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歴史的転換点に立っている
日本はアジアに目を向けるのかアメリカ一辺倒で終わるのか〔上〕
虎田五郎
http://www.bund.org/opinion/20050405-1.htm
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とらだ・ ごろう
1957年生まれ。埼玉県越生町出身。立教大学在学中に社会運動に参加。三里塚闘争などで5年有余の下獄歴を持つ。現在は沖縄県で塾を経営、英語と数学を教える。政治・経済に通じた在野のイデオローグ。
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日本の財界でも、軍事上のみならず経済的にもアメリカ(ドル)の横暴が顕著になっている現在、アメリカ離れの動きが急速に広がっている。そうした日本の動向をアメリカが黙認するはずもなく、軍のトランスフォーメーションを通じて、日本をますます米戦略の下に組み込む圧力を強めている。日本は今や、アジアとアメリカの狭間にあって、自らの進路をめぐり重大な岐路に立たされているのだ。20世紀的な左右イデオロギー対立の遠近法が無効となった今日、日本は時代の転換点を越えられるのか。
1、東アジア共同体に突き進む日本財界
相次ぐ財界人の反靖国参拝発言
本年1月9日、小林陽太郎富士ゼロックス会長宅で、燃えた火炎瓶2本が自宅玄関脇に置かれているのが発見された。さらに1月19日、帰宅した小林会長が普通郵便で届けられた封筒を開封したところ、32口径の拳銃の実弾一発が入っていた。
小林会長は昨年9月、小泉首相の靖国神社参拝について、「首相の立場で靖国に参拝することが中国国民の感情を逆撫でし首脳会談の妨げとなっている。個人的にはやめていただきたい」などと発言した。それ以降ずっと右翼団体の街宣活動を受けていた。氏は「新日中友好21世紀委員会」の日本側の座長だ。同委員会では経済・エネルギー、環境分野での、日中間の協力と友好を目指して両国の有識者が集まりメンバーを構成している。日本側では宇宙飛行士の向井千秋なども、その一員に入っている。
こうした靖国参拝批判の発言は小林陽太郎にとどまるものではない。このかん日本経済の中枢にいる財界人から相次いでいるのだ。昨年9月、日本経団連の会長の奥田碩トヨタ自動車会長が訪中し温家宝首相と会談した際、温家宝首相が「中国と日本は政治面でも成熟した段階に入らなければならない。いくつかの問題があるが、中国がつくったものではない」と、小泉首相の靖国参拝批判をほのめかした。それに対して奥田碩は「経済界として友好関係に力を尽くしたい」と、実質的に賛同の意を表明している。
続いて経済同友会代表の北城恪太郎日本IBM会長は、11月、更に踏み込んだ小泉批判をおこなっている。 「中国には日本の首相がA級戦犯を合祀している靖国神社に参拝することを快く思っていないという国民感情がある。小泉首相が靖国神社に参拝することで、日本に対する否定的な見方、ひいては日本企業の活動にも悪い影響が出るということが懸念される。経済界の意見の大勢だと思うが、総理には今のような形での靖国神社に参拝することは控えて頂いた方がいいと思う」
このような言動は、決して発言者の個人的な意見表明ではなくなっているのだ。北城格太郎の言うように文字通り「経済界の意見の大勢」なのである。
日本の財界を代表する経済3団体(日本経団連、経済同友会、日本商工会議所)のうち、大企業を代表する前2団体が、本年に入り相次いでまとまった文書を発表しているが、これらの内容を見れば財界の言いたいことは一目瞭然だ。
日本経団連「東アジア経済自由圏」を方針化
本年1月18日、日本経団連により、『わが国の基本問題を考える〜 これからの日本を展望して 〜』と題する、A4版25ページにわたる意見書が発表された。「東アジア地域との連携強化」という項目にはこうある。 「わが国にとって、東アジア諸国は、もはや単に地理的な隣国に留まる存在ではない。東アジア諸国は、世界の成長センターであり、国際的な競争相手であるとともに、相互依存関係を深めるパートナーでもある。…通商立国であるわが国が、国際化と地域化という世界の大きな流れの中で繁栄を続けていくためには、今後、東アジア地域の連携を早急に強化していく必要がある。…早期に韓国、中国やASEAN諸国とEPAを締結し、民間による投資や貿易を通じた、経済面での連携を一層深めていくことが重要である」
さらには「わが国がリーダーシップを発揮し、東アジア自由経済圏を早期に構築し、地域経済全体のさらなる発展の基盤を築くことが急務である。将来的には、東アジア地域の経済連携を政治・安全保障面での連携・協力へと発展させていくことで、相互関係の深化を、わが国のみならず、地域、ひいては世界の繁栄、平和・安定につなげていくべきである」と訴えている。また「東アジア自由経済圏を構築する上で、日中関係は極めて重要である。…政冷経熱と言われる現下の状況の改善に向けて、日中両国政府が、相互の価値観や立場の相違を克服するための前向きの努力を積み重ねることが望まれる」として、日中関係改善のために靖国問題などへの政府の柔軟な対処を求めている。
日本経団連(日本経済団体連合会)は、2002年5月に経団連(経済団体連合会)と日経連(日本経営者団体連盟)が統合し発足した組織だ。経団連は1946年8月、日本経済の再建・復興を目的として出発。財界の意思を代弁する団体として貿易の自由化や自由競争の促進、行財政改革の推進などを主張してきた。一方日経連は、1948年4月、先行して結成された業種別・地方別経営者団体を基盤として「経営者よ 正しく強かれ」をスローガンに、労働問題を専門的に扱う経営者団体として発足した。この両者が統合して日本経団連になったのである。団体への加盟は個人加盟の経済同友会と異なり、企業単位で行う形式になっている。
「円を捨てよ」と訴える経済同友会
同じく本年の2月8日には、経済同友会のもとに招集された「世界における日本の使命を考える委員会」が、『日本のソフトパワーで共進化(相互進化)の実現を―東アジアの連携から、世界の繁栄に向けて―』と題する提言書を発表した。一般的な「提言」にとどまらず、大胆に日本の進むべき進路を描き出したものであり、序文も入れるとA4版70ページにもなる分厚いものだ。
「すでにビジョンとしては話し合われている『東アジア経済連携』の動きを更に発展させ『アセアン+3』の『東アジア共同体』の実現、通貨の統合までをもめざし、それに向けてのイニシアティブをとる。遠い将来には、インドなどをも含む『アジア共同体』をも視野に入れる」
経済同友会は日本経団連と違い個人単位で加入する仕組みで、日本の中堅経営者が結集している。個人参加のために個性ある発言がなされやすい。最近では政党への企業献金問題で献金再開を主張する経団連に対して、強い反対の立場を表明しており、環境税を巡っても導入に強く反発する経団連に対して、北城同友会会長が導入を支持する発言をおこなうなど、両者の間での対立も目立っている。
提言では日本経団連以上につっこんだ形で、東アジア共同体にコミットすることが言及され、そうした方向性がまさに同組織の戦略と言えるところにまで煮詰めあげられている。
「東アジアの各国間の経済連携を進めるにあたっては、短期的にはFTAやEPAの推進が重要であり、フィリピンとのEPA合意は一歩前進である。中期的にはYES債権構想の実現、そして長期的には中国とのFTAの締結や東アジア共通通貨単位の導入を目指すべきである」。東アジア共同体へむけた段階的な目標が具体的に明示されているのだ。その上で「ドイツは戦後の経済発展の中で欧州最強のマルクを捨て、ユーロの誕生をフランスと共に達成した。…アジアの連携に主体的に取り組む立場にある日本としても率先して自国通貨(円)を捨てることで共通通貨を大きく推進させ、東アジア共同体の実現に貢献」すべきであるとまで訴えている。経済同友会は積極的なアジア派として自らの旗幟を鮮明にしたのだ。
2、財界のアジア合流に反対する勢力
保守派内部からの反発
だが財界人の中でも頑迷な保守は存在する。山本卓眞・富士通名誉会長などは『諸君』2月号での「財界人よ、靖国に行って頭を冷やせ」と題する文章で、前記したような財界主流の動きに対して次のように怒りをぶつける。
「中国こそアジアにおける最大の『戦争勢力』であり、こういう国と密接不可分な関係を持つことは十分注意する必要がある」「『東アジア共同体』構想を実現するためにも、日本と中国の関係を修復しなくてはならない、そのためには小泉首相の靖国参拝を中止すべきだ…と考える向きもあるでしょうが、とんでもない話」「『将(小泉)を射んと欲せば先ず馬を射よ』ということで、(中国が)『馬』に相当する経済界をターゲットにして、『靖国参拝反対』の合唱をさせようとする」ものだと非難している。
櫻井よしこ元NTVニュースキャスターなども、「財界のなかには、この(東アジア共同体)構想に対する積極論も多い。だがそれらの論は、中国の狙い、東アジア共同体構想の本質を完全に見誤っている」「中国は政治経済の面においてもアジア地域での覇権を確立しようとしている。それが東アジア共同体構想の真の狙い」であると断じる(『SAPIO』2月23日号)。
政界でも安倍晋三自民党幹事長代理などは、昨年11月、胡錦涛が小泉に靖国参拝の中止を求めたことに対して、「国のために殉じた方々に尊敬の念を供するため、靖国にお参りするのは一国のリーダーとして当然だ。外国から行くなと言われる筋合いはない」と厳しく批判した。自民党には靖国神社崇拝者総代を務める古賀誠議員を筆頭とする、靖国参拝推進派は多く存在する。
アメリカの反発
もちろんアメリカの側も、日本の財界の東アジア共同体に向けた動きに対して黙っているわけではない。とりわけ日中間が協力関係に入ることには大きな警戒心を持っている。クリントン政権で経済担当の大統領補佐官を務め、現在は国際経済研究所の上級研究員であるマーカス・ノーランドは次のように言っている。
「アメリカはアジアとのきずなは安全保障だけでなく貿易、投資、金融などの経済面でも明確だが、この東アジア共同体はなぜアメリカを含まないのか。アジアと密接するオーストラリアとニュージーランドもなぜ加えないのか。そもそも東アジア共同体構想の基礎になっているように見えるアジアでの自由貿易協定も、本来なら既存のアジア太平洋経済協力会議(APEC)ですべて包含できるはずだ。東アジア共同体なるものがまず経済面で域外の諸国に対し差別的措置をとれば、アメリカはそれを放置することはできない」 『歴史の終わり』のフランシス・フクヤマも、「東アジア共同体というのがアメリカを含まないアジア諸国だけの組織であれば、アジアの安全保障という観点からは有害な組織だといえる」と批判している。
マックス・ボーカス上院議員は米国益をあけすけに押し出し、「(東アジア共同体を目標とする)東アジア首脳会議開催はアメリカをアジアの枠外におくことにつながり、アメリカの国益を損なう。アメリカがアジアの地域統合に参加しないことは1898年のアメリカ・スペイン戦争でのフィリピン領有以来、100年以上にわたるアメリカのアジアでの大国としての地位を揺るがせかねない。この構想は自国の利益のためにアジア統合をうたう中国の戦略だろう」と訴えている。
こうした米側の意向に応えて、『日経ビジネス』誌編集委員・谷口智彦は、「東アジアのいかなる地域的な組織にもアメリカが加わるべきだ。アメリカはアジアへの関与を守るために血と汗を流してきた。第二次大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争などみなそうであり、現在もアジアへの軍事関与は同盟の形で保たれ、アメリカの安全保障の傘がアジアの秩序の土台となっている」(『SAPIO』2月23日号)と、全面的に迎合している。
日本の親米派が言いたいことは結局はこうした単純な論理に尽きる。世界的には東西対立の消滅によって大きく変貌している戦後のアンシャンレジームを、何としても護持したいということなのである。
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(2005年4月5日発行 『SENKI』 1174号5面から)
http://www.bund.org/opinion/20050405-1.htm