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9月5日「東京新聞」朝刊 「筆洗」から転記します。
二十一世紀がこんなにも人命が軽んじられる時代になろうとは。子どもを巻き込むテロにどんな正当化も許されない。しかし、子どもの犠牲を織り込んだようなテロ対応はもっと腹立たしい。
ロシア・北オセチア共和国の学校占拠事件で、ロシア政府は当初人質を三百五十人と発表、突入後の三日になって千二百人と改めた。
犠牲者は増え続け、少なくとも死者三百二十人以上、負傷者は五百人を超え、重体も多数だ。政府に、被害を小さく見せようと情報操作した疑いがある。百三十人が死んだモスクワの劇場占拠事件の時も同じだった。
今回は子どもが人質だけに、突入は思いとどまるとみられ、遺体引き取りの交渉中だったはずだ。爆発物で校舎の屋根を崩壊させ、武装集団に先に発砲させて突入の口実とした可能性が高い。直後に軍の攻撃ヘリが飛来しており、周到な準備をうかがわせた。
チェチェンの独立派武装勢力の犯行は、先月からだけでも旅客機同時墜落テロ、モスクワの地下鉄駅前広場自爆テロと、エスカレートしていた。プーチン政権は、二〇〇一年の米中枢同時テロ以降、反テロの国際世論の高まりを追い風に、チェチェン独立運動への弾圧を強めている。武装集団のテロ頻繁の裏にはロシア軍による女性や子どもへの残虐行為への憎悪がある。
米ブッシュ政権の先制攻撃論がテロ封じ込めの決め手にはならないことは、アフガニスタンやイラクの現状が示す。銃火の下を裸で逃げまどう子どもたちの姿が痛ましい。憎悪の応酬を断ち切る知恵を絞り出せないものか。
この記事が普段は「東京新聞」のウエブサイトに掲載されるのだが、何故かこの日の記事だけ掲載されてない。
「爆発物で校舎の屋根を崩落させ、……直後に軍の攻撃ヘリが飛来しており、周到な準備をうかがわせた。」
ここの部分が大いに気になるところだ。
神浦元彰氏のサイトでの発言も参考になりそうだ。
北オセチア共和国 学校占領事件 「人質は1270人 TVは故意にウソを報道」 校長、占領当時を証言 (東京新聞 9月5日 Webニュース)
[概要]学校占領事件が起きたベスランの小・中学校で、女性校長のリディヤ・ツァリーエワさん(72歳)が入院先の病院で、東京新聞の中島健二特派員の独占インタビューに答えた記事。それによると人質の人数は、事件直後に1270人だと確認していたと語った。しかしTVでは人質が350人と放送し、明らかにウソを報じていると思ったという。また初日は穏やかだった武装集団だが、2日目からは突然厳しくなり、人質は水も飲めず、トイレにも行けなくなった。子供たちの精神状態が極限になって騒ぐと、武装勢力は銃を撃ちならして黙らせた。3日目に大きな爆発音で戦闘が始まり、体育館のドアの下敷きになり、そこで気を失ったという。間もなく特殊部隊に救出され病院に運ばれた。
[コメント]この記事は昨日の朝刊に掲載された記事だが、私は夕方にWebサイトで読んだ。そして読み終わったときに、背筋が凍るような恐怖を感じた。なぜ武装勢力は1日目には人質がトイレに行くことも、水を飲むことも許していたのに、2日目から豹変してそれを禁じた理由がわかった様な気がしたからだ。
その理由とは、武装勢力側がロシア当局と交渉を試みても、またメディアと話そうとしても、ロシア側が電話線を切るなどしたからだと思う。要するに、交渉を拒否したのは武装勢力ではなく、ロシア側だということに気が付いたからだ。報じられたように武装勢力側が水や食糧に睡眠薬が混入されている可能性があると断ったのではなく、ロシア当局が電話線を切断したので、そのような交渉が出来なかった可能性が高くなった。
そこで武装勢力側は人質を苦しめることでロシア側に圧力を掛けたのではないか。トイレに行けないということは、狭い体育館の床は汚物で汚れることになる。子供たちが服を脱いだのは、服が汚物に着いたことと、狭い空間に押し込められて暑くなったからだと考えられる。
私は武装勢力側が交渉を拒否し、水や食糧の搬入を拒否したのならば、それは最初から人質の殺戮とゲリラの自爆が目的と分析した。しかしロシア側が主導的に交渉を拒否して、武装勢力が抱える1270人の人質を極限状態にして、それで武装勢力を苦況に追い込む作戦だったら分析はまったく別のものになる。
確かモスクワの劇場占領事件の時は、武装勢力側の要求でメディアが劇場内に入り、インタビューなどを行っていた。その間(4日間)に特殊部隊は劇場内の様子を探り、麻痺性のガスなどを準備して突入に備えた。しかし今回は学校に通じる電話線をすぐに切断し、武装勢力との交渉はもちろん、メディアとの通信も遮断したのではないか。それで武装勢力は2日目から急に態度が厳しくなったように考えられる。
もしこの推測が事実となれば、プーチン大統領の強硬な対テロ姿勢は、国民の強い反発を招く可能性がある。強い大統領を演じるために、人質となった子供たちの安全を無視したことになるからだ。
今の段階で考えれば、2日目に武装勢力側の態度が豹変し、人質には水や食糧も与えられず、トイレにも行けなくなったという理由がこれしかない気がする。このことは時間が経過すれば、助かった人質や、ロシア当局の内部証言で明らかになることでもある。これだけの人質が死ねば、ロシア政府が箝口令(かんこうれい)をひくことは難しい。
今回の学校占領事件では、ロシア政府側があまりにも多くの情報操作を行ない、偽情報が大量に流されるという象徴的な事件となった。あと数日後には、新事実がわかり、この事件の持つ意味(本質)が劇的に変化する可能性がある。もう一度、ロシア政府側から流された情報と、現場の状況の見直しをする必要がありそうだ。
http://www.kamiura.com/new.html