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(回答先: 大体イデオロギーなんてのは階級闘争を有利にするためのへ理屈でしかない 投稿者 スパルタコスポノ 日時 2005 年 4 月 12 日 09:59:32)
よい子のイデオロギー
――名探偵ゲーデル先生が買い物帰りのところ、商店街をぶらぶらしている助手のカンパネルラ君に出会いました。
[ゲーデル]
おやおや、カンパネルラ君。いい若いもんが、こんな時間からぶらぶらして。学校がいやなら、軍隊に入れてしまうよ。
[カンパネルラ]
あ、ゲーデル先生。ちがうんです。実は昨日、抜き打ちで持ち物検査があって、それで3日間の停学になったんです。
[ゲーデル]
やれやれ。君のことだから、大方、イデオロギーでも持ち込んだのだろう。戦後生まれの校長が全国でも過半数を超えてからというもの、何か勘違いした連中がそういうことにナーバスになっているからね。
[カンパネルラ]
全然違います。でもイデオロギーって何なんですか?
[ゲーデル]
そんなことはとても私の口からは言えないよ。何しろ「イデオロギー」という言葉にはおおざっぱにいっても76個くらいの用法があるのだから。
[カンパネルラ]
なんだか、クーン(科学史家)が言ってた「パラダイム」みたいですね。つまりその言葉を使えば、何だって言えるということですか?
[ゲーデル]
しかしまるで何の役に立たない訳ではない。カンパネルラ君、今なら君に「右翼」と「左翼」の見分け方を教えて上げられるよ。
[カンパネルラ]
ぼくらが食えないのは、「国家が悪い」という抽象論に傾くのが左翼で、「アメリカが悪い」と妙に実体的な批判するのが右翼でしょ(笑)。
[ゲーデル]
どこかで聞いた話だねえ(笑)。ともあれ、「イデオロギー」というものを、何か意識的なものと思っているのが「右翼」、無意識的なものと思っているのが「左翼」だと思って間違いない。君が将来、教師にでもなって、校長先生から「イデオロギー調査」を受けたときなんか、きっと役に立つぞ。
[カンパネルラ]
じゃあ「あいつはイデオロギーを唱えてる」と誰かのことを悪口言う人たちは「右翼」なのですね。でもイデオロギーを唱えている当人は「左翼」なのではないですか。
[ゲーデル]
唱えている当人は、自分の唱えている主義主張をイデオロギーとは思っていないんだよ。
[カンパネルラ]
じゃあ、何だと思ってるんですか?
[ゲーデル]
もちろん「科学」だよ(爆笑)
[カンパネルラ]
(爆笑)
[ゲーデル]
しかし君もひどいこと言うね。
[カンパネルラ]
言ったのは先生ですよ。それじゃあ「右翼」の人のことを、「左翼」の人はどう思ってるんですか?
[ゲーデル]
「あいつらは(自分がとりつかれてる)イデオロギーに無自覚だ」「だから平気でそのイデオロギーの押し付けをする」とでも思っているのだろう。
[カンパネルラ]
でも「右翼」の人は、イデオロギーといえば唱えたり信じたりするものだと思っているから、「左翼」の人の言うことがわからない。あのイデオロギー野郎ども、自分のこと棚にあげて何ぬかす。教育の場にイデオロギーを持ち込むな。ごちゃごちゃいわずに君が代歌え、国のために死ね、となる訳ですか。
[ゲーデル]
なんで君の停学が3日間だけなのかと思ってしまうね。
[カンパネルラ]
要するに「イデオロギー」は口臭のようなもので他人だけが持っているんですね。
[ゲーデル]
おやおや、カンパネルラ君。聞いたようなことをいうじゃないか(しかし、それをいうなら「アホ言うもんがアホじゃ」だよ)。
[ゲーデル]
誰もがイデオロギーを持っている(あるいはとりつかれてる)のだとわかっても、お互いのイデオロギーは時にお互いに相いれないものである場合があるとわかっても、話はそれでおしまいではない。
[カンパネルラ]
その程度のことなら、誰でも言えますものね(それに「私もイデオロギーに冒されてる。しかしお前ほど狂信的ではない」とか言うんですね、アメリカ人は)。
[ゲーデル]
さあカンパネルラ君、辞書を引きたまえ。今もみたとおり、現在では「イデオロギー」というのは大抵の場合「政治的な悪口」だ。そして、そういう用法の元祖がほかならぬナポレオン・ボナパルトなんだよ。
[カンパネルラ]
ああ、あのチビ。で、ナポレオンの辞書には何と書いてあるんですか。
[ゲーデル]
「できもしないこと(理想)を言って民衆を惑わせる夢想家ども」をナポレオンは「イデオローグ(イデオロギー野郎)」と呼んだ。
[カンパネルラ]
なんだ、やっぱり共産主義者のことじゃないですか。
[ゲーデル]
ナポレオンが言ったのは、人民主権を説く思想や連中のことだったんだけどね。
[カンパネルラ]
なんだ、やっぱり民主主義はイデオロギー(夢想)なんですね。
[ゲーデル]
いやいや、ナポレオンが相手にしたものをいうなら「啓蒙主義」というべきだろう。だいたいデモクラシーは政治形態であっても主義(イズム)じゃない。しかしこの「勘違い」はあとで振り返る必要がありそうだね。
[カンパネルラ]
主義(イズム)っていうのも、けっこう悪口ですものね。
[ゲーデル]
さて、「イデオロギー」のナポレオン的用法はその後大流行した(なにしろ、いまでも随分と残っているくらいだ)。つまり社会理論から派生する社会政策に対して保守派が反対を述べる時なんかに。
[カンパネルラ]
要するに強い奴(権力者)が弱い奴(学者・理論家)を嘲笑うときの言葉なんですね。
[ゲーデル]
だから英語の「イデオロギスト」は「革命家」とほとんど同義だったこともある。当然、当時流行の社会主義者(彼らも独特の社会理論を持っていたからね)をくさすのにも用いられた。次第に適用範囲が拡大して「抽象的、非実際的、狂信的理論の信奉者」とされる相手への悪口として広く用いられるようになったのだよ。
[カンパネルラ]
じゃあ、相手を「イデオロギー」よばわりする人は、自分が具体的で、実際的で、ヘルシーで自己管理がしっかりしててデブじゃなくて、おまけに狂ってないと思ってるんですね。なんだかアメリカ人みたいなやつだなあ。
[ゲーデル]
要するに、今「実際」に権力を握っている連中は、理論や主義主張を唱えるだけでなく、「具体的」に施策を打つことができるのだからね。
[カンパネルラ]
それで自分はそんな「空疎な理論(=イデオロギー)」を信じて現実を見失うなんてことはなく、経験を(現実を)重んじているのだとか言い出すんですよ。なんだい、実際やってることは「長いものには巻かれろ」じゃないか。
[ゲーデル]
今君が言ったところに「イデオロギー」を単なる「幻想」や「予断」、あるいは「党派性」としてすませられない理由が埋まっている。イデオロギーが「幻想」であるにしても(そう言って勝ち誇ってみることは、「誰もがイデオロギーにとりつかれてる」と言うのと同じくらい簡単だ)、そのイデオロギーがどんな機能を果たすのか、といった面の考察が残っている(そしてそれこそ、マルクスたちのはじめたことだった)。
実をいうと、マルクスとエンゲルスが『ドイツ・イデオロギー』で導入した「イデオロギー」の用法は、あまりナポレオン的用法と変わりないものだった。今度も「政治的悪口」であったし、批判の槍玉にあがっているのも、当時のドイツの知識人たち(しかも急進主義者たち)だったし、批判の内容も「おまえら分かってない(現実についての逆さまの見解=イデオロギー)」というものだった。
[カンパネルラ]
イデオロギーというのは「(現実をとらえない)うその思考」だと。ほんとにナポレオンとかわりませんね。それでも連中は左翼のつもりなんですか?
[ゲーデル]
しかし、その「代案」については、マルクス=エンゲルスとナポレオンでは違った。つまりイデオロギーが「うそっぱち」なら、なにが「ほんとう」なのか。愛すべきナポレオンは「人間の心と歴史の教訓に関する知識」がそうだと言った。
[カンパネルラ]
わはは(笑)。まるで「プレジデント」が大好きなハゲ中年みたいですね。戦国武将の顔おがんでるくらいなら、英単語のひとつでも覚えりゃいいのに。
[ゲーデル]
なにしろナポレオンは『プルターク英雄伝』がお気に入りだった。それに対してマルクス=エンゲルスがいう「ほんとう」は、他ならぬイデオロギーが生み出され、力を発揮する仕組みについての知識だった。
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