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日本でも国民年金と同時進行で国民健康保険の原資が怪しくなり始めているが。
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第2628号 2005年4月4日
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第 57 回
メディケイド危機(3)
ミシシッピのメディケイド「破産」
李 啓充 医師/作家(在ボストン)
(2626号よりつづく)
前回,テネシー州のメディケイド「テンケア」が「苛酷」ともいえる給付制限を計画していると書いたが,実は,テネシー州の給付制限案は,他の州ですでに実施されている給付制限と比べた場合,それほど苛酷なものではない。
例えば,テネシー州の西隣ミシシッピ州(人口290万人)でも,入院:年30日,救急外来受診:年6回,外来処方薬:月7品目まで,などの給付制限が以前から実施されてきた。しかし,ミシシッピ州のメディケイド財政は,これらの給付制限によっても悪化の一途をたどり,今年3月11日,ついに「破産」に追い込まれてしまった。
同州の予算年度は6月30日に終わるのだが,2月末までに予算で決められた4億2千万ドルを使い切っただけでなく,緊急に借り入れた5000万ドルも瞬く間に使い果たし,3月11日に,とうとう金庫が空っぽになってしまったのである。
州民の1/4がメディケイドに頼るミシシッピ
ハリー・バーボア知事は,医師・病院・薬剤師に対して,「支払いの目途はまったく立っていないけれども,メディケイド患者を見捨てることはしないでくれ」と,その「慈悲」にすがる声明を出したが,「受診予約の際に『前払いが必要』と言われた」など,78万人のメディケイド被保険者にとって,「無保険者」の境遇に陥ったことの影響はてきめんに現れた。
州人口の約4分の1が被保険者と,ミシシッピ州では,メディケイドが医療に占める割合がとりわけ大きいのだが,それもこれも,州民一人当たり所得2万3448ドルが全米最低など,同州が全米一貧しい州であるからに他ならない(註1)。貧困者が多ければ,低所得者救済用に用意された公的医療保険の被保険者が増えるのも当然だが,そのうえ,ここ数年の景気の落ち込みで被保険者が増加,メディケイド財政の悪化が加速された。同州は,成人(65歳未満)のメディケイド受給資格の所得制限を全米貧困基準(一家3人の家族の場合,年収1万 5670ドル)の35%未満と,厳しく設定している(註2)にもかかわらず,州民の4人に1人が,医療保険をメディケイドに頼らざるを得なくなっているのである。
また,ミシシッピ州のメディケイド支出に対する連邦政府の持ち分割合77%は全米最高(平均は58%)であるが,これも同州の「貧しさ」に配慮するからに他ならない。連邦政府の「手厚い」予算処置にもかかわらず,同州のメディケイドは「破産」に追い込まれてしまったのだが,「破産」に追い込まれた最大の原因は,政治の失敗にあったといってよい。
メディケイド「破産」につながった知事の誤算
同州のメディケイドが「破産」への道を歩むことになった第一歩は,元共和党全国委員会委員長というがちがちの保守派,バーボアが,2003年の選挙で,全米最貧州の知事に当選したことにあった。バーボアは「メディケイド財政立て直し」を公約に掲げて当選したのだが,当選したばかりの新知事が財政立て直しの標的としたのが,メディケアとメディケイドの「二重給付」を受ける「貧困な高齢者・障害者」の5万人だった。
ここで,少し説明すると,メディケアは外来処方薬について保険給付をしてこなかった歴史的背景がある(註3)。お金のない高齢者,障害者(多くは65歳未満の腎不全患者)にとって,必要な薬が購入できないとなると文字通り命にかかわるので,どこの州でも,「貧困な高齢者・障害者」に対しては,メディケイドが外来処方薬を保険給付するという形で,救済処置を講じてきた。バーボアは,この「二重給付」を解消することで,メディケイドの支出減をめざしたのだった。
二重給付解消の法案が州議会で可決され,バーボアは二重給付を受けていた被保険者5万人がメディケイドからはずれるという前提のもとに予算を組んだ。バーボアの改革は当初のもくろみ通りに進展するかに見えたのだが,誤算は,「貧困な高齢者・障害者」という,「弱者の中でももっとも弱い弱者」を切り捨てたことに世論が猛反発したことだった。「被保険者に十分な説明をしないままに切り捨てを断行したのは違法」と患者アドボケートが提訴,その主張を入れた法廷が,「貧困な高齢者・障害者」のメディケイドからの切り捨てを停止するよう命じたのだった。
5万人の切り捨てに成功していたならば,9000万ドルの支出減が達成されていたはずだったのだが,この分の「節約」が消えてしまっただけでなく,メディケイド支出はバーボアの予測を超える勢いで急増した。メディケイドを年度末まで運営するためには2億6800万ドルが不足していたのだが,この不足分の財源をどう手当てするかを巡って州下院と知事・上院が激しく対立,妥協が成立しないままに,3月11日,予算を使い切ってしまったのだった。
(この項つづく)
註1:2003年米国商務省経済分析局調べ。ちなみに,米国の1人当たり国民所得は3万1632ドル。
註2:未成年の扶養家族がいる勤労成人の場合。ミシシッピ州の所得制限は全米で7番目に厳しい基準に設定されているが,一番厳しいのはアラバマ州で,連邦貧困基準の19%(一家の年収にして3048ドル)未満に設定されている。なお,妊婦・小児に対する所得制限は大幅に緩く設定されている。
註3:部分的ではあるが,06年1月からメディケアの外来処方薬保険給付が開始される。
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