現在地 HOME > 国家破産39 > 105.html ★阿修羅♪ |
|
機関投資家の見るマーケット
2005年2月3週
〜「京都議定書」の意義と世界の枠組みの変化〜
http://www.gcams.co.jp/stock/mkt/0502_3.htm
地球温暖化防止「京都議定書」が2005年2月16日から発効した。京都議定書は、1997年に京都にて開催された「気候変動枠組み条約第3回締約国際会議」で、先進各国が主体となり地球温暖化防止に取り組もうとする国際ルールが採択されたことに由来し、126の国・地域が批准している。
発効条件は(A)55カ国以上の批准があり、(B)批准先進国の90年時点の温室効果ガス排出量が先進国全体の55%以上等の条件を満たす必要があったが、温室効果ガス排出大国の(1)ロシアと(2)米国がこれまで批准に反対の姿勢だったため、97年の採択から2005年の発効まで8年もの時間を要した。発効となるきっかけは2004年11月にロシア上下両院が同法案を可決したことで条件が揃ったことによる。なお現在も、単独覇権主義の米ブッシュ政権のみ、議会批准を拒否し続けている。日本と米国を比べると、米国は原油の1人当たり消費量は日本の2倍以上と高い。米国の生活と産業の基本構造が、資源・エネルギーの多消費であり、温室効果ガスの排出も必然的に多い。この構造の修正は10年のスパンでは不可能で、既存設備・システムの存在に、その転換には30年はかかると言われる。そのため、米ブッシュ政権は、国民に窮屈な生活を強要することは約束せず、京都議定書の批准は拒否し、代わりに不足するエネルギー、特に原油の確保にイラクを攻撃した。米国にとって京都議定書の批准は、国民に対する生活レベル低下を強制するものでしかない。そして、イラクを押さえなければ、米国はたった3年後の2008年には自国の原油生産が枯渇してしまい、エネルギーのほぼ100%輸入国となり、OPECに対する屈辱的な朝貢外交が必要な国家に転落する。こうした事情が、世界に優しかったモンロー主義を過去のものとして葬り、軍隊を前に出した干渉主義で押し通すという「破滅への道」を歩んでいる。
京都議定書では、温室効果ガス排出量について(イ)90年水準に対し、2008年−12年(第一約束期間)の間にEUが8%、日本が6%の排出量削減を義務付けており、(ロ)国内での排出削減が難しいのなら国同士や企業間による「排出量取引」で購入した温室効果ガス量も自国の削減とみなすとしており、地球規模での取り組みとされ、また排出削減すれば経済的価値が生み出され、削減できないのなら経済的な負担を強いられる形となっている。
ところで、日本の6%削減は、実際には14%削減する必要がある。これは、温室効果ガス排出量が2003年では90年比で8%程度増加しているためだ。EUも日本もその目標達成には困難が伴っている。しかし、企業の努力による排出削減が、経済的価値を高めることにつながるため、制度が産業界全体に広がることも考えられる。大きなものや巨大技術に感動する米国人とは違う価値観を持つ日本人は、大きな車、電気や水の大量使用をしている人を見れば、「こいつバカか?」と思ってしまう。欧米人には雑音として聞こえる虫の音も、音楽に似たものと聴くのは日本人の特性だろう。優しい感性と価値観を持ち合わせている。
そうした感性や価値観が生んだ例に「青色発光ダイオード」があげられる。エネルギーが光に変わる効率が非常によく、電球に比べ余分な熱を出さず、同じ光量で必要な電力は10分の1で済む。これからの日本人技術者と日本企業による温室効果ガス排出量削減努力は、こうした発明を次々と生むことになる。まずは二酸化炭素(CO2)の削減に、自動車はもっともっと省エネになる。
削減にあまりにコストがかかるような場合の代替手段として、排出権取引の考え方が用意されている。欧州では排出権を法で明確に定義し、排出権取引が始まっているが、日本ではそうした仕組み作りが行なわれておらず、法律関連の整備を含めた取引環境の早期整備が必要と叫ばれている。確かに、一方で「排出権取引」を整備する必要はあるだろうが、京都議定書のもともとの趣旨を理解しないで排出権を買えばいいという発想が強くなりすぎると、温室効果ガスの排出量を減らすという当初の目的とはかけ離れてしまう。やはり、日本と日本企業は技術面で世界に貢献することになるだろう。
さて、冷戦後の現在は、経済の枠組みが大きく変わっていることを認識しておく必要がある。効率化のためのIT技術もバイオも、OECD先進国の10億人の世界を見た「小さい部分」にすぎない。2003年−2004年は、広大な中国のごく一部の都市で建設ブームが起こっただけで(1)鉄鋼が2倍以上に値上がり(2)輸送用のコンテナ料金は高騰し(3)原油先物価格は3倍になり(4)希少金属は2倍−3倍の価格となった。現在の中国一国をもってしても、世界の資源を飲み込むブラックホールと呼べるほどだ。加えて、今後10年では、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)約30億人が近代化される。30億人の近代化のインフラ投資(設備・道路・住宅)では、大量に資源・エネルギーが使われる。例えば、中国・インドの経済が発展するなら、両国の23億人が自転車やバイクから「自動車」を使うようになる。現在、平均的大衆は10畳に5人−10人に住むが、その家も大きくなり、広くなった1名あたり居住面積の家で「電力・ガス」を大量に使うことになる。
大雑把に計算しても、先進国10億人にBRICsの約30億人が加わると、これまでの4倍(40億人)で資源を使い、地球を汚すことになる。当然、資源・エネルギーの価格は4倍以上になり、環境問題は深刻化し、温室効果ガスの代表のCO2を原因とする異常気象は激しくなるはずだ。経済の枠組みが変化してしまったこれからは、(A)10億人の世界に(B)30億人が近代化に向かう世界が加わることで(1)根底の産業イデオロギー、技術、方法を変化させねばならず、(2)価値観を変えなければならない。ところが、西欧も米国も、自然の価値を人工で否定することから始めた科学的分析的知性によって行き詰まってしまっている。日本人は、古人の知惠で、自然と生活を融和させ、調和させることができる。つまり、次の局面を切り開けるのは、日本人の知性だけだろう。いまさらながら、アインシュタインが「世界の一神教と分析的知性の行き詰まり及び闘争を救うのは、自然を神とみる多神教の日本人だけだ」と言ったのが思い出される。
株式市場に5年スパンで投資するなら、金や希少資源、原油等のエネルギー関係が最も有望と考えられる。これは変化してしまった経済の枠組みから考えると、値上がりが「必然」だからだ。これからの世界では、省エネ技術や地球環境を守る技術、代替エネルギー技術が、(1)資源・エネルギーの高騰と(2)地球環境の破壊を救うことになる。となると、このブッシュ政権が拒否した「京都議定書」は、これからの世界の価値観を担って行く「バイブル」となる可能性がある。
こうした考え方は、米国の単独覇権主義、あるいは干渉主義を展開する中にあっても、世界経済がなんら問題なく発展した場合の見通しだ。では、批准拒否の大国・米国に何らかの問題が起こった場合の見通しはどうなのか?
すでにFRBは政策金利を6回引き上げている。しかし、米長期金利は低位で安定した動きとなっており、引き締め前の4.5%前後に比べてもむしろ下がっている。そのため引き締め効果が無いからと7回、8回と引き上げても効果が無いとは言えない水準でもある。グリーンスパンFRB議長は16日に上院銀行住宅都市委員会での証言で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は実質金利で見てかなり低いと語り、0.25%刻みの小幅な利上げを継続する方針を表明している。今後は、3月と5月に最低でも0.25%づつ利上げすると予想される。そうなるとFF金利は5月には3%以上になる見込みだ。どこかで「長期債」にも金利引き上げ効果が反映されると見るべきだろう。米国では不動産の値上がり分を担保にして銀行から資金を借り増すことが出来るホームエクイティ・ローンを利用して耐久財消費や株式投資を行ってきた経緯がある。金利上昇を契機とした最悪シナリオを描くなら、FRBの金利引き上げ効果が顕著となり、住宅価格の下落が本格化すると担保不動産の下落が一気に家計の資産を破壊し、個人破産は急増し、金融機関は不良債権を激増させることになる。なお、他の金利の上昇要因として、貿易赤字(5000億ドル)と財政赤字(6000億ドル)の1兆1000億ドル(約115兆円)の双子の赤字もあげられる。ドルとドル債券が信用を失えば、やはり金利は急騰する。最悪シナリオでは、米GDPの6割を占める個人消費は冷え込み、米国株は大幅な下落を演じる。米国経済の変調は世界中に瞬時に伝播する。
現在の中国経済は、外資による投資で中国国内に生産拠点が生まれ、それにより内需が刺激され、外資の生産拠点から上がった利益が中国国内に還流するという好循環に好景気が続いている。この構造は米国や日本など、外資による巨大資本の流入があってこそ成り立つもの。米国の変調は、この流れを一気に冷やしてしまうことになる。世界の投機資金も、「利」を上げられるところに向かい、他に先駆けて膨らみグローバル化する性質をもつ。それらは経済成長が5%以上のところに向かうことから、やはり中国に向かった。その引き上げも起こる。米国の変調はマネーの移動を伴い、中国のバブルを終わらせることになる。
そうなると、世界中で「地球破壊」を加速する資源・エネルギーの大量使用も一時的に大きく減るかもしれない。しかし、世界経済は深刻な影響を受け、不況によるデフレは深刻化する。そしてその後は、世界的に散布された膨大なドル紙幣・米国債の価値の喪失に、激しいインフレが襲ってくるはずだ。膨らんだ金融経済は激しく縮小するが、実物経済に合致する過程では激しいインフレが起こらざるをえない。その際、実物資産にあって経済的に中心的価値をもつのが、やはり金や希少資源、原油等と考えられる。世界の今後が「幸運」であっても「不幸」であっても、投資においてこの分野は外すことの出来ないセクターとなりそうだ。
(F.H.)
http://www.gcams.co.jp/stock/mkt/0502_3.htm