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テーマ:事業を創る
■ OPINION
もの作りとコンテンツ創りの両立が
新事業の創出には不可欠
一橋大学大学院国際企業戦略研究科長 教授 竹内 弘高氏
−Hirotaka Takeuchi−
1969年国際基督教大学卒。
71年カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)MBA、
77年Ph.D取得、ハーバード大学経営大学院助教授。
87年一橋大学商学部教授、98年から現職。東京都出身
※7/26付日本経済新聞朝刊にも掲載しています
あらゆるイノベーションは、矛盾解消プロセスによりもたらされる。新事業の創出においても同じである。効率性追求と創造性追求、深掘り展開と横展開、モノ(ハード)志向とコンテンツ(ソフト)志向などの相反する概念を両立させ、いかにアウフヘーベンするか。このダイアレクティック(弁証法的)な発想が新事業の創出を助長する。
■ 技術力が支える
「デジタル・ジャパン」
ハーバード・ビジネス・スクールの学生が毎年6月に実施している「ジャパン・トリップ」が存続の危機に見舞われていた。昨年の話である。ピーク時には75人ほどいた参加者が20人を切ろうとしていたのである。
しかし、今年はその数がなんと120人に跳ね上がった。「チャイナ・トリップ」の数を大幅に上回ったと、企画した学生達は大喜びしていたが、なぜ、今「ジャパン」なのか。彼らは、新生日本の2つの側面に注目していることがわかった。
1つは、デジタル化による日本の復権である。その象徴がDVD(デジタル多用途ディスク)レコーダー、デジカメ、カメラ付き携帯電話、薄型テレビなどのデジタル家電である。
デジタル家電の新事業創出を可能にしたのは、日本企業の技術力に裏付けられたイノベーション能力である。米国における企業別の特許取得数が日本の強さを物語っている。2001年から2003年までのランキングを見てみると、特許を多く取得した企業トップ10に占める日本企業の割合は60%にものぼる。米国企業の33%をはるかに上回っている。つまり、平均すると毎年6社の日本企業がトップ10に名を連ねていることになる。ちなみに、2001年を見てみると、キヤノン、NEC、日立、松下電器、ソニー、富士通、三菱電機の7社が米国における特許取得ランキングのトップ10入りを果たしている。
■ 影響力もつ日本文化
「クール・ジャパン」
ハーバード・ビジネス・スクールの学生が注目した新生日本のもう1つの側面は日本の文化面における影響力である。モノ作りで工業大国へと発展してきた日本が、ポップカルチャー大国としても世界のトップと肩を並べる力を持ち始めた。日本文化のカッコ良さ(クール:Cool)の象徴としてとらえられているのがポケモン(子供向けゲーム・アニメ)、千と千尋の神隠し(子供・大人向けアニメ)、アキラ(漫画)、ファイナル・ファンタジー(ビデオ・ゲーム)、村上隆のアート、椎名林檎の音楽などである。
ある調査によれば、これらコンテンツがらみの日本文化の輸出総額は、過去10年間で3倍に伸びている。ただし、この額の中には、イチローや松井秀喜、中田英寿などの「輸出」は含まれていない。ちなみに、同期間の製造業の輸出総額は、20%しか伸びていない。
この現状をふまえてタイム誌は、What's Right with Japanという特集記事の中で日本の将来像を次のように予測している。「もはやモノ作りの最先端を走ることではなく、クール(なコンテンツ)を創り出す世界トップのクリエーターとしての役割にかかっている。」
■ これからの日本企業の生き方
「ダイアレクティック・ジャパン」
われわれは、「イノベートするジャパン」を創るには「モノ作りの最先端を走る」ことと「クール(なコンテンツ)を創り出す」ことを同時に追求する必要があると考える。イノベーションは、矛盾を解消しようとするプロセスによりもたらされるのであり、矛盾する考え方は同時に追求できないという二元論的発想からは生まれない。少々難しい表現を使うと、創造は二律背反を両立させるダイアレクティック(dialectic:弁証法)の発想から生まれるのである。
弁証法を説明するのに「正・反・合」のプロセスがよく使われる。ある命題(正:テーゼ)に対し、それを否定する命題(反:アンチテーゼ)を対置し、この2つが総合(合:シンセシス)されて、新しい命題が生み出され、より高い次元の真実に至るという展開である。モノ作り(テーゼ)とコンテンツ創り(アンチテーゼ)はよく、ハードとソフトという対立項で表現されるが、この対立項をアウフヘーベンすることによって新しい事業が創られる。
相反する2つの概念を両立させ、常識を破る。この弁証法的考え方は、一橋大学大学院国際企業戦略研究科が、日本企業の競争力向上を目的として創設した「ポーター賞」の根底にも流れている。この賞は、ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授の名を冠して作られた賞で、イノベーションを起こし、優れた戦略を実践している日本企業・事業部に贈られるものである。2001年に創立されたこの賞を11企業・事業部がこの3年間で受賞しているが、すべてが「オペレーションの効率(今よりうまく、他社よりうまく)」と「戦略的ポジショニング(他社とどう違うことをするか)」の対立項を両立させている。
「ダイアレクティック・ジャパン」は、イノベーションを絶えず実現し、新事業を創出し続けるこれからの日本企業に求められる生き方である。
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■ 提 言 1
野村ホールディングス 社長
古賀 信行氏
新企業の育成と既存企業の活性化 条件は整った、実現へ待ったなし
■ 提 言 2
三井住友銀行 頭取
西川 善文氏
ベンチャーは日本経済飛躍への起爆剤 不安乗り越え成功体験持つことが重要
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