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「優しい刑事:ソン&恐い刑事:ホリ」と容疑者:フジ
影響力の武器―なぜ、人は動かされるのか
チャルディーニ,ロバート・B.【著】より
P222−223
「優しい刑事と恐い刑事」のやり方は、次のようなものです。強盗容疑で逮捕された若者が取調べ室に連れてこられ、二人の刑事から尋問を受けます。この若者は自分に与えられている権利について知らされ、無実を主張しています。刑事の一人は、その役が似合っているという理由から、あるいは単に順番によって「恐い刑事」を演じます。「恐い刑事」は、容疑者が椅子に座る前から、「この悪党野郎」と彼をののしります。この後の尋問も怒鳴り声です。彼は自分の目的を強調するため、囚人の椅子を蹴飛ばしたりもします。容疑者を見る彼の目は、まるでゴミの山を見ているようです。容疑者が「恐い刑事」の言い掛りに反抗したり、返事を拒否しただけでも、「恐い刑事」は怒り狂います。沸騰せんばかりの怒りようです。最も重い刑罰を与えるようにするためなら何でもやる、「恐い刑事」はそう断言します。地方検察庁に友人の検事がおり、容疑者の態度が協力的でないことを知らせてやれば、きっと求刑を厳しくするだろう、と言うのです。
「恐い刑事」がこのパフォーマンスをやり始めるとき、パートナーの「優しい刑事」は後ろの方に座っています。それから、ゆっくり口をはさみ始めます。最初、彼は「恐い刑事」だけに話しかけ、暴発しそうな怒りを和らげようとします。「フランク、まあ落ち着けよ」。しかし、「恐い刑事」は叫び返します。「こいつが面と向かって俺に嘘をついてるってのに、落ち着けとはなんだ! 嘘つき野郎っていうのが、俺は一番嫌いなんだ!」。しばらくして、「優しい刑事」は容疑者のために何か言います。「気楽にやれよ、フランク。こいつはまだ子どもだ」。さほどの擁護ではなくても、「恐い刑事」の暴言に比べれば、この言葉は容疑者の耳に心地よい音楽のように響きます。しかし、まだ「恐い刑事」は納得しません。「子どもだと? 違うぜ、こいつは子どもなんかじゃねえ。チンピラだ。こいつが何様だってんだ、立派なチンピラだよ。言っとくけどな、こいつは十八を過ぎてるんだ。十八過ぎてりゃ、もうこっちのもんさ。このバカ野郎を懐中電灯でもなけりや誰だか見分けのつかねえような、遠くの監獄にぶち込んでやれるんだ」
今度は、「優しい刑事」が容疑者に直接話しかけます。彼をファーストネームで呼び、この事件の有利な面をい
くつか指摘します。「ケニーよ、おまえはラッキーだったよ。誰も傷つけていないし、凶器も持っていなかったんだから。判決を受ける段になっても心証はいいと思うよ」。それでも容疑者が無実を主張し続けるなら、「恐い刑
事」がもう一度、悪態と脅しの長広舌を始めます。ただ、今回は「優しい刑事」が「恐い刑事」を制止し、小銭を渡して言います。「わかったよ、フランク。この辺にして皆でコーヒーでも飲もうぜ。三人分買って来てくれないか」
「恐い刑事」が部屋から去ると、「優しい刑事」の独壇場です。「なあ、おまえ、俺には理由はわからんが、相棒はおまえのことが嫌いなんだ。だから、おまえに刑を受けさせようとしてるんだよ。あいつはそれをやれるよ、なんて言ったって、今のところでも、俺たちは十分証拠を持っているんだからな。それに、地方検察庁のやつらは協力的じゃない男には情け容赦しないっていう話、あれは本当だぜ。おまえは五年ってとこだな、おい、五年だぞ。俺は、おまえにそんなことさせたくないんだ。そこでだ、もし、あいつが戻ってこないうち、今すぐ強盗をやったと認めれば、俺がおまえの事件の担当になって、地方検事によく言っといてやるぞ。俺たちがお互い協力しあったら、五年を二年、いや多分一年くらいに減らすことができるんだ。ケニー、これはおまえにとっても俺にとってもいいことじゃないか。どういう風にやったんだ、吐いてしまえよ。おまえの刑が厳しくならないように、まずはそこのところからやって行こうじゃないか」。ほとんどの場合、この後、すべてが自白されることになるのです。
「優しい刑事と恐い刑事」の策略が効果を発揮する理由は、協力することだけではありません。長期投獄の恐怖が、「恐い刑事」の脅しによってすばやく吹き込まれます。知覚的コントラストの原理(第1章)が働きますから、怒鴫りちらし、悪意に満ち満ちた「恐い刑事」と比較して、「優しい刑事」を演じる取調べ官がとりわけ理性的で仏のように見えるのは確実です。それに、「優しい刑事」は何度も容疑者のために口をはさんでくれ、身銭を切ってコーヒーまで買ってくれたわけですから、返報性のルールによって、今度は自分が何かやってあげなければとい圧力がかかります。しかし、この策略が効果を持つ主な理由というのは、自分の味方になってくれる人がいる、自分の幸福を考えてくれる人がいる、自分のために一緒に努力してくれる人がいる、と容疑者に思い込ませることなのです。多くの場合、このような人は非常に好ましい人物と見られるでしょうが、この強盗の容疑者が置かれているような困難な局面では、さらに救世主のような性格を帯びることになるはずです。そして、今度はわずかなステップで、救世主から信頼される聴罪司祭に変わるのです。
P42
返報性のルールは、不公平な交換を引き起こす
返報性のルールには、人が自分の利益のために利用するのを許してしまう特徴がもうひとつあります。全く皮肉なことなのですが、このルールは二人の人間の間の平等な交換を促進するために発展してきたものなのに、完全に不公平な結果を導くために使うことができるのです。このルールは、ある行為がなされた場合、受け手はそれと類似した種類の行為でお返しをすることを要求します。ですから、好意には好意でお返しをするのが自然であって、無視や攻撃であってはなりません。しかし、かなり融通がきくのも確かです。最初の些細な好意は、相当大きな好意を返さなければならないという義務感を生じさせます。既に見てきたように、このルールは、相手に恩義を感じさせる最初の好意の性質だけでなく、その恩を返すための好意の性質も選択することができるものですから、私たちは、このルールを利用しようとする人々に簡単に操作されて不公平な交換を余儀なくされることになります。