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香田さん殺害 困惑の国内信徒ら (東京新聞)
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投稿者 彗星 日時 2004 年 11 月 05 日 12:08:52:HZN1pv7x5vK0M
 

特報
2004.11.01

香田さん殺害 困惑の国内信徒ら
イスラム敵視の不安

 イラクで武装勢力の人質になっていた香田証生さんが殺された。日本国内では「無謀すぎる」「自衛隊派遣が根本要因」など、意見が飛び交った。その傍ら、不安に揺れている人々がいる。国内のイスラム教徒や関係者たちだ。この間、イスラム圏での対日感情の悪化と裏腹に「イスラム教徒はテロリスト」といった社会的な“ムード”にさらされてきた。今回の殺害事件はそれを増幅しかねない。

 日本でイスラム教の布教や教育活動を進めるイスラミックセンター・ジャパン(東京都世田谷区)は、香田さん人質事件の発生を受けて先月二十七日、「人質になった方の苦衷を察し、全能なるアラーに無事を祈ります」という声明を出した。ところが、これまでに嫌がらせのファクスが計六十四枚届いている。文面は、いずれも「お前らは(イスラムの戒律が禁じる)豚肉でも食べていろ」といった低俗な内容だった。

 イラク生まれで、同センターで働くコタイバ・サマライ氏(33)は表情をこわばらせつつも「今回のファクスは文面がみな同じなので、全体でみれば、ごく少数の人の行為ではないか」と受け止めようとする。

 「私自身は香田さんが殺されたと聞き、とても悲しい。罪のない人を巻き込むテロリズムをイスラムは認めない。しかも、今回の犯行集団はイラク人ではなく、外国人の過激派だ」

 二〇〇一年の9・11事件後も、同センターには日本在住のイスラム教徒から、「通りがかりに『テロ』と呼ばれた」など二、三件の報告があった。同センターによると、国内のイスラム教徒は約二十万人で、うち五万人が日本人という。

■「迷惑かけた」と励ましメールも

 一方で、今回は少数派の国内イスラム教徒への差別が起きやすい状況を察し、イスラム教徒ではない日本人から「あなた方に迷惑をかけて申し訳ない」と励ましのメールも数通届いた。

 サマライ氏は三十一日、東京・世田谷区内で開かれたキリスト教、仏教、神道などの宗教者有志が集まる「世界平和を祈る集い」に参加した後、こう話した。

 「イスラムは直訳すると“平安”に当たり、平和の宗教だ。清潔、信義、礼節、弱者を救う、といったイスラム教徒の価値観は日本人と共通する。イラク人は日本人には友情というより愛情を感じている」

 一方、東京都内で最大のイスラム寺院「東京ジャーミイ」(渋谷区)の渉外担当者は「ここは宗教施設なので、邦人誘拐のような政治的な話はできない」と口をつぐんだ。コメントすること自体を警戒した。

 「警察は何で監視しているのか」。サウジアラビアのイマーム・ムハンマド・イブン・サウード・イスラーム大学の東京分校「アラブイスラーム学院」(港区)ではアラビア語を学んでいる日本人学生から、そんな不満が上がっているという。

 同校にはイスラム寺院もあり、礼拝日の金曜日には周辺の路上で最近、情報収集が狙いか、複数の私服警官たちの姿がみられる。

 同校の日本人学生の一人は「警官に話しかけると、近くには中国大使館もあり、交通事故の警戒とか言ってましたが、監視目的は明確で気分が悪い。今回の事件後、北朝鮮問題で、朝鮮学校の生徒が襲われたようにヒジャーブ(スカーフ)姿の女性イスラム教徒が襲われたりしなければ、よいのですが」と懸念した。

 実際、日本の公安当局は明日二日の米大統領選も意識して、日本国内に潜伏している可能性のあるイスラム過激派や協力者の把握に努めるとしている。ただ、ことし五月の「アルカイダ関係者潜入事件」では無実の外国人イスラム教徒らが風評被害に遭った。
 
■米国では迫害が9・11後に3割増

 一方、イラク戦争当事国の米国では、二〇〇一年の9・11事件後、政府が「テロとの戦いであって、イスラムとの戦いではない」と宗教対立を表向き否定しているものの、イスラム教徒への人権侵害は深刻だ。
 
 米国内のイスラム団体「米・イスラム関係評議会(CAIR)」によると、9・11事件後、一年間でレイプや殺人も含め国内イスラム教徒への迫害事件は三百二十六件発生。事件前に比べ、約三割増えた。
 
 日本では今回の事件後、社会が米国のような状況に変質していくのか。
 
 自らイスラム教徒である同志社大学の中田考教授(現代イスラム運動)は「日本では問答無用の犯行集団というイメージが横行しているが、日本政府も相手からみれば、対米関係を優先して問答無用だった。それが(穏健派の)イスラム聖職者協会が今回、協力を拒んだ本当の理由だ」と指摘した上で、こう語る。
 
 「彼らが暴れるのは力の論理がすべてという米国に対し、力で対抗するほかないという反作用。いじめられれば、黙ってないという姿勢の表れだ。米国も欧州もそうした認識があるが、日本社会では日本がいじめる側にあるという自覚がなく、感情的にイスラム教徒を悪と受け取りかねない」
 
 チェチェン取材の豊富な経験があるフリージャーナリストで、イスラム教徒の常岡浩介氏は「直接、イスラム敵視の反応を受けたことはないが、知り合った人から先に人質になった高遠菜穂子さんを“迷惑”と評した声は聞いた。理由を聞くと、口ごもるんですけど」と苦笑する。
 
 常岡さんは現在、モスクワでロシア人の友人宅に滞在するが「チェチェンとあれだけ流血があっても、ここではそれと個人の信仰を混ぜない。ただ、日本社会は右へならえで過剰反応しやすい」と不安を漏らす。
 
■イスラム世界と緊張緩和を急げ

 「今回の事件は、日本人が宗教的なターゲットになった最初の事件という意味でショック。メディアの誇張も心配だ。しかし、初めてゆえ、まだ軌道修正も可能なはず。日本社会とイスラム世界の緊張を抑えるために動かなくては」
 
■「スパイと誤認か」識者

 今回の香田さん殺害事件の犯行集団をイスラム武装政治集団と断定した場合、イスラム法上、正当化されるのだろうか。
 
 中田教授は「必ずしも殺す義務はないが、殺害してもイスラム法には反していない」と分析する。
 香田さんはイスラム圏以外の敵陣営から戦闘地帯に入った異教徒だが、非戦闘員だった。この場合、イスラム法上、(1)釈放(2)捕虜交換のための要員(3)奴隷(4)殺害、という四つの扱いが可能性としてある。いずれを選ぶかは、犯行集団の戦術判断に委ねられる。
 
 このうち、奴隷扱いは現代ではありえず、自衛隊も含む多国籍軍との捕虜交換の実現も難しい。釈放すれば、組織の機密が漏れる恐れがあるため、殺害という手段に出たのではないか、と中田教授は推測する。
 
 敵のスパイであった場合は処刑は当然となる。その意味で、香田さんが「敵の中枢」とみなされるイスラエルを経由したため、誤認された可能性も高い。
 
 ただ、救われる可能性もあった。イスラム教徒の友人が安全保障(アマーン)したり、便宜上でもイスラムの信仰告白をし、改宗していれば、殺害は避けられた。だが、香田さんにはそうした用意がなかった。
 
 さらに日本政府が頭から「自衛隊の撤退はあり得ない」と言明したのは事実上の交渉拒否となる。「結果はどうあれ、交渉する姿勢を見せることが、相手の面子を重んじるアラブ世界では欠かせない」と元石油会社駐在員は残念がる。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041101/mng_____tokuho__000.shtml

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