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原油高騰の“真相”
消費国の依存度低下
原油価格の高騰が再び始まっている。昨年九月に一バレル(百五十九リットル)=五〇ドル台に乗せて、年末に低下した後、反転。このところは六〇ドルに迫る勢いだ。市場での値動きは、原油が市況商品としての性格を強めていることによるが、高騰の背後に、投機筋が行う「ゲーム」がある。石油ショックの再来はあるのか、防止の手だては−。
ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)の原油先物は四日、一時一バレル=五八・二八ドルをつけ、一九八三年の取引開始以来の最高値を更新した。
「驚きはしなかった。というのも、最近は相場の変動が激しすぎるから」と語るのは大手商社・三菱商事の担当者だ。「二、三年前までは一日一ドル動けば大変だった。ところが、いまは二、三ドル動くのが当然になってしまった」
なぜ、原油価格が高騰しているのか。需要と供給の関係からは説明できない、と専門家たちは口をそろえる。要は、原油の価格が市場に左右されているのだ。それも投機筋の資金に。
財団法人・国際開発センターの畑中美樹(よしき)主任研究員は、そのからくりを三段跳びで説明する。
「ホップの段階に当たるのは、中国やインドでの石油需要の伸びに生産、運搬能力が追いつかないこと。それでも、需給だけでみれば、まだ供給が大きい」
ステップとなるのは、原油生産をめぐる世界環境の不安定さだ。イラクでの生産増が抵抗勢力の攻撃で思うに任せず、イランには核開発問題でいつ経済制裁が発動されるか分からない。ロシアは数年前まで、米資本との共同開発計画を描いていたが、自己管理の傾向を強めている。中国も長期安定供給のため、油田権益を買いあさっている。
「その結果、心理的な逼迫(ひっぱく)感が働き、投機筋が便乗して、空前の高値傾向を招いた」−ジャンプだ。
昨年九月、原油価格は五〇ドルの大台を突破。当時と今回に違いはあるのか。
畑中氏は「当時は冬の需要期の一時的な現象という見方もあったが、今回はこれが恒常的な現象という見方が強い」と話す。
また、湾岸地域滞在経験の長い日本の石油関係者は「米ブッシュ政権が価格抑制に動かないことも高値安定の一因」と指摘する。
「ブッシュ一族やチェイニー副大統領らは米系国際石油資本と深く関係している。高騰は開発する側のこうした資本に有利だ。加えて、アラブ首長国連邦(UAE)が米国製F16戦闘機を八十機調達したように、オイルマネーの一部が米国の軍産複合体に流れる仕組みになっている」
石油輸出国機構(OPEC)は先月中旬の総会で、最大日量百万バレルの増産を決めたが、市場には焼け石に水だった。増産といっても「九〇年代半ばまでは、六百万バレルから八百万バレルの余力があったが、いまは二百万バレル程度」(畑中氏)で、底を見透かされている。
■「景気直撃薄い」OPECの読み
ガソリンなど石油製品の供給を大幅に増やすには、油田開発やタンカー建造、製油施設の増設が必要だが「こうした作業には三年から五年はかかる。結局、この間は原油価格は高止まりするだろう」(畑中氏)という見方がもっぱらだ。
では、サウジアラビアに代表される産油国側はこの高値傾向をどうみているのか。「OPECの姿勢は高値容認に映る」と語るのは三菱商事の担当者だ。
「かつてはプライスバンド(価格帯)があり、その枠内での推移を望んだ。あまり原油が上がると、消費国の景気が冷え、価格急落につながりかねなかったからだ。しかし、現在はこの高騰が景気を直撃する心配は薄いと読んでおり、それが容認につながっている」
ただ、前出の石油関係者は異論を挟む。「石油省レベルではそうかもしれないが、湾岸の王族たちの不安は深い。彼らのモットーは細く長く。いまの市場の急騰はこれに反するからだ」
いずれにせよ、第四次中東戦争の最中に「石油戦略」を発動した七〇年代と違い、OPECが市場を支配する力は弱まっている。一つには、ロシアなど非OPEC産油国による市場シェアの拡大がある。
■米湾岸王族を封じ込め
OPECは「価格が下がりすぎた際に、減産で支えることはあっても、高値に対して、増産ではもはや対抗できない」(三菱商事担当者)のが実情だ。そして高騰が容認されるのは「米国が湾岸の王族を政治的にも封じ込めた」(石油関係者)のが大きな原因だ。
しかし、この原油価格の高止まり傾向の中、七〇年代に二度、消費国を襲った石油ショックの事態には至っていない。なぜか。
石油天然ガス・金属鉱物資源機構の石井彰首席研究員は要因を三つ挙げる。一点目は、過去の石油ショックに比べた場合の価格の低さだ。「第二次石油ショックの最高価格は、現在で言えば一バレル=八〇−九〇ドルに相当する。今回はまだまだ低い。さらに欧州や日本については、ドルが安くなっていることで影響が緩和されている」
二点目は、経済に占める石油の比重が、石油ショック時に比べて下がっていることだ。「量という点では、一次エネルギー内でのシェアが下がっている。質の面でも、かつては『産業の血液』といわれていたが、今は交通需要、つまり自動車用が大半だ。通勤通学とかに使っている個人の懐は痛むが、産業へのダメージは減っている。産業構造も重厚長大からソフト産業に移行している」
三点目は、今の時点では需給が逼迫していないという点だ。「米国ではガソリンの精製が追いつかず、ガソリン価格が上がっているという側面はあるが、石油そのものの需給は七〇年代とは違って、逼迫していない。今は価格だけが上がっているおかしな状況にある。それは投機筋の存在があるためだ」
石井氏は、原油をめぐって投機筋が動きだす前段には、米国における天然ガス価格の上昇があったと指摘する。一昨年、米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン議長は、天然ガス価格の高騰が国内企業に及ぼす悪影響を懸念する発言をしている。
「米国では天然ガスの方が産業にはずっと重要だ。環境問題の側面からも、また発電所をつくるにしても天然ガスの方が反対が少ないから。産業用の需要は増えたのに、供給が追いつかず価格が上がった。すぐに輸入できるというものではなく、供給増には五年ほどの時間がかかる。石油にスイッチするのではないかとの憶測が投機の引き金になった側面がある」
さて、高止まりが続くなら、日本が警戒すべきことは何か。東京三菱銀行調査室の山本忠司調査役は、懸念されるのは中国、米国への影響が間接的に波及することだと指摘する。
「米国について怖いのは、米国の株式が原油高の影響で下落した場合、日本の株に過度に影響を与えること。一気にマインドが悪くなる。また、資源をがぶ飲みしている中国の経済が減速すれば、鉄鋼などの素材や機械を輸出している国内産業にとって厳しくなる」
そして提言する。
「中国のエネルギー効率は日本の十分の一程度。中国の効率を上げるような技術の輸出が、国内産業にもうまく商売になる形でできればいいと思う。急に協調は組めないだろうが」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050409/mng_____tokuho__000.shtml