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もし自分の子供が、学校で受けた注射が原因で利き腕がまひし、一生治らない
可能性が高いと言われたらどう思うだろう。しかも、その後遺症に対する救済制
度が確立されていないとしたら――。これは仮定の話ではなく、実際に倉敷市で
起きてしまったことです。
02年4月に市立中学校でツベルクリン注射を受けた男子生徒(当時12歳)が
末しょう神経障害の「カウザルギー」になりました。外傷が見られないのに触れる
と激しい痛みが走るのが特徴です。中学に進学した直後の出来事です。球技な
ど運動が好きだった生徒にとって、大変なショックだったことは容易に想像できま
す。実際、生徒は1年間、保健室登校になりました。
私がこの事態を耳にして話をうかがい、記事にしたのは03年1月10日の社会
面でした。その記事でも触れましたが、ツベルクリンはBCGなどと違い、検査であ
って予防接種ではない、とされています。学校で義務的に集団で受けたにもかか
わらず、予防接種法に基づく国の被害救済対象になりません。
このため生徒の両親は02年9月、日本体育・学校健康センター(現・独立行政
法人日本スポーツ振興センター)に、共済からの医療費給付を申請しました。給
付は学校管理下での災害が対象ですが、「ツベルクリンを原因とするカウザルギ
ーは前例がない」として一度は留保され、決定通知があったのは記事が出た後
の03年1月末近く。生徒の主治医が「他の原因を想定するのは困難」とする詳し
い診断書を出して、やっと決まったのです。
更にこのほど、薬害救済などをする独立行政法人医薬品医療機器総合機構へ
の請求が認められ、障害児養育年金支給が決まりました(4月27日付「おかやま
面」に記事)。両親は「前例がない請求は認められないのでは」と思っていたそう
です。請求は03年11月。その後、同機構と両親、主治医の間で何度も資料請
求と提出があり、04年12月になって決定通知が届きました。しかし、これで「よ
かった」とはなりません。同機構に毎年、障害の状況について報告する必要があ
り、両親は「いつか何らかの理由で打ち切られないか不安」といいます。
小中学校で義務的にツベルクリン注射を集団で受ける光景は、結核予防法の
施行令改正で03年度から、結核の集団発生時などを除いて消えました。「必要
性が薄いと判断されたため」(厚生労働省)です。つまり、倉敷市の出来事は、必
要性の薄い注射が最後に行われた時に起きたのです。救済制度の不備も含め、
大変、理不尽な話です。ツベルクリン注射は消えても、被害の記憶を風化させて
はならない、と思っています。【倉敷支局長・小林一彦】
5月30日朝刊
(毎日新聞) - 5月30日17時21分更新
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050530-00000159-mailo-l33
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