒェンヴァルトとドーラの強制収容所を経験したという経歴を、否定派によって最大限に利用されてきました。木村さんや西岡さんも、それをいいたてていま す。しかし、彼らが口をつぐんで語らないのは、ラシニエが戦後になって、フランスの極右反ユダヤ主義のグループと接近し、彼らと協力関係にあったという事 実です。
例えば、ラシニエが1950年に出版したホロコースト否定論の「古典」である『オデュッセウスの嘘』には、極右の作家アルベール・パラの序文がもともと ついていました。この序文はのちにはこっそりと削り取られていたのですが、今年になってなんとフォリソンが独自に刊行したようです。ラシニエはフランス社 会党から立候補して1946年に代議士になったことがありますが、パラとのこの関係のおかげで、社会党から除名されてもいます。また、ラシニエの著書の多 くは、イタリア・ファシズムを賛美するモリス・バルデシュ(公然と「私はファシスト作家だ」と表明していた人です)の出版社から出されています。バルデ シュはラシニエの追悼演説も行なっています。さらに、ラシニエは戦後になっても、サンジカリズム運動と関係を持っていましたが、右翼反ユダヤ主義の雑誌 『リヴァロル』に変名でなんども寄稿していたことが判っています。
このように、ホロコースト否定派としてのラシニエの活動は、戦後フランスの極右運動と密接にかかわって展開されていたのです。木村さんたちはこの部分に 一切触れようとしません。しかし、パラやバルデシュの名前とともにしか、少なくともラシニエのこうした仕事はありえないのです。
以上から判るように、木村愛二さんの『アウシュヴィッツの争点』という本は、もっとも重要な論点をおぞましい政治的見解を持っている人々から借りて作られています。このような事実は日本ではなかなか明らかにされません。
私は木村さんが「ネオナチ資料のみを利用している」とはいいません。しかし、木村愛二さんが基本的にはネ オナチ資料のみを利用している、と明言させていただきます。彼の典拠についての以上のような検討からは、私のようにしかいうことができません。実際、『ア ウシュヴィッツの争点』から、上記のような人々に寄りかかって書かれた部分を取り除いてみれば、ほとんどなにものこらないのです。
[1] http://www.jca.ax.apc.org/~altmedka/aus-1.html
[2] Deborah Lipstadt, Denying the Holocaust, Penguin edition, 1994, p.126.
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First Uploaded: 01/12/1999