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福井俊彦日本銀行総裁が先月、財務省所管の財政制度等審議会に招かれ1時間ほど講演した。テーマは「財政再建」である。財政制度等審議会に日銀総裁が出席したのは初めてのことという。
日銀は政府から名実共に独立した判断のもと、国民の生活を守るため金融政策を発動するのが職務だ。しかし歴史的に見ると財務省と日銀は経済政策を巡って論議が絶えなかった。政策の効果と整合性という議論よりどちらが先に政策発動をするかというメンツに偏った議論が多かった。
福井総裁がこの審議会に出席して思うところを率直に述べたのは日銀と財務省の新しい関係を指し示すものと歓迎したい。そう決断させたのも未曽有の財政危機にあるだろう。経済の下敷きになる財政再建策に日銀が意見を述べるのは通貨と金利の安定のため重要になってきたからだ。
そこで一歩踏み込んで「財政政策と金融政策の程よいポリシーミックスが肝要」という昔の教科書のお題目を思い切って捨ててはどうかと提案したい。実質的な経済効果は失われているからだ。
審議会の席上、福井総裁は「歳出、歳入の徹底した見直し」を再三にわたって言及した。歳入の増加を促すには増税という選択肢のみならず潜在成長力を強化する必要性を強調したのもうなずける。
問題は福井総裁が指摘しているように財政再建は長い期間にわたるから継続的努力が必要になる。その間にも不況など景気の変動があることが予想される。そうなればこれまでのように経済政策としては財政出動の声が上がるのが通例だ。これを従来同様に公共事業やその場しのぎの減税で応えるのならいつまでたっても財政再建は不可能だ。それどころか「失われた10年」の苦い経験のようにむしろ財政悪化の要因を新たに作り出しかねないだろう。
これを避けるには金融政策を今後の経済政策、景気浮揚策の柱に据える覚悟が肝要だ。景気の循環的な変動には余り効果が期待できない財政ではなく金融を中心にした政策で対応する。具体的には景気の実態に対応した金融の伝統的な質的、量的な操作が中心的な役割を果たす。市場との対話を含めて金融の主導力が試される。
ケインズ的社民党的な福祉政策を戦後の高度経済成長政策と併用してきた日本はバブル崩壊とそのあとに来た財政危機でその限界に気がつくのが遅すぎた感がある。欧米は既に四半世紀前にこうした論議は克服しているのにである。 米国の景気政策はグリーンスパン連邦準備制度理事会議長の口先と市場の動向との駆け引きだ。そこには公共事業の「この字」もなく族議員の活躍の場もないのだ。
均衡財政主義への批判が間欠的に起こる日本だからこそ、財政再建のための要諦(ようてい)として「金融政策主役」と銘記すべきだと考える。
毎日新聞 2004年11月7日 0時03分
http://www.mainichi-msn.co.jp/keizai/kinyu/news/20041107k0000m070106000c.html