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社説
12月07日付
■陸自幹部案――とんでもない勘違い
自民党の憲法改正案起草委員長で元防衛庁長官の中谷元氏が、陸上自衛隊の幹部に頼んで、防衛政策にかかわる部分の憲法改正案を提出させていた。
「憲法草案」と題された文書は8カ条から成る。とりまとめにあたった幹部名と、彼が陸自の中枢である陸幕防衛部員であることも明記されている。
内容を整理するとこうなる。
「国の防衛のために軍隊を設置する」「軍隊は集団的自衛権を行使することができる」「首相は緊急事態に日本の領域や特定の地域に緊急事態を布告する」「司法権は最高裁および下級裁判所ならびに特別裁判所に属する」「すべての国民は国防の義務を負う」
自衛隊を軍隊にし、専守防衛の枠組みを取り払い、非常事態宣言ができるようにし、軍法会議をつくり、国民の権利も必要に応じて制限することをうたう。要は、そういうことである。
憲法9条をまるごと否定するかのような同様の意見は、これまでも自民党内で声高に主張されてきた。今度の文書は、そうした主張の背後に制服自衛官の意向が働いていたことをうかがわせる。
自衛隊員が憲法について様々な意見を持つのは当然である。この「憲法草案」に共感する人もあろうし、逆に違和感を持つ幹部自衛官も少なくあるまい。
ただ、自衛官がその意見を表明するには、内容にも手続きにも、文民統制という民主主義国に共通のルールから来る一定の枠があるはずだ。
制服自衛官は職に就くとき、憲法を守ることを宣誓する。職務の重さゆえだ。ならば、個々の防衛政策について、それが憲法や法律との関係、あるいは軍事的な面から見てどうなのかを、あくまで防衛庁のなかで語ることが本務だろう。
現行憲法ではしたいことができない、だから憲法を改正すべきだという意見を、自民党の改憲の責任者に出す。まさに政治への関与である。それを正しいと考えたなら、とんでもない勘違いだ。
中谷氏も中谷氏である。防大卒で陸自に勤務した、制服自衛官出身では初めての防衛庁長官だった。今も自衛隊との間で互いに頼りにする関係だろう。気軽に改憲案づくりを依頼したのかも知れない。「私的な勉強のためだった」という弁明にもそんな気分が漂っている。
だが、それが文民統制の原則を脅かすばかりか、国民の制服自衛官に対する信頼を深く傷つけることに、長官経験者として思いが及ばなかったのか。
米欧先進国に比べて、日本の政治家は安全保障の知識が乏しい。いきおい非公式な場で聞く防衛庁、とくに制服自衛官の意見を大事にする。自衛隊側もそれを歓迎する。小泉政権の日米同盟重視で外国での活動が広がる今、それがいっそう目立つようになった。
そんな構図は決して好ましくない。国会による文民統制がこれほど必要なときはない。憲法草案まで作ってもらうようでは政治家落第である。
http://www.asahi.com/paper/editorial20041207.html