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2005年4月11日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.318 Monday Edition
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼
■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第318回】
■ 回答者(掲載順):
□真壁昭夫 :信州大学大学院特任教授
□山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
□三ツ谷誠 :三菱証券 IRコンサルティング室長
□菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
□津田栄 :経済評論家
□岡本慎一 :生命保険会社勤務
□金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:604への回答ありがとうございました。スロベニアのリュブリアナ、クロア
チアのザグレブを経由して、今フィレンツェにいます。ローマ法王の死去に伴って、
セリエAの試合は中止になりました。しかし、ローマはまた違うのかも知れませんが、
各メディアでの大きな扱いはともかく、街には大きな変化は見られません。今日は天
気も良く、トスカーナの田舎モンタルチーノに、ワイナリーを持つ画家の別荘を訪ね
ました。春のトスカーナの美しい風景を眺め、やっと『半島を出よ』から心身共に離
れることができそうだと思いました。
スロベニアは非常に印象に残る国でした。滞在も短かったですし、その国のことを
理解するのは簡単ではないし、理解したと思うのは危険ですが、間違いなく「若い国」
だと思いました。旧ユーゴ連邦からの独立は91年ですが、文化的には以前から母国
語にアイデンティティを求め、プライドを持ち、国民的な文学者を生んできました。
「若い国」だと感じたのは、対照的に日本がすでに国家としての成熟を深めていて、
若さを失いつつあるせいかも知れません。国の若さということに関しては、大きな
テーマなので軽々しく触れるのは控えますが、国がダイナミズムを失うというのはど
ういうことか、少しずつ考え始めたところです。
若い国というのは、単純に良い国というわけではないと思います。若いから勢いが
あるとか、可能性があるとか、そういった側面も確かにありますが、貧しく無知で、
洗練されていないというネガティブな要因もあって、一面的な見方はできません。た
だ、成熟した社会というのは基本的に根本的で劇的な変化を嫌うので、システムや考
え方がなかなか変わらず、そのために子どもや若者が現状の受容に合理性を見出し、
ダイナミズムを失ってしまうという危険性があるような気がします。
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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第318回目】
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====質問:村上龍============================================================
Q:605
日本の若年層の失業率は他の年齢層に比べて高いということがよく言われます。こ
れはバブルの後始末の過程から、これまでずっと若年層が犠牲になっているというこ
とでしょうか。
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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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■ 真壁昭夫 :エコノミスト
年代別の失業率を見ると、若年層の失業率は、他の世代のそれと比べて相対的に高
い水準が続いています。今年2月の雇用統計を見ても、男性の全年齢階級の失業率が
5.0%であるのに対し、15歳から24歳まで年齢階級の失業率は10.8%です。
同じように、女性全体の失業率4.3%に対して、同年齢階級のそれが7.2%と、
いずれも、この年齢階級の失業率が最も高くなっています。
こうした現象の背景には、90年代初頭にバブルが崩壊した後、多くの企業が経営
効率の向上を図ったことがあると考えます。企業は経営の効率化を進めて、競争力を
強化するために人件費の削減に努めました。既存の従業員の整理=リストラを実施し、
新卒者採用を減少させました。その意味では、若年層が、バブルの後始末の弊害を受
けているといえるでしょう。
若年層の雇用問題はわが国だけの問題ではなく、世界的にそうした傾向が見られる
ようです。ILO(国際労働機関)が発表した「若年者の世界雇用情勢報告」による
と、2003年の全世界の若年(15歳から24歳)の失業率は、過去最悪の14.
4%に達しました。それに対して多くの研究がなされ、世界的な経済低迷や、学校か
ら就業へのスムーズな移行プロセスの整備が不十分など、各国で様々な要因が挙げら
れているようです。
ここでは、わが国の問題に絞って考えてみます。若年階級の高失業率の原因を、就
業機会を提供する企業側と、その機会を求める需要側とに分けると整理し易いと思い
ます。まず、企業側の事情です。90年代初頭以降、わが国は、基本的に経済の低迷
期が続きました。また、世界経済のグローバル化の進展で、人件費の削減による競争
力の強化は重要な命題になりました。そのため、企業は雇用者数を減らすことを指向
しました。
さらに、安価な労働力を求めて、中国やベトナムなど海外に生産拠点を移転する企
業も増加傾向を辿りました。その結果、国内での雇用機会が減少することになります。
全体の雇用機会が減少する中では、既に企業内にいる中高年層従業員と、新卒の若年
層とは競合関係になるはずです。年功序列や終身雇用制の伝統に残るわが国の企業は、
既存の中高年の雇用をカットするよりも、新卒者の雇用抑制を優先するケースは多
かったと考えられます。
あるいは、金融機関や一部のサービス産業等で、IT化の進展や業務の単純化のた
め、正社員をアルバイトやパートに代替することが可能になったケースがあります。
この場合には、新卒の若年層と、フリーターや家庭の主婦などのカテゴリーが競合す
ることになりました。企業側から見ると、景気の低迷という循環的な要因と、コスト
削減と競争力強化という構造的な要因が結びついて、雇用機会の減少、特に若年層に
対する減少傾向が発生したと考えられます。
次に、雇用機会を求める需要側の要因を考えます。まず、若年層の雇用に対する意
識の変化があると思います。従来のわが国の労働慣行では、終身雇用の観念が強かっ
たといえましょう。ところが、大手金融機関の破綻などによって、若年層の就職に関
する意識が変質して来ていると考えられます。実際、最近の学生と接触すると、一つ
の企業に定年まで在籍するという考え方は少ないようです。それよりも、自分のやり
たいことが見つかるまで、アルバイトやフリーター、さらにはニートと呼ばれる状態
で過ごすことを選ぶ考え方が増えていると感じます。その背景には、企業に就職しな
くても、生活が維持できる環境が与えられていることが考えられます。
また、終身雇用の慣行が崩れると、転職の頻度が上がります。一つの職場を離れて、
次の雇用機会を見つけるまでにタイムラグが発生すると、その分、失業率が上昇する
ことになります。特に、わが国の労働市場は、まだ、転職に対する環境が整備されて
いません。大手企業が中途採用を始めたのは、つい最近のことです。また、転職を斡
旋するエージェントの数は、欧米諸国に比べてかなり少ないでしょう。若年層の転職
タイムラグが長期化すると、必然的に失業率を押し上げることになります。結果的に、
こうした様々な要因が相互に絡み合って、現在の状況を現出していると考えます。
信州大学大学院特任教授:真壁昭夫
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■ 山崎元 :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
直接的な因果関係を考えると、(1)バブル崩壊(後始末も含めて)が企業に雇用
減少への圧力として働いた、(2)雇用を削減・抑制するにあたって若年層を対象に
することの方が容易であった、という大きくは二つの現象が存在したのだと思います。
これを、若年層が「犠牲」になった、と総括するのは疑問ではないかと思います。一
ビジネスパーソンとしての私は、個人的には高齢者層に反感を感じるのですが、それ
でも、論理的には「若年層が犠牲になった」と言い切ることに対して抵抗を感じます。
さて、過剰であったかどうかは人によって意見が異なるとしても、バブル崩壊で、
企業にとっての需要が減少したことは間違いありません。ここで、企業は、コストを
削減する必要性に直面すると共に、供給が過剰になったので、労働力の必要性が低下
しました。企業にとっての経営的な必要性は、明らかに、人員削減(いわゆる「リス
トラ」)でした。
コストの削減をより効率的に行うためには、年功序列的な日本の報酬制度では相対
的に高コストな高年齢社員の削減を行うことが出来れば良かったのかも知れませんが、
(1)解雇や退職勧奨よりも新規採用の抑制の方が直接的なコストが小さく、(2)
社員の士気に対する悪影響といった間接的なコストも小さい、と判断されたのだと思
います。
バブル崩壊後年数が経ってからは、ある程度高齢の社員を対象に自主退職の募集や、
いわゆる肩叩き(時に嫌がらせ)、或いは解雇が出てきたようですが、人数的には圧
倒的に若年社員の採用抑制の方が優勢だったように見えます。
また、労働条件の悪化などもあり、一度就職した若年社員が、自発的に離職してそ
の後求職者となって若年層の失業率上昇に影響したこともあるでしょう。辞める側か
ら見ても、若年者の方が給料が安い分だけ離職に伴う機会費用が小さく、扶養家族の
数からしても生活費に対するニーズが高齢者と較べるとそれほど切実ではないので
(もちろん個々人で事情は異なるはずであり、大まかな状況に関する私の推測です)、
離職しやすいということがあったでしょう(就職していない人の場合は、我慢しやす
かったのでしょう)。
若年者の失業率が高いことは、将来の労働力の仕事に対する習熟度の低下につなが
りますし、ひいては社会的な不安定要因にもつながりかねないという社会的には大き
な問題を含んでいます。
しかし、だからといって、高齢者に対して、若年者に対して職を譲るべきだ、とい
うのは適切でないと思います。
相対的に高齢者を雇っていることは、彼らの賃金が傾向として高いことも含めて、
雇い主側の意思決定です。その要素には、仕事に対する習熟度もあれば、社員の総合
的なモチベーションへの影響といったものもあります。
もともと、純粋に経済的には、同じ能力であれば、その能力を長く使えることと、
勤続を重ねることによる習熟が見込めることから、より若年者に対してより高い賃金
を払うことが合理的だといえる面があります。たとえば、同じ能力の40歳に対して
100の年収をオファーすることが妥当なら、30歳の候補者に対しては120や1
30といったオファーであっても構わないでしょう(200ということも十分あり得
ます)。即ち、相対的に高齢者は、それだけ厳しい条件で競争に参加しているのであ
り、ビジネスパーソンにとって年齢を重ねるということは大変なことなのです(年齢
を重ねて同じ能力なら人材価値は低下します)。
高齢者を雇用し続けるか、若年者を雇用するかは、あくまでも個々の企業の判断に
任せるべきでしょう。制度や規制に関係なく企業の経営上の判断で高齢者が職を得て
いるということなら、若者が「不当に犠牲になっている」と考えることは適切ではな
いでしょう。
ただ、個人的な感想として、企業としては、当面のコストや組織運営のやりやすさ
ばかりを重く判断するのではなく、将来の能力に対する投資の面も含めて、労働力と
しての若年者をもっと高く評価することが得なケースが多いのではないかと思います。
経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
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■ 三ツ谷誠 :三菱証券 IRコンサルティング室長
「英霊 -- 犠牲という語感について 」
今回の設問で違和感があるのは「犠牲」という言葉です。
若年層が犠牲になったという際、若年層は誰の犠牲になり、何を守ったということ
になるのでしょうか。
確かに安定した社会秩序を守ろうという無意識的な動きの中で、企業が若年層の雇
用を抑制し、彼らが社会秩序維持の犠牲になった、という言い方はあるのだと思いま
すが、しかし、私が知る限りにおいて多くの若者はそれでも屈託なく笑い、渋谷や六
本木の街角で、或いは山手線の車輌の中で携帯電話の画面を見つめながら、思い詰め
た様子もなく漂っている気がします。
少なくとも、彼らは社会の犠牲になって靖国に祭られる英霊にはなっていない。そ
して生きていて、何者でもない以上、逆に言えば彼らは何者かになる可能性を失って
はいない。それは決定的に重要なことだと思います。
世代論的に言えば、太平洋戦争時に20歳前後であった世代こそ、私が「犠牲」と
いう語感に最も相応しく感じる世代です。わだつみの声を聴く、という柄ではないで
すが、彼らこそ、逃げ場なく国家という他者に死を強要され、レイテやアッシュやイ
ンパールや、大東亜のあちこちに屍を晒し、全ての可能性を奪われた世代と言えるで
しょう。
勿論、その中には国家という他者に同一化し、潔く虚構のために死んだ人々が含ま
れているでしょう。彼らは自ら最後に信ずるものを守ろうと我が身を捧げたのであっ
て、犠牲という言葉の持つ悲惨さから隔てられた人々として理解すべきかも知れませ
ん。
しかし、少なくとも私には「犠牲」という語感は彼らと共にあり、その言葉は、社
会のために就職の機会を失った程度の若年層に冠せられるものとは思えません。
実際、経済が生きており、社会が常に変化の中にあるものである以上、あらゆる世
代が何かしらの意味で不利益を蒙ったり、利益を蒙ったりするので、その全てを「犠
牲」という美しい言葉で括ることには抵抗を覚えます。
その程度で犠牲者というならば、私たちの少し前の、現在40代半ばの世代は、バ
ブルの頂点に近い処でマンションや戸建て住宅を購入し、数千万単位の損失を蒙った
訳ですし、それはそれで社会の犠牲者だったと言えるでしょう。
団塊世代は、単純に同世代の人数が多かったということで、受験競争をはじめ、あ
らゆる人生の局面で苛烈な競争を強いられた犠牲者だったと言えるでしょう。
しかし、少なくとも、彼らもまた現在の若年層同様、強制的に戦場に刈り出され、
その生命すら他者のために投げ出したのではなく、「生きている」のですから、問題
は、個々の環境への適応能力やそのための努力、或いは、個々の価値観それ自体に帰
せられると感じます。
ここからは趣味の問題ですが、個人的な感覚で言えば、自分を犠牲者だと思う人間
には魅力を感じませんし、マスコミもまた、若年層を甘やかす方向に世論をリードす
るべきでないと考えるものです。
三菱証券 IRコンサルティング室長:三ツ谷誠
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■ 菊地正俊 :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
失業率は2003年1月の5.5%から2005年1月に4.5%まで低下しまし
たが、年齢別の失業率はかなり差があります。15 -19歳の失業率は10%超、2
0歳代の失業率も5%超と、平均以上です。最近の景気回復から恩恵を受けたのはリ
ストラ世代です。中高年の失業率が低下する一方、若年層の失業率は高止まりしてい
ます。日本企業は中高齢層をなかなか解雇し難く、不況期の人件費抑制策として新規
採用抑制策が採られることが多いので、不況期のしわ寄せは若年層に行きやすかった
といえます。
しかし、若年層を取り巻く環境は良くなってきています。主要企業の新卒採用意欲
が高まっており、若年層が仕事を見つける機会が回復してきています。日経の200
6年度採用計画調査一次集計によると、2005年度の大卒採用の伸び率は前年比2
3.6%増と26年ぶりの高さになるといいます。不良債権処理がほぼ完了した銀行
をはじめ、非製造業が全体を押し上げる一方、製造業も少子化や団塊の世代の大量定
年退職を控え、理工系を中心に採用人数を増やす計画です。
転職が珍しくなくなった現在、就職することは一生の就職先を決めることを意味し
なくなりましたが、やはり就職先の決定は人生の重大イベントです。昔のようにエス
タブリッシュされた大企業に就職すれば、定年までハッピーな人生を送れるような時
代ではありません。大手銀行や中央官庁に就職すればいい時代もありましたし、鉄鋼
のように一時は斜陽と思われた時期もあったものの、復活してきた業種もあります。
多くの企業が横並びで成長できた高度経済成長時代と異なり、現在はグローバルな企
業間競争が強まる中、安定的と成長性を高い確実性をもって予想できる大企業はトヨ
タなど一握りの企業でしょう。就職の機会が増えているとはいえ、若者の就職先の選
択は難しくなっています。
最近は、ライブドアの堀江社長のような起業を夢見る若者が増えてきているようで
す。政府の様々な起業促進策にもかかわらず、企業の開業率は廃業率を下回ってきま
したが、六本木ヒルズの社長になることをあこがれた若年層よる起業の増加が期待さ
れます。IPO(新規株式公開)は増加傾向にあります。将来上場が期待できる企業
に投資したいというベンチャーキャピタルや投資ファンドの増加、上場企業を受け入
れる東証マザーズ、ジャスダック、ヘラクレスなど市場間競争、証券会社の引受競争
などが高まっていますから、若年層が起業し上場できる可能性は昔より大きくなって
います。
ハウスウェデングで急成長しているテイクアンドギヴ・ニーズの野尻佳孝社長は大
学卒業後に、当初から起業を夢見て住友海上火災保険に入社し、希望して法人営業部
に配属され、ベンチャー企業の公開支援業務を担当したことが、起業につながったと
いいます。入社後にどんな部署に配属されるか、どんな上司に巡りあうかによっても
人生が左右されます。
成功例とは対照的に、内閣府によると、職探しも進学も職業訓練もしていない若年
無業者(ニート)が全国で約85万人いるといいます。内訳は、将来の就職を希望し
ているのは約43万人、就職を希望していないのが約42万人ということです。政府
は、ニートの増加は人口減少社会で経済の活力を一段と失わせかねないとして、ニー
トの就職支援に本腰を入れるといいます。昔よりチャンスが広がっている就職や起業
をどのように活用するかは、若者の心がけとやる気次第でしょう。
メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊
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■ 津田栄 :経済評論家
日本の若年層の失業率は、バブルとは関係なく、いつのときでも他の年齢層に比べ
て高いので、一概にバブル期の後始末における犠牲だったと言い切れるかは難しいと
ころです。また、若年層の失業率が他の年齢層に比べて高いのは、日本固有のもので
はなく、世界的な傾向であることは、国際労働機関(ILO)で報告されています。
ただ、世界経済が拡大しているなかにあって、先進国ではこの10年で若年層の失
業率が低下しているのですから、やはり、バブルが崩壊して以降、日本の若年層の失
業率の上昇・高止まりは、他の先進国と異なり、特殊要因が働いていたということが
窺えます。また、日本において、この10数年をみると、若年層の失業率の上昇幅は、
5%前後から10%前後と5%ポイントの上昇に対して、他の年齢層が2 -3%前後
から3% -6%前後に上昇したのを見ると、やはり、バブル崩壊以降の調整期間で、
ある面若年層にしわ寄せがいったことも事実であるといえます。
それでは、バブル崩壊以降の若年層の失業率の上昇の要因は、どこにあるか分析し
てみると、(1)企業など労働需要サイド、(2)若年層の若者などの労働供給サイ
ド、(3)社会構造的な問題、という3要因が複合的に作用しているものと思われま
す。
まず、(1)企業サイドでは、扶養家族を抱え、住宅ローンなどを負担する中高年
の従業員は、ある程度我慢しながらも企業についてくる上に、これまで企業が投資し
て教育してきた結果蓄積した経験やスキルを持っていることや、若年層への今後の教
育コストを考えると、これをすぐに他の若年層に取って代えられるものではないと判
断したと思われます。したがって、企業の収益圧迫要因である人件費を抑制するには
若年層の新規雇用を控え、更に新規雇用でも、経験やスキルのある中高年を中途採用
したり、パート、アルバイト、フリーター、あるいは派遣・契約社員に採用して臨時
雇用を選択したことが挙げられます。すなわち、雇用形態の多様化です。当然、その
多様化は、若年層の労働形態ニーズにも合致していたともいえます。
(2)若年層サイドでは、基本的に、就職の機会が少なくなって諦めたことや企業
に対する期待が低下したことも手伝って、時間をかけても自分のあった仕事を探す傾
向を強めていること、その結果、パート、アルバイト、フリーターで働き、ある時点
で仕事をやめてしまうことが挙げられます。つまり、若年層は好きになる職業を見つ
けるまで定職に就かないため、企業が若年層の採用をためらうという見方です。もち
ろん、いやな仕事に我慢して就くことをしないことが問題だという見方に傾きがちで
すが、若者がとことん自分にあった仕事を見つけようとする姿、また見つけた際に定
職に就くという気持ちは持っていることを考えると、むしろまともな考えかもしれま
せん。
(3)社会構造的要因として、まず、終身雇用制という雇用慣行が、薄れたとい
っても、依然残っていることです。もちろん、その後実績主義、成果主義の導入で、
傾向的には終身雇用制は崩れつつあります。また、雇用のミスマッチと言われるよう
に、若年層の希望と採用する側の企業の希望とでは、職種、仕事の内容などで折り合
わないことが見られます。そして、転職を好まない社会的性格も見られました。その
結果、若年層が就職しても、すぐ辞めてしまうと、再就職が難しくなり、失業者にカ
ウントされることになります。その上、パラサイト・シングルと言われるように、働
いていたり年金をもらったりしている親に頼る甘えがどこかにあって、失業しても、
あるいはパートやアルバイト、フリーターで働きながらでも、生活していけるという
社会的な構造も働いているのかもしれません(その究極として就労も就学もしない
ニートを生み出し、失業者にもカウントされない存在が若年層に出てきています)。
こうしたことを考えると、バブルの後始末の過程で、働く場所を提供できなかった
という意味で、若年層に犠牲を強いた面はありますが、それだけではない要因もある
と考えた方が自然であるといえます。そして、今後を考えると、簡単に若年層の失業
率が大きく低下してくることはないと思われます。つまり、経済が良くなり、企業サ
イドの労働需要要因の問題が解決して全体の失業率が低下してきても、他の年齢層と
比較して相対的に高いという状況は変わらないといえます。これは、欧米の他の先進
国でも共通した傾向であって、日本に限ったことではないことです。
ただ、今、日本の労働を見ると、団塊の世代が定年を迎えつつありますので、その
補充として新規雇用に若年層の雇用は増えてくることが予想されます。そして、今、
若年層にも、就職しようと自分のスキルを磨くために教育を積極的に受ける人が多く
出てきています。今後、こうした若年層に雇用の意義などを知る場や、雇用の機会、
教育システムなどを提供することが求められています。そうしたことをしなければ、
若年層の問題だけでなく、今後少子化や経済的格差などの大きな問題に直面して、社
会的に立ち行かなくなることが予想されます。その意味で、若年層の失業問題を放置
しておくことは、経済的・社会的に許されなくなっているといえましょう。
経済評論家:津田栄
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■ 岡本慎一 :生命保険会社勤務
若年失業の要因を考える前に、まずは若年失業の実体を観察してみましょう。日本
の若年(15 -24歳)失業率をOECDのデータ("Employment Outlook" OECD
2004)で確認すると、2003年では10.2%となっています。全年齢階層(15
- 64歳)失業率は5.7%ですから、若年失業率は他の年齢階層よりも高いといえ
ます。
次に国際比較の観点から日本の若年失業率をみてみましょう。例えば2003年に
おけるアメリカの若年失業率は12.4%と日本を大きく上回っています。他にもイ
ギリス11.5%、ドイツ10.6%と日本より高く、イタリアではなんと26.3
%に達します。OECD平均でも若年失業率は13.3%と日本の数値を大きく上回
ります。若年失業率が高いのは日本だけでなく先進国に共通の現象であり、むしろ国
際的には日本の数値は低い方だということができると思います。
日本の若年失業の特徴をあげると、若年失業率がこのところ急激に上昇している点
があげられます。若年失業率は1990年の4.3%から2003年には10.2%
へと5.9%ポイントも上昇しています。この間のOECD平均値は、11.7%か
ら13.3%へと1.6%ポイントしか上昇しておらず、日本の数値が際立ちます。
日本の若年失業率が1990年以降急上昇し欧米水準に近づいているのは、景気停
滞と切っても切れない関係があると思います。OECDは年齢階層別の失業率と景気
(合計の失業率)との関係を調べ、若年層ほど景気との関係が強いことを示していま
す("Employment Outlook" OECD 1996)。
景気後退期に若年失業が増える理由としては、若年労働者は職業経験や技能が相対
的に低い点があげられます。企業は景気が後退すると、苦しい時期を経験豊富な人材
で乗り切ろうとするため、経験や技能が劣る若年者をリストラ対象とする傾向があり
ます。日本でも長引く景気停滞の結果生じた企業のリストラ戦略が、若年失業率を急
激に引き上げたものと推測されます。
こうした景気循環的な要因の他にも注目すべきデータがあります。厚生労働省の
「平成16年版労働経済の分析」に掲げられたアンケート調査によれば、若年者は
「仕事につけない理由」として「希望する種類・内容の仕事がない」ことを最大の理
由としており、高齢者は「求人の年齢と自分の年齢が合わない」ことを主な理由とし
ていることと対照的な結果となっています。この結果は就業に対する意識変化が若年
失業増大に寄与している可能性を示しているとも考えられます。
景気循環的か構造的な要因かは別にしても、経験や技術を身に付けるべき重要な時
期に就業できないと、就業者と失業者との技能格差は更に開くことになり、時間が経
つほど正規労働者として就業することが困難となってきます。若年失業の増大は、言
うまでもなく経済的にも社会的にも大きな損失であり、何らかの対策を考える必要が
あるでしょう。
若年失業の先進国である欧米の例をみると、フランスでは企業に補助金を与えて若
年者雇用を促進したり、ベルギーでは従業員の一定割合を若年者とすることを企業に
義務付けるなど、大陸欧州を中心に様々な工夫が実施されています。しかし先ほど見
た様にこれらの国の若年失業率は日本よりもむしろ高く、目立った効果をあげていな
のが現実です。更に、過剰な雇用対策が国家財政や企業競争力を圧迫しているとの批
判も多くなっており、「決定的な政策がない」というのが先進国共通の悩みとなって
います。
生命保険会社勤務:岡本慎一
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■ 金井伸郎 :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
若年層の就業問題としては、若年層の失業率の上昇とともに、「NEET(ニー
ト)」と呼ばれる若者たちの急増が指摘されます。NEETとは、就職も求職活動も
していない、かつ就学も職業訓練もしていない人のことを指しますが、統計上は失業
者としてカウントされないため、失業率などの従来の雇用統計上では問題として十分
に把握されてきませんでした。また、こうしたNEETの存在自体も、従来は統計上
の誤差の範囲という扱いで捉えてきたのか、若年失業者の問題ほどは真剣に扱われる
ことは少なかったように思われます。しかし最近ではNEETと呼ばれる若者たちの
数は85万人とも言われ、15 -34歳の年齢層における労働力人口約2100万人
に対しても約4%に上ると推計されることから、急速に社会問題としての認識が高
まってきています。ちなみに、同じく15 -34歳の年齢層における完全失業者数は
約145万人、失業率では6.9%となっていますが、これは全年齢層合計における
失業率4.7%を2.2%上回るものとなっています。
こうしてみますと、若年層の就業問題としては、他の年齢層に比べた若年層の失業
率の高さもさることながら、改めてNEETの存在が大きな問題として認識されます。
もちろん若年失業者(就職していないが求職活動はしている)の中にも、形だけの求
職活動を行っているだけで実態的にはNEETと変わらない存在もかなり含まれてい
るものと思われます。いささか乱暴な捉え方をすれば、若年層の就業問題とは、長期
間に亘る経済の低迷による就業機会の不足と同時に、若年層の一部で就業意欲の極端
な低下ないし喪失が見られるということではないでしょうか。
もちろん両者の要因を完全に分離することはできませんが、少なくとも後者の要因
の存在からは、若年層の就業問題において、若年層を単純に「犠牲者」と規定するこ
とは適当ではないと思われます。
このようなNEETの発生について、かなり乱暴なタイプ分けをして名称をつけて
みますと、「ヤンキー型」および「モラトリアム/パラサイト型」とでも表現する類
型に分類できそうです。「ヤンキー型」というのは、反社会的で享楽的な若者達で、
「今が楽しければいい」というタイプでもあり、ある意味いつの時代にも存在する類
型とも言えます。むしろ、現在において社会問題として捉えられているNEETの類
型は、「モラトリアム/パラサイト型」の方でしょう。「モラトリアム」には、いっ
たんは就職したものの早々に退職し自信を喪失したようなケースも含まれます。
いずれにせよ、このようなNEETの存在は、こうしたNEETを寄生させる経済
的体力を持った親の存在に依存しています。こうした親が属する世代が、就業あるい
は年金といった形で既得権益を維持しているとすれば、ある意味でNEETはその犠
牲者であり、かつその恩恵を受ける存在でもあります。労働力調査の結果でも興味深
いのが、「その他の家族(世帯主およびその配偶者以外の家族)」の完全失業者数の
推移であり、これを見ますと1990年の55万人から2004年では147万人ま
で大幅に増加しています。もちろん、こうした「その他の家族」の完全失業者の増加
は、自発的失業者である「モラトリアム/パラサイト型」NEETの増加を直接示す
ものではありませんが、その増加とは表裏をなすものと考えてよさそうです。
ところで、こうしたバブル経済の調整過程の影響としては、若年層の就業問題だけ
ではなく、社会全般の階層格差の拡大などの問題として現れてきていることにも注目
する必要があります。例えば、「家計の金融資産に関する世論調査」でも「貯蓄を保
有していない」との回答が2割を超えたとの形で保有金融資産における格差拡大が指
摘されています。実は、この2割という数字は若干事実を過小に表現しており、実際
には「保有していない」を含め調査に対して何らかの金額を回答している総数に対し
て計算すると約27%となります。さらに200万円未満の世帯を含めると回答数に
対して約38%と4割に近い数となることが判ります。
この貯蓄200万円未満の世帯については、全く収入が途絶えた状況では生活を維
持できる期間が6ヶ月間に満たない層とも位置付けられます。現在の失業者の増加が、
親の所得に依存できる若年層の失業やNEETの形で吸収されている状況から、これ
らの層に波及した(既に現実なのかもしれませんが)場合の社会への影響の大きさが
懸念されます。これが、いまだに多くの個人や世帯が自らを「中流」と規定する日本
の社会の現実でもあります。
もちろん、こうした社会全般の階層格差の拡大などの問題と比較して若年層の就業
問題が重要ではない、と主張するつもりではありません。むしろ、誤解を恐れずに言
えば、個人的には若年層の就業問題がより重要という立場であり、ここでは問題の性
質が違うと言う点を指摘したいだけです。実際に、若年層の就業率の低下は、こうし
た若年層にとって将来の職業形成に必要な機会の喪失を意味し、将来への長期的な影
響が懸念される問題と捉えられています。
ところで、日本は「いまだに多くの個人や世帯が自らを『中流』と規定する社会」と
は書きましたが、現実に所得や資産の面で「中流」と位置付けられる層は実はかなり
少数派となっているものと思います。その中で、こうした中流層と若年失業者やNEET
の発生がどの程度結びついているかには強い関心があります。本来、中流階級とは自
らの不断の努力によってしか地位を保てない存在と位置付けられます。自らの生活基
盤を自らが築き上げた職業上の地位や能力に依存し、子息にも継ぐべきものを持たな
い、いわば「貧乏父さん」がその典型的な存在でしょう。しかし、それだけに中流階
級は、社会の健全な保守層を形成し、子息の教育に時間と金を費やし社会に有益な人
材を供給する「社会の背骨」としての存在だったはずです。現在の若年層の就業問題
は、そうした「社会の背骨」が揺らぎつつある危機なのではないでしょうか。本当に
弱っているのは若年達ではなく、その親の世代のような気がします。
外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎
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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■
Q:605への回答ありがとうございました。もうすぐイタリアを離れ、パリ経由
で帰国します。フィレンツェは、春の観光シーズンが始まっていて、ユーロ高の影響
もあり、非常に物価が高いという印象を持ちました。
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Q:604
この4月からペイオフが解禁されました。今後、どのような影響が考えられるので
しょうか。
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村上龍
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