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決して表に出てこない男がいる。
勲三等を約束されたその男は、しばしば園遊会に呼ばれる。
またある時は、時の宰相とも膝を詰めて話をする。
全国1万8800を数える「町の郵便局」の頂点に君臨する
全国特定郵便局長会(全特)会長、清水勝次、66歳――。
彼の地位は、自民党最大の支援団体トップとして強大なる
影響力を持ち、「影の総理」とも呼ばれる。
2001年4月、これまでマスコミの前に登場したことのない
“権力者”は、静かに4年の任期を終えようとしていた。
振り返れば、彼は会長時代、「郵政民営化論」と戦い続けてきた。
就任した1997年は、橋本政権下、行政改革の嵐が吹き荒れていた。
民営化がほぼ決まったと思われたところから、清水率いる全特は
組織を挙げて壮絶な反対運動を繰り広げる。腰の重い自民党を、
「支持政党の変更も辞さず」と脅し上げて民営化反対に動かし、
「国営公社化」へと議論を押し戻した。
ところが退任を前にして、民営化論の急先鋒、小泉純一郎が
政権の座に就いてしまう。
一度はもみ消したはずの民営化論が、再び燃え上がろうとしている。
そんな状況を、どう受け止めているのか。郵便局の将来をどう見ているのか。
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▼平日の昼なのに誰も電話に出ない
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小泉政権発足直後の2001年4月下旬、清水に会うため、
全特に取材を申し込もうとした。ところが、である。電話番号案内に聞いても、
全特は登録されていないというのだ。
そこで、郵便局を管轄する郵政事業庁を通して、話を進めることにした。
だが、電話口に出た広報担当者は、「全特は任意団体ですから、
こちらでは関知していません。直接、問い合わせてみてください」と言って、
電話番号を読み上げた。
さっそく電話をかけてみたが、平日の昼間だというのに誰も電話に出ない。
翌日も幾度となく電話をしたが、やはり呼び鈴が鳴り続けるばかりだった。
仕方なく、再び郵政事業庁に電話をかけた。
「教えていただいた番号に電話をしても、誰も出ないのですが、
ほかの電話番号はありませんか」
「そうですか。でも、その番号しかありません」
それならば、足を運ぶしかない。場所を聞くと、郵政事業庁のビル内にある
全特の事務所ではなく、東京・港区にある「全特ビル」だと言われた。
六本木2丁目の交差点から、飯倉方面に数百mほど坂を上ったところに、
全特ビルがあった。1992年に竣工した近代的な建物は、ホテル棟とオフィス棟に
分かれている。オフィス棟に足を運んだが、館内案内板に「全特」の表記が
見当たらない。そこで、地下の警備室を訪れた。
「全特はどこにあるんでしょうか」
警備員は一瞬考え込んだが、こう口を開いた。
「8階に行ってみてください」
「館内案内には会議室と書いてありましたけど、そこでいいんですか」
警備員は黙ってうなずいた。
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▼「今日も局長は休暇です」
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8階でエレベーターを降りると、そこには何の表記もない扉があった。
中に入ると事務室や会議室が並んでいた。奥から出てきた事務員に取材の
趣旨を伝えると、差し出した名刺を受け取らず、覗き込みながらこう答えた。
「清水会長はこちらには来ませんからねえ」
「では、どうすればいいんですか」
「局に行ってもらえませんか」
局とは、清水が局長を務める東京・武蔵野市の武蔵野桜堤郵便局のことだ。
JR中央線の武蔵境駅で下車し、歩くこと約15分。桜堤団地の商店街にある郵便局は
客でごったがえしていた。
「局長をお願いします」と言うと、怪訝な表情で局長代理が出てきた。
「局長は、今日は休暇です」
「では、いつご出勤ですか」
「いや、その日にならないと分からないんですよ。毎朝、局長の自宅に
(局の)鍵を取りに行くんですが、そこで告げられますから」
仕方なく、取材依頼の手紙を書くことにした。翌日、それを携えて、
再び桜堤郵便局に出向いた。「今日も局長は休暇です」と言う局長代理に
手紙を託した。だが、その後、清水からの連絡はなかった。
ある平日、清水の自宅に足を運んでみた。桜堤郵便局から徒歩15分、
小金井公園に面した自宅に着くと、敷地内に郵便局舎があり、その裏には
小さな農園があった。そこに帽子をかぶり、地下足袋姿の初老の男がいたので、
近づいて声をかけた。
……?
「清水さん、ちょっとお話が聞きたいんですが」
「いやいや、私は違いますよ。親戚の者です」
そう言われると、引き下がらざるを得ない。だが、桜堤郵便局がある商店街で
話を聞くと、複数の人から農作業が趣味だという証言が取れた。
「(清水の自宅に)配達に行くと、家に上げてくれることがある。
食事をごちそうになって、風呂まで入れてもらう。帰り際に、自宅の農園で取れた
野菜を分けてくれる」
そこで、農作業をする男を撮影して、後日、焼き上がった写真を持って
清水の自宅に足を運んだ。玄関口に出てきた夫人は写真を見ると、「違いますよ。
清水のおじです」と否定した。だが、桜堤郵便局の局員や、商店街の人々に
写真を見せたところ、1人として別人だと疑わなかった。
なぜ、本人であることを否定するのか。もし、撮影した人物が「別人」だと
主張するのならば、なぜ清水自身が出てきて説明しないのか。
実は、これまで取材の過程で、清水だけでなく、多くの郵便局長が取材を断ってきた。
そのことは、彼らの後ろめたさを、図らずも露呈している。彼らが頑なに守ろうとする
特定局制度には、矛盾と問題が堆積しているのだ。そして、制度の堅持を組織目標と
する全特は、違法すれすれの活動を繰り返している。
マスコミの前に登場すれば、嘘や偽りに満ちた話しかできない。だから彼らは、
どこまでも逃げるしかない。自分自身の存在を否定してでも。(文中敬称略)
http://nb.nikkeibp.co.jp/free/YUSEI/20020116/101646/