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社説
12月02日付
■イラクの自衛隊――3月までに完全撤収を
イラクの人道復興支援を目的とした自衛隊の派遣期限が14日に迫った。撤収論が多数派となった世論を押し切るように、小泉首相は来年12月まで1年間の延長を10日の閣議で決めようとしている。
私たちはこれに反対である。
米英軍の侵攻から1年8カ月を経ても秩序が安定する兆しは見えず、とくに駐留地の治安を担うオランダ軍が撤収する来年3月以降、自衛隊が安全に活動できる保証がない。自衛隊による人道復興支援の限界も見えた。何より、米国に同調したからといってイラクの再建がうまくいくとは考えられない。
●活動は評価するが
首相が今すべきことは、こうした現実に立って、予定されている国民議会選挙が終わり、オランダ軍が引き揚げる来年3月までに自衛隊を完全に撤収させるという決断を下し、イラクの自立につながる日本の役割を考え直すことだ。
自衛隊の派遣が決まった1年前、朝日新聞は「日本の道を誤らせるな」と題した社説を掲載し、派遣に反対した。
イラクではテロにせよゲリラにせよ、戦争が続いている。戦争を避けて身を守るのは不可能に近い。民衆の心も米英軍に温かくはない。国際社会の足並みも乱れたままだ。いまイラクに自衛隊を送るのは「平和立国」を指針とする日本にとって危う過ぎる。それが理由だった。
これまで自衛隊員には一人の負傷者もなく、戦闘に巻き込まれることもなかった。それは何よりも幸いだった。安全な地として日本政府が選んだサマワで続けた給水や学校、病院の補修などの活動は、地元住民を対象にした本紙世論調査でもきわめて高い支持を得た。この実績は評価したい。
ただ、そのことだけで自衛隊の派遣を語るわけにはいかない。自衛隊を米英軍と一体と見なす勢力が日本人を人質に取る事件が相次ぎ、1人が殺害された。こうした犯行は許されない。しかし、被害者も不注意だったにせよ、自衛隊がいなければ事件はなかった可能性が高い。
●自衛隊の限界が見えた
こうした危険性から日本の援助団体も退避している。自衛隊にこだわることが他の活動を制約しているとも言える。
米軍は力で抵抗勢力をおさえ込む。それが反米感情を高め、衝突を広げている。来月の議会選挙を前にした作戦にイスラム教スンニ派が反発し、逆に選挙が危うくなってもいる。サマワも例外ではない。自衛隊宿営地も砲撃された。
そんななかで、転機となるのが3月のオランダ軍の撤収だ。政府は英国に対してサマワの治安維持を引き継ぐよう要請したが、これまで通りにはいかないというのが外務省などの見立てである。
もともと特措法が定めた「非戦闘地域」とは、将来にわたって安全が見込める場所という意味だ。それが今以上に空文化するのを認めるわけにはいかない。
自衛隊による支援の役目も終わったと言える。給水事業は、来年はじめにサマワに日本が提供を始める6基の浄水器が主役となる。供給量は自衛隊の16倍だ。「学校などの補修に多くの要請がある」と大野防衛庁長官は言うが、バグダッド周辺でさえ、日本政府の資金を使って自衛隊と同じようなインフラ整備事業への支援が始まっている。
これらは1件数十億円だ。一方、自衛隊派遣にはすでに300億円が投じられた。かなりの部分が隊員の安全のための装備や食料、手当などだ。税金を使った援助の効率性も大事な視点である。
自衛隊の駐留がサマワという一地域の人々にとって有益であっても、それがイラク全体の復興をどれだけ助けてきたのか。その点も大いに疑問だ。
●首相は出直しの決断を
自衛隊を撤収させることは、厳しい決断だ。イラクをめぐる欧州の米国離れが著しい時だけに、ブッシュ米政権は失望を表明するだろう。日本はテロとの闘いから脱落するのかと批判を浴びるのを恐れる声も、自民党や政府にある。
しかし、ここはもう少し考えてみたい。今のままイラクでの活動を続けることが本当にテロに勝ち、イラクを安定させる道だろうか。逆に、自衛隊も一員である多国籍軍が実質的な占領軍として居続けることが、多様な勢力の政治参加を妨げているのではなかろうか。
1年延長の理由として政府は、多国籍軍の活動期限が国連決議によって来年末までとされていることをあげる。だが、参加国の活動期間がすべて1年にしばられる必要はない。オランダ軍が撤収するのも、1月に選挙が終わるのを見届ければいいという理由だ。
選挙から新政府発足へというプロセスが円満に進むならそれに越したことはない。だが、米国のイラク政策についていっても、実現を助けることになるのか。多くの国が疑問を感じているからこそ、撤収が相次ぐのだろう。派遣延長反対が6割を超す日本の世論も同じ意識を反映していると言える。
イラク人自身による国づくりが軌道に乗れば、いずれ平和維持などに自衛隊の出番はあるはずだ。「恐れず、ひるまず、とらわれず」が首相の看板だ。いまはイラクの現実を見据えて、その言葉通り撤収で出直す時だ。
http://www.asahi.com/paper/editorial20041202.html