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社説
11月04日付
■ブッシュ氏再選――世界との協調と融和を
大激戦となった米大統領選を制したのは、共和党現職のブッシュ氏だった。イラク戦争やその単独行動主義に対して内外から批判や不信が渦を巻いているなかでの再選である。それにどう応えるのか。これからの4年間、あらためて彼の能力と姿勢が問われる。
イラクでの米兵の死者が千人を超え、戦争の大義の乏しさや大統領の見通しの甘さも明らかになった。それでもこれだけの支持を集めたのは、9・11後の「テロとの戦い」での姿勢が多くの共感を得たためだろう。経済の好転も幸いした。
●善戦したケリー氏
3年前の9・11事件は、米国社会を変えた。人々は愛国的になり、保守的になった。そんななかで当初はブッシュ氏が圧倒的に有利と言われた選挙戦だが、民主党のケリー氏は善戦した。
イラク戦争が米国の国際的な孤立を招いたことや、景気が上向いても雇用が伸びないことを批判し、ブッシュ政権の下で分断された米国の再統合を訴えた。それが、無党派層や若者の支持を引き寄せた。そして、ケリー氏の言葉通り、この大接戦は「分断された米国」の姿をまざまざと見せつけることになった。
両陣営が数百億円を費やし、相手候補を中傷する「ネガティブキャンペーン」が横行し、一部の州で開票に手間取るなど、「民主主義の教師」を自任する国らしからぬ大統領選でもあった。
2期目の政権の第1の課題は、イラク情勢の立て直しである。それにはまず、開戦の経緯や占領をめぐって欧州同盟国との間で深まった亀裂を修復しなければならない。国連やアラブ諸国との連携を深めることも不可欠だ。
これまでと同じように国際協調を二の次にし、軍事力を頼りに反米勢力を抑え込むことに汲々(きゅうきゅう)としているだけでは、安定や復興は遠のくばかりだ。
●イラク政策の転換を
アラブ世界での米国への信頼感を取り戻すには、パレスチナ和平への積極的な関与も必要になる。イスラエルのシャロン政権寄りの政策を切り替え、和平のテーブルにイスラエルを着かせる決意と努力が求められる。
選挙前に世界各国で行われた世論調査は、欧州をはじめ多くの国でブッシュ氏よりもケリー氏の勝利を望む声が多数派であることを示していた。ブッシュ氏はこの事実を軽んじてはいけない。まずイラクや中東和平に対する政策を転換することで、嫌われる米国から尊敬される米国への復活をめざすべきである。
世界は米国抜きには動かないが、世界の共感がなければ米国の望む方向には進まない。もしブッシュ政権が1期目の軌道を修正しないなら、欧州との分断は決定的になり、それは米国自身の不利益となって跳ね返るだろう。
第2の課題は、「二つのアメリカ」があるとさえ言われるようになった米国社会の分裂を修復することだ。
4年前、ブッシュ氏は「思いやりのある保守主義」を掲げて当選したが、実際には、同性の結婚を禁じる憲法改正に賛同するなど、キリスト教保守派の主張に沿った政策を推し進めてきた。特定の宗教や価値観を政治の前面に押し出すことは、国民を分断することにつながる。
米国の民主主義の強さは、何より多様な価値観を受け入れる寛容さにあったことを大統領は思い起こしてほしい。
第3の課題は、拡大する貿易赤字と財政赤字の「双子の赤字」が米国経済の土台を揺るがすのを防ぐことだ。
米国のこのところの経済成長は、中国の急成長とともに、世界的な好景気を引っぱってきた。しかし、金利の引き上げに石油価格の高騰が重なり、米国経済は来年には減速するとの見方が強い。
一方、大規模な減税やイラク戦費の膨張で財政赤字は拡大し、経常収支も悪化している。このままでは、ドルの大幅な下落を招くのは確実で、世界経済全体を混乱させることになりかねない。
●日本は発想の転換を
ベトナム戦争が泥沼化するなかで進んだドル安が「ニクソン・ショック」を呼び起こし、それが「オイルショック」にもつながっていった1970年代初頭の教訓を思い起こしたい。
「ブッシュ氏にがんばってほしい」と本音をもらした小泉首相は、この結果に安堵(あんど)しているだろう。しかし、今後の4年間もブッシュ政権を支持するだけの日本であるなら、世界で独自の責任を果たし、存在感を示すことはできまい。
朝鮮半島を含む東アジアの安定度を高めるには、「政冷経熱」と言われる対中関係を改善することでアジアでの発言力を強め、そのうえで、米国に言うべきことを言う日本でなければならない。
1865年、南北戦争中の選挙で再選された共和党のリンカーン大統領は2期目の就任演説で「全能なる神はみずからの目的を持っている」と述べた。彼が率いた北軍の戦いを「聖戦」視せず、自分の立場を相対化して、分断された国の再統合を展望しようとした。
内と外で深まる溝をブッシュ氏が埋めるには、相手の立場を尊重しつつ融和、協調していく勇気が必要だ。
http://www.asahi.com/paper/editorial20041104.html