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ブッシュの台所は火の車(イマニュエル・ウォーラーステイン、2003年9月15日)−−−「さよなら、ブッシュ君」
http://www.asyura2.com/0406/war60/msg/838.html
投稿者 竹中半兵衛 日時 2004 年 10 月 01 日 17:58:29:0iYhrg5rK5QpI
 

宮本浩樹の掲示板
http://fbc.binghamton.edu/121jp.html
より。
(舎弟分のひろきや、元気そうで。そっちのほうさはロム専で見とるばってん。
ま、奇想天外の空間。緊張ほぐすときにクリックすてる)

そんなとき不具合にまじめな投稿を見てしまった。


Connie(レス素人)さん 投稿日:9/18-16:12 No.2595投稿より
Immanuel Wallerstein
http://fbc.binghamton.edu/commentr.htm

http://fbc.binghamton.edu/121jp.html
評論 第121回 2003年9月15日  ブッシュの台所は火の車

ブッシュ大統領は、これまで少なくとも一年以上にわたって世界の大半を向こうに回し、厄介な問題を引き起こしてきた。アメリカ国内でしっかりと力を保持してきたのは6月ごろまでのことだ。今ではすさまじい速さで力が衰えつつある。

まず主流メディアの変化から見てみよう。共和党好みの呼び方をすれば「リベラルの報道機関」である。羊の皮をかぶった左翼の狼というわけだ。しかし常にしっかりと中道路線を歩んできたのは事実だし、今もそれは変わらない。9・11事件以降の一年間、いや、ほんの数カ月前までは、ホワイトハウスの報道発表をそのまま流しているだけに見えた。ところがそれが一変した。このことはCBS、NBC、ABC、CNNの四大テレビを見るか、タイム、ニューズウィーク、USニューズなどの有力雑誌、あるいはニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ロサンジェルス・タイムズ、ボストン・グローブといった大新聞を見ればわかる。

どれもこれもブッシュ政権を批判する記事や意見、社説ばかりだ。ブッシュ政権のイラク政策、あるいはむしろその「失敗」を批判し、深刻化する一方の不景気や失業に何ら打つ手を持たないと酷評する。ブッシュ陣営の発言をおおっぴらに非難する。それぐらい批判が強い。

イラクは怖いぞと脅しをかけて、ブッシュ政権は国民を戦争に駆り立てた。大量破壊兵器とかロケット発射装置、生物兵器散布のできる無人飛行機をイラクが持っているという。アルカイダとも、もちろん密接な関係を持っていると主張した。しかし、こうした主張は次々に覆されている。大量破壊兵器はまだ見つかっていないし、ロケットや無人飛行機もなかった。アルカイダとは関係がなかった。情報機関からは、イラク侵攻のずっと以前にブッシュ政権にそのことを伝えていたという発言がどんどん出るようになっている。

こうしたことが明々白々になるにつれて、ブッシュ陣営は侵攻を正当化するために主張していた根拠を放棄した。その代わりに7月ごろから次のようなことを言い始めている。

──アメリカはサダム・フセインをやっつけた。末代までイラクの民衆はこれに感謝しつづける。そうして中東に模範的な民主国家を建設することだろう。

そこでイラク人は感謝の気持ちを表わそうと、毎日アメリカ兵を銃撃している。国土は引き裂かれ、政治は混乱したままだ。そのイラクに、他国のお手本になるような民主主義の社会が生まれるというなら、私はどこか別の惑星にいって暮らすしかない。

つい6月までアメリカ社会がどんな状態だったかを考えれば、民主党の変化は驚くばかりだ。小さな州のあまりぱっとしない知事だったハワード・ディーンが彗星のように表舞台に登場した。彼は(少なくともこれまで)政治面で中道の立場をとってきた。候補として活動を始めるとき、有利なことがたった一つだけあった。イラク侵攻を、彼が明白に批判してきたことである。

それまで表立って反対を表明していた民主党の有力議員は片手で数えられるほどしかいなかった。上院議員のバードとケネディ、下院のクシニッチ、それからもちろんハワード・ディーン。ざっとこんなところだろう。他の民主党議員たちは、ひとり残らずブッシュの軍楽隊につき従って愛国行進曲を歌っていた。候補の指名を得る上でディーンのライバルとなる四人の実力者、リーバーマン、ケリー、エドワーズ、ゲッパートたちは、いまさら反対にまわっても格好がつかない。

ディーンは、親しみやすい率直な態度で(戦争が始まる前も後も)一貫してイラク戦争に反対してきた。これに耳を傾ける人が増え、全国に広まっている。彼はイターネットを巧みに利用して、草の根政治団体を国中のいたるところにつくりあげ、民主党の対立候補を大きく上回る選挙資金を集めた。

初め、メディアは彼を泡沫候補だと見ていた。次に、おもしろい候補だがどこまでもつか、と言うようになった。やがて、たとえ指名を得られたにしてもブッシュにはとても勝てない、と評価が上がってゆく。現在では、民主党の指名を勝ち取る最有力の候補であるだけでなく、ブッシュを破る可能性があると見なしている。

こうしたディーン現象に対抗するために、民主党の候補たちはできるだけディーンに近い主張をして支持者を取り込もうと努力している。しかし、いったんは戦争を支持していたわけだから、どうしても歯切れが悪い。先にあげた四人の有力候補は、イラク侵攻は正しかったとしても、その後のやり方がまったくダメだったと言いはじめた。これでは説得力がない。

コメンテーターが、ビールの銘柄にひっかけてリーバーマンのことを「ブッシュ・ライト」と呼んでいた。ブッシュを薄口にして飲みやすくしたのがリーバーマンだということだ。民主党の支持者は、いくら口当たりがよくてもブッシュ・ライトなど望んでいない。同じように、ディーン・ライトも飲みたくないだろう。ディーンを薄めたディーン・ライト。ケリーとエドワーズ、ゲッパートの三候補はいまそう呼ばれている。

共和党の反応はさらに興味深い。はじめ、党内の事情に通じた人びとはディーンをあなどって、民主党の候補のなかで一番くみしやすい相手だと考えていた。しかし今では、もっとも手強い敵になると公言している。なにしろ「ディーンを支持する共和党員」という団体がすでにあるくらいだ。

最後に、ふつうの有権者の動きを見てみよう。いつも世論調査の対象となるのがこの人びとである。ブッシュの支持率は着実に落ちつづけている。現在、ブッシュがよくやっていると思う有権者は、過半数をわずかに超えるかどうかだろう。

しかし支持率とは別に、もっと注目すべき変化が起こっている。最近の世論調査によると、アメリカ市民の六四%が、イラク侵略のためにテロ攻撃を受ける危険性が高まったと思っている。さらに七七%が、イスラム諸国でアメリカへの反感が高じてテロ組織への参入者が増えたと考える。そして八一%が、九・一一事件から学ぶべき真の教訓は、一国主義ではなく、世界の国々と協力関係を深めることだとした。

ブッシュ政権は、じりじりと後ずさりして、遅まきながら国際社会と協調する姿勢を見せようとしている。[イラク対策については]国連の決議を求める。済んだことは水に流しましょうと大統領が呼びかけて、要するに部隊と資金を送ってくれと世界の諸国に頼み込む。

援助を得るためには代償を払わなければならない。イラクから手を引くことである。しかし、イラクで政治と軍事において絶大な力を持つアメリカは自国の優位を手放したがらない。国連決議は、[各国の訂正案を受け入れて]水で薄めたような文面になるにしても、何とか引き出すことができるかもしれない。それでも世界の諸国から部隊も資金も送ってはもらえないだろう。なにか援助があったにしても形ばかりのことだ。

たとえば、ブッシュが国連で演説したあと、ルーマニアが五〇人の兵士を新たに派遣すると約束した。話にならないほど小さな支援だったので、さすがのブッシュ政権も宣伝しようとしなかった。

アメリカはイラクから完全に撤退すべきだと訴える声がアメリカの中から聞こえ始めた。撤退を求める人びとの数は増えつづけている。これから年末にかけて、この声は大きくなってゆくだろう。アメリカ兵が犠牲となるたびに声は高まる。イスラエルとパレスチナの状況が悪化の一途をたどり、国内の失業者が増えるにつれて、人びとは叫び声をあげて撤退を要求する。

ネオコンたちは風向きが変わったことに気づいている。だから[反対派がいうようにイラク侵略を]ベトナムとは比べずにソマリアを引き合いに出し、同じ過ちを繰り返えすなと唱えはじめた。ソマリア侵略でアメリカは敗走し、誇りは土にまみれた。いまここで踏み止まらなければ、アメリカはすべてを失うことになるとネオコンは警告する。ある意味でこの見解は正しい。

ジョージ・ブッシュは板挟みになって、にっちもさっちもいかない。イラクに踏み止まって何も解決できないとしたら、見る間に支持を失って再選の見込みはなくなる。逆にイラクから撤退すれば、なんだ大きなことを言っておいて、都合が悪くなると逃げ出すのかとばかにされる。

ブッシュとしては中道派の支持を失っても大きな痛手とならない。しかし自分の基盤である右派の支持を失うようだと足下が危なくなる。ブッシュ政権の仕事ぶりに不満を感じている右派はすでに数多い。歴史を見渡してもこれほど金遣いの荒い政権は珍しいと、ため息をつくばかりだ。アメリカの財政赤字は勢いを増して膨らみつづけ、五〇〇〇億ドルに達しようとしている。

追い詰められたジョージ・ブッシュに残された手だてはひとつしかないだろう。アメリカ市民に向かって、こんなふうに言ってみることだ。

──アメリカは、少なくともあと五年はイラクに留まる必要があるでしょう。そのため国民ひとりひとりが犠牲を払わなければなりません。私は徴兵制を再び導入します。そして、私たちの帝国主義政策を推進する資金を捻出するため、税金の大幅な引き上げを提案するつもりです。

これは[共和党の右派である]マケイン上院議員あたりが言い出しそうなことだ。アメリカ国内に限れば、あんがいこの政策は支持を得られるかもしれない。そうだとしても、ジョージ・ブッシュにはここまで言い切る根性はないし、大統領を取り巻く者たちはもっと別の政策をいろいろと勧めている。

さようなら、ブッシュ君。一〇年後に今を振り返って、だれもが同じように言うだろう。──合衆国の歴史上、アメリカの権勢と威信をこれほど損なった大統領は他にいなかった──。[幼い頃からまったく記録とは縁がなかった]ブッシュが大統領としてこんな記録を残すことになる。

イマニュエル・ウォーラーステイン

Immanuel Wallerstein, "Bush in Big Trouble at Home," Commentary No. 121 (Sept. 15, 2003).
http://fbc.binghamton.edu/121en.htm

著作権(2003年)
原文に関するすべての権利はイマニュエル・ウォーラーステインが留保する。

翻訳/安濃一樹・別処珠樹
編集/安濃一樹

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