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新時代への底流に変化【11月26日の講演より】 (森田実の時代を斬る)
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投稿者 あややの夏 日時 2004 年 12 月 03 日 15:46:31:GkI4VuUIXLRAw
 

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2004.12.2

Q君への手紙(PART4)/水と防災の政治学[27]

新時代への底流に変化【11月26日の講演より】

「すべての権力は崩れ去る。絶対的権力は絶対的に崩壊する」(アクトン、英国の歴史家)

Q君。「最近森田さんはどんな講演をしているのか教えてほしい」との君の要請に応え、11月26日の名古屋での講演要旨を書きます。テーマは「2005年の政局と政治経済の展望」でしたので、今回も「水と防災の政治学」と少し離れますが、私の「水と防災の政治学」の根にある基本的な考え方として読んでください。記憶だけで書きます。

 新しい流れが出版から動き始めた

 Q君。最近、出版界に新しい動きが出てきました。今年の春頃までは、政治、経済、社会、国際関係の新刊書のほとんどが、ブッシュ大統領のネオコン政治と小泉構造改革に同調するか、中立的なものでした。批判本は少なかったのです。しかし、この夏頃から流れが変わってきました。年末には、多くの批判の本が出版されるでしょう。来春はさらに増えるでしょう。

 ジャーナリズムには、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、書籍などの形があります。地上波のテレビと大新聞がいわゆるマスコミです。

 日本のマスコミは大勢順応型です。政治権力と癒着しています。マスコミは苦しくなると政治権力に近づきます。報道機関が政治権力と癒着すると、マスコミからも政治権力からも緊張感が消えて活力を失います。これは人類の歴史のなかで何回も何回も繰り返されてきたことです。今、日本のマスコミは政治権力と癒着することによって緊張感を喪失し、謙虚さを失い、堕落しています。

 しかし、出版界はいつまでも政治権力の下僕の立場に甘んじてはいません。出版編集者は言論の自由の大切さを知っています。しかし、大新聞の記者や大テレビ局の報道記者には言論の自由が大切なものだという意識が欠けています。だから、簡単に政治権力の下僕になってしまうのです。

 出版界は違います。出版界には自由があります。自立心があります。政治権力に媚びない反骨精神があります。出版界は真実と善と美を追究しています。一時、ブッシュ政権のネオコン政治や小泉構造改革に惑わされ、ネオコンと構造改革の本ばかり出版したこともありましたが、今はそのような愚かさに気づき、目覚めました。反ブッシュ政治、反小泉構造改革の書籍が出版され始めました。そして――これが一番大事なところですが――、読者が新しい傾向の書籍の出版を支持しているのです。読者の意識が変わってきました。  


 7冊の新刊書
 
   私が読んだ新刊書のなかから7冊だけ選んで紹介します。
 1冊目はブッシュ米国政府が推進している全世界の市場経済化を真っ向から否定した本です。著者はデービッド・カラハン(米国の若い社会研究家、ジャーナリスト)、著書名は『うそつき病がはびこるアメリカ』(小林由香利訳、NHK出版、2004年8月刊)です。副題は「行き過ぎた市場主義がもたらしたもの」。表紙には「弱肉強食社会の末路を描き出した注目の文化論」「公正さも誠実さもなくしてしまった。もうこの国では正直者は生き残れない」と書かれています。米国人が競争社会で生き残るために、多くの人が嘘つきになってしまっている実態が明らかにされています。

 2冊目は関岡英之著『拒否できない日本――アメリカの日本改造が進んでいる』(文春新書、2004年4月刊)。
 この本のことはこれまで何回も紹介しましたが、関岡氏は次のように書いています。
 「いまの日本はどこか異常である。自分たちの国をどうするか、自分の頭で考えようとする意欲を衰えさせる病がどこかで深く潜行している。……まるで癌細胞があちこちに転移しながら、自覚症状のないまま秘かに進行していくように、私たちの病はすでに膏肓に入りつつある」。
 この10年の日本を動かしてきたのは、毎年米国政府から日本政府に出された『年次改革要望書』であることが明らかにされています。日本が米国政府の望みどおりの方向を変えられたことが資料にもとづいて明らかにされています。これも、衝撃的な内容の本です。

 3冊目は田中宇著『アメリカ以後――取り残される日本』(光文社新書、2004年2月刊)。
 ?アメリカが衰退するはずがないという前提で日本が日本の将来を考えているのは非常に危険なことである?との認識が著者の根底にあります。

 4冊目はモード・バーロウ他著『「水」戦争の世紀』(集英社新書、2003年11月刊)です。水の危機が近づいていること、しかも水資源が一部巨大資本に独占されつつあることを指摘し、水資源を守り、再生させる方策を示しています。

 5冊目は藍正人著『なぜ中国で失敗するのか』(ダイヤモンド社、2004年11月刊)。中国における日本企業はもはや「負け組」になっていて、きびしい状況に置かれているのです。小泉首相が靖国参拝など子供じみた「火遊び」をしているような状況ではないことがよくわかる本です。

 6冊目は高橋乗宣著『2005年日本経済――世界同時失速の年になる』(東洋経済新報社、2004年11月)。表紙には「大増税時代の到来で『負け組』は窮地に追い込まれる」とあります。きびしい時代の到来を予言しています。

 7冊目は水野隆徳著『このままアメリカと心中する気か』(ダイヤモンド社、2004年11月刊)。表紙には「小泉首相、竹中大臣よ、日本をこれ以上売り渡すな!」と書かれています。

 このような米国中心時代を批判し否定する書籍が次々と出版され、読まれているということは、時代の変化の兆しです。時代が変わり始めました。書籍が事態を動かすのです。


 超大国の衰退

   歴史は、古いものが滅び、新しいものが生まれる――この人間の営みの繰り返しのなかで時代は動きます。アメリカ政府による戦争政策は、ただ人を殺し、弱い立場の人々に苦しみを与えるだけの野蛮な行為だと私は思います。弱肉強食そのものです。

ブッシュ政権は、アメリカ政府に従わないものを容赦なく殺害しつづけていますが、米軍の野蛮な行為は、全世界の諸国民の心のなかに嫌米・反米感情を拡大再生産しつづけています。アメリカ国民以外のほとんどすべての世界の人民の反米感情は、やがてアメリカ政府とアメリカ国民の上に、跳ね返ることは間違いありません。

 アメリカが現代社会のなかで唯一の超大国であることは明らかなことです。軍事的に対抗できる力をもつ国はありません。米軍からの攻撃を受けて跳ね返す力はどこにもありません。しかし、アメリカは軍事優先の裏側で墓穴を掘りつつあります。

 一つは、莫大な戦費がアメリカ政府の財政赤字を深刻なものにしていることです。ドルの信用が落ちています。これがアメリカ経済に暗い影を落としています。

 もう一つは、全世界に広がる反米感情です。米国はいつか壁にぶつかります。2年後かもっと早いか、その時期は近づいています。戦争は勝っても負けても国力を衰退させるのです。

 日本の政治転換への胎動

   日本の政治の大転換も近づいています。ブッシュ政権が方向転換に追い込まれれば、小泉政権はブッシュ政権に従うことになります。
 しかし、危機はそれ以前にくる可能性があります。小泉政治は国民の期待を裏切りました。

 一つは、日本社会の分裂と犯罪社会化です。勝ち組と負け組と中間派に分裂しました。大多数が負け組です。その結果、失業者、フリーターが急増し、犯罪者が増加し、数年前までの安全社会が犯罪社会に変わってしまいました。

 二つは、地方の衰退です。地方は、現実に起きていることが、小泉首相の「中央から地方へ」の政治路線とは正反対の中央集権制強化であることを思い知らされています。地方がいままでのように小泉政治を支持しつづければ、気がついたときには地方自治は崩壊し滅亡してしまっているでしょう。このことに地方自身が気づき始めたのです。

 三つは、増税です。小泉政権と財務省は増税まっしぐらです。日本経済が下降局面に向かっているときの大増税が何をもたらすかは、橋本内閣の失政が大きな教訓です。小泉首相と財務省は日本をつぶそうとしているのです。

 四つは、日本国民が、小泉政権の本質に気づき始めたことです。すなわち、小泉政権の米ブッシュ政権に従属し、アメリカの国益を日本の国益より優先させていることに、多くの国民が気づいていたのです。

 五つは、小泉政治の不真面目さ、嘘の多い政治に、心ある人々が強い不信を持ち始めたことです。

 小泉政治を支えているもの

   しかし、小泉政権には依然として強い力があります。

 一つは、マスコミが小泉政権を支え守っていることです。マスコミは小泉政権に不利な情報は伝えていません。たとえば、小泉政権が推進する郵政民営化は、アメリカ政府の強い要望にもとづいているという情報を報道していません。マスコミが小泉政権の用心棒の役割を果たしているのです。

 二つは、公明党の存在です。公明党が小泉政権を守っています。

 三つは、政界全体の無気力です。野党には小泉政権と対決して、小泉政権を倒そうという気概が感じられません。自民党内の反小泉勢力もいまだ結集力が弱く、政局転換の馬力が感じられません。

 四つは、なんといっても中央官庁の強大な力です。小泉首相は「官から民へ」のスローガンのもと構造改革を進めてきましたが、気がつけば、破壊されたのは地方と民間と議会と自民党です。中央集権官僚制は強化されました。内閣、金融庁、財務省、総務省の権力は以前とは比較にならないほど強大なものとなりました。「官から民へ」のスローガンのもとに中央官庁独裁ともいうべき強大な官僚制がよみがえったのです。
 中央と地方との関係も、「中央から地方へ」のスローガンのもとに、中央の強化と地方の弱体化が進められました。中央官庁は強大になりました。この強くなった中央官庁が小泉内閣を支えているのです。

 五つは、アメリカの巨大権力とアメリカの影響力です。いまでは日本社会の隅々にまで、アメリカの影響力が浸透しています。要人がアメリカ批判を行えば、すぐに反撃を受けるほど、日本社会のなかにアメリカ主導の情報網が整備されているのです。日本はアメリカ合衆国の一部分になりかけているのです。これが現実です。


 日本をとり戻すために

   60年周期説に立ちますと、戦後60年の大周期が終わり、新たな60年が始まります。この新しい周期の課題は、日本の再生です。日本の再生は、政治、経済、社会、文化、宗教などすべての分野で起こることになります。

 最初は政治の大改革から始まります。政権交代です。選挙によって自民党から民主党に政権が代わるという形とともに、政界大再編成も考えられます。また自民党・公明党の連立体制のなかでの「体制内改革」もありますが、これは、短期的には可能であっても長期的には持続する力はないでしょう。

 同時並行的に進むのが経済の改革です。アメリカ一辺倒的市場経済主義は破綻することは間違いありません。すでに破綻しかけています。より中道的な混合型の経済システムへの移行が行われなければなりません。キーワードは「調和」です。強者と弱者の調和、中央と地方の調和、大企業と中小零細企業の調和、などです。

 そして、決定的に重要なのは「思想文化」です。日本的精神を再確認し、真の独立国となることです。

 戦後長い間にわたって対日政策に深く関わった、ある著名なアメリカの学者は、非公式に次のように語ったという話を耳にしたことがあります。

 《中国にも韓国にも東南アジアの国々にも、それぞれの「国の精神」というべきものがある。中国、韓国に力があるのは、この「精神」があるからだ。だが、日本は「日本の精神」をなくしてしまった。日本には何もない。「日本」がなくなってしまったのだ。日本の将来が本当に心配だ。》

 たしかに、悲観的にみますと、日本のアメリカ化によって日本的精神が見えなくなっています。しかし、これは喪失したのではなく、アメリカイズムのエピゴーネン(追随者)と化した学者、マスコミ人、エリート官僚、政治家によって抑えられているだけです。地方では力強い「日本の魂」が蘇生してきています。礼儀正しく謙虚な日本的精神は地方で“どっこい生きている”のです。この「日本の魂」がよみがえるのは歴史の必然だと私は信じています。もうすぐです。日本はアメリカの支配から独立します。その第一歩が小泉政治の克服です。2005年の課題がここにあります。

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