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社説
2005.01.21
番組改変問題 放送の自律性はどこへ
放送前の番組について特定政治家にあらかじめ説明することを「当然」とするNHKの見解には驚かされる。報道機関は、公正であるだけでなく、公正さを疑われないようにしなければならない。
編集中の放送番組の内容について“政治的介入”があったように最初に報じた朝日新聞と、放送したNHK、介入を疑われた安倍晋三・自民党幹事長代理、中川昭一・経産相らの言い分が大きく違う。真相は究明しなければならないが、報道内容の核心を否定する政治家側と二人三脚のように見えるNHKの対応は、奇異に感じられる。
ただ、NHK幹部が安倍氏に呼びつけられたのか、それとも自発的に訪ねたのか、中川氏が会ったのが放送前か後かは本質的問題ではない。問われているのはNHKと政治家との距離、関係である。
番組の素材である「女性国際戦犯法廷」は歴史観や客観性に関する批判が各方面からあった。公正な番組をつくるためNHK内部でチェックしたり議論するのは当然である。
しかし、放送前、あるいは番組作成中に一部有力政治家に説明したり了解を求めたりするのは内部の議論とはまったく次元が異なる。「放送の自律性」「報道の中立、公正」といった報道機関としての生命線を危うくするものだ。
報道関係者なら政治家への説明を当然とする姿勢にはとうてい共感できないだろう。NHKは番組の改変は圧力によるものではなく自主的判断によるというが、李下(りか)に冠を正したようなもので、疑う方がむしろ自然といえよう。
自戒すべきは政治家も同じだ。予算承認の権限を握っている政治家の発言は、たとえ「公正、中立に」という単純な言葉であっても重い政治的響きを持つ。事後の批判ならともかく、放送前の番組に口を挟むのは慎むべきなのである。
NHK会長を務めた故島桂次氏は著書の中で自民党からの影響力行使がしばしばあったことを認め、放送内容に配慮した経験を記している。
いまでもNHKには国会担当の職員が複数いて日常的に政治家と接触しているという。そうした関係の中で有形、無形の圧力、介入はなかったのか、放送内容がゆがめられたことはなかったか、第三者機関をつくって洗い直し、公表すべきだ。
いうまでもないが番組改変問題と一連の不祥事とは直接は関係ない。仮に改変問題を切り抜けても、不祥事に関する海老沢勝二会長はじめ執行部の責任はいささかも軽減されないことを指摘しておきたい。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20050121/col_____sha_____003.shtml