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2005年3月21日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.315 Monday Edition
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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本日19:00頃に、長編書き下ろし小説『半島を出よ』の特別配信をお届けします。
帯文、目次、そして小説の導入部を一挙掲載します。
村上龍
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▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第315回】
■ 回答者(掲載順):
□真壁昭夫 :信州大学大学院特任教授
□三ツ谷誠 :三菱証券 IRコンサルティング室長
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
□津田栄 :経済評論家
□金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
■ 読者からの回答
□友田健太郎 :会社員、元読売新聞記者
■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:601への回答ありがとうございました。今週半ばに書き下ろし『半島を出よ』
の見本が出来上がってくる予定です。実際に本を手にとって見るまでは、どうもほか
の仕事が手につきません。版元である幻冬舎と相談の上、『半島を出よ』に関する画
期的なJMM特別配信号を考えています。
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第315回目】
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====質問:村上龍============================================================
Q:602
ソニーが初めてトップに外国人を起用するようです。このことは何を象徴している
のでしょうか。
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
______________________________________
■ 真壁昭夫 :エコノミスト
今回、ソニーの出井会長、安藤社長が退任して、ハワード・ストリンガー氏が会長
に就任する背景には、同社の収益状況が、予想されたほど改善しなかったことがある
と考えます。確かに、決算の実績や今後の予想などを見ても、かつてのソニーほどの
勢いは感じられません。売上高も収益水準も伸び悩みの状況だと思います。知り合い
のアナリストに尋ねてみましたが、今回の経営者交代は、出井氏など現経営陣の引責
辞任の意味合いが強いと見ているようでした。
その後任として、ウェールズ出身のストリンガー氏が指名されたことには、あまり
違和感を持つことはありません。今から約20年前、ロンドンの学校で知り合ったカ
ナダ人の学生は、ソニーが日本の企業だということを知りませんでした。当時のソ
ニーは、ウォークマンというヒット商品を生み、既に世界有数の家電メーカーの地位
を得ていたと思います。同社は、それほどのグローバル企業だったのでしょう。その
企業のトップが、日本人であるか否かは、あまり大きな問題ではないと思います。む
しろ、ソニーのトップに、今まで外国人が座ったことがないのが不思議なくらいです。
今回のストリンガー氏の就任は、ソニーが経営陣を刷新するため適切な人材を探し
たら、それが偶然、日本人ではなかったということでしょう。日本の企業だからと
言って、経営者が日本人である必要はありません。それだけ、経済全体がグローバル
化しているとも考えられます。また、ソニーの業務活動が国際化しているため、特に、
日本人でなければ、ソニーの経営に不自由が発生することはないのでしょう。日産を
買収したルノーが、同社の経営トップに、カルロス・ゴーン氏を配置したのと同じこ
とだと考えます。
そうした意味では、外国人経営者がソニーのトップに立つことは、ごく自然のよう
な気がします。それよりも、興味深いのは、ソフトやエンターテインメントに強みを
持つといわれているストリンガー氏が、次期経営トップに選ばれたことです。ソニー
は、元々、エレクトロニクス関係の製造業というイメージが強かったと思います。最
近の業績低迷の一つの要因は、映像ソフトやエンターテインメント部門と、ハードの
エレクトロニクス分野の関係が上手く行かなかったことが上げられているようです。
この分野のセクターアナリストに聞いてみましたが、内部部門間のバランスが上手
くワークしなかったことが、このところの業績低迷の主な原因と指摘していました。
また、「最近、昔のソニーのような、斬新な発想が乏しくなっている」とも言ってい
ました。長期間に亘って、世界の有数の家電メーカーとして君臨する間に、ソニーら
しい発想や、それを生むカルチャーが磨耗したのかもしれません。出井会長は、ソ
ニーのカルチャーを拡大再生産するための人材として、ストリンガー氏を指名したの
でしょう。経営者のナショナリティよりも、同氏の経営者としての能力を優先したと
考えられます。
出井氏の頭の中には、エンターテインメント分野に精通したストリンガー氏と、エ
レクトロニクス分野に強みを持つ中鉢氏を、次期経営者に指名することで、両部門の
バランスと協調関係の構築を狙ったことが伺えます。ソニーに、かつての勢いを復活
させるためには、協調体制の強化が必要との認識があったのではないでしょうか。同
社が、それを、内外に向かって表明することを意図した人事とも考えられます。
ソニーは、ある時期、日本の企業としては珍しいほど、事業範囲を拡大しました。
事業範囲を拡大することは、それだけ収益機会をつかみ易いといえますが、一方で、
企業独自の概念やカルチャーを失うことも考えられます。アナリストたちが指摘する
ように、最近、ソニーからソニーらしさが減っているとすれば、それを再構築する必
要があるのでしょう。それを陣頭指揮できる人材が経営者になるべきです。現経営陣
は、ストリンガー氏が、その任に適切と認識したということだと思います。
信州大学大学院特任教授:真壁昭夫
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■ 三ツ谷誠 :三菱証券 IRコンサルティング室長
「株式会社こそが国民国家を乗り越える、というテーゼ」
非常に素朴な議論ですが、直近の四季報ベースで調べてもソニーは、株主構成にお
ける外国人持株比率は40%を超え、かつ売上の7割が海外という「これぞまさしく」
グローバル企業であります。株式会社が株主のものであり、かつまた顧客のものであ
ると考えても、そのような企業であるソニーの、そのトップが外国人であることは全
く不自然なことではない、そう考えます。
ただ、正確なデータがないので、推測でしかないのですが、一方で従業員の側面か
ら見れば、たぶんソニーといえども従業員の殆どは日本人であるでしょうから、その
代表としてのトップは日本人であるのが相応しいのでしょう。問題は、その綱引きな
のだと思うのですが、多面的な利害関係者の錯綜した利害関係の網に浮かぶ株式会社
は、もはや従業員共同体としての存在を超え、もっと別の存在に生まれ変わりつつあ
るように感じます。
私は、20世紀後半を(或いはアメリカを)「大衆」と「株式会社」の世界、とし
て認識するものですが、21世紀に入っても、世界が向かう方向が変わらないとする
ならば、大衆はよりその浮遊性を高め個別性を増していき、一方でばらばらになる個
人を繋ぎとめる島としての株式会社の役割は一層重いものになると考えています。
即ち、株式会社が個々人の生活を成立させる基本的な財やサービスを提供し、かつ
また、その生活を彩る(意味あるものにする)様々な財やサービス、文化、を大衆の
ために提供する。大衆は一方で年金基金と機関投資家、資本市場という濾過装置を通
じ、その時に(或いは近い将来に)もっとも必要とされる財やサービスをもっとも
Reasonableな価格で提供できる株式会社(それはまたその時代に一方で従業員として
働く大衆がもっとも適合性をもって労働力を提供できる組織)を選別し、育成してい
く。
それが私が考える(たぶんそうなる)市場主義の世界です。
その場合、浮遊する個人を強力に束ねるものとして、宗教があったり、民族があっ
たり、国家があったりもするでしょうが、それらは実は近代が一度「乗り越えた筈の
世界」であり、その意味で、ポストモダンとは、「株式会社」を中心に置いた世界の
発展を考えた際に浮かび上がる世界なのだと思います。
株式会社こそが、国民国家を乗り越える、今回のソニーのトップ人事が象徴するも
のは、そのようなテーゼでもあると思います。
三菱証券 IRコンサルティング室長:三ツ谷誠
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
今回のソニーのトップ交代劇で重要なのは、委員会等設置会社であり、社外取締役
を多用している同社の取締役会がどう機能したのかでしょう。端的にいって、社外取
締役は、彼らの意志に基づいて出井前会長、安藤前社長のクビを切ったのか、という
ことです。
新しい会長であるハワード・ストリンガー氏について注目すべきは、彼が外国人で
あるということではなくて、出井前会長の信任の厚い人物だということのほうではな
いでしょうか。売り上げ、利益、株主、何れを見ても、ソニーはいわゆる「グローバ
ル企業」であり、トップが日本人でないことは怪しむに足りません。
人事の話でもあり、メディアの報道がどれぐらい正しいのかには多少の疑問がある
ことをお許し頂きたいのですが、報道によるなら、ストリンガー氏を会長にという人
選は出井前会長によるものだということのようです。また、出井前会長は、ストリン
ガー氏の管掌するソフト部門が好調であることなどを挙げて、彼がトップに妥当であ
ると思ったことをメディアにコメントしています。
たぶん、ソニーの業績不振(委員会等設置会社になってから妙に不振ですね。因果
関係は分かりませんが・・・)は、トップ交代を要するレベルだというプレッシャー
があって、出井氏以下は不本意ながら退くのだとしても、後任者を出井氏が選択・指
名して、これを社外取締役たちも承認したという流れではないでしょうか。これまで
衆目の認める次期トップ候補だった久夛良木副社長の降格も含めて、出井氏の意向に
沿った人事ということでではないでしょうか。
社外取締役に期待される大きな役割は、(1)必要があればトップのクビを切るこ
と、と(2)次のトップを選ぶことですが、今回のトップ交代劇では、どうやら、そ
こまでの主導的な役割を果たしたようには見えません。実質は日本企業的トップ交代
ということでしょう。
これは、大方が些かガッカリする事実かも知れませんが、考えてみれば、ソニーの
社外取締役たちは出井氏がトップだった時代に、彼の意向を受けて取締役に就任した
方々です。いわば第一世代である彼らに、本格的な社外取締役の役割を期待するのは
無理というものでしょう。
社外取締役は、トップの意向や企画・社長室その他の事務局的な経営茶坊主によっ
て選ばれるのではなく、社外取締役によって選ばれるようになり、そうした「世代」
を重ねることによって、徐々に「本物」になっていくものなのでしょう。
それにしても、出井氏は、もう一芝居足りないのが惜しかった。後任者についてコ
メントしたりせずに、「私は取締役会にクビを切られた」という顔をしていれば、
「日本企業としては新しいコーポレートガバナンス」という経営的製品の完成者にな
れたのに、自分の影響力を見せてしまいました(退任する経営者はたいていそうです
が)。目新しくて格好のよいものを作るけれども、製品は壊れやすい(とよく言われ
ている)ソニーの伝統を経営に於いて継承してしまったようです。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
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■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
最近、日米とも経営者の交代発表が相次いでいますが(日本は季節的なイベントと
もいえますが)、経営者に対する評価ほどぶれ易いものはありません。私は経営者に
関する本を収集していますが、今振り返ると、ソニーに関しては97年に平田周著
『いま日本で一番元気のいい会社ソニー強さの秘密』、98年に立石泰則著『ソニー
の出井革命』など95年に就任された出井会長(当時は社長)の経営を賞賛する本が
かなり出版されていました。
出井会長が社長に就任された時には、ソニーにとって13年ぶりの社長交代という
こともあり、「役員14人抜き」「ソニー初のサラリーマン社長」「技術者でない広
報担当常務の就任」「難局を乗り切る心臓が強い人」と好意的な報道がたくさんあり
ました。96年5月には東京ディズニーランドで、ソニーの50周年記念イベント
「デジタル・ドリーム・キッズ・デー」が華々しく催され、出井会長は社員とその家
族から握手攻めにあったと報じられました。社員とのメールのやり取りを出版した
『出井伸之のホームページ』との本も98年に話題を集めました。
しかし近年、デジタル家電の開発で松下電器やシャープ、ポータブルオーディオで
アップルなどに遅れをとり、業績下方修正が相次いだことから、株式市場の評価が低
下しました。出井会長はソニーの何を改革したのかと疑問を呈する声が投資家やアナ
リストから出されました。事実、今回のソニーの経営陣入れ替え発表で、4000円
前後だったソニーの株価は4200円強まで上昇しました。
ただ、株式市場やマスコミの経営者に対する評価がぶれ易いことを鑑みますと、新
経営陣を評価するには時期尚早といえます。Stringer現副会長がCEOに正式に就任
するのは6月の株主総会ですから、その後の事業戦略、特に数値化された経営目標な
どを見る必要があるでしょう。
デジタル家電でソニーと競っている松下電器については、中村社長が2000年に
社長就任した際に出井会長ほど話題に上った訳ではありませんでした。しかし、経営
改革の実績を積み上げることによって、株式市場の評価が高まってきました。200
1年に財部誠一著『松下電器に明日はあるか』が発売されましたが、2004年には
日経産業新聞編『松下の中村改革』などのように経営を賞賛するような本が出される
に至りました。
このようにソニーや松下電器の経営に対する評価がぶれたのに対して、トヨタの経
営に対する評価は一貫して高かったといえます。トヨタでは奥田現会長が95年に社
長就任後、張社長が引き継ぎ、今年6月に渡辺現副社長が社長に就任することが既に
発表されています。トヨタについては、柴田昌治/金田秀治著『トヨタ式最強の経営』
や日経編『奥田イズムがトヨタを変えた』など経営を評価する本がたくさん出されて
います。
企業経営のパフォーマンスや株価の予想は難しいので、経営評論家の移ろい易さを
批判するつもりはありませんが、テレビで活躍されている評論家の意見のぶれ度合い
には注意した方がいいかもしれません。
海外も事業は似たようなものです。最近解任されたヒューレット・パッカードの
カーリー・フィオリーナCEOについて、2003年に『世界一の女性CEOカー
リー・フィオリーナの挑戦』(原作“Perfect Enough”の翻訳)との本が出版されて
いました。
結局、経営評論家やマスコミなどが好き勝手言う中で、経営者は企業業績や株価パ
フォーマンス、ファンドマネージャーは運用実績で示すしかないといえましょう。
メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
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『松下の中村改革』日経産業新聞編/日本経済新聞社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532311241/jmm05-22
『トヨタ式最強の経営』柴田昌治/金田秀治著/日本経済新聞社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532149231/jmm05-22
『奥田イズムがトヨタを変えた』日経産業新聞編/日本経済新聞社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532192277/jmm05-22
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■ 津田栄 :経済評論家
今回のソニーのトップ交代の人事は、グローバル的な面と日本的な面の両方が見ら
れたと思っています。グローバル企業であるソニーにとって、トップが日本人でなけ
ればならないということはありません。優秀な経営者が企業のトップになって企業価
値を高め、株主に満足を与えられるならば、国籍や人種は関係ないはずです。まして、
ソニーは海外を相手に事業を展開し、日本人よりも外国人の従業員が多数を占め、し
かもニューヨーク、ロンドンなどに上場してグローバル企業を標榜しているのですか
ら、トップに外国人が就いても不思議ではないといえます。
その点で、ソニーのトップに外国人が就任するということは、ソニーが名実ともに
グローバル企業になったということを象徴しているのであり、日本の企業がグローバ
ル企業として今後海外を相手に売り上げや業績を伸ばして成長し、株主に還元してい
くためには、経営のトップは優秀であれば日本人でなくても構わない、それが企業の
あり方だということを、初めて示したといえます。
もう一点の日本的であるというのは、トップの交代が出井氏からストリンガー氏へ
の世代交代という形をとって円満な体裁をとったことです。ソニーは出井氏がトップ
になって10年、当初はITの急速な拡大に乗って、ハードとソフトの融合戦略のも
とで、PC事業や金融業、ゲーム事業、映画ソフト事業など事業を広げ、また執行役
員制や委員会等設置会社の導入など経営の刷新をも図って評価される面もありました
が、一方でソニーの業績が97年度をピークに下がり続け、今や連結売上高営業利益
率が今年度予想1.5%と10%目標をはるかに下回る状況となり、経営の失敗は明
白となっていました。
こうした経営のトップが、企業を上手く指揮して、企業価値を引き上げるべきとこ
ろを失敗し、更に悪化させたならば、その責任を明確にして、トップの交代を図るべ
き所ではなかったかと思います。しかしながら、今回、そうした業績低迷の責任を明
確にせずに円満なトップ交代の形式をとりました。新聞によれば、「環境が悪かった」
と出井氏は言って、責任を曖昧にしてしまった感があります。この同じ環境のなかで、
松下電器産業などはデジタル家電に経営資源を特化させ、大きく業績を伸ばしており、
出井氏の発言ではソニーの業績不振の説明としては理解しにくいといえます(製品で
も、ものづくりの先端にいるはずのソニーに対する不評をよく耳にします)。
しかも、今回のトップ交代人事はグループCEOの出井氏と社長の安藤氏の2人で
決め、社外取締役や委員会が決めたのではないというのは、政権の禅譲の形になって
しまい、あまりにも日本的すぎると感じます。しかも、出井氏と安藤氏は顧問として
残るとのことで、経営にまだ口を出す可能性を残しています。もちろん企業経営が成
功しての交代であってその功労として、また若手へのバトンタッチで指導を求められ
るかもしれないのであれば、会社に残るには問題はないでしょうが、業績低迷で、次
のトップもそれほど若くない(わずか4歳若返り)のであれば、会社に残るには問題
があると思われます。
結局、この日本的なトップ交代では責任が不透明になり、経営に緊張感が生まれな
いのではないかと危惧します。日本企業の経営で問題になるのは、経営トップの責任
や評価が曖昧なまま、トップの交代がなされ、前任者が会社に残って、影響力を行使
していけば、後任も前任者の顔をうかがいながらの経営となってしまうことにありま
す。今回のソニーの場合も、委員会の指名ではないということであれば、社外取締役
や委員会は飾りであって、出井氏の会社という色彩が残ります。実際は社外取締役や
委員会は機能しているようなので、日本の多くの企業のような責任が曖昧ではないか
もしれませんが、株主などへの説明は不十分といえます。
経済のグローバル化とともに、企業もグローバル化を求められています。そして、
企業は株主に対して責任を負っているのであり、そのトップはそのために企業価値を
引き上げることを求められます。したがって、優秀なトップであれば国籍や人種は、
基本的には関係ないことです。そして、最終的に、トップには、責任や評価を明確に
し、緊張を持たせた経営が必要になってきます。同時に、株主に対して、説明するた
めには、経営の透明化が求められ、その一環として社外取締役や委員会の存在がこれ
からますます重要になってきます。
そういった点で、今回のソニーのトップ交代は、ある面ではグローバル企業として
脱皮したことを象徴していますが、ある面では、依然日本的な責任の曖昧さを残した
人事であったため、ソニーでもまだ乗り越えられないものが残っていることを象徴し
ているといえます。その意味で、出井氏や安藤氏が会社を去っていれば、今回のトッ
プ人事は、更に評価は高かったのではないでしょうか。
経済評論家:津田栄
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■ 金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
現在では、「企業は誰のもの?」という問いには、「企業は株主のもの」という答
えが一般にも自明な回答となりつつあります。これは、企業にとって資本こそが経営
上最も重要かつ希少な資源であり、資本を獲得するための資本市場での競争がその存
亡を決める、という認識に基づくものです。
しかし現実には、企業は資本市場での競争に加えて、製品やサービスを販売する市
場、さらには人材を獲得するための労働市場などでの競争にさらされています。従っ
て、株主を含めてこれらの市場を通じて企業とかかわる顧客や従業員なども企業と利
害関係を持ち、実質的な影響力を持ちます。これら株主、顧客、従業員さらに企業が
属する地域社会などを含めてステーク・ホールダーと総称され、株主=シェア・ホー
ルダーと対比して使われます。企業は常にこうしたステーク・ホールダー間の緊張関
係の上に存在していると考えるべきですし、それゆえに取締役などの経営者は株主の
利害を代表して選ばれることで企業統治のバランスが成り立っているといえます。
出井会長は、ストリンガー氏のソニー・トップ就任に当たって、「ソニーの全世界
の社員は15万人。このうち10万人が外国人であり、日本人は約5万人でしかない。
連結売上高の71%は海外で売り上げている。本社が日本にあっても、中身は完全に
グローバルカンパニー。たまたまトップが、英国生まれの米国人になっただけの話」
とコメントしたと報じられています。当然ながら、同時に、ソニーの株主構成の約4
割と見られる外国人投資家(2004年3月末で39.4%)をも念頭に置いた発言
であることは明らかでしょう。
今回のトップ交代については、社外役員を中心とした取締役会による実質的な解任
であるとの一部報道がある一方で、出井会長自身はそうした見方を強く否定していま
す。しかし、今回の経営体制の変更が出井氏あるいは取締役会のいずれのイニシア
ティブによるものであるかにせよ、トップの後任人事については株主投資家の意向を
十分に意識したものであることは間違いないでしょう。
ここで、出井氏ないしは取締役会の考えた、株主投資家の意向とはなんでしょうか。
もちろん中長期的には、「感動を提供する製品を世の中に送り出すメーカー」とし
てのソニーの復権であり、「顧客の目線で物づくりを考える」と同時に、ソニーの技
術力の優位性を再生し、それを最終製品に取り込む仕掛けを作ることでしょう。具体
的には、キーデバイスへの投資が鍵となるとともに、その投資負担に耐える体力を維
持することだと思います。従って、短期的には、人員削減を含めた「構造改革」によ
る収益性の回復が課題となります。すでにソニーは「TR(トランスフォーメーショ
ン)60」として、継続的に営業利益率10%を達成できる経営構造に2006年を
期して移行することを目指した3か年プロジェクトを進行させています。
2004年度には、主にエレクトロニクス分野、音楽分野および映画分野で、11
34億円の早期退職費用等を投じて、日米欧でエレクトロニクス分野の比較的給与水
準の高いホワイトカラーの人員を中心に9千人の人員削減を進めています。なお、こ
の9千人のうち5千人が日本での退職者とされています。これは、同年度の、研究開
発活動への投資5500億円、半導体ビジネスにおける1900億円の設備投資と
いった水準と比較しても、かなり踏み込んだ取り組みと言えます。なお、2005年
度についても、ほぼ同規模での「構造改革」の費用を見込んでおり、同様に厳しい人
員削減が進められているものと推測されます。中鉢氏の社長就任に際して指摘される、
「エレクトロニクス部門での技術者の求心力」という期待にも、切実な背景がありそ
うです。
しかし、こうした経営努力にもかかわらず、残念ながら現状での収益状況は「TR
60」の目標にはるかに及ばない状況であり、来期の「構造改革」の規模など、計画
は未定とされています。恐らくは、人員削減の面でも、より踏み込んだ方針が打ち出
されるものと思われます。こうした経営環境での、今回のストリンガー氏のソニー・
トップ就任ということになります。ストリンガー氏自身も一部メディアに対して、
「悪役に徹する。」といった趣旨の発言をしています。
最後に、これは若干古い考え方かもしれませんが、出井氏も退任に当たっては、こ
うした状況で経営をストリンガー氏に委ねること、さらに、これまで従業員の削減に
踏み込みながらも経営の回復を果たせなかった結果については、もう少し率直な総括
があっても良いのではないかと思います。
外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎
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■ 読者からの回答:友田健太郎
本論に入る前にまず強調しておかなくてはならないことは、今回ソニーのCEOに
イギリス出身でアメリカ国籍を併せ持つハワード・ストリンガー氏を選ぶにあたり、
氏の国籍は特に重要な要素ではなかったらしい、という事実です。様々な報道から総
合的に見て、このことは確かだろうと思われます。もちろん、新トップが外国人であ
ることが社内的に大きな問題にならないということ自体、ソニーという企業が60年
かけてたどり着いた地点を表わしてはいます。しかし、「初の外国人トップ誕生」と
いう視点は、ソニーの現状を分析するのに最適の切り口とはいえないかもしれない、
ということです。
その前提の上で言うならば、ソニーのトップに外国人が起用されたということが象
徴するものは、それなりに大きいものがあります。結論から言うならばそれは、ソ
ニーがふつうの多国籍企業になったということであり、また日本経済がふつうの多国
籍企業を生み出すほど成熟し、いわばふつうの先進国経済になった、ということなの
だと思います。
そのことを本稿では二つの視点から説明していきたいと思います。一つはソニーの
歴代のトップが備えていた「カリスマ性」の役割・意味であり、もう一つはソニーと
いう企業が日本と欧米、とりわけアメリカとの間で占めてきた位置です。
ソニーの歴代トップは強烈なカリスマ性で知られます。天才肌の技術者で、会社の
設立目的を「理想工場ノ建設」であると書き記した井深大。国籍を問わずあらゆる人
を惹き付ける魅力を発散し、アメリカで史上最も成功した日本人ビジネスマンとなっ
た盛田昭夫。将来を嘱望されるオペラ歌手のキャリアを抛ってソニーの経営に参加し、
エンジニアを驚嘆させる技術的なセンスと交渉力を兼ね備えていた大賀典雄。こう
いった一種の超人たちが、戦中・戦後という激動の時代でしかあり得ないような形で
運命的に出会い、家族以上の緊密さで結ばれていたところに、ソニーの急激な発展の
原動力がありました。
今回退任する出井伸之会長は1995年、大賀氏に後任社長として抜てきされまし
たが、その際に大賀氏が選出基準としたのはカリスマ性を発揮できる人物かどうか、
ということだったようです。大賀氏は「(ソニーは並外れた会社であり)後任者もま
た太陽のように輝く並外れた人間でなければならない」と語っています(J・ネイス
ン『ソニー ドリーム・キッズの伝説』文春文庫)。出井氏は期待に応えるべく次々
とビジョンを打ち出し、実際にカリスマ的な経営者として世界的に知られるようにな
りました。
その一方で、出井氏は大賀氏までのトップとは違い、ソニーという企業がある程度
出来上がってから平社員として入社し一歩一歩昇進してきた人物であり、そのことを
自覚していました。彼のカリスマ性はかなりの程度、意識的な演技です。出井氏は、
カリスマを演じる一方で、社外取締役制度の拡充など、集団的・組織的な経営へとソ
ニーを脱皮させる手を打ってきました。その意味では大賀氏の「ソニーの経営者はカ
リスマでなければならない」という考えとは違っていました。今回のストリンガー氏
の選出では社外取締役が大きな役割を果たしたとされ、集団的経営への脱皮を目指し
ていた出井氏の意図が成就したという面もあります。
ソニーの歴代トップのカリスマ性が果たしていた役割とは何だったのでしょうか。
それは、東京の焼跡の中から生まれた小さな会社が世界的なブランド企業へと成長し
ていくために必要なものでした。会社が何をすべきかトップが方向を示し、部下は全
力を上げて課題を解決していく。大賀氏の時代までのソニーの製品はそのようにして
生まれました。また、製品を市場に投入し世界的な規模で販売していく上でも、強力
なリーダーシップは有効に機能しました。
優れた製品により確立されたソニーブランドに「顔」を与える意味でも、個性的な
カリスマの存在は重要なものでした。ソニーのトップの仕事は、海外のビジネスマン
や政府当局者などとの接触、インフォーマルな交際も多い。盛田昭夫が欧米での人脈
作りを通じてソニーというブランドを世界的なものに育て上げたために、その維持が
必要でした。そのためには、個性の強い、カリスマ性のある人物が求められました。
ここでもう一つの視点、つまりソニーという会社が日本とアメリカの間で占めてい
た位置が問題になります。一言で言うならばソニーという会社は二つの国の狭間から
最大の利益を引き出した企業ではないかと思います。戦後の日本メーカーの成功パ
ターンはアメリカから仕入れた技術の種子を、日本人技術者の丁寧で粘り強い働きに
より魅力ある製品に仕上げ、それをアメリカ市場に輸出しつつ、ブランドを確立する、
ということでした。ソニーはそれを当初から最も意識的かつ大々的にやった会社であ
ることは間違いありません。
井深と盛田、2人の創業者の出会いは1944年、帝国海軍の熱線誘導兵器開発班
でのことでした(上掲書)。盛田は将校、井深は民間の技術者としてこのプロジェク
トに関わっていました。言うまでもなく彼らの敵はアメリカだったのですが、同時に
先進的なアメリカの電子通信技術をベースに仕事をしていたといいます。
戦時中のこうした体験がどこまで2人の戦後の行動を規定していたかはわかりませ
んが、当初「東京通信研究所」としてスタートした会社は1955年には早くも「ソ
ニー(SONY)」という外国風の商標を採用、1960年にはアメリカ法人を設立、
盛田が陣頭に立ってアメリカ市場の開拓に乗り出します。
それ以降今日まで、ソニーのアメリカ法人に関わった人の幹部経営者の多くは、盛
田や大賀と個人的な人間関係により深く結ばれたアメリカ人でした。日本企業の中で
は特異なことと言えると思います。例えば、大賀の元でアメリカ法人の社長を務めて
いたマイケル・シュルホフ氏と大賀はジェット機操縦の趣味を共有し、大賀はシュル
コフを「弟」と呼んでいたといいます(上掲書)。ソニーの日本での経営の中枢が、
井深、盛田、大賀らの個人的な情を核としたものであったわけですが、盛田と大賀は
その原理をアメリカ法人の運営でも導入しました。ずば抜けて才能ある人物を見い出
し、個人的な庇護を与えることで動かしていこうとしたのです。
しかし、今回ソニーのCEOになったストリンガー氏の場合は、そうした範疇には
入りません。ストリンガー氏は、出井氏がシュルホフを解任したあとでアメリカ法人
のトップに招いた人物です。ソニーの伝統に従い、出井氏とそれなりに個人的な親交
はあるものの、家族的な情で結ばれているわけではありません。放送業界のキャリア
が長いのですが、多国籍企業のプロ経営者という範疇に収まる人物と言っていいと思
います。
逆にそういう人物だからこそ、現在のソニーのトップに選ばれたのだと思います。
盛田や大賀が個人的な庇護の原理でアメリカ法人を動かそうとしたのは、ソニー発展
のためにアメリカに深く関わる必要があった一方で、アメリカに対する根深い不安の
現れでもあったと思います。自分が人間的に上に立ち、個人的な忠誠で相手を制約す
る必要を感じていた。そういう関係であれば、アメリカ人を本社のトップに据えるこ
とは出来なかったでしょう。出井体制の10年を経て、ソニーは「脱カリスマ」化し、
組織的な原理で動かされるようになりました。世代交替が進み、アメリカに対する不
安も薄れました。
一方で、ハリウッドでの映画制作事業も軌道に乗り、プレイステーションが成功し、
金融業も拡大するなどして事業の領域が広がり、以前のように統一的なイメージでソ
ニーを捉えることは難しくなりました。出井氏は拡散するソニーのイメージを、ハー
ドとコンテンツの融合というビジョンを唱えることで統一しようとしました。その統
一の象徴としてこそ、出井氏がいささか無理をしてでもカリスマ性を発揮する必要も
ありました。しかし、一個人のカリスマで統一するにはいささか事業範囲が広がりす
ぎたようです。
多国籍企業の中にはGEグループなどソニー以上に事業範囲の広い企業もあります
が、強いて統一的な戦略を打ち出してはいません。各事業がきちんと運営されて収益
が上がっていれば、それで特に問題はないというわけです。ソニーも今後はそういう
ことになっていくのでしょう。それならば統一的なビジョンを打ち出すカリスマ的
トップはもはやソニーには必要なく、国際的なビジネスの世界をよく知っているプロ
経営者であれば、十分ということになります。つまりはストリンガー氏のような人物、
というわけです。
つまり、ストリンガー氏のトップへの起用は、ソニーの経営の脱カリスマ化、事業
範囲の拡大、日本人のアメリカへの不安が薄れたことなどによるものです。このよう
にして、ソニーはふつうの多国籍企業になりました。しかし、全く文化の違う日本企
業が、欧米企業と同じようなふつうの多国籍企業になること自体、ソニーという希有
な企業の、60年に及ぶ苦闘が必要だった、ということなのだろうと思います。
会社員、元読売新聞記者:友田健太郎
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『ソニー ドリーム・キッズの伝説』ジョン・ネイスン/山崎淳・訳/文春文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167651238/jmm05-22
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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:602への回答ありがとうございました。やっと長編書き下ろし小説『半島を
出よ』の見本を手にすることが出来ました。思っていたよりも感慨は少なかったです
が、その夜は幻冬舎の「半島チーム」と祝杯をかわしました。
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Q:603
経営側の88%、労働側の94%が、「成果主義」への疑問を表明したそうです。
http://news.goo.ne.jp/news/kyodo/shakai/20050320/20050320a4370.html
今、「成果主義」についてどう考えればいいのでしょうか。
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村上龍
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