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2004.10.17
社説
週のはじめに考える
過ちを振り返る勇気
時流に合わせてタクトを振る人ばかりがいて、皆が流れに棹(さお)さす社会は不健全です。過去を見つめ、過ちを謙虚に認めてこそ、進むべき道が見えてきます。
「私は自分が正しいと願っているが、間違っていることもあるかもしれない。正しかったか間違いだったかは神が判断されることだ」
第十六代の米国大統領エーブラハム・リンカーンの言葉です。ジョージ・ブッシュ現大統領と小泉純一郎首相に、この謙虚さを学んでほしいと思う人は多いでしょう。両者に共通する「自分は全面的に善で相手はすべて悪」という単純な考えは、独善的とさえいえます。
■決めぜりふで思考停止に
イラクに大量破壊兵器のなかったことが分かり開戦の大義が失われても、アナン国連事務総長が「混乱の続くイラクに法の支配を」と訴えても、二人とも馬の耳に念仏です。
過ちのない人間はありません。大事なのは、そのことを自覚して、過ちと分かったら反省する態度です。それなくしては現在を見直すことも未来を見通すこともできません。
しかし、首相の単純思考を見過ごしてしまう「時代の雰囲気」が日本社会にあることも事実でしょう。
人はとかく時代を支配する価値観やキーワードに引きずられます。改革、国際貢献、グローバル化…それ自体は否定できない決めぜりふには思考停止に陥りがちです。かくして実態を見る目が曇ります。
それでも疑問を抱く人々は「守旧派」「抵抗勢力」と切り捨てられ、時代の流れが加速します。本来はブレーキ役を期待される人たちも、時流に合わせてタクトを振るか沈黙するかするようになります。
これは日本の歴史で何度も繰り返されてきました。
憲法問題を考えてみましょう。自民党の改定案づくりが進み、民主党が創憲、公明党が加憲を唱えて、とうとうたる流れができています。
■憲法と向き合ってきたか
そんな中で国連での小泉演説は象徴的でした。常任理事国入りへ決意を表明しましたが、歴代首相が表明してきた「貢献は憲法の枠内で」という留保がなかったからです。
国際貢献は憲法にとらわれないというのか。常任理事国入りまでに改憲が実現すると考えているのか。日本の転換点になるかもしれない演説でしたが、政界でも国民の間でもさして議論が起きませんでした。
各種アンケートでは国会議員の80%以上が改憲に賛成しています。国民の間でも「憲法は古い」「役に立たない」という意識が支配的のように見えます。
ただ、役立たないという結論は役立てる努力をしたうえで得られたのでしょうか。政治家は憲法九条の精神で国際紛争を解決しようとしたでしょうか。改憲して環境権を盛り込もうと主張する人は、環境を守るどんな努力をしてきたのでしょう。
「そうだ時代に合わない」と同調する人は、憲法に、そして日本と世界の現実に真剣に向かい合ってきたでしょうか。そのことが問われています。憲法を生かそう、役立たせようとしなかった人ほど役立たないと言っているように見えます。
いまの日本の状況をドイツのワイマール憲法の運命とナチス台頭に重ね合わせる考え方があります。
弱者への配慮も行き届き、近代憲法の模範例といまもいわれるこの憲法下の選挙で、ナチスは国民の支持を得て独裁体制を築きました。
暴力で政権を握ったのではありません。民主主義が民主主義を滅ぼしたのです。
名古屋大学法学部の浦部法穂教授は「いまこそ憲法とその理念を学び考える」と題した講演で「ドイツ国民が憲法を大事にしていたらファシズムの登場はなかったろう」と指摘しました。
当時のドイツは第一次世界大戦の敗戦国として過酷な扱いを受け、経済も疲弊して、国民の間に国際社会に対する怨念(おんねん)がたまっていました。社会民主主義的規定を多く含んだワイマール憲法は左右両派から「役に立たない」「ドイツ的ではない」と敵視されていたというのです。
なにやら日本国憲法を取り巻く状況に似ていませんか。
ナチスはこうした雰囲気に乗じ、ドイツ民族の優秀性を強調して権力を握ったのです。
浦部教授は「憲法を大事にしない政治、憲法は役立たないという国民意識のもとでの民主主義はもろい」と言っています。
旧西ドイツのワイツゼッカー元大統領は一九八五年、第二次世界大戦の戦争責任について「過去に目をつむる者は現在も見えなくなる」と国民の自覚を求めました。
■進む道を誤らないために
いまの足元を確かにし、進むべき道を誤らないために、常に過去を振り返る必要があります。
謙虚、誠実は国民の運命を左右する政治家に欠かせない資質です。
政治家に限ったことではありません。世論を形成する国民も、過ちと分かったらそれを素直に認める勇気を持たなければなりません。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20041017/col_____sha_____001.shtml