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管理強化 教員にじわり (東京新聞)
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投稿者 彗星 日時 2004 年 11 月 25 日 12:16:05:HZN1pv7x5vK0M
 

特報
2004.11.25
管理強化 教員にじわり

 憲法とともに「戦後」を支えてきた教育基本法「改正」が迫っている。東京都教育委員会(都教委)はこの間、その中身を先取りしてきた。昨年の都立七生養護学校での性教育処分、今春の日の丸、君が代処分などは、その結果だ。職場では「物言えば唇寒し」の空気が漂う。状況を危ぐする三人の教師が今回、匿名で現状を語ってくれた。いま、職員室で何が起きているのか−。 (田原拓治)

 ――七生養護学校関連では百十六人、日の丸、君が代の「10・23通達」絡みでは二百四十八人(嘱託取り消しを含む)もの教職員が処分された。生徒会主催の討論会で発言した教員が「(発言内容が)学習指導要領にそぐわない」と処分されたケースすら出ている。

 A(五十代、中学校) 日の丸、君が代で処分された人に対する職場での反応は「自分は拒めない」と敬意を抱く人がいる半面、処分者が出たことで職員全体に研修が課せられたケースもあり「いい迷惑だ」と反発する人もいる。私が就職したころは憲法と教育基本法を守りますと誓約書を書かされ、感激したものだが、遠い昔話になった。

 B(四十代、高校) 一九九九年の国旗国歌法制定までは、職場で日の丸などをめぐる議論があった。だが、いまは「もう議論はなし」。校長は、といえば「都教委から目を付けられたら、学校の存続にも響く」と通達に反発する教員を抑えるのに懸命だ。

 ――学校は民主主義を教える場でもある。職員会議でそれが通用しないとは。

 C(五十代、小学校) 一昔前は、大半のことは職員会議で決めてきたが、民主主義はもう死語。うちも校長が「(君が代などに)多様な意見があるのは分かるが、決定権は私にある」と最初に言ってくる。「職務命令と受け取ってもらって結構」とか。ここ数年、職員会議は上意下達の場になってしまった。

 A 確かにそう。それに教員側もサラリーマンタイプが増え、議論を避けたがる。うちの校長など、学校選択制に絡めて心配している。「(日の丸、君が代への)拒否者が出れば、そんな教員がいる学校なんて、と保護者の間でわが校の評価が落ちるかもしれない」と本気で話している。

 B 職員会議の位置付けは、九八年の学校管理運営規則の改正で教職員による決定機関という性格が否定された。自分の場合、君が代関係でわざわざ“ネズミ取り”に引っ掛かるのも嫌で、卒業式などには年休を取ってきた。だが、来年度からはそれも難しそうだ。

■昇給も異動も…校長の評価次第

 ――教職員の間で「事なかれ主義」が広がっている背景には何があるのか。

 B 二〇〇〇年に導入された人事考課制度の影響が大きい。教職員の“成果主義”だ。校長が五段階で教員を評価する。導入時には近い将来、評価理由を開示していくとの約束があったが、ないがしろに。皆、恣意(しい)的な評価が怖い。来年度からは、新給料制度導入により、その評価次第で昇給延伸にもなりかねない。

 A それと併せて、〇三年の異動要綱改正が重圧になっている。それまでは新規採用は四年、他は一校での勤続が八年に達するまでは異動対象にならなかった。しかし、改正で校長が『本校にふさわしくない』と断ずれば、一年でも異動対象に。そうなると、生活設計が立ちにくい。これを恐れる人々も少なくない。

 C “週案(学習指導案)提出の義務化”も変化の一つ。七生の事件で、これの未提出が処分理由の一つになり、厳しくなった。週案は校長あてに一週間の授業計画などを記した書類だが、もともとは教員自身の記録的な意味が大きかった。実際、校長がとても全教員分を細部まで点検しきれない。どうやら道徳などに絞って点検しており、“問題教師”のあぶり出しに使われているようだ。
 
 ――それでも、民間からは「休みも多い」など教員への風当たりは弱くない。
 A 実際には勤務時間はメチャクチャ。教員には外で昼食を取ったりする休憩時間がない。法的にはあるのだが、現実には取れないため、従来は就業時間の最後に置くのが慣例だった。だが、これは労働基準法で本当は禁じられている。これが厳格運用されて、休憩なしになってしまった。
 
 C 会議や研修会がやたら増えている。授業後、これがあり、当日の仕事を片付けると子どもらと話す時間がない。プリントの丸付けや翌日の授業準備は、自宅でというのが実態だ。
 
 B 一部の学校では一昨年から『東京都職員カード』が配られた。これはタイムカードになるのだが、管理職たちは『帰りは押さなくていい』と。超過勤務の実態がバレるからだ。
 
 ――かつて教職員組合といえば、評価はどうあれ、力があった。現在は。
 
■組合の分裂で脱退者が続出

 A 小、中学校では、もはや組織率は三割強程度ではないか。私が教員になったころは、ほぼ十割。八九年に日本教職員組合(日教組)が、現日教組と全日本教職員組合(全教)に分裂した際、職場に対立が生まれるのに嫌気がさして、どちらにも属さずに辞める人が続出。そのままだ。
 
 B 高校の場合、まだ東京都高等学校教職員組合(都高教)が強い。でも、執行部の姿勢をみる限り、日の丸とかでは抗議はすれど争わない。処分の裁判となれば、原告の被処分者の賃金を補てんしなくてはならない。そうした負担を避けるため、自粛ムードだ。
 
 ――この間の都教委の政策で児童、生徒たちへの影響はどう感じているか。
 
 C 現場の教員の間では“管理職は子どもと対応できない人”というのが常識。現場で行き詰まった反動で、研究会や主幹試験などに力を注いだ人が管理職になっていく傾向がある。
 
 A 私は朝七時半すぎに学校に行き、分からない点を教えてほしいという子どもたちに対応している。放課後は会議などでつぶれちゃうから。ただ、管理職は知らぬ存ぜぬだし、組合の仲間からは競争主義にからめ捕られるな、と心配されたりする。それでも、子どもは見捨てられない。
 
 C 子どもとのコミュニケーションは、年々難しくなっている。ある意味“荒れる学校”の時代が、どれだけマシだったことか。子どもの声を時間をかけて引き出したいのだが、増えた会議やら週案やらに追い立てられて時間がない。
 
 ――「ゆとり教育」の実相はどうか。最近は、学力低下の指摘もある。
 
 B いまは小学校の時点で児童の輪切りができている。選別強化がゆとり教育の実態だった。少数のエリートと多数の従順な労働者に分ける狙いは成功したんだろうが、今の学力では従順な労働力にもなり得ないという点に気づき、学力増強論が出てきたのではないか。いずれにせよ、学校に何かを期待できるのか、と問われると暗い気持ちになる。定年まで、教員を務める自信がなくなった。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041125/mng_____tokuho__000.shtml

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