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(回答先: テロリズムという亡霊 [ペシャワールから沖縄へ／最終回／中村哲氏] 投稿者 なるほど 日時 2005 年 1 月 15 日 07:03:29)
自由は厄介だけど
福岡高校同窓生 ４０年ぶりに再会して
相変わらず先の見えない年明けだ。それでも今年は戦後還暦。せめて今の立場は見定めたい。そのために欠かせないのが自らを省みること。そこで終戦翌年生まれの２人に半生を語ってもらった。１人はＮＧＯ「ペシャワール会」の現地代表で医師の中村哲さん（福岡県大牟田市）。１人は９年ぶりの新作『愚か者死すべし』を刊行した作家の原尞さん（佐賀県鳥栖市）。福岡市の県立福岡高校で机を並べてから四十数年、５８歳の「おじさん」になってたどり着いた立場とは－－。
原尞（はら・りょう） １９４６年、佐賀県鳥栖市生まれ。九州大文学部美学美術史科を卒業後、上京。フリージャズのピアニストなどとして活動した後、レイモンド・チャンドラーに傾倒。８８年、私立探偵沢崎が登場するハードボイルド長編『そして夜は甦る』でデビュー。８９年に長編『私が殺した少女』で直木賞を受けた。９０年に短編集『天使たちの探偵』、９５年に長編『さらば長き眠り』を刊行。エッセイ集に『ミステリオーソ』がある。０４年１１月に９年ぶりの新刊『愚か者死すべし』（早川書房）を出した。
中村哲（なかむら・てつ） １９４６年、福岡市生まれ。九州大医学部を卒業後、大牟田労災病院などに勤務。８４年、パキスタン・ペシャワルへ赴任し、ハンセン病対策に従事。８６年にはアフガニスタン難民のための医療チームを設立し、ペシャワルやアフガン東部辺境の無医村地区に次々と診療所を設置、診療にあたる。現在は干ばつ対策として、１３００本の井戸を掘り、水路の掘削・復旧にも従事している。ペシャワール会現地代表。著書に『ペシャワールにて』『医者井戸を掘る』『空爆と「復興」』（いずれも石風社）など。
◇いきなり劣等生
原 僕は鳥栖から、きみも（福岡県）古賀からの越境入学。高校１年の時は同じクラスで席も近かった。
中村 かなり後ろの窓際だった（笑）。
原 近いから話しやすいし、２人とも国鉄（現ＪＲ）で通学していた。入学式の朝、鳥栖はどしゃぶりで、式場では僕一人が長靴姿だった。そんな田舎者の僕に、きみは福岡らしくない、ほっとする人に見え、すぐ話をした。きみの伯父さんの火野葦平のことも直接聞いた。
中村 遅刻の常習犯だったでしょ？ 私も下駄ばきが多かったから、足音が廊下に響いて、遅刻はすぐ分かるんで、２時限から出ていた。
原 僕は入学早々ジャズに取りつかれて、１年の夏休みが終わると落第寸前までいった。学校は福岡へ遊びに行くついで、というのに近い。
中村 成績は僕もクラスのワースト１０、いやワースト７だった。僕より悪いのがきみで「おれより下がいる」と安心したんだ（笑）。３年の時に東京オリンピックがあって、オリンピアという煙草が出た。それをすっていただろ。
原 いや、それはちょっと誤解。煙草は格好をつけるためだったから、隠れてすうんじゃ意味がなかった。だから、自分ですいだしたのは高校出てから。
中村 格好をつけるといえば、僕は修学旅行に行かなかったなあ。代わりに何人かと山登りの計画を立てて。学校には病気だと言って、修学旅行費の積み立てを払い戻してもらった。でも、切符を学割で買うには学校の証明書がいる。そこで、何かと信頼する国語の先生に頼んだら「病気なのに旅へいくんか」。窮して「保養です」と言ったら「それはいいな」。そんな粋な先生がいた時代だった。
原 僕もそうすれば良かったなあ。修学旅行は京都・奈良。実につまらなかった。男女共に恋の真似事で大騒ぎ。僕らみたいなちょっと硬派を気取った連中は隅で花札ばかりしていた。
中村 そのころは、ありきたりだけど『ガリバー旅行記』とか『ファーブル昆虫記』とか、いわゆる古典的な本を読んでいた。それに宗教書。内村鑑三とか。僕はクリスチャンだけど、教会で聞く話がピンとこない。でも、古い日本的解釈が分かりやすかった。
原 僕は高校時代、専らジャズだったけど、小説はミステリー。通学時間が３０分前後あったから、随分読めた。中学時代は「アルセーヌ・ルパン」をやたら読んだ。シャーロック・ホームズではなく、ルパンだったということが今の僕を決めたのかもしれない。つまり、ホームズは警察に指示を出すような、言ってみれば公立探偵だけど、ルパンは犯罪者、泥棒で、権威を後ろ盾にしないという意味で純然たる私立探偵。そんなルパンへのあこがれが今につながっている気がする。
中村 迎合するようだけど、僕もルパンが好きで、優等生のホームズは好きになれなかったなあ。ルパンの方が人情がある。鼠小僧次郎吉と水戸黄門の違いだろうか（笑）。子供時分から高校時代に読んだ本は、その後の生き方に影響を与えるね。
◇九大に米軍機
中村 東京五輪の前後には６０年安保やベトナム戦争などがあった。僕は父が戦前の闘士だったせいか、いつか日本に革命が起きる、といったような緊張感の中にいたことを覚えている。
原 政治には目が向かなかったなあ。商売人の家だったし、父親は専売公社（現ＪＴ）に勤めていたから。ジャズに取りつかれてもいた。２年の時、ブラスバンド部ができて部長になり、成績が持ち直した。部員に成績がいいのがいて、僕も劣等生というわけにはいかなくなったわけ。五輪の影響だったのか、体育祭でファンファーレっぽいのをやったりとか。そうやって学校との折り合いが良くなった。音楽で成績が落ちたが、音楽が助けてくれた。
中村 大学生の時、九大に米軍のファントム戦闘機が落ちた（１９６８年６月２日夜）。機体が建設中の大型電算機センターの上にひっかかって、反戦の象徴のようになった。僕は医学部の自治会役員だったので、撤去しようとする大学などから機体を守る防衛任務で夜警をした。でも引き下ろされたとき（６９年１月５日未明）は家でモチ食ってた（笑）。
原 落ちた時、実は近くにいた。ものすごい音と黒い煙。火が上がった瞬間も見た。どこかの研究室が爆発したのかと思った。
中村 落ちてから文学部と工学部が「学問の意味」を巡って対立してね。工学部は機体を下ろして電算機センターを完成させないと研究が１０年遅れて取り返しがつかないという。文学部は電算機センターを巡って、学問の意味をまず問うべきだという。まだ「学問の府」という自負が残っており、今思えば牧歌的な論争でしたね。
原 学長を先頭に米軍の板付基地まで行進したでしょ。基地撤去を求める抗議デモ。僕はノンポリだったけど、あれだけは行った。デモに参加した唯一の経験です。
中村 今じゃ、あの電算機センターのと同レベルのコンピューターが十数万円。３階建てビル一つ分より、今の十数万円のパソコンの方がはるかに機能的です。一体あの騒ぎって何だったのだろう（笑）。
◇夢を求めて
中村 僕は一浪したからファントム騒ぎの時は３年生。後で活動家が他大学から入ってきて内ゲバ。嫌になって僕は大学を辞め、工場で働いた。半年余りして、ふらっと立ち寄ると、まだ学籍があった。それで復帰したけれど、戻らなかった人もいたなあ。
原 僕は４年でさっさと卒業し、東京の会社に就職した。しかし何の覚悟もせずに勤め始めたので、２カ月で辞めてしまった。なぜ卒業しないで大学にい続けなかったのかと思ったね。退職してからは、紆余（うよ）曲折どころではない変転が始まった。
中村 きみは随分、音楽的素養がある人に見えたけど。
原 音楽は四つ上の兄の影響。兄をまねるように中学で管楽器を始め、高校のブラスバンド部ではクラリネットやサクソフォン。その時は先輩に教えてもらったが、後は我流だね。ピアノもずっとあこがれていたけど、始めたのは大学に入ってから。ジャズには勝手に弾いていいという面があるものの、基礎がないから手がちゃんと動かないというコンプレックスを引きずりながら、東京でジャズピアノを続けていた。
中村 それが小説家になるとは（笑）。
原 ジャズをやると称して上京したけど、映画にも興味があった。これも兄が脚本を書いていたせいで、東陽一監督や黒沢明監督らの現場に「音楽をやりたい」と言って近づき、手伝わせてもらった。そのうち「脚本を書け」と言われ、何本か書いたけれど、映像化のあてはない。それなら小説はどうかと。映画のもとになる小説。３０歳前後で書き始め、すぐに「なまなかなものではない」と気付くが、それでも何とかしたくなる。第１作の『そして夜は甦る』まで１０年かかった。
中村 今度の新作まで長いブランクがあったのはどうして？
原 ８８年から９５年の間に書いた長編３作は一つ一つに時間をかけ過ぎて、話が込み入ってしまうなどのマイナスが目立った。それで短期間に面白い小説を書くという目標を立て、今度の新作は７カ月で完成させた。続く作品も早々に出せるけれど、それに１０年近くかかってしまったわけで、だから「アマチュアだな」とよく言われる。でも、僕は普通のおじさんでいたいね。書いている数カ月の間は小説家でも、書いていないときは何者でもないし、何者でもありうるわけで。きみも、そこに座っていると、ただのおじさんだね。
中村 医学部の同級生と久しぶりに会うと、垢（あか）抜けして紳士的で、お医者さんらしい感じがする。僕はそういうイメージからほど遠くて、医者とは見られないね、大体。
◇楽しい束縛
原 アフガンに行ったのは何歳？
中村 ３０代半ばかな。大学出て行ったのは国立肥前療養所（現肥前精神医療センター＝佐賀県東脊振村）という精神科。当時、好きな昆虫採集もできるかな、といういい加減な気持ちだったので、仕事はつらかった。その次が大牟田の病院。炭鉱事故による一酸化炭素中毒患者が入院していて、主な仕事はあいまいな脳障害の等級決定だった。患者の家族に話を聞き、ケースワーカーのような仕事だった。障害の等級が２級と９級では補償が全然違うから、家族にとっては死活問題。本当は９級くらいなのに２級にしておこうとか（笑）。さらに脳外科病院に勤務し、アフガンはその後。どれも義理とか人情に逆らえず。ある意味で束縛されてきた人生という感じがする。その点、きみはうらやましいくらい自由に生きている。
原 僕が自由と言ってもらうと、少しきれい過ぎるな。ジャズピアノをしたのも小説を書いたのも、自分の意思だけれど、何かに引っ張り回されて、という感じもある。ジャズが好きと言うのも、他に見つからなかったということ。ジャズに引きずり回されたと言うべきなのかな。自分で選んだ道なのに、その時その時は結構厄介だった。
中村 言葉のまやかしで、「自由」とは、実はそういうものかもしれない。
原 自由に生きる、自由に道を選ぶ、とか言うけど、自由って厄介なんだ。
中村 僕の生き方も自由と言えば自由だし「好き勝手」と言われたこともある。俳優の渥美清さんが生前出たトーク番組で「映画では自由奔放なのに実生活は随分地味ですね」と言われ「自分のファンが多いということは、それだけ不自由な人が世の中に多いのでしょう」と言ってたけど、この人はよく分かっていると思った。結局、みんな欲や夢、義理に縛られて生きていくものじゃないだろうか。縛りから離れても、別の縛りがないと人間は生きていけない。それなのに「自由と民主主義」が戦争の大儀になるなど訳が分からない。今、僕はアフガンの砂漠化した田畑に水路を引くことに縛られて生きている。でも、それは「荒れ地を回復したい」と思うからで、それはそれで楽しい。小説を書くのも楽しいでしょ。
原 楽しいね。苦労と楽しみは見分けがつかない面もあるけれど、自分で楽しくなければ人が読んで楽しいはずもないからね。ところで、昆虫採集の話が出たけど？
中村 したいですよ。死ぬ前までには、もうちょっと深入りしたい。
原 僕にとっての映画みたいなものかな。なかなかできないから、思いは募る。
構成・米本浩二
写真・鮫島弘樹
編集・坂村和好
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/etc/taidan/index.html
《おじさん対談》をお届けする。福岡県立福岡高校で机を並べた２人が今回語り合ったテーマは「戦後６０年」。それぞれの立場から見えてくる今の時代性に対して「不安」と「滅亡」をキーワードに切り込んだ。【構成・米本浩二、写真・鮫島弘樹】
◇時代の終わり
中村 アフガニスタンでは今、干ばつが最も大きな厄災で、耕地がどんどん砂漠化している。２０００万の人口の半分以上が食えなくなっていて、本当は戦争や選挙どころではない。でも日本や「国際社会」はそういう現実を「現地に近代教育がない」とか「民主的でない」とか、そんな尺度でしか見ていない。だから、お腹（なか）をぺこぺこにすかしている人たちの所に来て、鉛筆を配ったり学校を建てたりしている。そんな現場の「常識」と懸け離れた行動を見るにつけ、日本や先進国は一つの時代の終わりにあると思ってしまう。
原 僕の小説の主人公の「探偵沢崎」も、普通の常識的なおじさんという設定だけど、今の日本ではなかなかそうは読んでもらえない。沢崎の常識、つまり僕の考える常識とは物事を偏見抜きで見るということ。そのこと自体は平凡なことで、もしかしたら周囲から浮く場合もあるだろうが、そんなにおかしなことではないはずです。ところが、今の日本では違和感を生むらしい。 具体例を挙げれば、携帯電話。今度の新作で僕もついに登場させたけど、沢崎には持たせなかった。僕も持っていないから、その方が書くのに都合いいというのに近いんだが、この点に注目して「かたくなに携帯を持たない男の意地の物語」と新作を評した人がいてね。僕は全然そんなつもりはなかった。沢崎は持たないのではない。携帯がいらないんです。小説の中でそう説明したつもりだったけど、意地で持っていないと受け取られてしまう。何だか、そういう時代らしい。
中村 他人事とは思えない。僕も携帯はいらない。
原 きみもそうか（笑）。
中村 僕が持たない分、周りの人が困ることがあるかとは思うけれど、親が死ぬとかいった本当に大事な用事は何とかして伝わるものですよ。だから、携帯が必要なほど重要な用事って案外少ないんじゃないか、と思う。むしろ、携帯を持っているから電話をかけあって不要な用事が増えているということじゃないのか。
原 携帯は便利だというけれど、若い人たちがこの機械に拘束されている様子は尋常ではないね。本人たちは拘束と思っていないのだろうが。考えてみれば、彼らは生まれながらにあんなものが欲しかったわけでも何でもなくて、誰かが与えたんです。それは結局、我々だ。僕は与えた覚えがないのだけれども、言い逃れはできない。
中村 携帯であれ何であれ新奇で便利なものは欲しくなるし、珍しい昆虫は捕りたいし、人間にはいろいろな欲がある。それが高じると、バベルの塔のような妄想の体系ができる。精神医学で「妄想構築」と呼ぶ現象で、それが逆に現実を動かし始め、身体生命に密着した自然さえ操作できるという錯覚に陥る。そんな倒錯した構図がアフガンにいるとよく見える。
◇内なる戦争
中村 従来は一つの時代の終わりに必ず戦争があった。それまでをご破算にするような戦争が。日本は戦争がないまま６０年たち、今や年に３万５０００人が自殺している。３万５０００人って１個師団だよ。師団規模で人が死ぬというのは並の出来事ではない。これは「一つの内なる戦争」ではないかと思う。この事実からも、結末に近いなと実感し始めている。
原 まさにその通りだ。ただ、僕には「戦後６０年の初めのころは良かったが、最近大変なことになった」というふうには感じられない。むしろ「戦後１年目からおかしかった」という気がする。人間はいつも駄目な部分を抱えているから。それがたまって飽和点にきたのが今、ということじゃないのか。それがまさにきみの言う「終わり」ということなのだろうけど。
中村 同感だね。今を滅亡と呼ぶなら、滅亡は戦後すぐに始まっていたんだ。昆虫の世界を見てもそうです。ある種が繁栄する要因は同時にその種が滅亡する潜在的要因で、単純化すれば、寒さに強い種は氷河期に栄え、温かさには弱いから温暖化で滅亡するわけ。種そのものは変わらないが、環境次第で繁栄したり滅亡したり。 ただ、人間は虫と違って精神的よりどころがないと生きていけないから、何かが崩れ去る時は不安になる。そこで、よりどころを捏造（ねつぞう）して、みんなで飛びつき、不安を忘れようとする。若い人は純粋なだけに、オウムになったり、原理主義になったり、反原理主義という原理主義になったりする。それを避けるには、やはり振り出しに戻ること。破局だと言っても今に始まったことじゃない、最初からフィクションだったんだ、と考えると気が楽になる（笑）。 還暦というのは振り出しに戻るタイミングとしても良くできている。６０年で「戦争はもうごめんだ」という常識は薄れたし。２０年ばかり日本から遠ざかっていた僕でさえ、そこまで変わっていいのか、と思うことが多い。携帯だって「おれたち、なくても生きてたよ」とかね（笑）。
◇ゼロに戻す
原 僕は沢崎を「何も持っていない男」とも規定している。その沢崎に絡む登場人物にやくざがいるんだが、本来やくざは自分に失うものが何もないことを盾にして、家族にしろ財産にしろ、失いたくないものがある普通の人を脅かす存在だけど、このやくざが沢崎に向かって何を言うかというと「お前を殺すと俺の方が損をしそうな気がする」（笑）。つまり沢崎は失うものがないやくざ以上に失うものがない男であり、守るべきものがない男。悲しいことに、家族もいなければ友達も同僚もいない。だから携帯はいらないし、筋が通せもする。もちろんフィクションであって、ありえない設定だけど、僕にとっては重要なファクターで。だから読者に関心を持たれてもいるんだと思う。
中村 たくさんの人が毎日死に、爆弾テロも日常的なアフガンでは、ほとんどが沢崎のような人たちだな。それでもみんな割と明るい。何も持たないから。一方、日本はいらない物があふれていて不満だらけ。戦後６０年間で「いい年だった。何の不満もない」なんていう年が１年でもあっただろうか。いつも景気が悪いとか老後が心配だとか不安を訴え「今年も何かが足りない」と足し算で考えてきた。それも妄想構築だけど。
原 音楽だって、ちっぽけなラジオの、ひどい音で聞いていたのが、今では、これも幻想なんだけど、生よりいい音でだって聞ける。しかし、大半は子供向けの駄菓子のような音楽になってしまった。しかも、それを生み出しているのは我々大人なんだ。
中村 戦争を体験した大半の日本人が「戦争はもうごめんだ」と言い続けた揚げ句、今や中東で日本人だから殺される。以前、中東やアフガンでは日本人に対する敬意があった。それは極東の島国が日露戦争で負けなかったこと、ヒロシマ、ナガサキの被爆の後の立ち直りに対するものだった。ところが、経済優先の虚構の価値観がそれを台無しにした。もうそろそろゼロから始めるという気持ちになってもいい。
原 そうはいっても、ゼロに戻すと困る人たちは山ほどいる。
中村 我々も困ると思う、少なくとも一時的に。
原 それでも、きみの仕事も、僕の小説も、まだまだ少しは続けないと（笑）。
中村 携帯も新幹線も全部ゼロに、という破壊的な考え方ではなくて、もうちょっと静かに考えられないかなという気がする。全然持たないと生きていけないから、不要なものは持たないというように、引き算で考える。それも一つの生き方だろう。
原 沢崎だっていろいろな矛盾を抱えている。ゼロにはしたくない人たちを主人公の目を通して描いていくことしか僕にはできない。世の中いっぺんにきれいになることはないわけで「世に盗人の種は尽きまじ」にならって言えば、僕の小説に登場して読者を楽しませてくれる登場人物はきっとこれからもなくならないだろう。愚か者は簡単には死なないからね（笑）。
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/etc/taidan/02.html
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。