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社説:サマワと日本 引き際の演出が政府の仕事だ (毎日新聞)
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投稿者 彗星 日時 2004 年 12 月 06 日 04:22:00:HZN1pv7x5vK0M
 

社説:
サマワと日本 引き際の演出が政府の仕事だ

 サマワにいる自衛隊の滞在は延長せざるを得ない状況だ。期限切れ直前なのにわざわざ国会終了を待って閣議決定するのだから、与党が全責任を負う形で決断したいのだろう。やり方として、民主的とも上手とも言えない。国民的に数の上では延長反対が多いことを意識してだとしたら、なおさらだ。

 延長反対が多いのは自然なことだ。今では平和願望は日本の国民性にまでなっている。人々に伝わってくるイラク情勢は危険が増したようにしか見えない。自衛隊にそろそろ戻ってきてほしいと願うのは当然のことだ。

 もし国民の願望をかなえるのが政府だとすれば、撤退を考えるのが正当な政府だ。

国民の説得がルール その願望に反する結論を出すからには国民をもっと長時間にわたって説得し、延長論を多数派にしていく努力をするのが民主主義というものではないか。

 米国との同盟がどんなに大事なことか、サマワに自衛隊がいることがどれほど大きな米国に対するモラルサポートになっているのか。もしここで撤退したら長年かかって築き上げた日米関係が崩れてしまう。それだけではない。日本の国際的な信用度も落ち、課題の国連安保理常任理事国入りさえ危うくなる。

 そう思っているならそのように首相自ら何度も何度も国民を説得するのが民主主義という今のシステムの前提ではないか。その部分でメディアにおんぶしていないか。

 しばらく選挙はないからその間はしょせん勝手な国民の願望をいちいち聞いてはいられない。どうせいくら説明しても分かってくれないし、分かっている人は分かっている。それより真に国民のためを思い、批判に耐えながら勝手に決めてしまうのが昔からのわれわれのやり方だという密室体質は間違っているし、古臭い。

 大きな疑問がある。今回のイラクへの自衛隊派遣が果たして今回限りのものなのか。これを手始めに日本はより積極的に世界の平和作りに自衛隊を含め関与していくのか。政府の腹積もりがどちらなのか明確に知りたい。そのあり方の説明を抜きに、米国のテロとの戦争のお付き合いだからブーツ・オン・ザ・グラウンドで行っているという構図のままでは国民も先行きが不安になっている。

 そのどちらなのかによって、延長問題も自衛隊の現地でのあり方に対する評価も違ってくる。ひたすら危険に巻き込まれずにあと1年じっと我慢をしてその時イラク自身がどうなろうと、派遣自体は成功したと政府自らが評価して、そうすれば次もできると踏んでいるのだろうか。今回の経験はきわめて特殊で二度とこうしたことをしないように今後は全力を挙げると思っているのか。推測は前者だがはっきり説明していない。

 一般的な話ではなく、米国という単独行動に走りがちなスーパーパワーの存在は将来にわたって存在し続ける以上、事あるごとに類似の事態はやってくる可能性がある。それにどう対処するつもりなのか。今回のように、そのつど急きょ、法のすき間を縫うように特別措置法を作って対応するのだろうか。そうしたことも政府は方向を打ち出す義務がある。それすら果たしていない。

 毎日新聞は11月19日から12月5日まで社説欄の「視点」で論説委員が署名入りで14回にわたりそれぞれのサマワの自衛隊論を展開した。毎回全体討議を経て書いたもので決して個人の独断ではない。いわばできるだけ多くの見方をジグソーパズルのように埋めていったと見ていただきたい。初めての試みだが、これだけ多様な見方を展開してもまだまだ不足を感じる難しい選択なのだ。

 しかも現実に自衛隊はサマワの地で必ずしも明確でない状況の下で日々活動している。イラク全体で最も必要とされているのは現状では治安維持だ。しかし自衛隊は軍隊としての派遣ではないので武力行使は封じられ、治安維持以外の復興支援に当たっている。したがって自衛隊は存在として日本が多国籍軍の親玉である米国を支援しているというモラルサポートの意味合いが大きい。米国の孤立を招かないための政治的な力になっている。

 復興支援という自衛隊の本来業務でない役割で、しかも現状では自衛隊しか具体的にそれができないから派遣されているが、真に復興支援ができるような治安的に安定したイラクになれば復興支援隊としての自衛隊は不要になる矛盾した存在にもなっている。 こうした政府の国民への説得なき決定を含めた現状を踏まえれば、これからは自衛隊の引き際がもっとも大事なことだろう。政治的決断なしには撤退はなし得ない。ということは政府は撤退の時を演出する義務がある。米国がいいと言うまでいると国民を説得できるならそれも選択だが、それでは情けない。

 イラクでの選挙の実施とその後の推移によるが新政権発足や自衛隊を守るオランダ軍撤退にどう対処するかが当面大きな課題だ。例えばオランダ軍に代わってアジアの友好国に守ってもらうよう依頼してみるのも自衛隊の存在意義をアジアでアピールする好機となるかもしれない。国連安保理常任理事国が武力行使しなくともやっていける実証として訴えることができるかもしれない。撤退しないことで米国に対し単独行動を少しでも抑える同盟国の役割に活用する努力もすべきだろう。

 状況次第でいつでも撤退できる心構えがモノをいう。国内での撤退願望が強力であり続けることが、こうしたサマワの自衛隊の存在を多方面でフルに生かす上でも大事なことだ。
毎日新聞 2004年12月6日 0時16分
http://www.mainichi-msn.co.jp/column/shasetsu/news/20041206k0000m070107000c.html

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