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(回答先: 戦争をする国の社会はどうなるか―日本がアメリカの道を選んだ場合―[ダグラス・ラミス] 投稿者 なるほど 日時 2004 年 11 月 28 日 03:16:28)
03年03月13日付 朝刊
何のための戦争か(上) ▼5
大量破壊兵器の恐怖増大
ダグラス・ラミス
何週間か前、米国防省は米軍のイラク侵攻戦略をCBS放送にばらした。イラク政府を脅かすのが目的だろう。その戦略は「ショックと恐怖」とよばれ、それによると侵略の一日目、米軍は三百から四百発のミサイルをイラクへ発射する。それは、十二年前の湾岸戦争三十九日間で使ったミサイル総数を超えるそうだ。そして戦争の二日目も同じ三百から四百発のミサイル。などなど。
「ショックと恐怖」戦略のブレーンのひとり、国立防衛大学のハーラン・ウールマンによると「広島で数日間あるいは数週間かかった原爆の効果を数分間でもたらす」。ペンタゴンの役人は言う。「この絶対的な規模をかつてだれも見たことはなく想像したこともない」「バグダッドにはもはや安全な場所はどこにもない」
三月五日、統合参謀本部議長であるリチャード・マイヤーズ大将は記者会見でさらに話をエスカレートさせた。侵略の最初の四十八時間で、三千発の「ピンポイント」爆弾とミサイルがイラクに落ちるという。それは大げさな威嚇にすぎないかもしれないが、もしその通りの攻撃になったら、史上最大の戦争犯罪になるだろう。
それはいったい何のためなのだろうか。いくつかの説を検討してみよう。
■テロに対する戦争説
二〇〇一年九月十一日のアメリカに対するテロ攻撃の後、米政府は「テロに対する戦争」を布告した。アフガニスタン侵略はその論理の下で行われた。しかし米政府が次の標的としてイラクを選んだとき、その論理と言い方が変わった。イラク政府は九月十一日の攻撃と何の関係もなかったからだ。米政府は未(いま)だイラクがアルカイダと協力関係を持っていることを実証できていない。
宗教原理主義であるアルカイダはイラクのような世俗的な国家を嫌っている。オサマ・ビンラディンは最近公開されたビデオで彼のサダム・フセインに対する軽蔑(けいべつ)をはっきり示した。米国務長官パウエルは国連安保理事会でイラクとアルカイダが「数十年間にわたる」協力関係があると発言して、大きな恥をかいた。アルカイダは創立されてから十年もたっていないし、十数年前ビンラィデンは米CIAの下、アフガニスタンでソ連と戦っていたからだ。
そして米のイラク侵略は「テロ対策」どころか、その結果としてアメリカに対するテロ攻撃の確率を上げることも米政府自身が認めている。
■大量破壊兵器を なくす戦争説
米政府は、イラク侵略の大義名分のひとつとして、イラク軍の大量破壊兵器保有を挙げる。大量破壊兵器を世界からなくすことは支持に値する目的だ。しかしその一方で、米政府はイラクに大量破壊兵器があってもなくても侵略する計画をどうも変えないらしい。今のところ、国連査察団はイラクで大量破壊兵器をひとつも見つけていない。
にもかかわらず、米軍は侵略の準備を続けている。もしかすると、米政府は、国連査察団に大量破壊兵器がないと確認してもらってから侵略するつもりなのだろうか。米政府は、侵略してからイラクの武器を取り上げるというのだが、武器を取り上げてから侵略するのが本当の戦略なのだろうか。
核軍縮評論家ジョナサン・シェルが米誌「ザ・ネーション」に最近書いたように、もし米政府の目的が大量破壊兵器の恐怖を減らすことであるならば、この戦争が始まる前に米政府はすでに負けている。戦争に勝つということは、敵軍を負かすだけでなく、戦争の目的を達成することだ。しかし、米政府の戦争政策は逆に、大量破壊兵器の恐怖を増大させている。
そういう兵器を持っていないらしいイラクは侵略されそうになっている。一方、米政府に「悪の枢軸」と名指しされ、先制攻撃を検討すると脅迫を受けた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、「核を開発している」と発言した。すると、米政府はすぐに言い方を変え、「交渉による解決を求める」と発言した。この事実は世界の国々にどのようなメッセージを伝えるだろうか。「やはり核の抑止力には効果がある」「アメリカに侵略されそうな国(その数は増えているようだが)は素早く、こっそり、核を開発した方が賢い」ということだろう。
■正義の戦争説
米政府の代表、特にブッシュ大統領は「悪」という言葉をよく口にする。「悪」と対峙(たいじ)するのは立派に聞こえるが、本当は、国家権力で「悪」に戦争を仕掛けることほど恐ろしいものはない。悪(evil)は宗教用語だ。「evil」の前に「d」を書くと「devil」(悪魔)になる。九月十一日の攻撃直後、キリスト教原理主義者であるブッシュ大統領は「十字軍」という言葉を使い始めたが、周りにやめさせられたらしい。しかし、ブッシュ政権の意識の奥深いところには、聖戦をやっているというのがあるようだ。
ところが、どの「悪」に立ち向かうかという点で、かなりの偏りがある。アメリカと友好関係を持っている政府の中には、トルクメンなど自国民を弾圧する政府、イスラエルなど侵略戦争をしたこともある政府も入っている。しかし、それらはアメリカの言う「悪の枢軸」には該当しないようだ。アメリカに自分自身がやってきた「悪」と直面しようとする勇気がないのは言うまでもない。
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ダグラス・ラミス 1936年米国サンフランシスコ生まれ。政治学者。80年から2000年まで津田塾大学教授。現在、沖縄を拠点に執筆・講演活動中。著書『憲法と戦争』(晶文社)、共著『世界がもし100人の村だったら』(マガジンハウス)など。
http://www.ryukyushimpo.co.jp/special/iraku/030313.html
03年03月14日付 朝刊
何のための戦争か(下) ▼6
「新アメリカ世紀」目指す
ダグラス・ラミス
■石油説
イラクは世界第二の石油埋蔵量を誇る。徹底的に探査すれば、サウジアラビアを超えて、世界一になるだろうともいわれている。現在の埋蔵量だけで、もしアメリカがそれを独占すれば百年間もつそうだ。石油大企業出身であるブッシュ大統領とチェイニー副大統領が石油について述べることはないが、意識していないはずはない。戦後のイラク石油の支配をめぐる裏交渉がすでにロンドンなどで始まっていることが、たまに新聞にもれる。
間違いなく石油は大きな目的だが、すべての説明にはならない。石油だけだったら、石油のない北朝鮮がなぜ「悪の枢軸」に入れられたかが説明できない。
■ブッシュ「愚か」説
ジョージ・W・ブッシュの世界政治と地理に関する無知、語彙(ごい)の少なさ、失言、勉強嫌い、などは有名だ(「不思議の国のブッシュ」光文社=二〇〇三年=参照)。それは重要な要因だろう。しかし、それは単なる「無知」だけではない。その裏に、自分は勉強などの努力をする必要はないはずだ、という極端な傲慢(ごうまん)さがある。
特権階級の金持ち息子の傲慢さ+キリスト教原理主義の傲慢さ(私の信念は絶対に正しいという傲慢さ)が一緒になって、「無知でも結構だ」という態度になったようだ。その態度は「国連を無視しても結構だ」「同盟国の考えを無視しても結構だ」「世論を無視しても結構だ」「アメリカは単独で結構だ」という態度につながる。
■国内治安説
国内の政治・社会に影響を与えるために、外敵をつくり脅威を大げさに宣伝して戦争をするというのは、大昔から伝わってきた政治戦略である。こんどの戦争政策の裏にも、その動機は大きい。これは共和党が次の選挙を勝つ戦略だという話もあるが、それどころではない。
私は「九・一一やらせ説」は信じないが、やらせ説が成り立つぐらいその攻撃はアメリカの極右勢力に夢のような機会を与えたわけだ。久しぶりに軍国主義的な世論を復活させただけではなく、国内の治安維持体制を強化し、警察力を増やし、人権(特に在米外国人の)を制限するなど、右翼のやりたい放題となった。
日本の小泉政権もそうだろう。外敵と戦争できるために有事法制を設けるというより、有事法制案(=戒厳令法案)を通すため外敵の脅威をあおる、という順序の方が正確だろう。有事法制は憲法凍結(事実上の憲法改正)を意味するので、可決されれば自民党の半世紀にわたる夢が実現されるわけだ。
■帝国説
一九九七年、「新アメリカ世紀プロジェクト」(PNAC)という右翼シンク・タンクが創立された。二〇〇〇年の大統領選挙直前、PNACは白書を作成した。ソ連崩壊後、米軍事力に対抗できる国も勢力もどこにも残っていないので、その圧倒的に優位な軍事力を生かして、もっと積極的に世界を支配すべきだ、という論理の白書だ。ブッシュが(選挙に負けたのに)大統領になったら、PNACの重要な会員(チェイニー、ラムズフェルドなど)がブッシュ政権に入った。そして九・一一をきっかけにその白書の構想を実現しはじめた。
その中から生まれた新しい政策として、(1)国連憲章その他に禁じられた先制攻撃を今後アメリカとアメリカの同盟国ならやってもよい(2)(国連にはそういう権利はないが、)アメリカは他の主権国家の領土に軍やCIAを送り人を逮捕してもよい(3)その逮捕された外国人には捕虜の権利も犯罪容疑者の権利も与えなくてもよいし、裁判なしで牢屋(ろうや)に監禁してもよい―の三つを挙げられる。
これは従来の国際法を覆す発想だ。ある領土に軍を送って、人を逮捕する権利は、その領土に対する統治権以外のなにものでもない。ブッシュ政権は「帝国主義」ではなく、「帝国」をつくろうとしている。イラク侵略も、イラン、北朝鮮に対する脅迫も、その文脈の中にみるべきだと思う。
■日本は?
イギリスはともかくとして、日本政府がこのアメリカ中心の「新アメリカ世紀」政策に無批判についていくのは奇妙なことだ。北朝鮮の脅威に対してアメリカの軍事力に守ってもらわなければならない、と思う人は多いようだが、本当は逆だろう。
前述したように、米政府の方が北朝鮮を「悪」と呼び、先制攻撃をするかもしれないという脅迫が今の危機をもたらした。北朝鮮政府は、米政府が不可侵条約を結べば核開発をやめる、と繰り返し主張している。これは当たり前な言い方だ。米軍の北朝鮮への先制攻撃の脅迫は現実的な恐怖だ。北朝鮮政府は、核の抑止力でその攻撃を阻止しようとしている。それは反戦平和のやりかたではないが、現在の国際関係の中では通常のやりかたではある。
したがって日本(特に米軍基地の多い沖縄)の安全を保障するもっとも合理的な方法は、米政府の暴走を支持するのではなく、それに歯止めをかけ、特に米政府の北朝鮮侵略の脅迫をやめさせることだ。
■この戦争を止める可能性
米政府の「新アメリカ世紀」戦略は既に崩れ始めている。特にイラク侵略の計画は、アメリカ国内にも世界各国にも史上最大の反戦運動を呼び起こした。その反戦世論を無視できない米同盟国は同盟から降り始めている。安保理は分裂し、NATOは分裂し、トルコは米軍を上陸させず、米政府は孤独になってしまった。それでも予定通りイラクを攻撃すると、米政府は開き直って言っている。しかし反戦の波はどんどん高くなっているので、どうなるかわからない。
最悪の場合、つまり、米政府が反対の世論を無視してイラクを侵略しても、米政府が望んでいるようにこの戦争が「正義の戦争」として歴史に記録されるのではなく、戦争犯罪、つまり史上空前の国家テロとしてその名を残すだろう。(政治学者)
http://www.ryukyushimpo.co.jp/special/iraku/030314.html