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超巨大コアを持つ惑星の謎
半経験的惑星系形成モデルの成功
1995年の人類初の太陽系外の惑星(系外惑星)の発見から10年が経った。その間に160個をこえる系外惑星が発見された。観測の制限により、それらの多くは、太陽系で言えば木星や土星クラスの巨大惑星に限られている。太陽系の木星、土星は地球型惑星の軌道の遥か外側
(軌道半径は各々5.2AU, 9.6AU; AU は地球の軌道半径)をゆったりと(軌道周期は各々12年、29年)円軌道で周回している。ところが、発見された巨大惑星たちの多くは、母星すれすれを周期数日という猛スピードで尾を吹き出しながら周回し続ける「ホット・ジュピター」や、彗星かと思うような長楕円の軌道を描き、夏冬の温度差が100度以上にも達する「エキセントリック・プラネット」といった「異形の惑星」たちだった。
このような系外惑星発見ラッシュによって、系外惑星系=異界、という図式が一旦は成立する。ところが観測が進むにつれ、太陽系の巨大惑星を彷彿させるような、半径が大きい円軌道をまわる惑星もだんだんと発見され、発見された系外惑星系に占める太陽系に相似の惑星系の割合は少しづつ増えてきている。
何が異形惑星系と太陽系相似惑星系を分けたのか、このような惑星系の多様性はいかにして生じるのか。それを考えるためには、太陽系だけではなく、様々な初期条件のもとで生まれた他の惑星系の形成も一般的に論じる、惑星系形成の理論モデルを構築する必要がある。
惑星系形成理論には様々な未解決の問題、不定性が存在する。それらの基本的な問題を解決することはもちろん必要なことであるが、それらの問題を明確に認識しつつ、フリーパラメータを残して、第0次近似的惑星系形成モデルを構築し、観測データとの比較において、そのフリーパラメータの値を決めたり、未解決のプロセスを制約したりするというアプローチも必要である。なぜなら、すでに観測データは統計的な議論に耐え得るほどのサンプル数を提供しており、今後、ますます急速に観測は発展していくと予想されるからである。
われわれは、このようにして半経験的惑星系形成モデルを構築した(Ida & Lin 2004a)。このモデルは数十地球質量という中質量惑星の欠損を予測し、観測データもその兆候を示しはじめている。一方、このモデルを異なる重元素比の恒星(異なる重元素比の原始惑星系円盤)に適用すると、重元素比が高い恒星では、現状で観測可能な軌道、質量の巨大ガス惑星の存在確率は急激に高くなるということが予測される(Ida & Lin 2004b)。この依存性は観測的にはっきり示されている。
われわれは、さらにこの半経験的惑星系形成モデルを異なる質量の恒星の惑星系にも適用した (Ida & Lin 2005)。その結果によると、惑星の質量分布は恒星質量によって変わる。特に、太陽質量程度の F, G, K 型星と、低質量の M型星では、全く異なる。
惑星系は原始惑星系円盤から生まれる。円盤は、1〜2 wt.% が固体ダストで、残りが水素・ヘリウムのガスで構成される。ダストは微惑星とよばれる1〜10kmの小天体になり、その微惑星が集積して地球型惑星が形成される。惑星質量が10-20倍M_E (M_Eは地球質量)程度を越えると、その強大な重力により原始惑星系円盤ガスが惑星に流れ込む。ガスの質量も加わってさらに新たなガスがとりこまれるという循環がとまらなくなり、10-20M_Eのコアを持ち、100M_Eを越えるような、巨大ガス惑星が形成される。
M型星では、円盤質量が小さいことにより、一般に10-20M_E以上のコアは出来にくい。ただ、暗いM型星では円盤温度が低いので、氷が凝縮しやすく、1AUくらいの場所でなら、10M_Eを越えるような氷のコアができることはある。しかし、円盤温度が低いこと、中心星重力が弱いことにより、10M_Eでも円盤ガスに溝を開けてガス流入を妨げるとともに、円盤ガスの中心星への降着とともに円盤の内縁(〜0.05AU)まで移動する。M型星は暗いので、円盤の内縁(〜0.05AU)でもさほど温度は高くなく、氷は融けて水になるがあまり蒸発しないと考えられる。これがM型星の天王星サイズ(10-20M_Eの質量)の水惑星の形成シナリオである。
これだけ中心星に近いと惑星と中心星の潮汐相互作用で、(月が地球に対してそうであるように)惑星はいつも同じ面を中心星に向ける。昼側では水蒸気大気が発生するとともに、強烈な中心星紫外線が降り注ぐ。水蒸気大気や海には炭素などもあるはずで、昼側で紫外線によって有機物が作られ、安全な夜側で有機物がさらに重合して生命が作られるかもしれない。銀河系円盤の星の7〜8割はM型星である。つまり、このようなM型星の海惑星こそが、銀河系でもっとも多数を占める生命惑星かもしれない。
これまでの系外惑星の観測は、太陽型恒星が主で、暗いM型星の観測はあまり進んでいない。しかし、観測精度の向上によりM型星の観測は今後どんどん進んで行くであろう。
ところが
このように、われわれの理論モデルは、一見全てうまく説明しているかと思えたが、われわれは、この理論モデルを覆すようなモンスター惑星を発見した。
われわれの日米合同観測チームは、国際的観測計画(N2Kプロジェクト)の一環として、 すばる望遠鏡やケック望遠鏡などによる観測を行なった。N2Kプロジェクトとは、日本、アメリカ、チリの天文学者による系外惑星観測計画で、すばる、ケック、マゼランなどの最大口径地上望遠鏡を使って、これまでは観測ができなかった、2000個の恒星 (Next 2000(2K))を新たに観測して、数十個以上のホット・ジュピター(軌道半径が小さい系外惑星)を視線速度のドップラー遷移を使って発見しようとするものだ。数十個以上のホット・ジュピターが見つかれば、確率的に数個以上、恒星面通過(トランジット)するものがあるはずで、比較的明るい(10等級以下)恒星なら、惑星の恒星面通過の様子から 惑星の内部構造や大気成分などの重大な情報が得られる。N2Kプロジェクト日本側参加メンバーは、佐藤文衛(国立天文台岡山)、井田茂(東工大)、豊田英里(神戸大)である。
昨年7,8月のすばる望遠鏡の観測で、ヘラクレス座の恒星HD149026(タイプG0IV、距離260光年、太陽の1.3倍の質量、実視等級8.15等)からの光が周期的にドップラー遷移をおこしていることが観測された。これは、この恒星が惑星(HD149026 b)をもっていて、その惑星の公転の反作用で恒星が周期的に運動していて、地球に周期的に近づいたり遠ざかったりしていることを示す。 その後のケック望遠鏡によるデータ追加により惑星の軌道が確定した。 そして、アリゾナ・フェアボーン天文台にて、恒星光の減光が検出され、この惑星が恒星面通過(トランジット)することが判明した。 たまたま、この惑星の軌道面が視線方向とほぼ一致していたのだ。その減光量から、惑星の断面積が決まり、ドップラー観測からわかった質量とあわせて、惑星の密度がわかった。惑星軌道面と視線方向がほぼ一致してトランジットをおこす確率は1/10以下だったのだが、すばるでの新惑星第一号がトランジット惑星だった。非常に好運なことだった。
惑星(HD149026 b)は、土星の1.2倍の質量(地球質量の約114倍)で、土星の0.87倍の半径(地球の8.0倍)を持つことがわかった。 つまり密度は土星の1.8倍もある。単純な氷・岩石コアに水素・ヘリウムの外層部というモデルでフィットすると、この高密度を説明するためにはコア質量は70M_Eもなければならないことになる。
円盤ガスの流入が始まってから、惑星に落ち込んだ微惑星は水素・ヘリウムの外層部に融けこみ、コア質量は増大しない。つまり、通常、コア質量は10-20M_Eと考えられる。太陽系の木星、土星や、これまでに 密度が推定された系外惑星は、その程度のコアを持っていると推定され、理論と合っていた。
なぜ、この HD149026 b は70M_Eものコアを持っているのか。巨大ガス惑星の形成理論に不備があるのか、形成後に、これまで考えてこなかったようなプロセスがあるのか。今、われわれは根本的なところから、惑星形成過程を考え直している。この惑星だけが特別なのか、それともこのような巨大コアを持つ惑星はいっぱいあるのか。それを知るためには、惑星の密度の情報が必要で、そのためには、ドップラーとトランジットの両方の観測が必要となる。さらなるホットジュピターの発見が必要となる。N2Kプロジェクトは、それを可能にする。
【参照投稿】すばる望遠鏡、超巨大コアを持つ灼熱惑星を発見【アストロアーツ】地球質量の70倍くらいの巨大な岩石と氷のコアを持つ