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マラッカ海峡の海賊とは
マレーシアとインドネシアに挟まれたマラッカ海峡で14日夜、日本船籍のタグボート「韋駄天(いだてん)」(323トン、全長42.55メートル)が海賊の襲撃を受け、日本人の船長と機関長、フィリピン人機関士の3人が拉致された。中東からの石油タンカーなどの主要航路である同海峡は、海賊事件が多発する海域でもある。マラッカ海峡の海賊とは−。
「昨年十二月のスマトラ沖地震津波以降、鳴りをひそめていたマラッカ海峡の海賊は今後、急増する。被災し困窮した漁民が、生活のために小型船舶を狙う例も増えてくる」
独協大学教授の竹田いさみ教授(東南アジア広域研究)はこう警告する。被災地支援のため各国海軍の艦船などがマラッカ海峡周辺に集まっていたため、海賊は動けなかったが、これら艦船が撤収して状況が一変したという分析だ。
国際海事局(IMB)海賊情報センターによると、全世界の海賊事件の報告総件数は昨年、三百二十五件で、前年より百二十件減少している。ところが、マラッカ海峡では二〇〇一年十一件、〇二年十六件、〇三年二十八件、昨年は三十七件と増加傾向にある。
■南米などはこそ泥型多く
東南アジア海域は全体の三割以上を占め「世界最悪の被害海域」(日本船主協会)だ。竹田氏は「昨年はイラク戦争でインド洋やペルシャ湾に軍艦が増え、海賊活動ができなくなった影響で、全体の件数は減少した。その分、手薄になったマラッカ海峡がターゲットになった」と話す。
マラッカ海峡の海賊は手口の残虐性も際だっているという。昨年は三十六人が拉致され四人が死亡している。日本船主協会の広報担当者は「南米やアフリカの海賊は停泊している船の錨(いかり)などをよじ登り、船に忍び込み物品を盗んでいく“こそ泥型”が多い。これに対し、マラッカ海峡の海賊は航行中の船に高速艇で追いつき、かぎ爪(つめ)ロープを引っかけて甲板に乗り込む。ロケット砲や機関銃など重火器を所持し、船長や機関長を誘拐。身代金を要求する例が多い」と解説する。
一九九九年十月、マラッカ海峡で起きたパナマ船籍のアロンドラ・レインボー号事件は衝撃的だった。銃や刀で武装した十数人のインドネシア人海賊が日本人船長ら十七人を六日間監禁、アンダマン海でいかだに乗せ、わずかの水と食糧で十日間も漂流させている。昨年五月シンガポール船籍の貨物船が襲撃され、四人の海賊はマシンガンと手榴(りゅう)弾で武装し、船長、機関長の身代金を要求した。
竹田氏は武装に関し「九〇年代前半は青竜刀などナイフ類だった。九七年のアジア通貨危機やインドネシアのスハルト政権崩壊以降にピストルなどの“飛び道具”が登場。同時多発テロ後、ロケット砲や手榴弾など重火器化が進んだ」。
手口も巧妙化し「タグボートや漁船に偽装して近づく。船に侵入後、まず通信機器類を破壊する」(広報担当者)。竹田氏は「船主など船舶の所有形態を分析し、身代金額を算出するために船舶書類を奪う。今回の事件でも、金を持っていそうな日本船を狙い書類を盗んでいった」と言う。
マラッカ海峡で海賊が多い理由について「環境と地形」を指摘するのは、日本財団の山田吉彦・海洋グループ長だ。「狭い海峡に小島が点在、隠れ家となる入り江が多い。マラッカ海峡は植民地時代から、現地の人たちによる海賊が多かった。もともと海の民だったが、最近では国際シンジケートが船の積み荷を奪うようなケースが多発している」
軍事ジャーナリストの神浦元彰氏は「最近は積み荷や金を奪うというより、マフィアや反政府組織と結びつき、身代金を狙う誘拐ビジネス的なものに変わってきた」と指摘する。
そのマラッカ海峡の海賊の正体について、竹田氏は(1)スマトラ島の独立派武装組織・自由アチェ運動(GAM)(2)周辺国の軍・治安関係者(3)テロリスト(4)漁民−の可能性を挙げて「重武装の装備からGAMか軍関係者だろう」と言う。
一方、山田氏はマラッカ海峡の沿岸国を中心に各国が海賊対策で連携し始めたのは「アロンドラ・レインボー号事件があってから」と言い「インドや東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国が、海上警備機関を連携させて治安維持に当たるようになった」と続けた。
だが、「沿岸各国には日本の海保のような組織がなかった。軍では部隊も武器も大きすぎ、小さいエリアでの警備ができなかった」(神浦氏)。九八年、フィリピンは沿岸警備隊を創設した。マレーシアは今月中にも「海上法令執行庁」を設立、インドネシアも「海上治安調整機構」の設立準備を始めている。沿岸国の協力態勢を示すため、マレーシア、インドネシア、シンガポールは昨年七月から連携パトロールを始めた。
そして「各国の取り組みの中心にいるのが日本の海上保安庁」と山田氏。神浦氏は「海保がOBを各国に派遣し、海上警備の組織づくりや法整備、訓練に尽力した。これが可能だったのは、日本が東南アジアに軍事的な野心を持っていないから」と指摘する。
米太平洋軍司令官が昨年三月、マラッカ海峡の海賊・テロ対策を目的に地域海洋安全保障機構の創設を提唱したが、マレーシアとインドネシアが猛反発した。
「米国は海賊退治には興味がない。アブサヤフやジェマ・イスラミアといったイスラム原理主義組織で、アルカイダとつながりがあるような連中をやっつけたい。そして、もう一つの狙いがマラッカ海峡の軍事的な支配だ。それに対して警戒感がある」と神浦氏。
そして「十年くらい前には、海保が廃船を東南アジアに輸出していたことがあるが、船に機関銃などを設置できることから『武器輸出三原則に違反する』と騒がれ、それきりになっていた。ところが最近は、海保が持っているような小型警備艇や中古船なら『三原則に抵触しない』という流れになってきている」とも。
山田氏は、こうした海上の治安維持の試みが「功を奏してきており、航行する船側も自主警備を徹底してきている。二十四時間体制で、海賊ウオッチを立てて見張りをしたり、船によっては警報装置を持っていたり、海上警備機関との連絡を密にするなどの対策を取っている」と言いつつ「今回はスキをつかれた形。一部の海賊の凶悪化が進んでいる」と警鐘も。
■職業安定へODA必要
神浦氏は「日本はこの海域へ軍事進出をしないことだ。そう沿岸諸国から感じられるようではいけない」と注文をつけ、「海賊のモグラたたきではだめ。貧困ゆえの海賊が、犯罪組織や反政府組織と結びつくこともある。だから、地域の人たちが安定した漁業をできるような政府開発援助(ODA)をするなどの対策も必要だ」と指摘する。
前出の日本船主協会担当者もこう強調した。
「海賊多発地域は政情が不安定な所ばかり。国内の混乱、国民の貧困が海賊行為の根本にある」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050316/mng_____tokuho__000.shtml