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■ 『平らな国デンマーク/子育ての現場から』 第24回
「遊び心のある立体的学習」
■ 高田ケラー有子 :造形作家 デンマーク北シェーランド在住
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■ 『平らな国デンマーク/子育ての現場から』 第24回
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「遊び心のある立体的学習」
先週、こちらのニュースで「デンマークは世界一幸福度の高い国である」と報じら
れていました。この調査、ロッテルダムの Erasmus大学の教授が毎年行っているよう
なのですが、前回2位だったデンマークがマルタとスイスに並んで1位になったそう
です。つまり、今回(2004年)は1位が3カ国、ということらしいですが、「ど
れだけ人生に満足していますか」とか「どれだけ幸せですか」という質問に対して1
から10のレベルで答えてもらうらしいのですが、3カ国とも平均レベルは8.0で
世界一、ということになったようです。3カ国に続いてアイスランド、アイルランド、
他の北欧諸国も高い数字が出ていたようです。
この背景として、デンマークの場合ですが、高収入、民主主義、福祉の充実と政治
家の汚職などが少ないこと(ゼロではありません)、個人の自由が尊重されること、
そして最後に「平らな意識」が上げられていました。またデンマーク人は寒いとか暗
いとか気候に関する不満をよく言うのですが、それは幸福感とは別のものであり影響
しない、ということでした。ハイスコアーになった国々は、たいていが穏やかな気候
ということが上げられていましたが、適度に寒い国、というのは一般的に人間には
フィットするということも報告されていました。病気に対する抵抗力が養われヴァク
テリアの繁殖しにくい気候、というのがどうもいいようです。もちろん、こうした結
果は非常に感覚的なものではありますが、確かにデンマークでは満足している人が多
いのだな、ということが数字として見えて、興味深く聞いたニュースでした。ちなみ
に日本は6.2でこの調査90カ国の中では中間的な位置にあったようです。
http://www2.eur.nl/fsw/research/happiness/
さて、先週金曜日に息子の学校で行われたフェスタラウン(仮装のお祭り)は、朝
送って行った時の光景しかこの目では見ていませんが、実に楽しそうでした。子供た
ちだけでなく、校長先生はじめ、教員ももれなく全員本気で仮装して現れ(家からそ
のままいらした先生もある)、こんな楽しい学校うらやましすぎる、などと思ったほ
どでした。もちろん子供たちはほとんど全員が家から仮装して来ている訳で、授業な
んかそっちのけの1日だったようです。午後、学童に迎えに行った時にも、学童の保
育士さんたちもしっかり仮装していて、思わずニヤリとしてしまいました。結局みん
な、変身願望があるのでしょうね。それを子供の行事に重ねて、大人たちも楽しんで
いるようでした。
息子の学校は公立のごく普通の学校ですが、学習のあり方にも、そまざまな工夫が
うかがえます。息子はまだゼロ年生(デンマークでは1年生の前に義務教育の範囲で
はないプレスクールとしての1年間が設けられています)ですので、教科学習として
の授業は一切ないのですが、2ヶ月に一度くらいの割合で、大きなテーマを決めて、
1〜2週間かけてひとつのテーマに沿った立体的な授業をしています。立体的、と私
が感じるのは、本から学ぶことだけでなく、体で体験することも多く含まれるからで
すが、またそこに必ず大人の遊び心が感じられるところが、なんともかわいいと言う
かうらやましいところです。
9月には交通週間として、公道の歩き方から交通ルールなども学び、最終的には公
道で警察官立ち会いのもと歩行テストが行われ、合格した(全員合格ですが)子供た
ちには、ディプロマが授与されました。また自転車週間もあり、決められた2週間の
うちに何回自転車通学してきたか、ポイント制で全国の子供たちがクラス単位で参加
するコンペティションもありました。
11月から12月にかけては、クリスマスについて学ぶ期間が設けられ、その起源
や風習にまつわるお話などを聞き、またデンマーク固有のペーパークリップのクリス
マスオーナメント制作もして、教室や共同のオープンスペースに飾り付けをしました。
クリスマスソングもたくさん習い、最終的には近所の教会で牧師さんからお話を聞い
て、賛美歌も歌いました。12月のほとんどは、クリスマス関連行事が行われ、劇場
にクリスマスにまつわる観劇にもでかけましたし、映画鑑賞もあり、かなり盛りだく
さんの内容で、いっしょに連れて行って欲しい企画が満載でした。
1月のテーマとして、「体について学ぶ」ということで、約2週間かけてゼロ年生
の2クラスが体についてのさまざまなことを学習したようです。まず、テーマ学習の
初日に床に大きな紙を敷き、その上に一人づつ寝転がって、先生がそれぞれの子供の
人型を輪郭のみ描き、そこに子供たちが、自分の臓器や血管などを描き込む、という
ところから始まったようです。初日に学校から帰って来た息子が「おかあさん、今日
はすっごく疲れたよ、血、いっぱい描いたから」というので、ビックリしましたが、
テーマ学習終了後、息子の等身大の人体解剖図!?を見て、納得いたしました。
持って帰って来た約130cmの長さの大きな紙には息子が描いた息子の顔や目、耳、
鼻などはもちろんですが、歯や食道、臓器や性器までもけっこうリアルに描かれ、
「それ(性器)、ちょっと大きすぎるんじゃないの?」と夫に言われてむくれており
ましたが、そうとうに頑張って描いた形跡がここそこにあって、涙ぐましいものがあ
りました。特に血管は、体の細部にまでそれが届いている、ということを先生が強調
したようで、指の先まで、息子の言葉通り「血、いっぱい」繊細に描かれておりまし
た。臓器は別の紙に描いて切り抜いた物を、その重なりもきちんと把握して立体的に
配置され、肺、心臓、胃、腸、などが描かれていました。もちろん、その臓器を描い
たり配置する際に、先生からその臓器の役割などの説明も受けている訳ですが、こう
して学べることの楽しさを体感しながら、「血が通っている体の役割」を自分の手を
通して学ぶ意味はとても大きい、と思いました。
こうして月曜日から始まった体をテーマにした学習は続き、金曜日には「緑から白
へ」という牛が草を食べてから牛乳になるまでのプロセスを描いた映画を見たようで
す。体になんの関わりがあるの? と思ってしまいそうですが、人間の体だけでなく、
牛の体との機能の比較をしながら、牛乳ができるプロセスを通して、食べた物が生ま
れ変わることを学んだようでした。牛が4つの胃袋を持ち、繊維質いっぱいの草を、
最初は大まかに噛んで一つ目の胃袋に入れ、それをまた口へ戻して噛んで噛んで違う
胃袋に移していくことなど、映画を通して学んだようです。人間の体の機能との比較
がどれだけできているかは別として、もっと学年が大きくなって、教科書から体の機
能について学ぶようになったとき、ゼロ年生での経験が多少なりとも理解の手助けに
なるのであろう、と思いました。
そして、次の週の火曜日、連絡ファイルに1通の手紙が入っていたのですが、それ
は、隣町の大きな県立総合病院の救急看護師さんからのお手紙でした。学校から戻っ
て来た息子と早速いっしょに読んだのですが、その内容は「ヘルシンゲスクール、ゼ
ロ年生のみなさんへ。1月24日、救急患者2名が入院」というタイトルで、以下の
ように続きました。
「1匹のお猿さんと1匹のクマさんが、上記の日付に救急患者として運ばれました。
2名とも大けがをしていて意識不明でした。私たちは応急処置をし、その後集中治療
を施しました。夜になって意識が回復し、今朝は自分で名前を言うことができるよう
にまでなりました。2名の名前はオーガストとベニーであることがわかり、ドクター
も秘書もみんなで一生懸命、この2名の家を探しました。オーガストとベニーはみな
さんのお友達ですね。2名は回復に向かっていますが、いまだに体力がなく、自分で
帰宅することはできません。明日の午前中に診察をしたあと、午後には帰宅できるよ
うになりますが、みなさんの助けが必要です。オーガストとベニーを病院の救急看護
病棟まで迎えに来て下さい。救急看護士:ニーナ・イェンセン」として、もちろんサ
インもしてありました。
ゼロ年生のクラスはふたつあるのですが、Aクラスにはお猿のオーガスト、Bクラ
スにはクマのベニーがそれぞれクラスのマスコット(ぬいぐるみです)としていつも
いろんなことを一緒にしています。そのオーガストとベニーが、どうやら学校の近く
にある水道塔から落ちたらしく、大けがをしたらしいのです。というわけで、まじめ
な手紙をもらった子供たちは、次の日、全員そろって病院に2名を迎えに行ったので
した。これが、「体について学ぶ」というテーマの最後の学習で、2名を迎えにいっ
ただけでなく、病院でいろいろな施設を見学して来たようです。
オーガストとベニーは、包帯こそしているものの、元気に子供たちと再会でき、大
けがにも負けず、泣かずに治療を受けた、ということで病院から表彰状をもらい、そ
れがクラスの入り口に張り出されています。子供たちは、オーガストとベニーがぬい
ぐるみであることはわかっていますが、けがをした事実は半分以上本気で捉えている
ところがかわいらしく、なによりも、県立の病院もこうした学習に協力をし、遊び心
も満載で手紙を送り表彰状も授与するなど、積極的に関わっていることが印象的でし
た。ヘルシンゲスクールとこの県立病院では、毎年、この学習企画を恒例行事として
おこなっているようで、子供たちの反応もとてもいい、ということでした。
大人がこうした学習企画を楽しんでいる様子もうかがえますし、大人の気持ちに余
裕があることを感じます。子供たちに夢を描かせ、また想像力も鍛えられるこうした
学習は、どんどん続けてほしいものです。特にゼロ年生の間は、教科学習の位置付け
ではないこうした学習が、後の教科学習にも効果があるということを、実感したテー
マ学習でした。テーマ学習のない月でも、月に一度の映画鑑賞や、スクールコンサー
ト、ベイキングデー(パンを焼く日)など、お楽しみがつきません。学校は「楽しい
ところ」以外のなにものでもない、といったところです。次はどんなプロジェクトな
のか、今から親の方が楽しみにしているところです。
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高田ケラー有子/Yuko Takada Keller:造形作家
京都市立芸術大学大学院修了。日本在住時よりヨーロッパ、アメリカなどで作品を発
表。1997年よりデンマーク在住。近年はデンマークを中心にヨーロッパ、日本で
作家活動。キューレータとしても、日本のアーティストをデンマークに紹介している。
コミッションワークとして、東京都水道局「水の科学館」、岡山県早島町町民総合会
館「ゆるびの舎」に作品を手がけている。個人サイト: http://www.yukotakada.com/
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JMM [Japan Mail Media] No.309 Thursday Edition
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