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株式持ち合い『上昇』気配
取引関係にある企業同士が、互いに株を保有して株価安定や買収防衛を図ることを「株式持ち合い」という。日本経済の閉鎖性の根源として、持ち合い解消が進められてきたが、M&A(企業の合併・買収)が活発化しつつある今、復活の気配をみせている。それも、ニッポン放送株をめぐるフジテレビジョンとライブドアの争いを追い風にして。
■「ライブドア」で一転、見直し論
ライブドアの堀江貴文社長は先月末、共同通信のインタビューで、フジとの関係について「資本提携しないとうまくいかない」と述べ、ライブドアとフジが株式を持ち合う構想を明らかにした。ニッポン放送の買収を仕掛けた「ホリエモン」の口から「株式持ち合い」が唐突に飛び出した。
ある証券会社アナリストは「ホリエモンが言ったのは、事業提携を進める象徴として、フジと直接的な資本関係を結んで、株式を持ち合いたいということだろう」と話す。これに対してフジは、フジサンケイグループへの介入を断念するよう求め、株式持ち合いの交渉には踏み込まない姿勢とみられる。
株式持ち合いのもともとの狙いは、安定株主をつくって敵対的な買収を防ぐことにある。実際、フジはライブドアの買収攻勢への防御力を高めるため、「安定株主づくり」に乗り出した。取引関係の深い数十社に対して、フジ株を追加的に市場から買い入れ、長期保有するよう要請していることが先月末に分かった。
ライブドア騒動にとどまらず、株式市場では、これまで企業同士、企業と金融機関との間で解消が進んでいた株式持ち合いが、一転して、見直されるという見方が出ている。
新日本製鉄、住友金属工業、神戸製鋼所の三社は三月三十日、提携を拡大・深化させて、互いの持ち合い比率を引き上げる方向で検討に入ったと発表した。三村明夫・新日鉄社長は「日本の鉄鋼業界の株価からみて、常に敵対的買収の対象となる可能性がある。潜在的な脅威に備える」と、外資などによる敵対的な買収を防ぐ狙いを説明した。
■「白馬の騎士」に変身の可能性も
さらに同三十一日、新日本石油とコスモ石油が、相互に株式を持ち合って関係を強化すると同時に、敵対的買収にも備えると発表した。両社は業務提携してきたが、相手側の株式を取得するのは初めてで、株式持ち合い比率は1%前後。買収防衛策としてはわずかながら、いずれかが買収攻勢に遭った際、ホワイトナイト(白馬の騎士)として助け舟を出す可能性を示す。
株式市場も、これらの株式持ち合い策を発表した直後、新日鉄、新日本石油やコスモ石油が値を上げるなどしており、持ち合い復活を好感したかに見える。
「持ち合い解消の動きは十数年続き、すでに解消売りも一巡した。しかし、買収防衛の観点からみて、はたして持ち合い解消が良かったのかどうか、という声が企業の間で出ている」と言うのは新光証券エクイティ情報部長の申谷昇氏。
「かつて持ち合いは意味のないことといわれたが、今後は買収防衛に効果があり、企業価値も高めることが株主に伝わる内容であれば、持ち合いが増えるのではないか。鉄鋼三社のように友好関係を結んだり、ビジネス拡大のパートナーとなるような関係づくりが中心になりそうだ」とも。
■大銀行中心にグループ構成
第一生命経済研究所主席エコノミストの熊野英生氏は、企業の安定株主づくりに関して「この数年、企業の収益体質はものすごく良くなり、いわばカネ余りの状況が生まれている。日本では二割程度といわれる配当性向を、欧米並みの三割程度に引き上げて、利益を株主に還元する企業が増えてくるのではないか」と指摘する。配当が増えれば、企業株主にとっても投資メリットも大きくなる。もちろん、旧態依然とした「持ち合い」復活は時代錯誤と指摘される可能性が高い。
株の持ち合いが始まったのは戦後のことだ。財閥解体で、株式が一般に売り出されたのを受けて、企業が乗っ取りを防ぐ策として行われた。財閥系企業の場合は、人的結びつきから旧財閥の内部で株を持ち合うケースが多く、大銀行を中心とした新たな企業グループが再編されていく。
東京五輪の一九六四年に経済協力開発機構(OECD)に加盟し、資本自由化が始まると、非財閥系企業でも持ち合いが広く行われるようになった。証券不況の際に株価が急落、外資による日本企業の買収の可能性が生じたこ
とに対する防衛策として急速に進んだ。
株式持ち合いは期待通りの効果を発揮して、会社経営を安定させた。その一方で、「株を持った相手の会社を批判することはせず、互いに信認し合うやり方は海外から批判の的になり、八九年に始まった日米構造協議でも米側は日本企業の閉鎖性の是正を強く求めてきた」と、経済評論家の奥村宏氏は言う。つまり「持ち合い=もたれ合い」でもあったわけだ。
しかし、バブル経済の崩壊後、「系列」にみられるような株式持ち合いによる取引関係の固定化は、企業の合理化を妨げる要因とみなされるようになった。まず、不良債権の処理に追われ、株下落で含み損を抱える銀行が、持ち合い解消を進めた。国際会計基準として「時価会計」の二〇〇一年導入に備え、企業も経営を不安定にする保有株の価格変動リスクを避け、持ち合い株の売却を行った。
大和総研によると、上場企業の株持ち合い比率は金額ベースで一九九一年度の27・7%から二〇〇三年度8・6%に。株数ベースでは23・6%から7・4%に減少傾向だ。
ただ、企業同士で株を持ち合う傾向は〇一年にいったん底を打ち、以後ジリジリと上昇しているのだという。株の持ち合いといっても、従来のように日本企業間のみではなく、外国企業と株を持ち合うケースも登場している。
■余裕ある業種の部分的な動きに
ネットワーク機器卸のプラネックスコミュニケーションズ(東京)は、二年前に台湾企業と業務提携したのを機に、株を持ち合っている。金額は七百万円あまりで、比率にすれば相手企業の株式の1%にも満たない。久保田篤専務は「業務提携を口約束でなく、形にしたいと考え、株を持ち合った。敵対的買収に共同で対処するという意味合いはない」と話す。
これについて大和総研資本市場調査本部の伊藤正晴主任研究員は「持ち合いによって提携関係を強化するという『協業』という考え方の中で出てきたのではないのか」と指摘する。
だが、奥村氏は、株式持ち合いを「復古」と否定的にとらえ、「株式会社の資本充実の原則にも、資本自由化にも反している。日米構造協議時の問題を再燃させかねないどころか、米国産牛肉の輸入再開より大問題になる可能性がある」と懸念を示し、言う。
「持ち合いを再開させているのは、鉄鋼など業績が良く、余裕がある業種だけだ。解消の流れを食い止めることなど不可能。持ち合いの再開といっても、結局は部分的な動きにとどまるだろう」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050405/mng_____tokuho__000.shtml