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北アフリカ・スーダンの西部、ダルフール地方で起きている紛争を巡って、国連安保理は18日、石油禁輸措置を含む制裁に言及した勧告決議を賛成多数で採択した。だが、制裁に反対する中国など4カ国が棄権に回り、安保理は分裂状態となっている。中国が拒否権を持つことから制裁実施決議の採択は容易ではなく、紛争解決の道筋は見えていない。約5万人が殺害され、100万人以上が避難民となり、国際的に救済の声が強く叫ばれる紛争を取り巻く構図を、国際社会と現地情勢の両面から探った。【ニューヨーク高橋弘司、ハルツームで白戸圭一】
◇黒人票意識し強硬…米国 石油輸入絡み難色…中国
安保理で最も強硬だったのは米国だ。パウエル国務長官は9日、米上院外交委員会で「ダルフールではジェノサイド(集団殺害)が起こっている」と明言した。民兵による住民女性へのレイプや住民殺害は目に余り、WHO(世界保健機関)が「毎月、1万人が死亡している」と警告したのを受けた発言だった。
米国の熱意に関しては、11月に米大統領選を控え、「米国内の黒人票を意識している」(国連外交筋)との見方が大勢だ。民主党のケリー候補も今月初旬の共和党大会後、ダルフール危機に関するブッシュ政権の対応を批判している。
パウエル長官が引用した「ジェノサイド」という言葉は、正確には国際法上、1948年12月の国連総会で採択された「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約(ジェノサイド条約)」で定められた概念だ。同条約には▽集団構成員に対する殺害▽構成員に肉体的、精神的に重大な危害を加えること−−などと厳密な定義があり、被告の裁判は国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ)で行われることになっている。
同条約は、第二次世界大戦当時のナチスによるユダヤ人大虐殺への反省を踏まえたものだけに、ダルフールの決議案をめぐり、ドイツは「人道的見地から」(消息筋)米国の共同提案国に名を連ね、強く制裁を主張した。19日採択の安保理決議に、「ジェノサイド」にあたるかどうかを調べる国連調査委員会設置が盛り込まれた背景にはそうした各国の思惑がある。
一方、常任理事国の一つ、中国は対スーダン石油制裁への強い懸念から、採択直前まで拒否権行使をちらつかせ、抵抗した。スーダンは日量34万5000バレルの石油生産を誇り、石油や関連製品を含めた総輸出量の50%は中国向けといわれる。王光亜・中国国連大使は決議採択後、「情勢は改善されており、制裁は解決に役立たない」とスーダン政府への配慮を見せたうえで、「溺れている赤ん坊を見捨てる訳には行かない」と、人道的見地から採択を容認、棄権に回った。同様に棄権したパキスタンもスーダンからの石油輸入への配慮が背景にあるとみられる。
チェチェン問題などを抱えるロシアやイスラム原理主義組織の活動に苦悩するアルジェリアは、国内問題を契機とする国連制裁に抵抗を示したとの見方が濃厚だ。
◇強権政治のゆがみ噴出
ダルフール地方の紛争について、バシル大統領の独裁政治が続くスーダンでは、反体制派を中心に「強権政治のゆがみの噴出」と見る向きが多い。アラブ系民兵に襲撃された同地方のアフリカ系住民の多くも、紛争を「民族対立」ではなく政治的弾圧と受け止めており、国民の間では現政権への不信と嫌悪感が静かに広がっている。
同地方では「スーダン解放運動」と「正義と平等運動」の反政府勢力2派が01年ごろから活動を始めた。関係者によると、勢力は計2万4000人で、アフリカ系住民のザガワ人やフール人を中心に構成。このうち「平等運動」は、バシル大統領の政敵として身柄を拘束されているトラビ前国民議会議長の側近らが指導しているという。
2派が支持を広げた背景には、民主主義の不在と同地方の開発の遅れがあるとの見方が一般的だ。北ダルフール州は人口約180万人で病院が15軒。首都ハルツームと同地方の間約800キロに舗装道路はなく、車で移動するのに早くて3日かかる。南ダルフール州出身で最大野党ウンマ党のマディボ副党首は「住民の不満を聞く民主的制度の不在が武装闘争となって噴出した」と指摘する。
政府軍に組織されたジャンジャウィドと呼ばれる民兵による住民襲撃は、この2派の支持拡大を防ぐ狙いで行われた可能性が高い。2派関係者は軍による襲撃の狙いを、(1)2派支持者への見せしめ(2)住民から2派への兵たん供給の遮断−−とみる。軍は、アラブ系遊牧民とアフリカ系住民の土地利用を巡る伝統的対立に着目。2派支持者がアフリカ系住民に多いため、対立相手のアラブ系遊牧民が民兵として動員された。
現在の最大の課題は100万人を超える避難民の帰還だが、こうした経緯から人々は政府を信用しておらず、和平交渉で2派は「ダルフールからの政府軍の撤退」を要求。政府が拒否し、交渉はこう着状態だ。袋小路の状況に野党陣営は「民主化以外に事態解決はない」との声を強めている。
政府はダルフール紛争を機に民主化要求が高まることを警戒。先週、北ダルフール州の州都アルファシールで開かれた政府主催の集会は「反欧米」の演説一色となった。政府は国際社会の圧力強化を逆手に取り、反欧米世論の喚起によって国民の批判の目をそらすことに躍起になっている。
【ことば】スーダン 19世紀にエジプト、英国の支配を受け、1956年に独立した。83年のイスラム法導入を機に南部キリスト教住民が武装闘争を続けたが、今年5月、南北内戦は事実上終結した。
しかし、西部ダルフール地方では開発の遅れなどを理由に03年、地元2派が反政府武装闘争を本格化させた。国連安保理は今年7月、政府軍に支援された民兵が反政府組織支持の住民を迫害していると、政府に民兵の武装解除を要求。最貧国の一つだが、南部で中国企業などが石油産出(推定埋蔵量29億バレル)に投資、日本も輸入している。
【ことば】ジャンジャウィド アラビア語で「馬に乗った武装した者」との意味で、特定の民族を指す言葉ではない。ダルフール地方の人々は元々、馬で移動しながら住民を襲撃する山賊のことを指していた。今回の紛争で、スーダン政府軍に組織されて住民を襲撃した民兵の多くがアラブ系遊牧民だったため、アラブ系遊牧民のことを指すとの誤解が生じている。
毎日新聞 2004年9月26日 0時44分
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/afro-ocea/news/20040926k0000m030116000c.html