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新たな「防衛計画の大綱」と次期中期防衛力整備計画が10日、閣議決定され、国際テロ組織の活動や大量破壊兵器の拡散など「新たな脅威」に対抗するため自衛隊と米軍の一体化を進める政府方針が鮮明に示された。自衛隊は、海外での対米協力を強化するとともに、国内では弾道ミサイルやゲリラの攻撃、潜水艦による領海侵犯、大規模災害など「多様な事態」に対応できるよう「機動性」と「多機能」が求められるが、現行組織の維持にこだわる制服組の抵抗も激しく、「脱冷戦」を図る自衛隊改革の行方には不透明さが残った。
【平田崇浩、古本陽荘】
◇武器輸出三原則、なし崩し緩和に危惧も
今までの国際貢献とは、一方的に尽くすという(意味の)言葉だ。これからは世界の平和は日本の平和という認識で主体的に取り組んでいく」
大野功統防衛庁長官は10日、新大綱の閣議決定後の会見で、強調した。
新大綱の特徴は「国際的な安全保障環境の構築」を「日本防衛」と並ぶ安全保障政策の2本柱に位置づけたことだ。特に、「中東から東アジアに至る地域」について「資源・エネルギーの大半を海外に依存する我が国にとって、その安定は極めて重要」と強調し、この地域をテロや大量破壊兵器の拡散が進む「不安定の弧」として重視する米国の軍事戦略と歩調を合わせた。
「不安定の弧」には米国が「テロとの戦い」を展開するイラク、アフガニスタンに加え、新大綱が地域の不安定要因などとして名指しした北朝鮮と中国も含まれる。米軍や多国籍軍を支援する「国際平和協力活動」の本来任務への格上げと、米軍が同盟国に共同配備を呼びかけているミサイル防衛(MD)システムの導入が新大綱に明記されたことで、海外での協力を含む日米の役割分担が一層進むことになる。
米国との共同技術研究を進めてきた次世代MDシステムが共同開発・生産段階に移行した場合は武器輸出三原則の対象外とすることも、10日に発表された官房長官談話に明記された。ここまでは既定路線で、政府の本当の狙いは武器輸出三原則の大幅な緩和にあった。最先端技術を結集する戦闘機などは先進国間の国際開発が時代の流れとなっており、日本だけが乗り遅れることへの危機感が政府・自民党や経済界に強まったためだ。
政府は、MD以外でも、米国中心の多国間の共同開発などを三原則の対象外とすることを明確にする方針を与党に示したが、公明党が難色を示し、官房長官談話では「個別の案件ごとに検討の上、結論を得る」ことになった。しかし、これは、MD以外にも米国中心の共同開発に参加する道を事実上、開いたことを意味している。
武器輸出三原則は67年に佐藤内閣が表明して以来、「平和立国」の象徴だったが、日米同盟強化に伴い、戦後積み上げてきた原則は崩れようとしている。三原則緩和については「運用に厳格さを残さなければ輸出拡大に歯止めがかからない」(米シンクタンク研究員)と、なし崩し的な緩和を危惧(きぐ)する声も出ている。
◇なお北海道に重点配備 自衛隊「脱冷戦」腰砕け
小泉純一郎首相は10日、新大綱について「新しい脅威にどう対応するか。増やすばかりでなく、旧来の不必要なものは削減していく。全体を考えて良い大綱ができた」と自賛した。首相の方針は昨年12月にMD導入を閣議決定したときから一貫していた。今後10年間で1兆円かかるともいわれるMD導入経費は、従来装備の削減などでまかなうという考えだ。
「新たな脅威」に対応するため、大きな変革を求められたのが陸上自衛隊だ。日本全国で発生しうる大規模テロや災害に対応するため機動的に展開する「中央即応集団」を新設。同集団は本来任務に格上げされる海外派遣も指揮し、人材を育成する「国際活動教育隊」も創設される。
しかし、旧ソ連の脅威を前提に北海道に重点配備された「冷戦型」編成は残された。本土への大規模侵攻に備える戦車や火砲は3割以上削減されることになったが、財務省が求めた人員の大幅削減には防衛庁・自衛隊が強く抵抗。駐屯地の維持を求める地元への「選挙対策」(自民党国防族)という思惑も与党に働き、北海道に2師団・2旅団を残す前大綱の方針が踏襲された。
新たな陸自定数15万5000人(2014年末)は前大綱の目標定数16万人(2010年末)より削減されたが、現在の常備自衛官数14万7000人と即応予備自衛官7000人の合計とほぼ変わらない「実員温存」が図られた。数字上は首相の「マイナス」方針が守られたが、「脱冷戦」の陸自改革としては腰砕けの印象を残した。
新たに打ち出された島しょ部への侵略対策としては、離島上空に航空自衛隊の救難ヘリコプター(UH60J)が長時間待機することを想定し、C130輸送機に空中給油機能を加えるほか、上陸した敵の通信機能を無力化する戦闘機搭載型の「電子妨害装置」の研究開発にも着手する。島しょ部防衛の強化は東シナ海や太平洋へ海洋進出を図る中国を意識したといえるが、これらの装備は隣国を攻撃できる「敵地攻撃能力」の保有に限りなく近づくため、国是の「専守防衛」を逸脱する可能性もある。
◇小泉首相、中国脅威論を否定
小泉純一郎首相は10日、新たな「防衛計画の大綱」に中国の動向に注意する記述が入ったことについて「中国は核兵器を保有してますしね。必ずしも核兵器を持っているからといって脅威ととるわけじゃない」と述べ、中国脅威論ではないとの認識を示した。首相官邸で記者団の質問に答えた。
細田博之官房長官も同日の記者会見で「核戦力を含む大規模な軍事力が存在するわが国周辺において、経済的に成長を続ける中国に安全保障面でも注目していく必要があるとの認識を述べたものだ」と説明。「中国を脅威とみなしていることではない」と強調した。
◇文民統制堅持への運用原則確立を
五十嵐武士・東大教授(米国政治外交史) 新たな防衛大綱・中期防は、自衛隊の活動範囲を従来の「自衛」から「自衛以外」の安全保障対策に乗り出す方針を明確にしたものであり、軍事技術面でも国際協力の強化を打ち出した。北朝鮮問題や中国原潜の領海侵犯などで、現実にこうした対策を取る必要性があるのは事実だが、それには相応の自覚と、文民統制(シビリアンコントロール)を堅持するための運用原則の確立がセットでなければならない。
「自衛以外」にまで活動幅を広げることについて、日本は他国から評価される環境を作ってきただろうか。韓国や中国は自衛隊のイラク派遣をけん制している。端的に言えば、靖国神社参拝が広げる波紋も同じだ。日本の行動が国際的にどう受け止められるかを内閣、特に首相がもっと配慮する努力をしなければならない。武器輸出三原則の緩和についても、米国と協力するからと容認するだけではすまない。何を基準に(緩和の対象になる)防衛兵器と攻撃兵器の違いを判断するのか、「専守防衛」の大原則に抵触しないのか、といったことを外部から検証できる体制がなければシビリアンコントロールの根幹にかかわる問題につながりかねない。
自衛隊がテロ対策や国際的な警察活動に本格的に乗り出すことの国際的な意味は、軍事だけでなく、より総合的な方針として組み立てなければならず、課題は残っているといえる。
毎日新聞 2004年12月11日 1時59分
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/feature/news/20041211k0000m010175000c.html