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社説
09月07日付
■学校テロ事件――未来を殺すな
ロシア南部の北オセチア共和国で起きた学校テロ事件は、遺体の確認が進むとともに犠牲者の数がふくれ上がっている。地元の政府機関の見通しでは死者は500人以上にのぼるという。その半数ほどが幼児から17歳までの子どもたちだった。
愛児の遺体を前に泣き崩れる母親。焼けただれた体育館に残された小さな靴。狭い墓地に運び込まれるいくつもの棺(ひつぎ)。現地から伝えられる映像は、私たちの心を凍らせる。
それは、このテロが幼い命へのいたわりを全く感じさせないからだ。新学期を迎えた学校を標的にし、逃げまどう子どもたちを背後から容赦なく撃った。
テロは昔から存在する。しかし、最も弱い子どもを狙い、これほど無差別に残虐に殺したことがあっただろうか。
せめて子どもを殺すまい。争いの場から遠ざけよう。だれもがそう考えてきたのは、子どもたちに未来を託しているからだ。学校テロは、その未来を粉々に砕いてしまった。
さらにやりきれない思いにさせられるのは、犯人グループの中に、武装した女性が交じっていたことだ。
独立を求めるチェチェンで、ロシア軍は徹底した掃討作戦を進めた。夫や兄弟を殺された女性が復讐(ふくしゅう)のためにロシアへのテロに加わることが知られている。家族を失う悲しみに沈んだ女性が、今度は罪のない少年や少女の命を奪うことで新たな悲しみをつくりだしたのだ。
事件の背景には200年に及ぶチェチェンとロシアとの確執がある。今回の犯行には国際テロ組織アルカイダが関与した可能性も指摘されている。不信と憎悪でもつれた糸は簡単にはほどけない。
20世紀は戦争と動乱が続いた。一つの民族を抹殺しようとしたホロコーストをはじめ、多くの人たちが虐殺された。21世紀になるや、9・11のテロが起き、中東では自爆テロがやまない。さらに子どもを殺すことまで「聖戦」の名の下に正当化する狂気が存在しているのだ。
その背後には、南北間の経済格差のほか、近代化への道が容易に見いだせないイスラム世界の混迷がある。西欧世界に対して持つ挫折感や恨みもあるだろう。それらに改めて目配りをして、国際社会は対応策を考えねばならない。
ロシアのプーチン大統領は「前例のない非人間的なテロリストの犯罪だ」と事件を糾弾した。しかし、大量の犠牲者を出したことへの自らの責任には触れようとしない。国民が知りたい人質や死傷者数の公表は遅れ、情報操作の疑いさえ出ている。テロに屈するなという方針は正しい。だが、どんな結果になっても構わない、ということではない。
今回のような事態への備えはあったのか。被害を最小限に食い止める努力をどれだけしたのか。ロシア政府は厳しい検証をしなければならない。
子どもを殺すな。そして、為政者は子どもを殺させてはならない。
http://www.asahi.com/paper/editorial20040907.html