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目取真俊さんの、フィクションです。
http://www.asyura2.com/0411/war61/msg/750.html
投稿者 けいこ 日時 2004 年 10 月 19 日 21:51:44:.czHagD0Wg4eY
 

(回答先: 哲学者の高橋哲哉さんら、総合雑誌「前夜」を発刊(10/09 21:21)asahi.com・・・実物はまだ見てませんが 投稿者 いやはや 日時 2004 年 10 月 19 日 19:01:40)

コザ希望
目取真俊

六時のニュースのトップは、コザの市街地からさほど離れていない森の中で、行方不明になっていた米兵の幼児が死体で発見されたというものだった。食堂にいた数名の客と店員の目がテレビに釘づけになる。遺体には首を絞められた跡があり、県警では殺人と死体遺棄で犯人の行方を追っている。決まり文句の後に、街の声が紹介される。怖くて、子供を歩かされないですよ。沖縄も恐ろしくなったね・・・・。画面に映った五十前後の女を目にして、「あい、フミ姉さんが映ってるよ、ほら、小母さんほらテレビ、テレビ」と店の女がはしゃぎ声を上げる。厨房から汗を拭きながら太った女が出てきた時には画面は変わっていて、二人は不満の声を漏らす。取材記者が、新聞社に届いた犯行声明についてコメントしている。手元に置いた夕刊の一面を見る。声明文の写真が載っている。今オキナワに必要なのは、数千人のデモでもなければ、数万人の集会でもなく、一人のアメリカ人の幼児の死なのだ。威嚇的な鋭角と直線の赤い文字。隣のテーブルで沖縄そばをすすっているタクシーの運転手が、早く捕まえて死刑にしれよ、とつぶやく。ただでさえ儲からんのによ、これで観光客がよけいに来なくなったらどうするか。店の女が相槌を打つ。へリから撮影された森とコザ市街の映像の後に、県知事や日米の政府高官のコメントが続く。いたいけな幼児を狙った犯行への怒りと憎しみ。笑いをこらえてカレーライスをロに運ぶ。高ぶった口調の裏にある憔悴や戸惑いを隠せはしない。奴らは従順で腑抜けな沖縄人がこういう手を使うとは、考えたこともなかったのだ。反戦だの反基地だの言ったところで、せいぜいが集会を開き、お行儀のいいデモをやってお茶を濁すだけのおとなしい民族。左翼や過激派といったところで実害のないゲリラをやるのがせいぜいで、要人のテロや誘拐をやるわけでもなければ、銑で武装するわけでもない。軍用地料だの補助金だの基地がひり落とす糞のような金に群がる蛆虫のような沖縄人。平和を愛する癒しの島。反吐が出る。

 店を出て、胡屋十字路の歩道橋を渡り、空港通りを歩く。外出禁止令が出されているのだろう。通りを私服で歩く米兵の姿はない。迷彩色のジープが走り過ぎる。赤色灯を回転させたパトカーが嘉手納基地のゲート前に停まっている。鳳凰木の並木の上に浮かぶハブの牙のような白い月。最低の方法だけが有効なのだ。立ち止まってつぶやく。通りの向こうで、テレビカメラが回っている。横道に入ると、歩調が速くならないように注意しながらアパートに戻った。

 冷蔵庫からウーロン茶の缶を取って一気に飲み干す。机に座り、用意してあった封筒に新聞社の住所を書く。引き出しから取り出しから取り出した小さなビニール袋には麦藁色の毛髪が入っている。スーパーの駐車場に停まった車の、後部座席に寝ていた子どもの横顔が目に浮かぶ。まだ二十歳くらいにしか見えない白人の女は何度も声をかけるが、なかなか起きない。しまいには一人でカートを押してスーパーに入った。飲んでいたウーロン茶の缶をごみ箱に捨て、駐車場を横切る。エアコンをつけてアイドリングにしていた車に乗り込み、県道に出ると十五分ほど北上した。市営団地の北側にある森に入る。荒れた道に車が揺れ出すまで、子供は目を覚まさなかった。後ろから聞こえた泣き声に停車し、振り向くと、起き上がってドアを開けようとしている。男の子で三歳くらいかと思った。すぐに車を止め、後部座席に回ると泣き喚く小さな体を抱きすくめる。背後から首を絞め上げると、喉の奥で何かが潰れ、汚物が腕を汚す。子供の服で拭き、運転を再開して、森の奥にある養豚場の廃舎の陰に車を止めた。ハンカチでハンドルやドアノブを拭く。後都トランクに子供を移し、麦藁色の髪の毛を指に巻き付けてむしり取り、ハンカチに包んだ。トランクを閉めた時、薄曇の空から日が差した。汗まみれの全身に鳥肌が立つ。歩いて森を抜ける途中、車の鍵を埋め、国道に出てタクシーを二度乗リ換えてアパートに戻った。

 エアコンのききが悪く、車の窓を開けても汗が流れ続ける。毛髪の入った封箇を、那覇まで行って投函した。帰途、宜野湾市の海浜公園に寄る。三名の米兵が少女を強姦した事件に、八万余の人が集まりながら何一つできなかった茶番が遠い昔のことに思える。あの日会場の隅で思ったことをやっと実行できた。後悔も感慨もなかった。ある時突然、不安に怯え続けた小さな生物の体液が毒に変わるように、自分の行為はこの島にとつて自然であり、必然なのだ、と思った。広場の真ん中までくると、ペットボトルの液体を上着やズボンにかける。車から抜き取ったガソリンのにおいが目を刺激する。ポケットから取り出した百円ライターの石を擦る。

 闇の中で燃え上がり、歩き、倒れた火に、走ってきた中学生のグループが歓声を上げ、煙を噴いている黒い塊を交互に蹴った。

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