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ソニー首脳交代社外取締役が『力』?
ソニーの経営陣が電撃的に刷新され、同社初の外国人トップが誕生する。出井伸之会長兼グループ最高経営責任者(CEO)は「私が決断した」と話すが、会長自らが企業統治のため導入した社外取締役という「外の力」が刷新劇で働いたとの見方がもっぱらだ。米国では当たり前ともされるが、日本ではまだまだなじみがない。ライブドアのニッポン放送買収同様、「ニッポン企業」が直面する“黒船”のひとつなのか。
■「顔ぶれは100%米国流礼賛者」
「ちょっぴり寂しい気もするが、次世代のページをめくったというさわやかさの方が大きい」。出井会長は七日、経営陣刷新の発表の場でこう話し、ハワード・ストリンガー副会長が初の外国人トップとなることには「グループ社員十五万人のうち、日本人は五万人。ソニーにとって違和感はない」とも強調した。
今回の経営刷新劇で機能したとされるのが、二〇〇三年に、会長自らが導入した米国流の「委員会等設置会社」制度だ。社外取締役が大きな発言力を持ち、ソニーの取締役選任は制度上、社外取締役が半数を占める指名委員会が握る。八人の社外取締役もそうそうたるメンバー=別表=だ。
今回の刷新劇について、密室で決められる“日本的トップ交代”から、新しい時代に入ったとの指摘もあるが、どうなのだろうか。
企業統治にくわしい青山学院大学の八田進二教授(会計監査論)は「中谷巌さん(取締役会議長)を含め、ソニーの社外取締役会の顔ぶれは米国流企業統治の百パーセント礼賛論者だ。他の企業の数年先を行っており、すぐさま同様のことが続くということはないだろう」と前置きしたうえで、委員会等設置会社への移行が「大きなうねりになるのは間違いない」と断言する。
委員会等設置会社を選択できるのは、資本金五億円以上あるいは負債総額二百億円以上の大会社。現在導入しているのは東芝、日立製作所、オリックス、りそなホールディングスなど約百社で、まだ少数派だ。
■問題企業の駆け込み寺に
「先進的な企業とともに、問題企業も設置会社に移行する。透明性を高めた再出発とのメッセージを株主や社会に伝えることができるからだ。駆け込み寺みたいに使われているといえなくもない」(八田教授)。全国社外取締役ネットワークの田村達也代表理事も「経営陣にゴマをすり、社外取締役のポストに座っているだけのケースもあり、すべてうまく機能しているわけではない」と指摘する。
では、本家の米国ではどうか。九〇年代前半、ゼネラル・モーターズ(GM)やIBMなど経営不振に陥った企業が、社外取締役を中心に経営を立て直すケースが相次いだ。
「社長と対等の立場で経営を論じる社外取締役の登場は、経営者を合理的に監視するシステムとして機関投資家、株主に歓迎された」と田村氏は話す。
ただ米国でも、指名委員会が取締役の人事権を完全掌握しているわけではないようだ。日本取締役協会の矢内裕幸専務理事は「米国では、業績が良好な企業の場合、現CEOが提示した後継者の人事原案については、委員会側もそのまま通すことが慣例になっている。逆に業績が悪ければ、後継者案を提案する資格すら失う」と説明する。
米国では、不正経理でエンロンが破たんし、「米国型企業統治一辺倒でいいのかという、厳しい見方や反論が出た」(八田教授)ことで、日本企業が同制度を導入することにブレーキをかけた側面もあるという。
財務省財務総合政策研究所は〇三年、「執行役員制度や社外取締役の導入は、それ自体では企業パフォーマンスを向上させない。米国型をモデルとした改革が提唱されているが、それが日本企業の改革モデルとして普遍的に妥当するわけではない」とする報告書を出している。
研究会のメンバーも務めた京都大学経済研究所の小佐野広教授(企業金融)は「現在、日本の企業の取締役会は二つのタイプがある」と説明する。「トヨタやキヤノンのように米国型を取り入れず、経営内容をよく知っている人と実質的な議論をすることを優先するタイプと、ソニーのように監査機能を優先するタイプだ。今、調子がいいのは日本型ということは結果としてはいえる」
問題点を小佐野教授は次のように整理する。「社外取締役は独立した存在といっても、トップが選んでいるのでなれ合いになる可能性もある。グループ企業では、グループ関係者が入っているところもある。適切な人材は限られている。米国でも九〇年代後半、企業のトップが互いに社外取締役の地位に就くことで、株の持ち合いならぬ『座り合い現象』と呼ばれた」
■後継指名も演出収まりいい決着
さらに、指名委員会が取締役会の人事権を掌握するため、「社外取締役が結託して会社を乗っ取る可能性がある」などという疑念が生じることもある。
「業務の決定権は取締役会が握るというのがこれまでの慣行であり、下部組織である指名委員会にあまりに強い権限をもたせるのは、従来の取締役会のあり方から見れば異質だ。指名委員会の権限を取締役会に戻すなど、制度設計を見直すことが疑念を払しょくし、制度の定着につながる」と矢内氏は提言する。
ソニーの経営陣刷新は、業績が伸び悩み、株価が低迷する中で起こった。米国流なら出井会長は人事案を出す倫理的資格を欠くことになるが、株主の監視活動に詳しい、日本投資環境研究所の上田亮子研究員は「日本的企業風土からいえば、収まりがいい決着だった」と評価する。「現トップが後継者を選ぶという日本の企業文化を残しつつ、指名委員会が最終的に決定することで透明性を確保した。指名委員会が経営陣を解任して、後任を選ぶようなドラスチックな方法は日本にはなじまない」からだ。
■「新しい酒は新しい革袋に」
ソニー流は今後、日本企業に広まっていくのか。
田村氏は「社員や株主、売り上げを大きく海外に依存する企業は、国際的な評価に耐えるために、第三者の視点を取り入れる必要に迫られるだろう」とみる。
八田教授も「仕組みが変わらなければ意識は変わらない。新しい酒は新しい革袋に入れなければ」と提言する。
「意識変革がなされていれば、監査役制度でもいい。しかし商法改正を重ね監査役機能の強化を繰り返しても企業の不祥事は続き、監査機能が働いていないことは明らかだ。日本の監査役制度は孤島の進化しない動物みたいなものだ」
八田教授は続ける。「九〇年代、米国では社外取締役とともに、モノを言う株主が一世を風靡(ふうび)した。監査役制度にしろ、設置会社にしろ、企業統治の仕組みを機能させるうえで、背後にいる株主の声が小さいというのが一番の問題。証券市場が未成熟ということだ」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050309/mng_____tokuho__000.shtml