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読者の皆さん、今年が皆さんにとって良いお年でありますよう。今年最初のメディ
ア裏読みを発信します。
正月の各紙は記者諸君も休みなので、年末に作られた企画記事や解説記事ばかりで
目新しい記事はありませんでしたが、それでもやはりいくつかの見逃せない記事はあ
りました。それらを列挙して今年のスタートを切りたいと思います。天木直人
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◆ 日朝平壌宣言が出来るまでの裏話
◆ 「国連脱退も選択肢の一つ」という発言
◆ “不肖・宮嶋”カメラマンの言葉
◆ 池田勇人元首相の言葉
◆ 緒方貞子さん、もっと正直に語ってください
◆ うごめく「ポスト小泉」
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◇◆ 日朝平壌宣言が出来るまでの裏話 ◆◇
なんと言っても私が驚いたのは、日朝平壌宣言作成の裏話をすっぱ抜いた元旦の産
経新聞のスクープ記事である。おそらく産経はその情報をかなり前から掴んでいたの
であろう。それを元旦の紙面に満を持して掲載したのだ。
その記事によれば、田中均アジア大洋州局長(当時)とミスターXとの極秘交渉に
おいて作成された当初の宣言案はまさに売国的なものであった。すなわち、経済協力
は国交正常化前でも実施する事が出来ること、拉致問題の明記は北朝鮮の激しい抵抗
で断念したこと、さらには拉致問題の真相究明を求める条約上の根拠であると日本政
府が繰り返し主張してきた「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」については、
核、ミサイル問題に限定され拉致問題の幕引きに使おうとする北朝鮮の意向にそって
原案がつくられたものであったというのである。
これらの事を田中局長の一存で決められるはずはない。田中は小泉首相と頻繁に協
議の上、小泉首相の了承を得てまとめようとしたに違いない。首脳会談直前になって
原案を知らされた複数の外務省幹部が、秘密交渉にこだわる田中の手法に疑念を示し、
結局福田康夫官房長官(当時)の指示で経て竹内次官らが原案を修正したという。
おそらくこの記事で明らかにされた舞台裏は事実なのであろう。福田前官房長官が
小泉首相の対北朝鮮交渉に嫌気がさして辞めたことも、小泉首相が田中均の栄転人事
に口を挟んだということも頷ける。しかしなによりも問題なのは、既に小泉首相の最
初の訪朝時点で、小泉首相と外務官僚は拉致被害者を切り捨てていたという事実だ。
帰ってくるのは何人でも良かった。誰でも良かった。すべては北朝鮮まかせだった。
不十分な結果であっても、北朝鮮が拉致を認めて謝罪したという事を喧伝すれば国民
は納得すると高をくくったのだ(しかも拉致を認めて謝罪したという政府の説明さえ
も、いつ、どのような表現で金正日が話したのか証明されていないと思う。そうであ
ればここまで北朝鮮が解決ずみであると突っぱねるはずがない)。5人の家族の生存
だけをそのまま信じてそれで済まそうと北朝鮮側と取引していたのだ。これではいつ
まで経っても横田めぐみさんたち残りの拉致被害者は帰ってこないはずだ。その後の
交渉が行き詰るはずだ。小泉首相や外務官僚は拉致家族や国民を欺いてきたのだ。こ
の産経新聞の記事の審議については国会で徹底的に審議されねばならない。
◇◆ 「国連脱退も選択肢の一つ」という発言 ◆◇
おなじく元旦の産経新聞であるが、作家の三浦朱門が「正論」で書いていた論文は
見過ごせなかった。「国益、憲法、国連、今日の日本の重要課題はこの三つにつきる、
と私は考えている」という文章で始まる三浦氏の持論は、その後を読まなくてもいい
くらいのものであるが、私が驚いたのは次のくだりである。
「・・・常任理事国になるなら、敵国条項撤廃をふくめて、改革案を引っさげての運
動であって欲しい。それが容れられなければ、脱退も選択肢の一つに入れるべきであ
る。同じ旧敵国条項の対象国で、常任理事国になる意図のあるドイツと共同で脱退す
れば、国連予算の三割近くが減少する結果になるだろう・・・」
いくらなんでも三浦氏が本気でそんなことを考えているとは思えない。そんな意見
を掲載する産経新聞も元旦の冗談のつもりで載せたのか。しかし、まてよ、もしかし
て本気でそう思っているのかもしれないと思い直した。天下の「正論」であるからそ
れくらいの事は真面目に主張するのかもしれない。
1933年2月、国際連盟が「日本の満州支配認めず」とリットン報告書(※1)を採択
した直後、当時の外相松岡洋右は、国際連盟脱退の演説をぶった後、「静かに自若と
して」総会の席上から退場した。その後の日本の悲劇は歴史の示すとおりである。
◇◆ “不肖・宮嶋”カメラマンの言葉 ◆◇
これも元旦の産経新聞である。なぜか産経新聞には面白い記事が元旦に集中してい
た。フリーカメラマンの宮嶋茂樹氏が「亡国のイージス」(テロリストに乗っ取られ
たイージス艦を政府が奪還するというフィクション)の作家、福井晴敏氏と対談して
いる時の発言である。宮嶋が「・・・確かに『戦後60年、日本が戦争に巻き込まれなか
ったのは、平和憲法のおかげ』などと言う人は確実に減っている・・・」と話している
のはご愛嬌としても、そのあとの次の発言に私は注目した。
「・・・自衛隊はイラク人を助けに行っているのに、イラクの人たちは『もっと助け
ろ』という。そのメンタリティーに疑問がある。この人たちを本当に助ける価値があ
るのだろうか、と。アラブのことわざに『一日の無政府状態よりも百年の圧政のほう
がまし』というのがありますから、まあしょせんそんなものかなとも思いますが。
それに、自衛隊を派遣して協力した日本の恩を米国が感じているのかを考えると非
常に懐疑的になっています。これだけ思い切ってやったのに、あっちはあまり感じて
いない・・・」
現場の一番近いところで見てきたノンポリジャーナリストの正直な発言なのであ
ろう。彼にとって日本の人道援助はこの程度のものなのである。これでは小泉外交が
悲しすぎる。税金を使った「巨額の人道援助」は、日本の無私のNGOの若者による援
助の前にひざまずかねばならないと思う。
◇◆ 池田勇人元首相の言葉 ◆◇
今年は戦後60周年ということもあり戦後日本を振り返る新年の記事が多かった。
その中で元旦の日経新聞に韓国の元首相である金鐘泌氏の「戦後日本 私はこう見
る」というインタビュー記事があった。「私は吉田(茂元首相)さんを除いて、すべ
ての日本の首相に会っている」という金氏が語る次のエピソードに私は惹かれた。
「・・・(一番印象に残っている政治家は)池田(勇人元首相)さんと大平(正芳元
首相)さんだね。大平さんが首相になったとき、霞ヶ関ビルのレストランで食事をし
た。手帳に挟んであったメモ用紙を取り出して『ちょっと見ろ。これを金さんに見せ
たくて』と言うんだ。『死にたくない、死にたくない』と書いてあった。池田さんが
亡くなる少し前(註;池田勇人元首相は舌癌で死亡)、ベッドに身を支えながら書い
たものだった・・・」
この文章をどういう思い出受け止めるかは千差万別であろう。私の受け止め方はこ
うだ。国の権力をほしいままに出来る立場にある人はそれだけで普通の人より何百倍
の高い志と覚悟が求められるべきである。国民の為に無私の心で最善の努力をしてい
るという気持ちがあったら、余命を知った時にこういう言葉を吐いただろうか。いや、
人間誰でも死ぬ時は未練があると言う人がいるかもしれない。私もそうであろう。し
かし、それが権力についた者がその権力の甘さにしがみつき、権力をこんな形で手放
したくないと未練を持った言葉であったとしたら、私は寂しい気がするのである。
◇◆ 緒方貞子さん、もっと正直に語ってください ◆◇
今年は国連成立60周年であり国連改革がことさらに語られるであろう。日本政府
が目指している国連安保理加盟のも多く報じられるであろう。そんなこともあって元
国連難民高等弁務官として活躍した緒方貞子さんのインタビュー記事が元旦の朝日
新聞と1月3日の日経新聞に載っていた。彼女は答える。
「・・・(イラクへ)軍事行動に出ようという時に、国連を巻き込もうとしたけど成
功しなかったんですね。フランスが拒否権をチラつかせたといわれていますが、米国
は多数派工作が出来なかった。それで結局国連を経ないで軍事行動に出てしまっ
た・・・」(1月1日付朝日新聞)。
その通りである。あの時米国は安保理の中でも多数を取ることが出来なかったのだ。
しかし緒方さんはそれ以上米国を非難しようとはしない。
「軍事力の使用というものの合法性とは何か、本当に大きな基本問題になったんで
す」(同朝日新聞)と他人事のようだ。そして「拒否権のない常任理事国になること
も十分意味がある」、「加盟国が国連をもりたてなければ事務総長が頑張っても何も出
来ない」、「文民も軍人も、死なせてはいけないのです」、「米国と国連が信頼関係を構
築することが重要だ」、「まず米国がイラクの治安を回復するのが急務だ」(いずれも1
月3日付日経新聞)と誰でもが話せるような評論家風の言葉が続く。
しかし緒方さんは知っているはずだ。今の国連が機能しない唯一、最大の理由は米
国が国連を無視している事を。日本の安保理常任理事国入りについてはそれが米国を
含め多くの国に必ずしも歓迎されていない事を。そして米国の占領が続く限りイラク
の治安はおぼつかない事を。
なぜもっとストレートに米国を非難できないのか。その米国に従うばかりの小泉外
交が多くの国連加盟国を失望させているかと正直に言えないのだろうか。JICA(国際
協力機構)の理事長という天下りポストを受諾し、そのポストに安住する限り本音は
言えないのであろう。ならばそれを何故返上しないのか。経歴を見ると緒方さんは曽
祖父を犬養毅首相、祖父を芳沢謙吉外相に持つ血筋である。聖心女子大を卒業後、米
国カリフォルニア大バークレー校で博士号を取得した経歴の国際派である。いまさら
JICAの理事長をありがたがって受ける器量の人ではないと思う。彼女こそNGOとして
無私の協力を海外で行っている若者たちを率い政府が出来ない真の国際協力の先頭
に立って欲しかったと思うのは私ひとりではあるまい。
◇◆ うごめく「ポスト小泉」 ◆◇
今年の政局を占う記事がいくつか見られた。どの記事も似たり寄ったりである。た
とえば1月3日付の日経新聞の「うごめく『ポスト小泉』」という記事はこんな調子
だ。
「・・・若手に安倍待望論が強い。しかし中堅以上の議員にとって望ましいのは、60
歳代の各派閥の幹部が『ポスト小泉』になることだ。麻生、高村、平沼、谷垣、額賀
ら党内で『中二階』と評される連中だ。一昔前ならこの議員たちが総裁レースの先頭
に立ちさや当てを演じるところだが、今や誰も『反小泉色』を鮮明にすることなく小
泉路線に近づくことで『次』を狙う。ベテラングループは福田康夫氏を念頭に一本化
を目指す。野田聖子氏ら第三の候補の出馬も予想される。・・・自民党内では『郵政解
散があればわが党は負け、民主党が政権をとる』との見方が殆どだ。岡田代表と小沢
一郎副代表の確執が取りざたされながらも民主党が分裂しないのも、こんな事情があ
るからだ。森善朗前首相と青木幹雄参議院会長が任期一杯まで首相を支持する考えな
のも民主党の脅威を実感するからだ。『次の選挙』と『ポスト小泉』が表裏一体で政
局は展開する・・・」
この記事を読んで今年の政局はどうにもならないほど欲求不満がたまるものにな
ると感ずるのは私一人ではあるまい。
今年は昨年からの内政、外交のつけがどっと押し寄せその成否を迫るであろう。し
かし小泉政権ではどれ一つとっても国民にとって良かったという結果になる事はな
い。それでも小泉首相は成果が得られたとこれまでどおり自画自賛を繰り返すであろ
う。これがうんざりさせられる第一点である。
それでも自民党の中から小泉を変えようとする政治家は出てこないのも昨年同様
だ。これが欲求不満になる第二点だ。しかもこれだけ行き詰まっている小泉政権を倒
そうとする気迫は今の民主党のどの政治家からも感じられない。これが欲求不満の第
三点となる。
小泉首相は解散をすれば選挙に負けると知っていれば絶対に解散しない。彼の頭に
は任期前の退陣などさらさらなく、あわよくばかつての中曽根首相のように、任期の
一年延長さえ目論みかねない程首相の権力に執着しているよう見える。かくして小泉
政権はダラダラと続く。
かくなる上はなまじっか任期途中の小泉首相の交代を望むことはよそう。今名前が
挙がっているどの一人として国民に期待を抱かせる者はいない。誰がなろうとも、小
泉首相の失政のつけがどっと押し寄せてくるので、貧乏くじを引く事になる。却って
小泉首相のほうが良かったという錯覚を抱くのが落ちだ。そんなことならこのまま小
泉首相に最後までつとめてもらって日本をどん底に突き落としてもらうとするか。本
当に日本が崩壊するような状況になった時には全くあらたな日本の政治が生まれざ
るを得ないであろう。その時にはこれまでに名前が挙がっている政治家はすべて後退
し、全く新しい指導者やや指導者グループが生れざるを得ないであろう。新たな日本
の夜明けである。
とまあ、こんなことを考えてみるものの、新春の初夢みたいな話だ。今年も同じ役
者による相も変わらない芝居を見せ付けられそうだ。我慢、我慢。
◆注釈◆
※1 リットン報告書 1931年(昭和9年)9月18日に勃発した満州事変後に中国
(中華民国)の抗議で国際連盟から現地状況調査に派遣された調査団の報告書。正式
名は国際連盟日華紛争調査委員会報告(The Report of the Commission of Enquiry of
the League of Nations into the Sino-Japanese Dispute)。(参考:Wikipedia)
◆事務局より◆
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