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社説
11月01日付
■香田さん殺害――イラクの重すぎる現実
イラクで武装グループに拉致されていた香田証生さんの遺体が星条旗にくるまれ、無残な姿で見つかった。
通りすがりの若者を人質に取り、要求がいれられないと、容赦なく殺す。犯人たちに、心の底から怒りを覚える。
危険な地をあえて旅しようとした香田さんは確かに無謀ではあったが、この死はさぞ無念だったろう。遺族の心中も想像するにあまりある。一昨日には、いったん発見された遺体が別人とわかり、安堵(あんど)した末の悲報だった。
米英軍のイラク占領後に起きた日本人殺害は、昨秋の外交官2人、今年5月のジャーナリスト2人への銃撃に続いて3件目だ。犠牲者はこれで5人となった。
●止まらぬ外国人殺害
米国のブルッキングズ研究所によると、イラクの国内で誘拐された外国人は、すでに150人を超えた。60人余りが解放されたが、殺された人はほぼ30人にのぼる。残りの大半はなお拘束されているか、行方不明のままだ。
異様な数字だ。しかも、手口はますます凶悪になっている。イラクが戦後の復興を進めるためには、外国から多数の民間人を受け入れる必要がある。それなのに、とくに首都周辺は、外国人が容易に近づけない場所になってしまった。
米軍やイラク暫定政府を標的に襲撃やテロを繰り返してきたのは、大別して四つのグループだと見られている。旧フセイン勢力、中部スンニ派地域のイスラム勢力、シーア派の強硬派、そして戦争の混乱に乗じて国外から入り込んだ過激な組織だ。
香田さんを殺したのは、これまで米英人らを殺害したのと同様に、国外からの組織で、アルカイダともつながっているとみられる。米国の要請に応えて軍隊を派遣している国々の政府を脅して「有志連合」の足並みを乱し、秩序をいっそう混乱させることが目的であろう。
その暗躍は、イラクの再建を妨げる。反米的な空気が強い地域でも、外国人の拉致、殺害に対して厳しい非難の声が聞かれるのはそのためだ。
●過激テロ組織の孤立を
だが、13万を超す米軍が駐留を続けているにもかかわらず、過激派のテロを抑え込むことはできていない。ブッシュ米政権は「フセインがいなくなって世界は安全になった」と強調するが、「サダムの脅威」の後を埋めたのは、国際テロ組織のやりたい放題だ。
それが、香田さんの事件が見せつけた紛れもないイラクの現実である。
いま必要なのは、こうした過激勢力を国内の他の勢力から切り離し、孤立させて活動を封じることだ。反米勢力といえども、国内の各派を可能な限り幅広く政治プロセスに結集させ、国の再建をともに担う。そうした態勢をめざすことが、まさにテロとの闘いの根幹のはずだ。
ところが、ブッシュ政権は反米勢力をすべて「テロリスト」にひとくくりにして、来年1月の暫定議会選挙までにいっきに過激派を制圧しようと都市部への攻撃を強めている。それで犠牲になっているのは多数の一般市民だ。これでは過激派が勢いづくばかりではないか。
このことも外国人殺害の急増と無縁でないかも知れない。そうであれば、まさに流血が流血を呼んでいるのだ。
イラクにこの混迷をもたらしたそもそもの原因が、戦後の秩序づくりに十分な構想も準備もないままの無謀な戦争にあることは言うまでもない。戦争に踏み切ったブッシュ政権の誤りをあらためて指摘せざるをえない。
イラクを泥沼からどうやって救い出すか。米軍の撤退や国際協調態勢の再構築へと動くべきではないか。世界も米国ももう一度、原点から考え直すべきところにきている。あすの米大統領選挙で本当に問われているのもそのことだ。
●自衛隊駐留への膨らむ疑問
香田さんを襲った犯人たちは日本政府に自衛隊の撤退を要求し、小泉首相はそれを拒んだ。脅しに応じることはできない。一人の命がかかったことだが、この決断はやむを得なかったと思う。
むしろ小泉首相が熟慮すべきは、こんどの事件にとどまらず、イラク情勢が突きつける現実の重さである。イラク特措法に基づく自衛隊の派遣期限は来月中旬に切れる。日々悪化する治安状況は、駐留の継続条件を大きく揺るがしている。
宿営地があるサマワでは、自衛隊へのテロはないが、ロケット弾で何度か狙われた。香田さんの遺体を星条旗でくるんだのは、自衛隊を米軍と一体と見ているという脅しだろう。
サマワは非戦闘地域だ。復興支援の活動だ。首相はそう言うが、対米関係を重視して無理に無理を重ねた派遣であったことは間違いない。給水などの活動も、もうイラク人に託すことができよう。
来年3月にはサマワの治安を守るオランダ軍が撤収の方針だ。米国のイラク政策が行き詰まった今は、自衛隊の撤収を検討する時期でもある。本社の世論調査でも63%の人が延長に反対している。
ベーカー駐日米大使は香田さんの死を悼んだ声明の中で「平和で豊かで民主的なイラク」への日本の協力をたたえた。だが、現実はこの目標からますます遠ざかっていくように見える。
http://www.asahi.com/paper/editorial20041101.html