現在地 HOME > 掲示板 > 戦争64 > 824.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
特報
2004.12.16
無防備地域宣言 自治体に戦争非協力迫る
草の根反戦 新しい風
「無防備地域」。聞き慣れないこの言葉が、今春から各地でささやかれ始めた。ジュネーブ条約追加議定書に基づき、自治体に「戦争非協力」を条例で宣言させ、敵国からの攻撃を避けようという趣旨だが、実際は反戦の意思表示だ。国民の過半数が反対した自衛隊のイラク派遣延長が、強行された。きな臭さと無力感が社会に漂う中、草の根の「不服従」運動が始まっている。 (藤原正樹、浅井正智)
■全国各地で市民運動
「議案第38号(枚方市平和・無防備都市条例)を反対多数で否決します」
十五日開かれた大阪府枚方市議会の総務常任委員会。条例案が否決された瞬間、傍聴席を埋めた市民団体「枚方市非核平和・戦争非協力(無防備)都市条例を実現する会」のメンバーらは静まりかえった。委員長を除く八人の委員のうち、賛成は二人だけだった。
実現する会の大田幸世さん(55)は「残念だが、これが再度のスタート地点。枚方市からの発信が全国に広がれば、戦争国家への道をひた走る小泉政権に歯止めがかけられる」と目を潤ませながら語った。
大田さんらが目指す無防備地域宣言の条例化は、従来の自治体の非核宣言などとはどう違うのだろうか。
「平時から戦争準備につながる業務を拒んで、自治体に平和を目指すように迫るには、強制力のある条例が武器になる。枚方市も大阪府内の市町村で最初に『平和非核都市宣言』を導入した。しかし、これには条例の裏付けがなく、形ばかりだった」(大田さん)
運動の背景には、小泉政権に対する不安感がある。同会呼び掛け人の松本健男弁護士は「有事の際に自治体などに協力を義務づける国民保護法など有事法制により、戦争協力を求められる危機感が市民の間で広がっている。イラクへの自衛隊派遣、さらに期間延長で戦争がより身近になった点も大きい」と指摘する。
条例化を直接請求するには、有権者の五十分の一以上の署名を集めなければならない。市民の不安を敏感に反映してか、枚方市の場合、必要数の三倍以上の一万八千六百二十一人分が集まった。大田さんは「署名活動で自分が抱く不安感を大半の市民が抱いていることが分かった」と話す。
無防備地域の条例化運動のさきがけは、一九八五年の奈良県天理市だ。八八年に東京都小平市、今年七月には大阪市でも約六万人の署名を集め、条例化を直接請求したが「侵略国による占領を認めることになり、市民の利益に反する」などを理由に退けられている。
自治体で無防備地域宣言を条例化した例は、世界でもまだない。だが、運動は各地で広がり、今年三月発足した「無防備地域宣言運動全国ネットワーク」には全国十数カ所の団体が加わっている。
首都圏では、東京都荒川区が来年一月十四日、神奈川県藤沢市が同月二十八日から署名活動に入る予定だ。十五万人近い有権者を抱える荒川区の場合、約三千人の署名が必要となる。
「無防備地域宣言をめざす荒川区民の会」事務局長の高瀬幸子さん(49)は「石原都政下の東京での署名活動。右傾化を進める都政に揺さぶりをかけるためにも一万人を目指す」と話す。
■抑止力疑問も
ただ、仮に個々の自治体が無防備地域を宣言しても、それが紛争時に敵国に対し、攻撃を思いとどまらせる現実の抑止力になり得るのだろうか。
桜美林大学の加藤朗教授(国際政治学)は「地方からこうした意見が出てくることは、民主主義が健全に機能している証拠」と評価しながらも、「無防備地域を宣言したからといって、紛争の相手方が気遣うわけでも、狙われないわけでもない。現実に有事になった場合、実力で自衛隊を受け付けないことまで突き詰めて考えていない宣言に、実効性があると言えるのか」と疑問を投げかける。
枚方市の中司宏市長も「地方自治法では普通地方公共団体は、その権限に属する事務に対して条例を制定できると定めており、市の権限に属さない事務について条例を制定することは同法に抵触することが十分考えられる」という意見書を出した。今回反対に回った総務常任委員の岡林薫市議(公明)も「条例は現実性を欠く。現に無防備地域が現時点で世界にはない。平和の尊さを訴える施策の方が現実的だ」と話す。
この点は条例化を推進する市民団体側も承知している。住民とともに運動に携わっている東京造形大学の前田朗教授(刑事人権論)も「実効性はない」と認めたうえ、こう反論する。
「政府は憲法九条をなし崩しにした。その結果、国際的な緊張に巻き込まれ、日本が攻撃にさらされる危険に直面している。無防備地域宣言は、飛んでくる爆弾にどう対処するのかではなく、爆弾が飛んでこないようにするには何ができるかを問題にしている」
■条例の強制力で平和行政を促す
枚方市議会で条例案に賛成した高橋伸介市議(ひらかた市民会議)は「条例案は市民の思いを明快な形で表したもの。住民保護こそが市民に密着した市の役割ではないか。戦争という極限状態のルールであるジュネーブ条約を条例に取り込むことは、平和ぼけを正すことにもなる」と訴える。
一方、「自分の地域だけ攻撃されなければいいのか」という批判もある。これに対し、十九年前に天理市で条例化の直接請求をした経験のある高校教師、稲垣秀樹さん(60)は「決して地域エゴではない」と語る。
市議会で条例案が否決された後、稲垣さんは市長から「可決、否決を度外視して平和に対する努力に敬意を表する。これから互いに知恵を出し合いたい」と申し出を受けた。その後、同市は平和運動推進懇談会を発足させ、広島、長崎、沖縄の視察など、平和行政の取り組みを始めた。
「非核都市宣言のように実現しても看板を立て、何もしないというのでは全く意味がない。多数の署名が集まったことで、行政から積極的な対応を引き出すことができた」
市民団体側の狙いもこの辺りにありそうだ。前出の高瀬さんは「不服従」の姿勢を強調する。「われわれの目標は条例化自体にはない。最終的に否決されても、全国至るところで数多くの署名を集めることで、『右へならえ』式の政府のやり方に市民の対抗意思を突き付けることにある」
枚方市の大田さんも再挑戦を期して、こう語った。
■世界ルールに
「市議の当落にかかわるような多数の署名を集めれば、大きな動きがある。市議の中には『全国初は国に目を付けられる。二番目以降ならいいんだけどな』という人もいる。一自治体でも風穴をあければ、全国に広がっていくのではないか。地方自治体からの武器排除は世界共通ルールにすることも不可能ではない」
■「無防備地域宣言」運動
ジュネーブ条約追加第1議定書(1977年)59条は「適当な当局」が宣言した無防備地域への相手国からの攻撃を禁じている。同地域の条件は兵器の撤去、部隊の撤収など。この趣旨に沿って、戦争(有事)につながる業務を拒むよう自治体に迫る運動。議定書の承認は今年成立した有事関連7法に含まれている。政府は今年6月、井上喜一有事法制担当相(当時)が参院イラク特別委員会で「武力攻撃を排撃するのは国全体の立場に立って判断すべき」と運動をけん制している。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041216/mng_____tokuho__000.shtml