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H16/12/09
アメリカが金権政治の国だということは前回にも書いたが、金権政治体制において重要な点は、実際に国家を支配しているのは指導者として選出されたブッシュ大統領ではないということである。それでは誰が動かしているのか。「ユダヤの陰謀説」などがまことしやかに言われることがあるが、私は民族的な集団だとは思わない。それを超越した「権力エリート」と呼ばれる一部の巨大な富を持つ人たち、お金や物質的な価値を追い求める人たちが、より多くの財力、そのための支配力と軍事力を求めて、あらゆる政策を決めているのだと思う。
見せかけ2大政党制
今回のアメリカの大統領選挙においても、不正疑惑がいくつも浮上したにもかかわらずケリー側は強力な弁護士コネクションを使ってその問題を公にしたり訴訟をおこしたりすることはなかった。共和党と民主党という、二大政党制というシステムをとっているように見せかけて、実際は同じ人が政府を動かし、政策を決めているためである。そしてこの同じ人たちが主流メディアをほとんど完ぺきにコントロールしているがゆえにこうした事実が報道されることは決してない。
アメリカのこの金権政治体制については、C・W・ミルズが五十年前に「パワーエリート」(権力エリート=日本語版は東京大学出版会より出版されている)という本で詳しく書いている。その内容は今読んでもまったく古い感じがしない。というよりもアメリカでは五十年以上も前から、大会社を支配し、国家機関を駆使し、国家機関における特権を要求し、軍事力を指揮する人々に権力と富が集中してきたということだ。
アメリカ社会は日本やヨーロッパ諸国のように封建時代を経験していない。このためアメリカでは巨大な富を築き上げた人びとに抵抗する、生まれや特権に基づく貴族的な上位者がいなかった。アメリカのエリートたちは、ほとんど敵対者をもたないブルジョアジーとして近代史に登場したのである。ヨーロッパのように軍事的に強い隣国もなく、天然資源にも恵まれたこのエリートたちは、重商主義的な制約に対抗して、自由放任主義の原理を標ぼうしてきた。
欲望と暴力の道
また急速に右傾化するブッシュ政権を、ファシズム、独裁政治などと呼んで危機感が表明されているが、しかし白人がアメリカ先住民に対して行ってきたこと、アフリカからの黒人奴隷に対して行ってきたこと、十九世紀にメキシコの土地を盗み、ハワイを征服しフィリピンを植民地化してきたこと、そして「奴隷解放」後も、アフリカ系アメリカ人にさまざまな権利が与えられたのがそれから百年も後だったこと等々、史実をふりかえればそれらすべてがファシズムや独裁政治であったことがわかるだろう。その「権力エリート」たちは、支配する大企業や軍事力を使って、アメリカのみならず、同じ目的を持つ世界中のエリートたちと共に、果てしない欲望と暴力の道を進んでいる。
それについて、先日興味深い記事が英ガーディアン紙に掲載された。それは、「ブリティッシュ・アメリカン・プロジェクト」(BAP)と呼ばれるもので、一九八五年、イギリス保守党政権時代に設立された。コカコーラやユニリーバ、モンサント、BPなどさまざまな企業がスポンサーとなって、米英の同盟関係を永続的な確固たるものにすることを目的に若手イギリス人とアメリカ人が同じ人数メンバーとなっている。そして九七年、政権についたニュー労働党政権では、閣僚にBAPメンバーが四人以上指名された。このプロジェクトがいかに成功しているかは、九七年からニュー労働党の党首となったブレア首相が、英国民にどんなに反対されてもブッシュを追随する姿勢をみれば誰の目にも明らかである。
不安に陥れる必要
この記事の最後に同じ目的で二〇〇〇年に「米日リーダーシップ・プログラム」が始まったと書かれていた。メンバーは非公開のようだが、諮問委員には日本側は豊田章一郎氏(トヨタ)、小林陽太郎氏(ゼロックス)、槙原稔氏(三菱商事)といったお歴々の名前があった。日本側のスポンサーは日本経団連とみて間違いないだろう。
経団連が武器の輸出を制限した「武器輸出三原則」の見直しなどを求める提言行ったことは以前書いたが、十一月二十日の日米防衛首脳会談では、大野防衛庁長官が武器輸出三原則の緩和を検討していることを告げるとラムズフェルド長官は「方針は適切だ」と評価したという。国際経済、エネルギー、メディアをコントロールする権力エリートはこうして政府を動かし、その際限のない欲望をもとにより多くの財力、軍事力、支配力をその手におさめたいと思っているようだ。そのためにも一般大衆をテロや北朝鮮の核の恐怖で不安に陥れる必要がある。それが権力エリートの策略の一つだということを私たちは忘れてはならない。(アシスト代表取締役)
http://www.nnn.co.jp/dainichi/column/tisin/tisin0412.html#09
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