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第20章の増補版
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投稿者 岩住達郎 日時 2004 年 12 月 30 日 04:11:40:TcNSd0ZB71Ujg
 

(回答先: Re: 日本のとるべき戦略 その5 (最終回) 投稿者 岩住達郎 日時 2004 年 12 月 30 日 04:08:32)

20.摂理に基づく平衡社会の経済政策

摂理には人間の能力には先天的な優劣があるという条項があり、人間の欲望をその人の富の生産能力との比較に於いて議論した。この観点で平衡社会の経済がどうなるかを考えてみよう。

平衡社会でもビジネス・サイクルは成長社会の時と同様に起こりうる。ここでいうビジネス・サイクルとは季節的な経済状況の上下を含まない。ビジネス・サイクル発生の理由は以下で順次明らかになるが、経済とは大きな制御システムであって、日本国内の経済システムは数千万個の、大企業から個人世帯まで、大小さまざまな経済ユニットが直列並列入り乱れて結合されており、更に何十万という地域経済の小さな帰還ループがあり、それらの結合は日々繋がったり切れたり(ランダム・サンプリング)している制御ループ回路である。このランダム・サンプリングが経済の力学を決定する。各経済ユニットは通常の制御理論の意味での伝達関数を持っていないが、ゲインはゼロから無限大(後述)を含む正数である。入力は能力に応じた収入であり、出力は貯蓄と投資を除いた支出、そしてサンプリングの開閉は各ユニットが支配権を持っている。中央及び地方政府も税金という収入で国民にサービスを提供する巨大経済ユニットとして扱う。中央政府のみは他の経済ユニットと違い、通貨創造及び消滅権を持ち、経済システムの制御機能を持っている。

多数の帰還ループにおいて、各々のループ・ゲインは経済の通貨循環行程に於ける人間の富に対する平均欲望を意味し、多くの人間は自分の生産能力以上の支出を欲するから経済ユニットのゲインが1より大きくなる。自分の生産能力以上の支出は借金、利権(補助金)、詐欺、略奪などの他人の富で実現される。しかし、十分の資産があり、働かなくとも資産の一部を支出に使う場合は他人の富を使っている訳では無いので、収入は支出に等しく、その経済ユニットのゲインは正確に1となる。養老貯蓄で暮らす人達がこれに相当する。だから、この人達が働いて貯蓄していた時期はゲインが1よりずっと小さかったわけである。

成長社会では経済制御システム全体に外部から注入されるエネルギー(通貨量の二乗に比例する)が正であり、平衡社会ではゼロ、衰退社会では負になる。ループゲインが1以下の場合、成長社会では外部からエネルギー注入してもビジネス・サイクルが起らず、ループ・ゲインが1以上ならエネルギーが流出する衰退社会でもビジネス・サイクルが起こる。この理由は以下の説明で明らかになる。

通常の制御回路では負帰還を使って制御入力と出力の誤差を減らす事を目的とするが、経済システムでは正帰還ループのみであり、何処かの地域ループ・ゲインが1より大きくなれば必ず不安定(景気の上下や貧富の差拡大)が起こり、それが全体に伝搬していく。此処で、正帰還でループ・ゲインが1以上のシステムは絶対的に不安定である事を先ず認識して頂きたい。正帰還でかつループ・ゲインが1以上にも拘わらず、経済システムが一瞬にして崩壊しない理由は、ランダム・サンプリングが経済の力学を支配し、経済の動きに多大の時間と慣性力が掛かるからである。言い換えれば、ランダム・サンプリングの為に、人間は自分達が犯してきた多数の経済的誤りに気がつかなかった、と言える。帰還ループ・ゲインが1より高くなるか低くなるかは市場に参加している人達の挙動で決まるので予知できない。しかし、もしループ・ゲインが全国何処でも1より小さければ、経済システムにはビジネス・サイクルは起こらない。即ち、借金も利権も詐欺も略奪も無くて、人々も企業もひたすら生産的に働いて貯蓄に励む社会ではビジネス・サイクルは絶対に起こらない。

この観点からすれば、その社会に住む人間の消費に対する欲望が富の生産能力以内であればビジネス・サイクルは消え、経済はその社会が所有する天然資源からの富及び対外通商からもたらされる富という注入エネルギーの正負に応じ緩やかに拡大、平衡、減衰する事になる。言い換えれば、節倹好きの人達(つまり自分の生産能力以上に消費を望まない人達)だけの社会ではビジネス・サイクルは無く、浪費好きの人達の社会では振幅の大きなビジネス・サイクルが起こる、という結論になる。従って、節倹好きな人達の社会には浪費好きの外国人を入れない様にしないと外国人の欲望とそれに感染した自国民の欲望の為に無用のビジネス・サイクルを引き起こす事になる。即ち、この理論は浪費好き人種と節倹好きな人種は別々に住むべきだ、と言っているのである。これで私が前に日本の金融業から外国人を閉め出せと論じた理由がお解りになると思う。人種偏見で私はそう言っているのでは無い。

又、この理論に依れば、国民が欲張って自分の生産した富以上に福祉を要求すれば、ループ・ゲインが上がり、経済システムは不安定に陥る事を示している。だから、私が提案したように、国民は自分の養老貯蓄で賄える範囲内で老後を送るべきなのである。そして、養老貯蓄が十分で無い人達の為に歳を取っても働ける様な社会を作る事が政府の最重要の課題となる。言い換えれば、幸運に恵まれて若くして財を成した人達は早々に引退して無給で福祉NPOで働いて貰い、不運だった人達は出来るだけ永く働ける様にする事だ。

此処で述べたビジネス・サイクルの発生原理に依れば、銀行が、消費目的の貸し出しを行えば経済のループ・ゲインが1より高くなり経済は不安定に陥る事になる。これは日本が、アメリカの圧力を受けて国内消費を促進する為と称して、銀行利子を下げ、銀行員がかけずり回って消費者に必要のないお金を無理矢理借りさせた事でバブルが発生した事を説明出来る。ループ・ゲインを高めるもう一つの要因は政府が出す様々な補助金である。補助金という利権は、農業に限らず、およそ政治家が介入できる全ての分野で蔓延している。これらの補助金が例え税収から賄えてもループ・ゲインは上がる。もし補助金が借金から拠出されていれば、更に経済を不安定にする原因になるのである。

しかし、保険の様に加入者から集めた資金を損害を受けた人が受け取る場合はループ・ゲインを高めない。同様に、国民与点制度は競争階級の国民が出し合った資金を与点保持者に分配するからループ・ゲインは上がらない。その理由は資金を負担した人のゲインが下がった分と資金を貰う人のゲインが上がった分とが相殺するからである。この様に、福祉は保険制度にすればループ・ゲインを上げなくて済むのである。産業与点制度も同様に既存企業が収益の極く一部を出し合った資金であるから、ループ・ゲインは上がらない。この議論を拡大すれば、アメリカ政府がやっているように、年金の掛け金を集めてそれを政府が借金して非生産的な事業に使ってしまえばループ・ゲインが上がってしまう。年金の掛け金は原則として生産的な目的のみに投資しなくてはならない。従って、年金の掛け金は絶対に政府が運用してはならない、必ず民間に運用を委託すべきである。もし掛け金が集まりすぎて生産的な投資先が足りないなら、その余剰部分を政府が借りてもよい。

次に投資がループ・ゲインに与える影響を考えよう。銀行貸し出しが投資目的であっても、新規事業が富を生産し利益を上げる様になるまでかなり時間が掛かるので、その間は生産能力以上の消費をしている事になる。従って、ブーム心理に踊らされて、同時に借金をして事業拡大を数多く行えば経済のループ・ゲインが1より高くなる事は避けられない。これが開発ブームによる経済拡張である。もし事業拡大が借金でなくて株式を売った資金で行われたならば、その経済ユニットのゲインはその資金が尽きる迄は正確に1である。開発ブームの後、企業が利益を上げればループ・ゲインが1より下がり経済が安定するが、過剰開発で多くの企業が利益を上げられない場合にはループ・ゲインが上がったままになり、経済は安定しない。即ち、市場にお金を注入して効果があるのは、その投資が更に富を生む事がほぼ確実な時だけである。

借金過剰の為、一度経済システムが不安定となれば、消費者が短期間消費を急に控えてループ・ゲインを下げようとしても経済は直ぐには安定化しない。これは非線形制御システムでは一度システムの位相空間での軌跡が安定領域を飛び出すと、複雑な慣性力が働き、その後の挙動は予測できなくなるからである。従って、経済システムの軌跡を安定領域に戻すには一度システムの過剰エネルギーを放出し(即ち、借金を返して余計なお金を市場から吸収し)当分の間わざと不況にしておかねばならない。

所が、不況にしておくと国民が悲鳴を上げて救済を要求するものだから、政府は利子を下げて更にお金を借りやすくする。これはシステムを安定化する目的と正反対の対処法で、これでは益々システムは安定領域から遠のいてしまう。財務省の官僚が焦って目くら滅法に市場に介入し、エネルギーを注入すれば、経済システムは益々不安定になる事はあっても、安定化する事はあり得ない。即ち、FRBが日本銀行に強要し、FRB自身も現在行っているマネタリズム市場介入は完全に間違った政策なのである。不況でも借金を返す(ループ・ゲインを下げる)努力をした日本国民は正しい事をしたのだ。最悪なのは、FRBは米国民に今までの借金の上にもっと借金をさせて別のバブルを作り危機を抜け出そうとしていることだ。

現在のアメリカの不動産バブルは未だ弾けていないが、近い将来これも弾ける事は間違いない。その理由は、不動産バブルは株式バブルや債券バブルと同じ手法で計画的に起こされ、アメリカ政府はその内景気が戻り、皆が借金を返せるだろうと、根拠のない想定で時間稼ぎをしているに過ぎないからだ。それで不動産の次に戦争バブルを計画したのだが、戦争バブルを成功させるには相手国の富を殆ど無抵抗で略奪出来る必要がある。所がそれが成功しそうに無いのだから、アメリカ経済は今小康を保っている様に見えるが、現在の政策を続行すれば経済が破綻する事は理論的に保証されている。

その理由は、位相空間の安定領域を飛び出した非線形システムを落ち着かせるには早い時期にエネルギーを抜いてやる以外に方法は無いからだ。しかし、今となってはどうにもならない。今のアメリカの経済が借金による過剰消費で拡大を始めたのは1980年代からで、それ以来のエネルギーを抜くには20兆ドルくらいの借金を償却する必要がある(現在の借金総額は約37兆ドル)。それには世界中の貯蓄を略奪せねばならない。一方、日本には世界一莫大な貯蓄があった為、民間自身が消費を引き締めて借金を返し不景気に耐える事が出来た。それで、この10年で随分エネルギーが抜け、最近やっと安定領域に近づいてきたと考えられる。もし国民に貯蓄が無ければ、不景気中でも消費の為に借金せねばならず、いつまで経っても経済からエネルギーを抜けない。

バブルの正しい対処法は、出来るだけ早い時期に全ての新しい貸し出しを一時停止し、バブルの原因になった貸し出しを回収する。そして、その回収の為に生じた不良債権は政府が直接吸収する事だ。バブルは政府の政策失敗が原因なのだから、当然政府の責任で破産者達を救済して尻拭いすべきである。そして、国民に貯蓄を奨励し、救済者には住宅ローンの継続は認めるが、バブル消滅までの間、消費の為に新たに借金しないように厳命する。これはループ・ゲインを1以内に保つ為である。この考え方が第12章で述べた、個人住宅を買い替えの際に発生する含み損を国が吸収し、銀行の不良債権も同時に償却させる政策の理論的根拠なのである。

国民の借金棒引きはモーラル・ハザードだ、という外国人の、更に借金をさせてやろうという、悪巧みに耳を傾けてはならない。又、政府が不良債権を吸収するお金は税金から出すべきだ、という馬鹿げた議論をしてはならない。税金は国民の創造した富の一部であって、バブルの原因になった貸し出しは元々無から信用創造した紙切れなのだから、その不良債権の吸収にも当然、無から創造した紙切れで良いのである。勿論、この解決法は借金を自国内から調達した場合に限られる。もし外国から借金すれば、たとえその外貨が無から信用創造されたものでも、この解決法は使えない。その理由は外国からの借金は別のループを形成するからである(以下参照)。

次に原材料高騰によるインフレを考えてみよう。インフレで人々がパニック買いに走るお金は何処から来るか。自分達の貯蓄を使い自家用に買い貯めするのなら別に問題ない。しかし、思惑買いをする人は当然借金をして買い占めしようとする。この行動がループ・ゲインを1より高くする。現在のインフレ対策のやり方は中央銀行が利上げをして全部の利子を上げるが、これは銀行を儲けさせようという魂胆が根底にあるからである。正しい対処法はループ・ゲインが高くならないように、投機家への貸し出しを停止するだけで良い。利子を上げる必要は全くない。

当然投機家は市民に高利子を提示してお金を集めようとするだろうが、認可無しの金融業務は全財産没収という厳罰で対処するべきである。この対処法ならばループ・ゲインが上がらないので物価は原材料高騰を反映した緩やかなインフレで済むのである。インフレでもバブルでもループ・ゲインが1より急速に高くなるのはヘッジ・ファンドなどの投機家にお金を貸すからで、銀行に儲けさせようという中央銀行の魂胆が全ての災いの元なのだ。災いはそれだけでは無い。投機家にはあらゆる手を使ってインチキをする人が多い。金融業で起こる多くの不正事件は投機家が起こした物だ。そして、被害者は常に情報やコネの無い庶民である。

世の中には、どうしても博打をしたいという人がかなり沢山居る。この中に金融の投機家達も入る。投機家達には本来の生産能力が殆ど無いから、彼らに借金(レバレッジ)させるとループ・ゲインが大幅に上がる。だから、そういう人達には、経済ループ外(つまりラスベガス)で自分達のお金だけで博打をやらせるようにし、彼らに絶対に借金させない様にすればよいのである。アルコール中毒患者に酒を買う金を与えないのと同じである。ビジネス・サイクルの無い社会は投機家達にとって地獄だろうが、投機家以外の人達にとって、将来の予定が出来、貧富の差も少なく、安心できる社会なのである。

中央銀行が通貨を大量に刷って市場に注入すればインフレになる場合とならない場合とがある。貿易赤字の為外国から外貨で国内市場に影響を与える位の多額の借金をしていればインフレになるし、借金をしていなければインフレにならない。それでは、大量の借金を抱える日米の中央政府はどうなるか。中央政府も当然経済ユニットの一つであるが、冒頭に述べたように、通貨の創造と消滅権を持っているから、ループ・ゲインの計算に入れる事は出来ない(地方政府は当然ループに入る)。これは中央政府ユニットのゲインは無限大かゼロになるからである。数学的には、こういった創造や消滅の起こる所を特異点と呼び、計算はそれらの特異点を迂回して行う。所が、国の外貨借金があると、例え自国通貨の創造と消滅権を維持していても、中央政府自身も流通する外貨のループに含まれるので、政府の負債により外貨のループ・ゲインが大幅に上昇する。この二種類のループが並立する事態の時に自国通貨を大量発行すればハイパー・インフレーションが起こるのである。

後進国が先進国から経済援助を受けるときは世界銀行やIMFからドルを借りる事が多い。これが後進国に二種類のループを誕生させ、その上、借りたドルの使い方について欧米の金融企業から多くの悪い指導(搾取)を受ける為に、国内に開発ブームという高いループ・ゲインを発生させてしまうのである。一度ループ・ゲインを上げてしまうと、中央政府を含んだ外貨のループが既に出来ている為に、先に述べた様な経済システムからエネルギーを抜く手段が無くなり、バブルを止めるのが非常に難しくなる。経済システムは安定領域から遥かに遠くなったままだから、バブル破裂後の不況で益々貧富の差が激しくなる。それで景気を戻そうとして自国通貨を大量に刷ると、二種類のループが存在する為、ハイパー・インフレーションになってしまうのである。しかし、もし経済援助として外貨でなしに物資と人材派遣であれば、その国の通貨のループだけであるし、外国の金融会社が悪い指導をしにやって来ることもないから、バブルになる心配が無い。経済援助が贈与でなく借款である場合は通貨で無く輸出物資で返せば良いのである。

この理論に依れば、通貨量を増加させてループ・ゲインを押し上げ経済が更に不安定領域に深く突入しても、中央政府がループの外にある限り、景気の上下が激しくなり貧富の差が拡大するだけで、通貨量の増加がインフレの原因になる理由は無い。これは現実にアメリカと日本で途方もない量のお札を刷ったのに日本ではデフレが止まらず、アメリカではドルの価値が下がった程度のインフレにしかならない事で明らかである。幾らお札を刷っても何処かに滞留するだけで皆が一斉にお金を使おうとする訳ではない。これが経済制御システムの不安定という意味である。アメリカがインフレにならないのは外国からの借金を米ドルで行っているからで、もし外貨で借金して貿易赤字を埋めていたならば、アルゼンチンやブラジルと同じ運命をたどったであろう。

日本の場合は日銀が幾ら通貨を刷って利子を下げても国民は、貯蓄が在るために、それを借りることを拒否したから銀行に滞留した。これはループ・ゲインを上げない為に日本国民が本能的に取った正しい判断で、これが日本流ランダム・サンプリングである。所が、アメリカの場合は国民の浪費癖の為に利子を下げたらどんどん借りた。これがアメリカ流ランダム・サンプリングで、その為アメリカのループ・ゲインはどんどん上がって、お金は庶民の借金として滞留している。銀行はそれでもまだお金が余っているので、何とか更に借金させようと懸命にクレディット・カードを押しつけている。これは全てFRBがドルを刷りまくったからである。これから景気が悪くなり、ドルが暴落すると、庶民の借金の大部分は不良債権となり、銀行の大量破産が始まる。

だからアメリカの銀行は死に物狂いで今の内に日本の銀行を乗っ取っておき、その日本人の貯蓄を使って破産を免れようとしているのである。即ち彼らの真の目的は日本国民の貯蓄の略奪であって、日本の預金者に良いサービスを提供すると言うのは詐欺師の詭弁に過ぎない。前に述べた通り、アメリカの金融業は既に3兆ドルの不良債権を隠しており、本当は既に破産している。だから、前に述べたように、日本人の出来る事はアメリカ金融企業に乗っ取られた銀行から早急に預金を引き出し、地方銀行に移す事である。これを読者の親類や知人に広く伝えて頂きたい。日本人の貯蓄を略奪する作戦は既に進行中なのだ。

多くの人が騒いでいる日本政府の国民からの負債はみっともないだけで、大量の対外通商赤字を出さない限り、経済システムの崩壊という見地からは全く問題にならない。これが日本国民に対する日本国債の絶対安全性の意味である。この理由で、私は個人住宅買い替えの際の含み損を中央政府が引き受けて償却出来るし、国民からの借金はお札を刷って返せば済む事だ、と前にはっきり述べたのである。しかし、対外通商が累積赤字になれば事態は急変する。外国からの外貨による借金は自国の資産を相手国に譲渡する以外に決済の方法は無い。従って、輸出が落ちたならば、外国旅行を制限し、輸入制限をしてでも、対外通商赤字を絶対に避けないと、日本に円と外貨の二種類のループが発生する。そうなると、日本円のハイパー・インフレーションが始まる。問題になるのは、ループ・ゲインの計算に入る経済ユニットが持つ借金の出所なのだ。言い換えれば、外国から外貨で借金しない限り、いくら円を刷ってもハイパー・インフレーションにはならない。

日本だって、第二次大戦後、短期間世界銀行からドルを借りた為、二種類の通貨ループが存在し、ハイパー・インフレーションを経験した事を忘れてはいけない。これの脱出に成功したのは、その頃はGHQがアメリカの金融会社が進出する事を許さなかった事と、日本人の勤勉努力で輸出に邁進し、かつ朝鮮戦争特需という幸運もあって、借りたドルを早く返す事が出来たからである。東海道新幹線の建設にも世界銀行から借りたが、これは凄く儲かった事業だった為にすぐ借金を返せた。慢性の対外通商黒字の現在でも、日本の官僚が輸出至上主義で円高を防ぐため介入を続ける事を非難する人が多いが、この戦略は間違っていない。その理由は介入に使う円は、形式的には借りた事になっているが、政府の通貨創造権を使っただけで国民の税金とは関係の無いお金である。

ただ官僚が間違っているのは、このドルで米国債を買うからアメリカ経済に益々エネルギーを注入する事になる。理論的に正しい対処法は、アメリカの為には、買ったドルは日本で全部燃やして(通貨消滅権を連邦政府に代わって行使)、アメリカ経済からエネルギーを抜いてやる事である。言い換えれば、アメリカの借金を棒引きしてやる事になる。私が日本の総理なら、この操作と引き替えにアメリカの金融企業全部を日本から撤退させる様にアメリカ政府と交渉するだろう。この操作で日本が損をする事は何も無く、アメリカ金融企業が出て行ってくれるという利益が得られる。そして、アメリカ政府にとって、経済から大量のエネルギーを抜いて貰えるという利益がある。勿論、これはドル暴落が始まれば直ちに停止し、それ以後は次章に述べるように、全ての通商を円建てとする。

次にデフレ対策を述べる。先ずデフレとは通貨の価値が上がって行く事であるから、お金を刷る絶好のチャンスである事を認識しなければならない。反対に、インフレの時はお金を回収する。現在のデフレを克服するには、前に述べた様に、国債を発行しないでお金を刷って、後で民間企業に売れる事業に直接出資(株式投資)する事だ。ただし、絶対に官僚又は官僚経験者に新事業の経営をやらせてはならない。官僚の監督義務と背反する。必ず民間企業に出資する形で、風力発電所とかゴミを石油に転換する設備とか、ユニット毎に売れるような事業をどんどん作る。景気が戻り、インフレになり始めたならば、これらの事業の株券を民間に適正価格で売る。これはお金を回収してインフレを抑える政策なのだから絶対にタダ同然の払い下げで利権絡みの操作をしてはならない。この様にすれば、雇用が増え、紙切れが資産となり、富として税収になる。

一番馬鹿げているのは、国営は駄目とか、お金の調達は税金からとか、自縄自縛する教義至上主義である。その教義は万能の神が書いたわけでなく、私利私欲を持つ人間、しかも価値観の異なる外国人の主観で書いた物だ、と言うことを忘れてはいけない。それに反し、物理的理論には私利私欲は全く含まれず論理だけである。この経済理論で解るように、中央政府は通貨創造権と消滅権を持っているのだから、理論に従って、ループ・ゲインが上がらないように利益の上がる事業にお金を刷って投資するのがデフレに対処する最善の手段なのである。そうすれば、不景気時に国民から税金を沢山取って不良債権処理や失業対策をやる必要は無い。原則論や感情論に囚われず、論理のみで問題を解決する事だ。

結論は、政府の国内経済政策は国民に各人の富の生産能力以上の消費をさせない事だ。これは中央政府が通貨の創造と消滅権を持っているかどうかに関わらず真である。何度も言うように、消費の為の借金は悪であり、政府は経済ブームで国民の人気を得ようとして、経済のループ・ゲインを1より遥かに高くする様な政策を絶対に採ってはならないのである。その為に銀行がお金の借り手が少なすぎて儲からないと文句を言うのなら、それは銀行が多すぎる証拠だから、どんどん淘汰させて数を減らせば良い。それが生存競争というものだ。実際、ループ・ゲインが1以下の社会では、大企業は自己資金で投資出来、新企業は前に述べた産業与点制度でゼロ利子で資金を調達する。大銀行の業務は国から委託された養老貯蓄の運用とM&Aの様な業務に特化し、個人の預貯金と短期のつなぎ融資は中小銀行や信用組合で行うようになるだろう。

だから、前に述べたように、中央銀行を廃止し、巨大銀行は分割し、淘汰し易くするべきなのである。そして、通貨創造権を銀行から取り上げて財務省のみに与える。市場を制御するには利子を上げ下げするのではなく、貸し出しの相手を選択する。即ち、富の生産者には貸すが投機家には貸さない。私が適切と考える利子はインフレ率+1%である。現在の金融政策では銀行を儲けさせる為に市場に過剰エネルギーを注入する。これがループ・ゲインを引き上げ多くの経済問題を引き起こして来た。言い換えれば、銀行家の貪欲の為に国民が景気の上下に苦しめられ、悲喜劇を起こし、銀行に搾取されて来たのである。

銀行が犯しているもう一つの罪は、貸出先の信用によって利子を釣り上げる事である。利子を高くするのは相手のリスクが高いから、と言えば合理的に聞こえるが、実はそうでは無い。利子を釣り上げることにより、そうでなくても弱い企業を一層不利な条件下に置き、その為にループ・ゲインが益々上がってしまう。これを防ぐには相手の企業の信用と無関係に一律の利子を課すべきなのである。信用調査の後、お金を貸しても良いと銀行が判断したならば、利子を高くしてわざと相手企業を不利な立場に置く事は、そもそもその企業を助けようという意図に反する事なのである。利子で差別待遇するのはちっとも合理的な事では無い。銀行が相手の弱みにつけ込んでもっと儲けようとして屁理屈を付けているにすぎない。

通貨は経済の血でありその流通は多い程良い、という単純な理由による景気向上のイメージは虚偽であり、国民は騙され続けてきた。貧血には輸血、というつもりでお金を市場に注入しても、心臓肥大(銀行に滞留)を起こし、あちこちに動脈瘤(借金の蓄積所)が出来る結果になり、肝心の四肢には血は回らない。金融業者を優遇し、外資金融業者を入れてサービス競争させても、借金が増えるだけで、通貨の流通が良くなる理論的根拠は全く無い。これはランダム・サンプリングが経済の力学を決めるからだ。お金を市場に注入しても、ランダム・サンプリングが活発に成る理由はない。ランダム・サンプリングを活性化する一つの方法は、アメリカ政府とマスコミが一致協力してやっている様に、国民にどんな嘘を吐いてでも楽観的な将来を囃し立てる事だ。

例えば連邦政府の財務省と労働省は法律で査察が入らない事になっている為、どんな嘘をついてもばれる心配も罰せられる心配もない。だからGDPの数字や雇用の統計などは政府の都合に合わせ、選挙の前には良い数字を出し、選挙の後で悪い数字を出して元に戻す等の操作をやる。所が、日本人は生来悲観的な国民性を持っていて自己卑下をする為に、日本政府もマスコミもアメリカの真似をして国民を楽観的にし、消費を増加させる操作は出来ない。自分達を出来るだけ悲観的に見ようとするのは世界中で日本人だけなのである。実際、アメリカから日本の株式市場を見ていると、同じニュースに対し日本人の反応はアメリカ人に比べ極めて悲観的である事が良く解る。日本では景気向上の為の口先介入は効果が無いから、消費者の不安を実際に取り除く政策を採るべきである。その最も良い方法は前に述べた様に庶民の抱える住宅の含み損を解消してやる事だ。

天然資源が枯渇し、商品やサービスの創意工夫で節約倹約を実現するという極めて厳しい条件下では通貨流通の拡大は限られている。それを政治目的で無理に通貨流通量を上げようとするからループ・ゲインが上がってしまうのだ。行政の目的は国民の幸福促進であって、銀行の貪欲を満たす事ではない。国民が平和に満足して暮らすには、過剰な通貨流通は害あって益なし、である。私が前に、金融業は経済の縁の下の力持ちであるべきだ、と述べたのは金融業が蔓延る社会はループ・ゲインが高く、景気が激しく上下し、自殺者が増え、投機と詐欺が蔓延するからである。景気が悪くなり失業者が出るとその人達は、例え再就職しても、生産能力が下がり、従ってループ・ゲインが更に上がるという悪循環が始まる。この悪循環の始まりは銀行の貸しすぎにあり、過剰な金融サービスが社会問題の原因である、と言っても過言で無い。

世界で起こった多くの戦争も銀行家が政府に融資した為に引き起こされた。銀行家にすれば国家に貸せば国民が税金を払える限り利子を取り続ける事が出来るのでこんな旨い話は無い。戦争以外の諸問題の多くも又、銀行が融資し過ぎた事が原因なのである。後進国に対し先進国が過剰に貸し込んだ為に後進国に景気の過熱と破綻が起こった例はあまりにも多い。それにも拘わらず、銀行家がその責任と弁償を問われないのは、金の力で権力者が買収されているからである。銀行家の力を殺ぐには買収されない政治家を増やす必要があり、第19章で述べた様に、全ての選挙を公的資金でおこなう事が先決問題である。

今までの経済学はバランス・シート上の数字から出発して理論が作られた為、思考がどうしても静止的で、経済の或瞬間の姿に囚われ、通貨がランダム・サンプリング・システムのループを循環している動的な経済を捉える事が出来なかった。従って、非線形制御理論が存在していても使い方が解らなかったし、位相空間とか安定領域という概念も導入できなかったのであろう。ご承知の通り、世界には沢山のビジネス・サイクルの理論があるが、私の知る限り、人の生産能力以上の欲望を満たす事がループ・ゲインを1より高くし、それが経済システムを不安定にし、ビジネス・サイクルを起こす原因だ、と論じた人は居ない。

地域経済の安定度を測る方法は制御装置の安定度を測る技術を応用する事によって可能であるが測定に長期日を要するので経済制御の目的には適さないと思われる。しかし、ここに述べた経済理論は第15章の摂理から出発して構築されたものであるから、当然大規模なコンピューター・モデルでシミュレーションが可能である。しかし、ランダム・サンプリング非線形システムの一般理論は存在しないので、地方の小都市をモデルにし、そこの人々の消費習慣を取り込む事から始める必要がある。

このモデル調査はそれ程複雑な物では無い。ループ・ゲインの計算には各経済ユニットのゲインを知る必要はあるが、ランダム・サンプリングの性質そのものを解明する必要はないからである。ランダム・サンプリングの一般理論を構築できる可能性は極めて小さい。その理由は、ランダム・サンプリングは人間の心理的な、多くは非合理的な、判断で行われるからである。或るループ・ゲインが与えられそれを一定に保てば、その結果が経済に現れる時間を支配するがのがランダム・サンプリングによる経済力学であって、経済が安定領域にあるかどうかを決定するのはループ・ゲインである。このシミュレーションを発達させれば、政府の金融政策を調整してループ・ゲインを1の上下の狭い範囲内に納める事が出来るようになるであろう。

ループ・ゲインを1に出来るだけ近づける金融政策とはどんなものか。先ず政府以外の全ての経済ユニットに対し、少なくとも一年間は収入がゼロでも最低限の活動をやっていけるだけの貯蓄を義務付ける。つまり、一般家庭ならば、国営養老貯金に家族頭当たり最低限100万円(与点保持者は与点に比例して減額する)、企業ならばボーナスや投資を除いた最低維持費に相当する額を国営特別口座に貯蓄させる。これらの特別口座の絶対安全性は国家が保証し、預金の上限は設けない。企業は株式売却から得た資金を特別口座に移す事を許される。これらの特別口座からの引き出しは、家庭なら失業、企業なら借入金が貯蓄額を超えた場合のみに制限される。政府は特別口座から引き出しを許可した経済ユニットには課税しない。但し、特別口座からお金を引き出した企業の名前は一般に公開される。

失業者に課税しないのは当然としても、企業も特別口座のお金に手を付けると税金を払は無くてよいのなら、企業は皆せっせと借金するだろうと思うのは間違いで、特別口座のお金が必要という事は取りも直さず経営が傾いている証拠だから株価が暴落する。従って、企業は借金をするより増資で資金調達をする様になる。前にも述べたように、株式を売って得た資金はループ・ゲインを上げる副作用が無い。企業が事業に失敗しても、損をするのは株主で、不良債権はせいぜい特別口座に預けた金額に等しい。この政策によって企業は借金をするのに慎重になり、投機的な投資に走るのを防ぐ事になる。

特別口座のお金の運用は政府が金融業者に委託する。金融業者は委託された資金を自己判断で運用するが、彼らが投資に失敗しても政府は救済政策を一切行ってはならない。政府からの委託資金に加え、企業や家庭が借金を減らすような政策の下では預金が過剰になるから、銀行の信用創造の機会は無くなり、金融業者は融資以外のサービスで生き残る他無くなる。従って、銀行の淘汰が進むのは当然である。その結果、利子は安くなり、投資は株式に向かい国民は起業に熱心になる。何も中央銀行が大量にお札を刷らなくても利子を安く出来るのである。

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