現在地 HOME > 日本の事件16 > 270.html ★阿修羅♪ |
|
『17歳の暴発』なぜ 大阪の教職員殺傷
『居場所』なく深い孤立
大阪府寝屋川市立中央小学校の教職員殺傷事件は、「いじめられた時、教師が助けてくれなかった」など、少年(17)の供述からわずかだが、動機が出てきている。が、その不満が今、なぜ“暴発”したのか、不明な点は多い。思春期の少年らが抱える不満や不安が何かをきっかけに暴発するケースは頻発している。17歳の抱える不満とは。 (星野恵一、浅井正智、大阪編集部・芦原千晶)
■だれもが通る道 防ぐ方法はある
「カウンターに座って斜め下を向き、寡黙だった。どちらかと言えば思い詰めてた感じ」。少年が犯行直前、食事をした同小近くのうどん屋の主人が話す。主人の子どもは少年と小学校で一緒だった。「あの年ごろは精神的に不安定だけど、それはみんなが通った道。防ぐ方法はあったと思う。家族もおったわけだし」
少年は両親と姉三人の六人家族。小学校低学年のころには自宅に友人がゲームをしに集まることもあったが、年とともに一人で閉じこもるようになった。高学年になると、ゲームで夜更かしして学校を遅刻するようになり、休みがちになった、という。「中学でも最初は通学してたけど、二年生から全く来なくなった」と話すのは同級生。「小学校の時には、ゲームで遅刻することを周りからからかわれていた」と振り返る。
近所の主婦は「通信教育をしたり、姉から勉強を教えてもらったりしていた。問題を起こすこともなく、最近は髪をおしゃれに染めたり、バイクの免許を取ったりしていた」とも話す。
こんな生活を送ってきた少年を突然、犯行に追いやった原因は分からない。が、一時は事件の多さから「十七歳の犯行」とも指摘された年代だ。同世代の子どもは、生活の中でどんな問題を抱え、事件をどうみているのだろうか。
■高1女子『友達おらんかったちゃうか』
京阪寝屋川市駅近くを、幼なじみと私服で歩いていた高校一年の少女(16)が体験を話す。「中学三年の時に友達ともめて、学校が面白くなくなり、三年の後半から学校に行かなかった」。少年と同じ小学校の出身で、近隣市内の高校に入学したが「通ってない。辞めるかもしれない」という。
少女は当時の不安定な気持ちを明かす。「引きこもってた。親は初めは『学校行きやー』と言ってたけど、今は逆に自由にしてくれているみたい。学校の先生は『友達と話し合いしい』と言ったけど、話し合いしてもシカト(無視)される。解決にならん」
少年の置かれた状態については「いじめがあったとしたら、閉じこもり気味になっても仕方ないと思う」と少し共感しながらも、傍らの友人を見て「ありえへんこと。友達がおらんかったからちゃうか。もしゲームと同じ感覚でやったとしたらむかつく」と話した。
■メール来ないと引きこもるかも
下校途中の同市内の高二男子(17)は「友達関係は不安定なところもあるけど、相談できる相手がいれば大丈夫なんじゃないの。学校の警備強化とかだけじゃ、事態は変わらない」。同じ高校の高一女子(15)は「学校の成績とか対人関係とか、不安はある。友達からメールがこなかったりすると、自分も引きこもっちゃおうかと思うこともある」と多感な一面をのぞかせた。
子どもが少年と小中学校が一緒だった母親(44)は「うちの子も彼とは別の理由で不登校になったが、今は自由にさせてやってる。でも子どもとはちゃんと話し合ってる。誰でも過敏な時期。でも、皆が人殺しをするわけではないし。少年の姉たちは優秀だけど、過食症や拒食症になったこともあると聞いた。親が大事に育て過ぎて、それがプレッシャーになったのやろか」
■バス乗っ取りや愛知の主婦殺害
「十七歳」がキーワードになったのは、二〇〇〇年に発生、乗客一人を刺殺した西鉄高速バス乗っ取り事件だ。愛知県豊川市で主婦を包丁で殺害した少年も十七歳だった。取り調べに「人を殺す経験をしてみたかった」と供述した少年は、高校でも成績はトップクラスだったという。
日本子どもソーシャルワーク協会理事長(東京)で、悩みを持つ子どもたちの相談にも乗っている寺出寿美子氏は「相談に来る子どもが重大なことだと認識しているのに、周囲がそうとは受け取っておらず、認識もギャップが非常に大きいのが近年の特徴」と指摘する。「例えばいじめの場合、つらくて不登校になることもあるが、逆にいじめを悟られたくないために不登校も選択できず、屈辱感を心の中にため込んでいくケースは多い」
「現代<子ども>暴力論」などの著書がある評論家の芹沢俊介氏は「現代の思春期の悩みの根源には、深い孤立感が横たわっている」と説明する。
この傾向が顕著になってきたのはこの十五年くらいだという。バブル経済が崩壊し、地下鉄サリン事件や阪神大震災など日常の安定が足元から崩壊するような出来事が頻発。一九九八年には、それまで二万人前半だった自殺者が一気に三万人を突破し、以後高止まりの状態が続くなど孤立感を反映する世相は年々色濃くなっている。
「長崎・佐世保の小六女児殺害事件でも見られたように、いったん被害者感情を持ってしまうと、そこから抜け出すきっかけがなかなかつかめない」と、芹沢氏は少年らの苦悩の深さを語る。
それがなぜ、他人への攻撃という行動になるのか。
「若者の言葉でいえば『居場所』がないからだ。信頼できる家族や友人がいて、安心していられる環境があれば、抑止力として働くが、それがないと歯止めがきかなくなってしまう」
■日本型システムもはや通用せず
大阪大学の西沢哲・助教授(子どもの臨床心理学)は「個々人が責任を問われる時代になり、耐えきれない少年たちは外に攻撃を向けている」と指摘する。
「明治以来、日本ではいい大学に入れば、いい企業に就職でき、“滅私奉公”さえしていれば何も考えずに一生を全うすることができた。しかし今では、いい大学を出ても一流企業に入れる保証はなく、しかも、いつリストラされるか分からない。もはや日本型システムが通用しなくなったにもかかわらず、日本人の中にはそもそも責任を引き受けるという意識が育っていないので、外に向かってたたきつけるという行動に出てしまう」
大人はどう向き合っていけばいいのか。
「最も大切なのは、孤立して悩んでいる子どもに向かって『今のままでも君は君なんだよ』というメッセージを送ることだ。大人から見れば子どもがつまらないことに傷ついているように見えても、当の子どもたちにとっては重大だという認識のズレはよくある。大人の尺度で思春期の子どもに介入するとマイナスにしかならない」と芹沢氏は話す。
例えば不登校の子どもに対し、親が否定的な気持ちを持っていたら、子どもは敏感にそれを感じ取り、よりどころを失ってしまう。
「孤立しているのは子どもたちだけでなく、能力主義で締め上げられている大人も同じ。大人がそういう気持ちに立ってはじめて、子どもと同じ目線で関係を再構築することができる」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050217/mng_____tokuho__000.shtml