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2005年4月16日発行
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JMM [Japan Mail Media] No.318 Saturday Edition
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http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼
■ 『from 911/USAレポート』 第194回
「春の日の停滞」
■ 冷泉彰彦 :作家(米国ニュージャージー州在住)
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■ 『from 911/USAレポート』 第194回
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「春の日の停滞」
ローマ法王の「喪中気分」がどこかへ行ってしまうと同時に、アメリカ東北部に春が
やってきました。今年の冬が長く寒かったせいもあって、人々の表情にはことのほか
解放感があります。もっと言えば、気分がすっかりゆるんでしまっている、と言う感
じです。毎日のニュースでも、CNNやFOXなどは、ボルトン国務次官の国連大使
指名問題なども報道していますが、一般の地上波TVである3大ネットワークは、今
週のニュースといえば、「マイケル・ジャクソン裁判」や「デラウェア川でのクジラ
の出没」などがメインという状況です。
この「クジラ」ですが、ワシントンの東部、デラウェア州からペンシルベニア州、
ニュージャージー州と北上してゆくデラウェア川を、珍しく白いクジラが北上してい
るというものです。私の地元のローカル局よりも、例えばNBCの全国キー局が追い
かけて毎日「クジラがまた出現しました。今度は昨日より○マイル北です」などと報
道しており、まるで数年前の日本の「タマちゃん騒動」に似たようなムードです。
そんな雰囲気ですから、中国で起きた「反日デモ」の事件も、あまり真剣に報道され
てはいません。CNNやNYタイムスなどは、「日本の右傾化」や「靖国問題」など
の解説をつけて報道していますが、新鮮味はまるでありません。まして、3大ネット
での扱いは本当に限られていました。そんな中で、お笑い専門のケーブル局「コメ
ディチャンネル」では、12日にジョン・スチュアートとロブ・コードリーという名
物コメディアンが、中国の反日デモを「シャレ」にした漫談をやっていました。
番組の中では、日系の「しゃぶしゃぶレストラン」の入り口に跳び蹴りをする中国人
や、「こんなことやって良いのかしら」というような表情をしながら面白そうに日本
大使館に投石をする女性、などの映像が何度も映し出され、それにイラク・シーア派
の反英米デモでブレア首相の人形がさらし者になっている映像、そしてイラクの子供
たちの空手でのイスラエル国旗破りが続くという趣向でした。
お笑い番組ですから、全く軽い調子で三つの「クレージーな人々のシーン」を並べて
視聴者を笑わせ、「世界には訳の分からない連中がいるもんですね」というほとんど
無内容なコメントを付けていました。この人たちのお気に入りは「しゃぶしゃぶレス
トランでの跳び蹴り」で、アメリカでもヒットした武侠映画『グリーン・ディスティ
ニー』(『臥虎藏龍』、アメリカでのタイトルは『クローチング・タイガー&ヒドゥ
ン・ドラゴン』)にひっかけて「今でもクローチング・タイガーが本当にいるんです
ねえ」といって笑わせるというような、本当に低級な芸でした。
編集の中では日の丸を焼くシーンなどもあり、明らかに反日デモということは分かる
人には分かるはずですが、日本に関する言及はなくて、ただ「中国の若者がクレー
ジー」という扱いに過ぎませんでした。そして、それをイラクの反英米のデモ、反イ
スラエルのデモと並べることで、漠然とした「外国には変なやつがいる」というだけ
のまとめ方だったのです。
ただ私には、単なるお笑い番組であるにしても「日本、英国、イスラエル」は「自分
たちの味方」中国のデモ学生、シーア派のデモ隊、イラクの空手少年」は「世界のど
こかの変な人達」という雰囲気は明らかでした。それをアメリカの娯楽番組までが日
本を「友人」として見てくれている、と感じて安心する人もあるかもしれませんが、
私にはコーナーの全体に流れる「異人種蔑視」の雰囲気が鼻につきました。
ただ逆を言えば、アメリカ人には比較的なじみのある「中国のカンフー」と、ここ数
年「文明の衝突」的な状況にあるイラクなどのアラブ系の「反米、反イスラエル」の
デモ隊が同列に扱われている、ということはアラブ系への抵抗感が低下しているとい
う風に見ることもできます。そうは言っても、不まじめな番組であったことには変わ
りませんが。
中途半端なイラク情勢を放り出したまま、とにかく「つかの間の春の日の平和」を楽
しんでいる、今週のアメリカにはそんなムードがあるのです。イラクでの爆弾攻撃事
件なども、報道されることはされるのですが、完全に日常茶飯事になっていますし、
シーア派とクルド人が主流派を占めるに至ったイラク新政権の前途を占うような報道
は極めて少ないのです。
そんなわけですから、町の話題はもっぱらシーズンが開幕したばかりの野球です。例
えば、14日の木曜日一日だけでも、様々なニュースがありました。一般のニュース
でも紹介されたのは、モントリオールを捨てて首都ワシントンに移転したエキスポズ
が、その名も「ナショナルズ」として行った最初の本拠地試合のニュースでしょう。
始球式にはブッシュ大統領が駆けつけました。「オレは一日中決断に悩んでいたんだ。
速球にしようか、スライダーにしようかってね」と言って報道陣を笑わせたブッシュ
の球は、結局は山なりの高目の球でしたが、意気上がるナショナルズは主催試合の緒
戦をものにしています。
この日までは、まだ肌寒いボストンで、因縁のヤンキース戦による本拠地開幕3連戦
が行われていました。永遠のライバル関係にあるこの両チームですが、今年はこの8
0年間で初めてヤンキースが、昨年の覇者レッドソックスを追う立場、ということで、
雑音も含めて話題を呼んでいます。
例えば元ヤンキースで完全試合を達成したこともある左腕のデビット・ウェルズ投手
が、サンディエゴ在籍を経て、今年はボストンに移籍したのですが、その背番号が
「3」ということで波紋を呼んでいます。この「3」というのはヤンキース時代に
ベーブ・ルースが付けていた番号(勿論、永久欠番です)です。そこで、ルースをヤ
ンキースがレッドソックスから金銭トレードで奪って行った歴史に対する「イヤミ」
の意味で付けてるのではないか、ヤンキース・ファンはそんな思いを込めて、ヤン
キースタジアムでの開幕戦では、ウェルズ投手に思いきりブーイングを浴びせていま
した。
今週は、今度はボストンに舞台を移しての「対決」だったのですが、14日のゲーム
でも、審判の判定を不服としてボストンのフランコーナ監督が退場処分、また観客が
ヤンキースのシェフィールド外野手と接触してあわや乱闘騒ぎとなったり、同じく観
客が試合終了直後に「ホームベースへのスライディング」をしようと球場に乱入して
逮捕されたり、と荒れ模様でした。
荒れ模様といえば、メッツは、開幕4連敗で早速新任のランドルフ監督の更迭論が吹
き出したと思うと、その後ペドロ・マルチティネス投手や石井一久投手の活躍で5勝
5敗の五分に戻したり、何とも忙しい(といいますかメッツらしい)野球をしていま
す。そんなわけで、今シーズンも大リーグは様々なドラマがありそうで、ファンとし
ては期待が大きいのですが、その野球にしてもどこか「タガの外れた、シャキッとし
ない」雰囲気が続いています。
ところで、本来でしたら今週のニュースの中でも大きな扱いになっておかしくない、
ボルトン国務次官の国連大使転出の承認問題ですが、実際のところは白熱した議論に
なっているようです。勿論、政党間の極めて政治的な駆け引きに過ぎないといえば過
ぎないのですが、国連の影響力を減らそうと主張している人物をアメリカが国連大使
として送るわけにはいかない、という民主党側はいつになく力が入っています。
承認を行う上院の外交委員会は、定数が18で、現在は共和党が10、民主党が8と
いう力関係になっています。民主党筋では、バーバラ・ボクサー上院議員(民主、カ
リフォルニア)などが「民主の8は否認に回っている。共和党から1人でも造反があ
れば、9対9で承認は否決される」として意気が上がっています。
今回の審議の中で、特に問題視されているのは、「38階建ての国連本部ビルの10
階ぐらいが吹っ飛んでも何も変わらないだろう」というボルトン次官の1994年の
発言です。要するに、国連の組織にはムダな費用やムダな人材がいる、とでも言わん
ばかりの嫌みに他なりません。とにかく、そんな国連の悪口を言い続けてきた人物を
国連に、というのですから、民主党側としては「他はともかく、ボルトン問題だけは
譲らない」という考えのようです。
18日の月曜日から再開する審議はどんな展開になるかは、分かりません。今週水面
下の駆け引きが行われているのは間違いないのですが、その方向性は見えてはいませ
ん。ですが、この間、春の日ののん気なムードに浮かれている間に、時代が少しずつ
動いているようです。それもある大きな変化の時代へとです。
今年は2005年で、第二次大戦の終結60周年に当たります。ですから、1945
の大きな戦闘や事件の記念日がやってくると、それは自動的に事件の60周年という
ことになるのです。例えば、昨年のノルマンディー作戦(Dデー)の60周年は盛大
でした。東京大空襲の60周年(3月10日)はアメリカでは大きく取り上げられま
せんでしたが、硫黄島戦闘60周年(2月から3月)は様々な行事があったことも
あって、メディアには取り上げられていました。
ですが、この60周年を契機に、こうした第二次大戦の歴史は遠い彼方へと去りつつ
ある、どうやらそのことは直視しなくてはいけないようです。今回の一連の「国連改
革」の動きについても、このことが関係しています。
日本政府の発想は「第二次大戦が最終戦争ということでは、いつまでも日本は枢軸国
の汚名が消えない」ということから、「国連=第二次大戦の連合国の延長」という色
彩が薄まることを期待しているようです。安保理常任理事国入りが「悲願」のように
思われているのは、このことの裏返しといって良いでしょう。
ところが、アメリカの立場は違います。例えばボルトン次官などに代表される、アメ
リカの現共和党政権による「国連改革」は、アメリカの一国主義や先制攻撃論に都合
の良い国連に変えたい、という思惑です。では、そのアメリカは一連の改革を通じて
国連が「連合国の正統性伝説」を捨てても良いと考えているのか、というとそれは曖
昧です。
例えば、当のボルトン次官にしても「日本の常任理事国入りは無理」と今週にコメン
トを出しているように、意図的なものか、動物的な勘かは知りませんが「一国主義に
よる国連軽視」を画策する一方で、自分たちもクラブの仲間である「連合国の栄光」
は捨てずに行こうという心理が見え隠れするように思うのです。
私は、個人的には「国連=連合国の正統性による世界戦争回避の機関」という認識を
持っています。その国連のもたらす「平和」を世界の中で最も享受したのが日本だと
いうのも、その理由の一つですが、とにかく「国連による平和」というものに守られ
てきた、という実感を持っています。それは世代的なものも大きいのでしょうが、確
かに実感としてあります。
ですが、1945年から60年を経たこの春の日、国連による平和、その源泉である
「第二次大戦の勝者による世界戦争回避の決意」が揺らいでいるのを感じます。例え
ば、アメリカの場合でも、この60年間にあった冷戦やアラブ世界への介入など、
「直近の悲劇」の記憶が過去の「世界戦争回避の決意を込めた第二次大戦の終結」と
いう記憶を「上書き」してしまっています。
日本の場合ですと、世代が進むにつれて「生まれながらにして自分の国が悪者にされ
ていることへの、どうしようもない居心地の悪さ」が勝っている人口が増えているの
でしょう。そうした世代の一部には「世界戦争のない世界」のためには狭い意味での
名誉は捨てよう、という上の世代の「平和的な」言動が理解できない層も生まれてい
るようです。
では、国連がとりあえず世界戦争回避の機関であるとして「第二次大戦の勝者の正統
性」ではもう平和が保てないのならば、何を正統性とすれば良いのでしょうか。確か
に「60年前の風化した記憶」よりは「直近の悲劇」のほうが世論の求心力にもなる
のでしょう。例えば、冷戦の勝敗はどうでしょう。一見すると良さそうですが、世界
全体の戦争回避機関の正統性としては不十分です。
まず、地域的な違いがあります。冷戦の被害に苦しんだ東欧や、分断に苦しんだドイ
ツ、今も苦しむ韓国などは、冷戦の勝者の正統性で世界戦争は抑止できると思うかも
しれません。ですが、例えば中国やベトナムなどは「国のかたち」は共産主義の建て
前を維持しながら繁栄し、他の国にも認められているのです。また、冷戦の被害に
あったというよりは、開発独裁の被害にあった国などは「直近の悲劇」は冷戦でない
場合もあるのです。それに冷戦の論理には、社民主義か自由放任かという切り口で考
えると、今でも国内問題における政策論争の軸として生きている面もあり、一方的に
社民主義的なものを「悪」とはできないでしょう。ですから、冷戦期の東西のどちら
にいたかで「善悪」を切り分け、正統性にすることは不可能だと思います。
私は、そんなわけで、今でも「第二次大戦の終結時点での世界戦争回避の決意」とい
う原点は有効だと思うのです。国連改革という言葉は、どうやら複雑にもつれ合った
「同床異夢」が繰り広げられている世界のようですが、だからこそ、この原点を確認
することは意味があると思います。
例えば「拒否権なき常任理事国」という発想も、この原点に照らして考えると論理的
に通らないように思うのです。拒否権というのは、世界戦争を起こしかねない「超大
国」が絡んだ国際紛争へ「国連軍」が関与するような場合は、超大国はその「国連軍
の関与」という案を葬ることができるということです。それは、あくまで松岡外相の
日本が国際連盟の「常任理事国」でありながら連盟を脱退して、間接的に世界戦争を
引き起こす要因の一つになったことが反省としてあるのです。
つまり、この欄で以前にもお話ししましたが「脱退されて超大国間の世界戦争になる」
よりは「拒否権を認めて国連の中に止め、外交による問題解決の可能性を残させる」
ということにしたのです。ですから、拡大常任理事国として超大国の地位を認めなが
ら「拒否権は与えない」というのは、どうしても安保理決議がイヤというときは出て
いってもらって構わない、という位置づけになるということなのです。もっと言えば、
「拒否権なき大国」は万が一の際には「切り捨てる」か「敵とみなす」ということに
なります。これは、その当事国の外交上不利な話であると同時に、国連設立の主旨か
らも外れると思います。
そうは言っても国連の調停機能は低下しつつあります。ボルトン次官の言動はともか
く、実際のところ、この事実は直視せざるを得ないのでしょう。そうだとしたら、戦
争回避のためには、どんな抑止の工夫が必要なのでしょうか。日本の場合でしたら、
日米関係、日本アジア関係、国連による全方位外交、の三つがいかなることがあって
も、破綻することなく成立していなくてはいけないのでしょう。アメリカの場合は、
孤立主義と国際協調主義がバランスする中で、外交政策がイデオロギー的なものでは
なく、実務的なものに変わることが重要なのだと思います。
いずれにしても、外交やナショナリズムが、世論の感情を誘導するために、そして政
治家の国内的な権力を維持するために使われるような危険な時代に入ってゆくことに
対する「抑止」の機関が機能するようにしておかねばならないのでしょう。乱闘や退
場の騒ぎは、「バーチャルな見せ物」である職業スポーツだけで結構です。実際の多
国間、あるいは二国間関係は、もっと実務的で安定したものでなくてはならないので
しょう。
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冷泉彰彦:
著書に
『9・11(セプテンバー・イレブンス)ーあの日からアメリカ人の心はどう変わったか』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4093860920/jmm05-22
『911 セプテンバーイレブンス』小学館文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4094056513/jmm05-22
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JMM [Japan Mail Media] No.318 Saturday Edition
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