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特報
2004.12.08
サマワ詣で センセイたちの茶番
師走だからではないだろうが、センセイたちが突然、イラク・サマワ詣でに走った。この「安全宣言」で、政府は自衛隊の派遣延長を急きょ、一日繰り上げ九日の臨時閣議で決めるという。しかし、帰国後、「さわやか」と感想を漏らした防衛庁長官といい、悲壮な表情で飛行機に乗り込んだ自民、公明の幹事長といい、ここに来てのわずか数時間の訪問って、まさに「茶番」では。国民の半数以上が反対している延長だが、こんなことで決めていいの?
「治安はかなり安定している。大変さわやかな感じです」。サマワ視察から帰国した大野功統防衛庁長官は六日夕、羽田空港で記者団に笑顔で答えた。
大野長官は三日の記者会見では視察に関し「具体的にどうするという話までは至ってません」としていたが、翌四日には成田空港からクウェートに。五日にはイラク国内の空港から米軍の最新鋭ヘリに乗ってサマワ入りした。現地ではヘルメットに防弾チョッキの重装備。宿営地の居住用コンテナや浄水装置を視察した後、軽装甲機動車で約七キロ離れた荒れ地にある、ごみ焼却場用につくられた道路の補修現場を見学した。
ホテルや宿営地に泊まらず、自身、「ゼロ泊三日の旅だった」と振り返る長官は記者団に「五時間の滞在で現地の治安情勢は十分確認できたか」と問われ「正確には五時間三十分」と強調した上で、「自衛隊は三百日くらい(サマワに)出ているが、約四十日はいろいろな事情で外へ出ていっていない。しかし二百数十日は(宿営地外へ)出ていって一回もトラブルはなかった。治安はかなり安定しているという心証を得た」と派遣延長の環境が整っていることを強調した。
防衛庁の担当者は「視察は庁内でもほとんど知る者はなかった。だから、われわれも成田空港に大臣の姿があり、サマワ行きを表明されたのにはびっくりした」と話す。さらに五時間半という海外視察時間については「歴代大臣の海外視察時間をさかのぼって割り出すのは相当難しいので簡単に比較はできない。まあ、短いほうだなということは言えるかもしれませんが…」と言葉をにごした。
イラク特措法では「自衛隊を派遣する活動地域は、現に戦闘が行われておらず、かつ活動の期間中も戦闘行為が行われない地域」を防衛庁長官が判断することになっている。軍事評論家の神浦元彰氏は今回の駆け足視察について、「近い将来、戦闘が起きた場合に自分たちは最大限努力した、と正当化するためだけに行った。だから事前に大騒ぎしてから行くという非常識なやり方をとらざるを得なかった。セレモニーでもショーでもない。もっと悪質だ。自衛隊員の気持ちを考えていない」と批判する。
■多くの派遣隊員 使命感裏切られ
「旭川、真駒内からサマワに派遣された部隊に内部で聞き取り調査をした結果、二度と行きたくないとした隊員が多数を占めたと聞いている。使命感を持って行ったけど、行く必要はなかったと実感したからだ。例えば、病院に指導に行くと言っても、実態は援助された医療器材が売り飛ばされるのを防ぐのが目的だったという。危険手当も外で活動した場合に上乗せされるので、外出できず宿営地にいると思ったより少なかったようだ」
■防衛態勢の強化 宿営地で着々と
こうした「安全」パフォーマンスの一方で、宿営地では宿営施設の耐弾工事や、自動小銃の改造など防衛態勢の強化が進む。「右側にしかついていなかった自動小銃の安全装置を左側にもつけるということだが、あまり意味はない。対迫レーダーも持ち込まれる予定だが、これは迫撃砲の発射地は割り出せても着弾点は分からない。対策をしているようなポーズを取っているだけだ」(神浦氏)
さらに、政府関係者は「実は隊員の犠牲を想定したマスコミ対策のシミュレーションをすでに極秘で検討している」と打ち明ける。
「犠牲者が出たというパターンでは、事故、強盗などの事件、そして襲撃の三パターンがある」とした上で、「襲撃により、不幸にも複数の隊員に犠牲者が出た場合、新聞は一面トップをどの程度続けるか。これが二回目の襲撃となった場合はどのくらい短くなるか。こうしたメディア対策を軸に、世論誘導をどうするのか、など検討している」と話す。この関係者によると、モデルとして参考にしているのは、一九九二年のカンボジアPKOなどに参加したドイツだという。「カンボジアでは、事故での犠牲者もあったが、兵士が射殺されたケースなどで、当時、ドイツの新聞、マスコミがどう扱ったかなどを参考にしている」と話す。
「犠牲者が出ないことが一番だが、今のイラクが安全ではないことは、十分承知している」と言い切る。
電撃訪問というパフォーマンスで記憶されるのは、ブッシュ米大統領だ。ほぼ一年前の昨年十一月二十七日、たった二時間半の訪問だったが、バグダッド国際空港で、総立ちの兵士を前に演説、感謝祭の七面鳥を振る舞った。当時、すでに湾岸戦争を上回る四百人以上の米兵が死亡、泥沼化の懸念が深まる中で、この映像は全米に繰り返し流され、訪問直後の緊急アンケートでは、米国民の約八割が「危険を冒しても訪問する価値はあった」と回答。大統領の思惑通りになった。
今回の駆け足訪問にどんな意味があったのか。
バグダッドなどで医療活動に携わってきた日本国際ボランティアセンターの原文次郎イラク事業現地調整員は「派遣延長の是非を決めるという重要な政策決定のためならば、本来、どんな場所をどういう形で視察し評価するかを詳細に決めた上で、十分時間を掛けて検証すべきだ。こんな時間じゃタッチしてきたことにもならない」と指摘する。
さらに「米軍のイラク攻撃の正当性そのものが問われている中、完全武装した自衛隊が人道支援をいくらうたっても、イラク国民は誰も中立とは思わず占領の一翼を担っているとしか見ない。治安情勢も現地人からの評価も不安定な中、こんな短時間の視察が派遣延長への免罪符になるのだろうか」と強調する。
その上でこう訴える。「まだまだイラクは非常に危険な情勢が続いている。私たちボランティアとしては、国連主導の多国籍軍が治安を担当し、医療をはじめとした各方面の専門家が現地で活動するのがベストな在り方では」
AP通信によると、国連のブラヒミ事務総長特別顧問は四日付オランダ紙のインタビューで、テロや攻撃が相次ぐ現在のイラクの治安状況では、来年一月三十日に予定される国民議会選挙の実施は不可能との見方を示した。
■米国は黄門様の印ろう的な存在
神浦氏は言う。「制服組は、イラクでの米国の泥沼に引きずられることを懸念し、撤退の時期と方法を明記して出口をはっきりさせることを望んでいる。しかし党内基盤の弱い小泉首相は、ブッシュ閥に属することで政権維持を図ってきた。首相にとって米国は水戸黄門の印ろうに等しい。五時間余の視察で安全だと強弁し、出口も示さない政府の姿勢に、自衛隊員の政治不信は強まっている」
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041208/mng_____tokuho__000.shtml